今さら聞けない?!契約ライフサイクルマネジメント(CLM)入門

この記事でわかること
  • 契約ライフサイクルマネジメント(CLM)の意義と目的
  • CLMソフトウェア(CLMS)のメリット
  • 日本におけるCLMソフトウェアの重要性
目次

はじめに

みなさん、こんにちは。

この数年で日本でもCLM(シーエルエム)という言葉が聞かれるようになりました。米国発祥のこの言葉は、今後日本でも法務や契約業務における重要キーワードになりますので、この機会に、LOLでもご紹介をしていきます。

CLM(シーエルエム)とは

CLM(シーエルエム)とは、Contract Lifecycle Managementの略で、契約のライフサイクル、つまり締結前から締結後、更新や巻き直しまでのプロセス全てを、主にテクノロジーを活用して管理することを指します。日本語では、「契約ライフサイクルマネジメント」と表現されます。

具体的な契約のライフサイクルの各プロセスは、およそ以下のようなプロセスに分類することができます。各プロセスとあるべき管理体制は、図1と以下の記事をご覧ください。

図1:契約業務の全体像(「契約書作成業務フローの全体像とポイントー全体最適なリーガルオペレーション構築のためにー」より引用)

CLMの意義

それでは、なぜCLM、契約ライフサイクルマネジメントをしなければならないのでしょうか?それは、以下の通り、契約業務の特性が関係しています。

関係者が多く複雑な「フロー」を正常化する

契約書は、作成段階から社内外に非常に多くの利害関係者が登場します。例えば、社外の取引先はもちろんのこと、社内では本件に関係する部門だけでなく、法務、経理、総務なども広く関係します。これらの登場人物に対して、社内規程などのルールに従って(時にはそれよりも更に丁寧に)、適時に確認や承認を得ながら業務を進める必要があります。

こういったプロセスが各契約について並行して進行するため、これらのフローのどこでボールが止まっているのかわからなくなることもしばしばです。その結果として、単なるミスにとどまらず、ビジネスのスタートが遅れたり、経営計画に影響を与えるおそれも出てきます。

こういった潜在・顕在的なリスクは、契約に関するプロセス全体をカバーする契約ライフサイクルマネジメントを行うことで避けることができるのです。

データが多く煩雑な「ストック」を正常化する

締結前においては、契約書のドラフトは何度となく変更されてバージョンが沢山出来上がり、ここに関連するコミュニケーションや関連ファイルも多数発生します。これらを人間が全て記憶することは困難であるため、相手方と十分な交渉を行おうと思うと、これらの締結前の情報を保管・管理する必要が出てきます。

図2:「【アーカイブ配信】Slackで実現する理想的な契約業務Vol.1〜ベンチャー・スタートアップ企業向け〜」使用資料より引用

一方で、締結後においては、当該締結版のファイルとそのメタデータが生じます。これらの情報は、取引先との現在の契約内容を法務・税務・会計・ビジネス実務それぞれの側面から把握するために必要です。加えて、更新や契約内容の変更の際は、締結した契約書、時にはこれと関連する契約書をも参照する必要があるため、締結後のデータもストックしておく必要があることになります。

契約書ライフサイクルマネジメントのあるべき姿とは?

米国のリーガルオペレーションズの関連団体の一つである、ACC(Assosiation of Corporate Counsel)は、以下の通り、CLMのあるべき成熟モデルを示しており、参考になります。

やや日本の実務には馴染みが薄い単語が並びますが、ソフトウェアを導入し、情報の集権管理と業務の自動化・標準化を進めていくことが中心に据えられています。

図3:ACCのWebサイト(https://www.acc.com/maturity/contract-management)より引用

CLMソフトウェア(CLMS)とは

上記の契約書ライフサイクルマネジメントを行うことに特化したソフトウェアのことを、「CLMソフトウェア」といいます(ただ、実際にはCLMソフトウェアの意味でCLMという言葉が使われていることも多く見られます)。

CLMソフトウェアは、先行して米国で急成長している領域で、市場規模は 20 億ドル程度と評価されており(※)、米国のリーガルテックの花形の地位を占めています。特に2020年以降、パンデミックに伴う景気後退を経験した米国では、法務部門における継続的な業務効率化やコスト削減への要請が成長を下支えしました。これを受けて日本でも昨今少しずつCLMという言葉が聞かれるようになりました。

