契約書管理の理想的な方法とは?リスク・手順やベストプラクティスを法的観点から徹底解説!

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本記事でわかること

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  • 本来の「契約書管理」の意義・必要性
  • 契約書管理を行わないことにより生じるリスク
  • 契約書管理の主体・手順・対象
  • 契約書管理・契約データベース作成のベストプラクティス
  • 契約書管理システム選定のポイント

 

 

契約書管理とは?そもそもなぜ契約書管理をする必要があるのか?

1.契約書管理の必要性

契約書はどの企業でも重要書類として保存しています。契約期間中はもちろん、契約が終了した後も一定期間捨てずに保管しなければならないのはなぜでしょうか?

その理由は、主に以下の3つが挙げられます。

  1. 法的義務があるため
  2. 行為規範(取引上のルール)を参照するため
  3. 証拠保全のため
  • ①法的義務があるため

法人税法、会社法、電子帳簿保存法等の法令により、契約書は一定の法定保存期間、保管しなければならないと定められています。

【契約書に関する法定保存期間の代表例】
関連法令年数根拠条文
法人税法7年法人税法施行規則第59条第1項第3号「契約書」
電子帳簿保存法7年電子帳簿保存法第4条3項後段、同法施行規則第2条第12項、電子陵墓保存法第7条、同法施行規則第4条第1項柱書
会社法10年会社法第432条第2項「事業に関する重要な資料」
労働基準法5年労働基準法第109条、同法施行規則第56条「雇入又は退職に関する書類」、「賃金その他労働関係に関する重要な書類」

 

  • ②行為規範(取引上のルール)を参照するため

企業間取引は取引量が多く、複雑な内容となることから、企業間で合意した取引上の取り決め(行為規範)について、社内外の取引関係者全員が共通認識を持つことは容易ではありません。そこで、契約書は合意内容に従った取引を行うために参照すべきルールブックとしての意味合いがあります。

  • ③ 証拠保全のため

また、万一、取引相手方と紛争が生じた場合、契約書は交渉、和解、裁判等の場で非常に重要な証拠です。法令により保管期間が異なるものの、社内規程で「契約書は15年間保管しなければならない」等、一律に長期間の保存義務を定めている企業は、このような証拠保全の観点も重視していると言えるでしょう。

 

しかし、契約書管理をすべき理由は本当にこれだけでしょうか?

実は、その他にも契約書管理を行うべき重要な理由があります。

  • ④ 過去の取引履歴や契約書に関係する情報をナレッジとして活用するため

特に契約書審査をする法務担当者の皆様は、過去の類似契約書から自社基準や取引先との交渉の落としどころをナレッジとして参照することが多いのではないでしょうか?また、契約更新の内容を検討する際、締結済みの契約書の内容や交渉履歴を確認したいという事業部から問い合わせが生じることもあるでしょう。

しかし、情報が属人化している社員の休・退職や異動により過去の取引における履歴やナレッジが失われてしまうおそれがあります。契約書及び契約書に紐づく情報を適切に保管することは契約書審査部門である法務にとっても、取引の主管部門の事業部にとっても非常に重要です。

 

  • ⑤ 契約書は会社の重要な資産であるため

このように、契約書は、取引のルールブックであるだけではなく、活用可能な過去の取引履歴やナレッジ等の情報の宝庫です。すなわち、契約書に記載されている情報及び契約に関連する情報は、企業の競争力を強化する源泉にもなる会社の重要な情報資産なのです。

▼契約書・契約関連情報等の法務ナレッジを会社の重要な情報資産と捉えて活用している事例

 「法務のナレッジが会社の財産に! 急成長企業ZEALSの法務と会社を強くするHubble」

デジタル社会の中で、「データガバナンス」「ナレッジマネジメント」の重要性が益々高まっている昨今、その土台となる基礎的な重要情報資産は、適切に保管するだけでなく、活用ができる環境で管理をしていかなければなりません。

 

