- 「日本版リーガルオペレーションズ」で「マネジメント」が一要素をなす理由
- 「マネジメント」の各レベルで必要となる要素
はじめに
みなさん、こんにちは!
日本版リーガルオペレーションズ研究会(以下、研究会)の発表したドキュメントをベースとしながら、日本版リーガルオペレーションズの8つのCOREそれぞれについて、レベル別に何をどこまでできていれば良いのかをご紹介する本シリーズ、最終回の今回は、「マネジメント」に関してまとめていきます。
概要-マネジメントの意義-
定義と目的
元来マネジメントという言葉は様々なところで活用される言葉ですが、CORE8の解説によると、ここでの「マネジメント」とは、「法務部門運営のための法務組織の最適化を指し、「レポートライン」の標準化と「組織内連携」の強化からなる」とされています。
このマネジメントは、CORE8の他の要素との結びつきが非常に強いことも特徴です。「戦略」パートが各COREのコア、つまり心臓部であるとするならば、この「マネジメント」は各COREの施策が滞りなく効率的に遂行されるための、血管・血流に相当するものと言えるかもしれません。
上記に加えて、このマネジメントは、他のCOREと比較しても、現状の企業そして法務組織の状況によってゴールの形が大きく変わることも特徴です。詳細は後述していきますが、「自社の現在地を確認し、目標設定や課題解決のための目安とする」というCORE8の本来の活用目的をしっかりと認識した上で各レベルを見ていく必要性が高いといえます。
米国のCLOC(The Corporate Legal Operations Consortium)が定めるリーガルオペレーションズの「CORE 12」では、日本版のマネジメントにそのまま該当する項目がありません。
日本版の解説にもある通り、他の項目と密接に関わることもあり、米国版では各項目に溶け込んでいると考えるべきでしょう。
さて、ここからは、各レベルの構成要素について簡単に何をすべきか、またその際に注意すべきポイントは何かを、LOL独自の視点からご紹介していきます。
レベル1:法務におけるレポートラインを定める
概要
レベル1は、まず法務の活動を支えるレポーティングラインや業務範囲といった基本的な要素が確定している状態がゴールとなります。ある程度組織化されている法務においては、クリアしていることが多いと思われます。
レベル1の構成要素とそのチェックポイント
(各項目をクリックまたはタップすることで、詳細な情報が表示されます。)
✅ レポートライン・報告基準が定められている
- アウトプットのイメージ
- 法務(組織)内、または法務組織からのレポーティングライン及び報告の機会が設けられており、その報告の基準が定められている状態。
- 補足
- レポーティングライン(レポートライン)とは「指揮系統」と訳され、組織内における効率的な情報や指示の伝達に必須のものとされています。
- 当然ながら、このレポーティングラインの整備の前提として、自社(グループ企業を含む)が、何人規模でどういったスキルを保有した法務人材を有しているのかを棚卸しする必要があります。「人材」パートのレベル2で言及されているスキルマップの作成などが有用な手段でしょう。
- 法務組織が独立した部署として成立している場合には、大まかにメンバー・当該組織のマネージャー・法務担当役員・社長といった系統が定まっており、原則として隣接した役職者との間で、情報や指示の伝達が行われることが望ましい形です。決まった正解があるわけではありませんが、組織の状況に応じて、以下の図1-3に示したレポーティングラインが参考になるでしょう。
- 上位のレイヤーにレポートする場合の報告の基準は、当該上位レイヤーの職務(どういったレベルの判断を期待された役職か)を基本として考えるのが良いでしょう。特に役員クラスへの報告となる場合には、会社レベルでの施策やリスクが考えられる案件に絞って、(不定期に、または月一回程度の定期で)レポートすることになります。
- レポーティングラインの例
- レポーティングライン(レポートライン)とは「指揮系統」と訳され、組織内における効率的な情報や指示の伝達に必須のものとされています。
前述の通り、レポーティングラインを形成することで、情報が適切な量と粒度で伝達されるようになり業務効率化に資するとされています。その一方でこの伝達の回数が増えることで、レポーティングラインが複雑化し、一つの情報を伝えるのにも多くのミドルマネジメント層と時間が必要になるというデメリットも起こり得ます。