(※)PRECEDENCE RESEARCHによる調査結果より

CLMソフトウェアは、多くの場合「リーガルテック」に分類されますが、少なくとも契約業務に関わるメンバー全員が使うものになります。法務のみが使うわけではなく、営業部門、開発部門や管理部門など会社の多くのメンバーが活用することが実際の製品でも当然のごとく想定されているのです。

CLMソフトウェア導入のメリット

契約のライフサイクルをCLMソフトウェアを使って管理することのメリットは、以下の通りです。

①フロー:効率的でミスのない業務プロセスの基礎づくり

業務プロセスの効率化

従来の契約書は、Microsoft Wordで作成し、これをEメールで社内外に共有しつつ交渉・調整を行い、紙または電子契約で締結を行ったのち、その契約書データをストレージに保管し、Microsoft Excelなどをはじめとする表計算アプリで一覧化し期限管理する、といったイメージで、非常に多くのアプリケーションを跨いで行われていました。

こうした従来からのやり方でも「業務が回っている」状態は作れるものの、多くのアプリケーションを使うことにより契約書自体と付属するデータを複数の場所に分散して、または複製して保管することになり、非効率や抜け漏れが生じていました。CLMソフトウェアは、これを原則として一つのソフトウェア内で完結するように、各プロセスで活用できる機能を内包しています。仮にその機能がなくても、(特に米国のCLMでは)豊富なAPIでシームレスに連携することで機能を補うことができます。

業務プロセスの可視化

CLMソフトウェアの多くは、日常的に発生する契約のライフサイクルを管理することを想定しているため、レビュー中の契約書も締結後の契約書も、今どのようなステータスにあるのかを法務以外のメンバーも確認することができます。このように業務プロセスが可視化されることで、わざわざ法務に聞きにいくといった余計なコミュニケーションを取らずとも、会社全体で進捗を確認し合いながら業務を遂行することが可能になります。

②ストック:網羅性あるデータの集約と分析の基礎づくり

データの一元管理

以下の記事にもあるとおり、契約書の作成過程や交渉に関する情報も、本来管理すべき対象です。しかし、現実には締結に至るまでのファイルやこれに付随するコミュニケーション、その他関連資料は、個々の作業者のローカル環境やメールなどに放置されることが大半で、情報が分散し、属人化してしまいがちです。

基本的に情報(またはそれに至るための導線)は、一箇所に集約されている方が、参照しやすく効率的です。こうした「契約書に関する情報を誰もが探しやすい」環境は、契約書に特化したソフトウェアこそが実現できるのです。

契約に関する共通認識の形成

CLMソフトウェアでは、クラウド環境をベースとした共通のワークスペースが存在するため、権限の範囲内でメンバー全員が同じ情報を見ながら業務をすることが可能です。ドラフトのバージョンが積み重なった結果、議論の際に実は互いに手元で見ているファイルが違ったなど、コミュニケーションの前提となる共通認識に齟齬がなくなるため、コミュニケーションコストが大きく下がります。

近年では、こうした共通認識を作ることに長けたソフトウェアのカテゴリを”Deep Collaboration”(ディープコラボレーション)と表現することもあります。

業務分析によるボトルネックの特定

契約業務に限らず法務業務の多くは、これまで職人的スキルに基づいて遂行されることが多く、必ずしも定量的な評価が適さないと思われてきました。ただ、それは前述のように、情報やデータなどが分散して保管されていた(またはそもそも保管されていなかった)結果、これを評価するための共通の「物差し」を用意できなかったことも理由であると思われます。

CLMソフトウェアを活用することで、上述の通りデータが集約され、更にこれに関わるアクションが可視化されるため、契約業務に一つの共通の物差しを取り入れることができます。これはつまり、契約業務にも定量的な視点を組み込むことができることを意味します。これによって、例えば、組織の状態やメンバーの業務負荷などを把握し、組織にとってのボトルネックを特定することができるようになるといった具合です。これが米国でCLMソフトウェアの導入が進んでいる大きな理由です。