2.契約書管理の本来の意義

「契約書管理」というと、締結した契約書を契約管理台帳(契約書管理台帳)とともに保管しておくことであるとイメージされる方も多いと思います。
しかし、これまでご説明してきた通り、企業資産である契約書や契約関連情報は、会社としてナレッジ活用も含めた情報ガバナンスを行っていく必要があります。したがって、本来の「契約書管理」とは、法的義務や証拠保全のための「締結した契約書の保管」はもちろん、必要な人が必要なタイミングで契約書及び契約関連情報を活用できる環境(契約業務基盤)を作ることを意味します。

従来の契約書管理と本来の契約書管理の違いを表した図
【従来の契約書管理と本来の契約書管理の違い】

 

適切な管理ができないことにより生じるリスクとは?

契約書や契約関連情報の管理ができていないことによるリスクは、以下の5つです。

  1. 法的リスク
  2. セキュリティリスク(情報漏洩リスク)
  3. 経済的リスク
  4. 取引先の信頼喪失リスク・事業リスク
  5. 会社全体の生産性低下リスク

 

1.法的リスク

まず、法令で保管義務のある契約書を法定期間保管しなければ、法令違反となります。

また、コンプライアンス(法令遵守)の観点から重要であるのみならず、取引上も債務の不履行による契約違反を発生させてしまうおそれがあります。

さらに、万一紛争や事故が生じた場合に、訴訟で重要な証拠を提出できない、あるいは説明責任を果たせないという法的なリスクも生じます。特に訴訟では、契約書は取引当事者の合意が反映した「処分証書」として特に証拠価値が高い重要な証拠です。契約書の文言が争われた場合や規範的要件の判断を行う場合には、契約書の交渉や検討過程における事実や情報も会社を守る武器になる点に注意が必要です。

 

2.セキュリティリスク(情報漏洩リスク)

契約書には機密性の高い情報や個人情報が含まれるため、企業が適切に契約書管理ガバナンス体制を構築しなければ、機密情報や個人情報等が漏洩する危険があります。これにより、レピュテーションリスク秘密保持契約違反又は個人情報保護法違反等の法的リスク・訴訟リスクにも発展するおそれがあります。

 

3.経済的リスク

法人税法や電子帳簿保存法において、契約書は「国税関係書類」として保存すべき義務がありますが、この義務違反があった場合に、税務調査において過少申告や不正会計等が発覚すると、追徴課税や重加算税等の罰則が適用される可能性があります。
また、取引先から契約不適合責任に基づく損害賠償請求の主張がなされた場合に、請求を拒絶できる根拠が契約書又は契約締結までの交渉過程に存在していたとしても、証拠や資料を提示できずに主張に応じざるを得なくなるようなケースもあるでしょう。
さらに、契約書の期限管理や締結前の交渉内容や審査検討過程を踏まえた更新検討ができないことで、自社に有利な契約の巻き直しや契約解除の機会を逸する等の経済的損失にも目を向けなければなりません。

 

4.取引先の信頼喪失リスク・事業リスク

契約書や更新・期限の管理責任の所在を事業部としている企業は、契約の履行(取引)を行う部署が、「取引のルールブック(契約書)」をよりどころにルールに従った行動をとることを特に期待していると言えます。取引ルールから外れた行動や発言により取引先からの信頼を失うと、継続的な契約や契約更新が困難になり、事業存続や事業拡大に影響を与えかねません。契約締結から時間が経過すると、案件の担当者が替わってしまうこともあるでしょう。しかし、この場合でも、取引のルールは変わりません。新たな担当者は、引継書がなかったとしても、契約書やその作成過程から、担当案件の基本的な情報を知り、最低限の取引ルールを守ることはできるのです。

さらに、会社の契約が網羅的に管理され、契約台帳が整備されていないことで、IPO準備や監査に支障を生じさせてしまうため、契約書の網羅的な管理(データベース化)は事業運営にとっても非常に重要な鍵となります。

 

5.会社全体の生産性低下リスク

会社全体で必要な人が必要な時に契約書及びその関連情報にアクセスできる契約書管理が行われていないことで、過去の契約書の所在や内容の問い合わせ対応、過去の状況を聞くためだけの担当者の捜索、重複リサーチや重複検討等、契約業務に関わる全ての人の生産性を低下させるおそれがあります。これらの結果、契約締結や更新、契約の巻き直しまでの契約プロセスが非効率化し、リードタイムが長期化すると、事業拡大・事業成長への影響が生じるリスクがあります。

これらのリスクを最小化するために、適切な契約書管理が必要なのです。

 

誰が何を管理すべきか?管理のポイントは?

ここからは契約書管理の手順・方法や注意点をお伝えします。

 

1.会社全体での一元管理による契約情報ガバナンス体制の構築

まず、誰が契約書を管理すべきでしょうか?大きく以下の3つの考え方があります。

  1. 各取引の主体である事業部が自部門の客書を管理
  2. 契約業務を主管する法務部が契約書を管理
  3. 企業の重要文書の管理を主管する総務部が契約書も管理
  • ①各取引の主体である事業部が自部門の契約書を管理

このケースでは、契約更新も含め取引主体となっている事業部の契約書へのアクセシビリティが高まるメリットがある一方で、法務が同種事案におけるナレッジを活用するために契約書を参照することができない不都合が生じます。

各取引の主体である事業部が自部門の契約書を管理する場合に法務部の契約書へのアクセスの難しさを表した図。
【①各取引の主体である事業部が自部門の契約書を管理する場合】

 

  • ②契約業務を主管する法務部が契約書を管理or③企業の重要文書の管理を主管する総務部が契約書も管理

これらのケースでは、訴訟対応や契約ナレッジの参照を行う法務、あるいは企業の文書を管理する総務に契約書保管の責任を負わせることで厳格な契約書管理をなし得ます。しかし、法務や総務しかアクセスできない環境で契約書を管理すると、セキュリティの面ではメリットがあったとしても、取引の現場に立つ事業部の取引担当者が取引ルールを参照することができないというデメリットがあります。

②法務部又は③総務部が契約書を管理する場合に、各部門の担当者が自分の案件の契約書にアクセスすることが難しいことを表した図
【②法務部又は③総務部が契約書を管理する場合】

その結果、法令遵守を徹底すべき立場の法務や総務がコンプライアンスリスクを生むことになりかねません。また、契約書や契約情報を参照するためにいちいち契約書管理部署に問い合わせる非効率や事業スピードの低下を招きます。

 

そこで、理想的なのが次の手法です。

  • ④会社全体で必要な社員に必要な範囲で契約書にアクセスできる契約情報ガバナンス体制を構築

事業部も法務も総務も、必要な社員に必要な範囲で契約書にアクセスできる権限を柔軟に設定できるセキュリティ管理の仕組みがあれば、①~③のデメリットを克服しながら、効率的かつよりセキュアな契約書管理体制が整います。逆に、不必要なアクセスを制御しつつ、アクセスすべき関係者が必要なタイミングで契約書や契約関連情報を閲覧・活用できる体制・データベースが整ってさえいれば、契約書管理の主管部門をどこにするかは、責任の所在をどこに置くかの意思決定に過ぎないと言えるでしょう。

全社的な契約情報ガバナンス体制を構築した場合によりセキュアな権限管理を行った上で必要な人が必要なタイミングで契約書にアクセスができることを表した図
【④全社的な契約情報ガバナンス体制を構築した場合】

文書管理システムや電子帳簿保存法対応のための経理システムの中には、法務部門と事業部門の関係性や契約書という文書の性質上を踏まえた権限設定ができないサービスもあるため、契約書管理システムの選定にあたっては、注意が必要です。

▼契約書の電子帳簿保存法対応も、経理に一任すると契約書の性質を踏まえた情報管理が困難に

 経理にお任せで大丈夫?法務が知るべき契約書管理における電子帳簿保存法対応の具体的方法

 