もっともこれは、あくまで一つの物差しであり、引き続き定性的視点も加味する必要がある、ということは以下の記事においても言及した通りです。

今後の日本におけるCLMの重要性

契約書は法務だけのものではない

契約書は、法的論点を内包することが多いことから、少なくとも法務担当が設置されている殆どの企業では「法務チェック」が行われています。

ただ、本来契約の主体は、当該契約書に紐づくビジネスの主管部門であり、ほとんどが非法務部門です。言い換えると、契約書の内容を最も理解しておくべきなのは、当該主管部門に他なりません。しかしながら、現実には半数以上の非法務部門の方が契約書の内容の理解には十分な自信があるわけではないようです(図4参照)。

図4:「新企画アンケート!法務以外のみなさんに聞きました!①「契約書を読みますか?必要ですか?」」Q2より引用

それにも拘らず(またはその原因として)、日本では、法務が文字通り、手元で契約書を「握りすぎている」のかもしれません。このように情報やナレッジが法務に偏在する状況を解消するためには、契約書とこれにまつわる情報を管理する共通の基盤として、CLMソフトウェアが今の日本の企業には必要と言えるでしょう。

CLMソフトウェアを使い、かつ非法務の部門が契約への関与を強めてくれた暁には、非法務の部門も自ら情報を検索しにいくことができるようになり(場合によってはある程度のリテラシーを高めて)、結果として、余計なコミュニケーションが減少し、法務の工数を浮かせることが可能になるのです。

こうした全社最適な契約業務フローのあるべき姿については、以下の記事で”Contract Productivity Model“として、公開しています。「CLMの一歩先」として、日本の企業法務が取り組むべき領域と位置付けることができるでしょう。

法務のリソースはより高度で創造的な領域へ

大前提として、法務の人材獲得競争は引き続き激化する様相で、一部の企業を除いて、常にリソースは限られているものと考えていた方が良いでしょう。

こうした中でCLMソフトウェアを取り入れることで、法務が「握りすぎていた」契約書とこれに関連する情報やナレッジが、事業部門に「返還」され、(少しずつですが)事業部門が自律して判断できる領域が広がります。この時点で全社的な契約に対するリテラシーやコンプライアンス水準も向上していると言えるでしょう。

そして、こうした効果が出てからが法務の本当の「腕の見せどころ」です。皆さんの会社においても、下記の図5のように、会社の成長のために限られたリソースを投下してでも法務がやる価値のある業務が沢山あると思われます。こうした業務に頭を使うことが、結果としてみなさんの企業のためになりますし、実は法務に(今は潜在的かもしれませんが)求められているのではないでしょうか。

図5:法務業務が効率化した先に見据える領域のイメージ

現在、法務への期待値は、かつてなく高まっています。これに応えるために、まずは再現性が高く、反復性も高い契約ライフサイクルマネジメントを着実に行える体制を作って、法務が次のステップに進みやすい環境にしていくことを目指すと良いでしょう。

まとめ

この記事のまとめ
  • 契約ライフサイクルマネジメント(CLM)の意義と目的
    • CLMとは、契約のライフサイクル、つまり締結前から締結後、更新や巻き直しまでのプロセス全てを、主にテクノロジーを活用して管理すること
    • CLMによって、関係者が多く複雑な契約書の「フロー」とデータが多く煩雑な「ストック」を正常化することができる
  • CLMソフトウェア(CLMS)のメリット
    • 業務フローの効率化と可視化が達成できる
    • データを一元管理し、関係者間で共通認識を形成できる
    • データに基づいた分析の基盤を作れる
  • 日本におけるCLMソフトウェアの重要性
    • 事業部門における契約書への理解度を高め、結果として法務の業務工数を適正化して、法務がより創造的な業務を行うきっかけとなる

ウェビナーアーカイブのお知らせ

2023年9月22日(金)、LOLのインタビュー記事にも登場頂いた阿部・井窪・片山法律事務所パートナー弁護士辛川力太先生をゲストにお迎えし、契約書のライフサイクルから見る、契約書作成過程・契約情報集約の重要性について解説いただきました。以下より当日のウェビナーの全編をご覧いただけます。


本記事の著者情報

山下 俊(やました しゅん)

2014年、中央大学法科大学院を修了。日系メーカーにて企業法務業務全般(主に「一人法務」)及び新規事業開発に従事しつつ、クラウドサインやHubbleを導入し、契約業務の効率化を実現。
2020年1月にHubble社に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2021年6月からLegal Ops Labの編集担当兼務。2023年6月より執行役員CCO。近著に『Legal Operationsの実践』(商事法務)がある。

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