2.保管・管理の対象となる契約書・契約関連情報

本来の「契約書管理」とは、法的義務や証拠保全のための「締結した契約書の保管」はもちろん、必要な人が必要なタイミングで契約書及び契約関連情報を活用できる環境(契約業務基盤)を作ることを意味するため、契約書管理や契約データベースの構築において保存し、整理し、活用すべき対象情報は、「契約書に関わるあらゆる履歴や情報」となります。

契約業務全体のフローの観点から整理すると、以下の情報は特に重要です。

【契約書管理において整理すべき情報】
契約業務フロー保存対象ポイント
①締結前・契約書の自社ひな形
・契約書ドラフト
・社内修正履歴
・契約審査の検討過程
・相手方からの変更履歴
・社内コミュニケーション
・契約書の依頼者
・審査担当者情報や履歴
・法務審査中/先方確認中/稟議中等の契約書の状態(ステータス)情報
・事業部の希望納期 等
契約書の自社ひな形やドラフト、修正履歴のみならず、社内コミュニケーションや契約書の依頼者、審査担当者も情報や履歴が残っていれば、問い合わせ対応が削減できます。また、休・退職者が出た場合にも社内での法務と事業部とのやり取り等の履歴があれば、円滑な案件引継が可能となります。さらに、各契約書のステータス情報や事業部からの希望納期等も整理・記録することで案件漏れが防止できます。
②締結・締結方法(紙or電子)
・稟議承認済みか否か
・利用した電子契約サービス名 等
紙の契約書か電子契約書かの区分けは、電子帳簿保存法上の義務が生じる、「電子取引」該当性の分水嶺となる重要な情報です。また、各種電子契約サービスが存在する昨今では、特に受け手となった場合に様々な電子契約システム上に電子契約の履歴や電磁的記録が散在するため、契約書を一カ所に集約できなければ、管理が煩雑になり、契約書の所在・履歴や情報の検索が難しくなるでしょう。
③締結後・契約相手方、契約締結日、契約終了日、取引金額等の基本項目
・自動更新の有無、反社条項の有無
・審査担当者、案件担当者
・案件番号や主幹部署等の必要項目
・契約書審査依頼から締結までのリードタイム
・担当する案件数や契約書類型等の項目 
・契約書の有効・失効
・(紙の場合)原本貸出・返却履歴 等
物的な管理の面では締結した契約書の保管とともに、締結日、相手方、取引金額などの基本項目に加えて、案件番号や主幹部署等の項目を契約管理台帳で管理することが多いと思います。しかし、契約業務全体をマネジメントする観点からは、契約業務を行う人のマネジメントも必要であり、契約書や関連情報を起点に、契約書審査依頼から締結までのリードタイム、一人の担当者が抱えている案件数や契約書類型等の項目も整理することで業務の可視化や評価基準、人材教育等に活用することが可能となります。
④更新・契約期間・自動更新の有無
・更新前後の契約書の情報の紐づけ
・更新前後の契約条件の差分情報
・更新前の交渉過程・検討過程の情報 等
気づいたときには契約が切れていた、というヒヤリハット事例は多く耳にしますが、契約期間や自動更新の有無を整理することで更新管理を適切に行うことができるようになります。締結した契約書の条項には、契約書の検討や交渉過程で判断・合意した全ての事項が盛り込まれるわけではありません。そのため、更新時には、更新前の契約書の内容に加え、更新前の検討過程・交渉過程の情報を紐づけておけば、前回の検討結果や交渉結果を踏まえた再交渉・再検討が可能になります。

 

3.社内規程の整備

契約書管理の責任所在を定めたら、どのような契約書を法務の契約書審査に付すか、契約書原本の保管場所、契約情報の入力項目、入力担当者や稟議ルートや決裁者等を定めた社内規程を整備する必要があります。また、契約書管理のルールは策定するだけで終わらず、一定期間の運用を経て、改訂を行うことも忘れてはいけません。

 

契約書管理のベストプラクティスとは?基本から理想的な管理方法まで

1.契約書管理の基本

契約書管理は基本的に、以下の3つを行う必要があります。

  • ①契約書原本の保管

紙の原本の他、電子契約で締結した契約書は電子データが原本となります。裁判で証拠の提出を行う場合は、原本の提出となるため、厳重な保管・管理が必要です。

 

  • ②契約管理台帳(契約データベース)の作成

契約管理台帳(契約書管理台帳)とは、企業における全ての契約書について、契約の種類、契約相手方、契約書名、期限、金額等の基本項目を抽出した記録を一元整理した、契約に特化した台帳のことを言います。電子帳簿保存法への対応のためには契約管理台帳の作成は必須となります。契約書の効果的な検索と分類を行うため、検索やフィルタリングができるスプレットシート形式で作成することが一般的でしょう。

 

  • ③紙と電子データ、契約情報をデータベースで一元集約

紙と電子の契約が混在し、物理的に情報が散在してしまう現在の契約締結実務においては、電子データと紙を一元管理する重要性が高まっています。契約管理台帳を作成するだけでは、契約書の内容やそれに関連するナレッジを効率的に検索し、参照することができません。契約管理台帳に記載されている契約書の内容を確認するためには、紙の契約書は保管されているキャビネットや倉庫までわざわざ見に行かなければならず、時間的・人的コストがかかります。リモートワークが一般的となり、データの活用が企業の競争力を左右する現代社会では、紙の契約書もデータ化することで電子データとあわせて、情報を活用できる土台を作ることが求められています。

まだ紙の契約書しかない企業でも、契約書ドラフトはWordファイル(電子データ)で作成し、取引先とのやり取りはメール、社内ではTeams等の通信システムを利用しているのではないでしょうか?このようなケースでも、紙と電子データの混在は既に発生していると言えます。

締結した契約書の原本を集約するだけではなく、契約書ドラフトデータや契約書に関するコミュニケーションや検討履歴を一元管理するデータベースを構築しなければ、企業の重要情報資産を適切に管理できているとは評価できません。

 

2.Microsoft Excelによる契約書管理台帳作成(データベース化)のメリット・デメリット

Microsoft Excel等のスプレッドシートを用いれば費用をかけずに契約管理台帳を作成することができる利点がありますが、手作業での入力は、人的なコストがかかるだけでなく、ミスや漏れがつきものです。また、契約の締結と入力にタイムラグがあることから、リアルタイムでの状況把握も困難です。また、契約管理台帳は法的に有効な締結済みの契約書を網羅的に一覧化することが求められますが、Microsoft Excelやgoogleスプレッドシート等では、契約管理台帳上に表示される契約書の情報それぞれに対する権限管理ができないのもデメリットです。契約書自体に閲覧権限を設定している場合でも、契約管理台帳上の相手方や契約書名から契約内容が推測されてしまうリスクがあるため注意が必要です。

そもそも、締結後に初めて契約書を管理しようと思うと、保管先や項目の入力契約書を締結してから台帳を作成し、締結後の契約書やその中の項目を入力する方法は、契約内容や取引内容の本筋に関わらないにもかかわらず、一定の作業工数・時間が必要となる、いわば「管理のための管理」ともいえる業務です。契約書審査の内容の検討等、高付加価値業務に時間を割くためにはこのような「単なる作業」の時間を削減し、人的ミスを発生させない環境整備が必要となります。

 

3.理想的な契約書管理の方法

そこで、理想的な契約書管理の手法は、契約書の受付や作成・審査の締結前の段階で、契約書の台帳化が連動して行われ、台帳の入力作成の工数が削減する契約書管理システム(CLM)を導入することです。

 

契約書管理システムを導入することで、自動化できる業務やシステムが得意な業務(人間が不得手とする業務)はシステムに任せ、判断する、関係を構築する、交渉をする等の人間が時間をかけて行うべき高付加価値業務に注力することができる体制・環境を整えることができます。

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4.システム選定のポイント

  • ① 法務のみならず事業部も含めた会社全体の契約業務全体のフローを効率化するCLM

契約書管理システムの中にも、締結前の情報と締結後の契約書の内容や情報が紐づけられないシステムや、法務しか使用できないシステムも多くあります。しかし、本来の「契約書管理」とは、法的義務や証拠保全のための「締結した契約書の保管」のみならず、必要な人が必要なタイミングで契約書及び契約関連情報を活用できる環境(契約業務基盤)を作ることを言います。

契約書の検討過程等のナレッジ等を参照できず、ドラフトデータが散在してしまう状況や取引当事者である事業部門が必要なタイミングで契約書にアクセスできない環境では、本来の「契約書管理」を行うことは難しく、情報が属人化することによる生産性の低下を招いてしまうでしょう。

そこで、適切な権限管理を行いながら締結前から締結後まで契約業務全体を一気通貫でカバーする契約書管理システム(CLM)の導入は本来的な契約書管理のベストプラクティスです。

 

  • ②高度な検索性を備えた紙と電子を一元管理するデータベース

紙の契約書も電子化した上で、紙と電子を一元集約するデータベースは、契約書の種類、取引相手方、取引年月日、取引期限、契約金額、担当者毎の案件による条件検索や絞り込み検索、契約書名のみならず条項検索、本文検索や契約コミュニケーションの検索等の柔軟かつ高度な検索機能を備えて初めてその威力を発揮します。検索機能は契約業務効率化の重要なポイントの一つとなるため、システム比較の際は検索機能の使い勝手を必ず確認するべきでしょう。

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  • ③契約期間・更新管理

更新タイミングでの適時に取引先と更新や契約の巻き直し、あるいは解除を行うためにも、契約期限を目視で確認するのではなく、自動更新の有無を一括して確認できる機能や期限通知機能のある契約書管理サービスを利用することで、法務部門も事業部門も手間をかけずに期限管理を適切に行うことができるようになります。

 

  • ④電子帳簿保存法対応システム

契約書管理においては、電子帳簿保存法の対応も必須です。電子帳簿保存法における電子取引及びスキャナ保存の保存対象書類は、「国税関係書類」であり、この中に契約書も含まれているからです。契約書管理システム選定の際は、契約書の電子帳簿保存法対応ができるかどうか、必ず確認しなければなりません。

もっとも、導入を検討している契約書管理システムが電子帳簿保存法の法的要件を実際に充足しているか、システムの仕様を熟知していないユーザー側が判断することは容易ではありません。第三者機関である公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が電子帳簿保存法に対応していることを認証したJIIMA認証取得済みシステムを利用すれば、逐一法的要件について判断することなく、電子帳簿保存法に対応することができ、安心です。

  • ⑤ベンダーロックインの回避

契約書管理システムは、契約業務のいわばインフラとなるため、システム選定において注意しておきたいのが、「ベンダーロックイン」の問題です。すなわち、システムの利用期間が長くなればなるほど、契約管理システムの中に会社の資産である重要な情報が蓄積されていきます。しかし、利用しているシステムのサポートが終了してしまう場合や、利用中のシステムよりもより魅力的なシステムへリプレイスしたい場合に、蓄積された情報を移行後のシステムに入れ替えることができなければ、利用中のシステムを使い続けなければならざるを得ないという状況が生じ得るのです。

クラウドサービス(SaaS)でも、蓄積したデータの一括エクスポート等のサポートの有無返還サポート価格は必ず確認すると良いでしょう。同時に、システム導入の際に、機能比較だけではなく、サポートの手厚さや解約率・利用継続率もしっかり確認しておくと安心です。

5.システム導入の効果

契約書管理システム導入においては、予算との兼ね合いで費用対効果・投資対効果を検討する必要もあるでしょう。契約書管理システムの導入効果は、以下の観点から整理できます。

  1. 効果の「性質」:PL 的効果(定量的効果)と BS 的効果(定性的効果)
  2. 効果の「範囲」:法務部門のみか、事業部門を含めた全社的な効果か

①定量的効果・PL的効果:来期の売り上げ向上、コスト削減に繋がるか

契約業務効率化に伴う労働時間・人件費の削減のために、締結後の台帳作成業務を自動化することは即効性があります。契約締結までのリードタイムの短縮による取引スピード・取引サイクルの向上等の事業拡大・事業成長等の全社的な効果を得るためには、締結後だけではなく締結前の契約書にまつわる全ての情報を集約した上で、事業部と法務のコミュニケーションの円滑化や更新時のナレッジ活用による自社に有利な交渉戦略立案等ができる、契約業務全体の管理体制・環境整備も必要となってきます。

契約書管理システムによるPL的効果の一例を示した図
【図】https://hubble-docs.com/downloadより抜粋

②定性的効果・BS的効果:将来の資産として、 中長期的に利益を生むか

契約書は取引上重要な情報資産であり、そのデータは、事後的に活用することで利益の源泉となり得ます。人材の流動性が今までになく高まっている現代では、ナレッジ管理・情報の属人化防止対策はそのまま企業の競争力に直結しますので、情報集約は重要なBS的効果です。

また、ガバナンス体制が構築できていないことによる企業価値を低下させるニュースが相次ぐ昨今、契約関連情報を必要な範囲の人に必要なタイミングでアクセスできる権限管理を行う体制は必須です。

 

③効果の範囲

法務や総務等文書管理部門だけがアクセスできる契約書管理システムは、法務や総務等の管理工数を減らし、業務効率化に繋がります。しかし、その範囲はあくまで管理部門にとどまり、全社的なPL的効果に繋がっているかは慎重な判断が必要です。

一方で、権限管理が適切に行える契約書管理システムを選定し、事業部門も含め必要な人が必要なタイミングで情報にアクセスできる環境を整えれば、事業部門を含めた全社的な業務効率化は、取引のリードタイム短縮や事業サイクルの高速化等、売り上げに直結する効果を生むでしょう。

さらに、法務による契約書審査を通さない契約の締結等のような不審な行動を抑制するなど契約ガバナンス体制の強化を実現できます。

全社的に契約書や契約関連情報が蓄積されると、契約書にまつわる情報や過去の類似案件での有識者、退職者(前任者)によるコメント履歴等のナレッジを活用できる等、会社全体でBS的効果を得ることができるのです。

 

本来の契約書管理を実現するシステム「Hubble」

「Hubble」は、会社全体で柔軟な権限管理を行いながら、契約書審査受付から、契約書ドラフトの作成、契約書審査から締結後の契約書管理(データベース化)、さらに更新管理まで一気通貫で契約業務フロー全体を整える本来の意味での「契約書管理」を実現するために構築された利用継続率99%のシステム(CLM)です。

 

契約書審査受付の際に、契約書を「Hubble」にアップロードすると契約書の権限設定を引き継ぎながら自動で契約管理台帳の生成が行われ、事業部も法務もミスなくスムーズな契約業務を行うことができます。さらに、高度な検索機能更新期限通知電子帳簿保存法に完全対応できる機能も備えています。

そのため、法務に限らず事業部も含めた会社全体で、BS 的効果(定性的効果)に加えPL 的効果(定量的効果)も享受することができる企業生産性を高めるシステムです。

なお、手厚いサポートや保存したデータの一括返還サポートも備えているので、より一層安心してご利用いただけます。

 

もっとも、紙の契約書が多く、契約書の台帳作成や期限管理等を手作業で管理していた企業にとっては、いきなり事業部を巻き込んであらゆる契約書及び契約関連情報の集約を行うハードルは高く感じられるかもしれません。

そのような皆様には、本来の「契約書管理」を将来的に行うことを目指しつつ電子帳簿保存法への対応を行いながら、比較的短期で法務部門内の煩雑な管理作業時間・項数を削減し、AIによる契約管理台帳の自動生成、契約書データベースの構築ができる「Hubble mini」をご検討してみるのはいかがでしょうか。

 

記事執筆者:Hubbleリーガルリサーチ・編集部

Hubbleのコラム「契約業務の基礎知識」は契約業務に携わるすべての皆様に有益な情報を提供すべく、法的な観点も交えた記事を配信しています。司法試験に合格し、司法修習を経て弁護士資格を有する社員により行われた緻密な法的リサーチを土台として、お客様の声も踏まえた実務に役立つ内容を執筆しています。

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