近年ではこの問題を乗り越えるために、企業が個々のメンバーへの研修に力を入れて、結果的にミドルマネジメントの管掌範囲を拡大するという傾向も見られます(スティーブンP.ロビンス著、髙木晴夫訳『新版 組織行動のマネジメント』ダイヤモンド社、2009年、 P351参照)。
法務では、大規模な法務組織であっても、その最小単位は(担当事業や領域など)役割に応じた3-5名程度の小規模なチームであることが多いと思われますが、組織が拡大を続ける場合には、一度見直してみる必要もあるかもしれません。
✅ 法務組織の役割が定義されている
- アウトプットのイメージ
- 法務(組織)の業務分掌が社内規程によって、また判断権限が稟議規程や承認規程によって明確に定められている状態。
- 補足
- いわゆる業務(職務)分掌が規程化され、また稟議規程や承認規程で具体的な判断権限が明確化されていることで、誰の目にも各組織の役割が明確になります。上場準備時に整備が求められる規程の中にも含まれているように、企業活動では非常に重要度が高い規程の一つです。
- 一般に法務は、法的なリスクを低減することにそのミッションを有しており、契約審査や法律相談、訴訟対応などいうまでもなく業務の範囲が画定している傾向にありますが、近年では会社内のリスク管理全般に携わるケースもあり、当該企業における法務組織の役割の再定義が必要になっている場合もあります。
レベル2:法務内での情報連携の基礎が構築されている
概要
レベル2では、情報、特に法務組織の方針など重要なものが、法務組織内で連携される体制や仕組みとなっていることが、達成の要件となっています。
レベル2の構成要素とそのチェックポイント
(各項目をクリックまたはタップすることで、詳細な情報が表示されます。)
✅ 法務部門全体の方針があり、期初に周知や徹底の場が設定されている
- アウトプットのイメージ
- 法務部門全体の方針が、期初の段階で明示されており、これが会議等を通じてメンバーにも周知され、共通理解を醸成できている状態。
- 補足
- まず、言うまでもなく法務組織としての方針を定めることが必要になります。これは、戦略パートのレベル1にある、法務のミッションや方針を定めることと同じプロセスと考えて差し支えないでしょう。
- その上で、方針がグループ企業の法務も含めた全体に伝達されることになります。その伝達のあり方は、法務の体制に関係なく共通であると思われます。具体的には、期初などに設ける(グループ会社がある場合にはこれも含めた)法務全体が参加するミーティングで実施するというものです。
- このようなプロセスを要する理由は単純で、個社毎の独立性をある程度担保しながらも、あくまで同じグループに属し、同じ目標に向かって進む「大きな法務組織」であることが、こうしたイベントによって最もはっきりと各メンバーに伝わるからです。
- なお、上記以外の日常的な組織全体に関わる情報や指示の伝達は、基本的には、レベル1で定めたレポートラインに基づき、各社の法務の最上位レイヤーの役職者(グローバル企業の場合はジェネラルカウンセル、GCを想定)から行われます。ここから各レイヤー間で情報伝達を行い、最終的には、法務組織の中で最も小さなチームにて行われる週1回程度の定例ミーティングで情報や指示の伝達が行われるイメージです。
- ただし、単なる情報の共有のレベルであれば、文字通りレポートラインを辿ることで時間を必要以上に要してしまうこともあるため、特に規模が大きい大企業やグローバル企業のグループ法務の場合には、特定のレイヤー間でのミーティングの常設化や専用のポータルサイトの設置なども有効でしょう。
レベル3:法務全体の方針に基づいた緊密な連携を実現する
概要
レベル3では、レベル2までに実践してきたマネジメントプロセスを更に高度化し、結果として各COREに良い効果をもたらしている状態です。ここは、特に規模が大きい法務組織であればあるほど達成が難しいものになります。
レベル3の構成要素とそのチェックポイント
(各項目をクリックまたはタップすることで、詳細な情報が表示されます。)
✅ 法務部門全体の中長期の目指す姿 メンバーに対する期待が明確に共有されている
- アウトプットのイメージ
- 法務組織の中長期の方針とメンバーに求められるマインドやスキルが明文化され、これが個々のメンバーのキャリア形成の方向にも結びついている状態。
- 補足
- 本要素で重要なのは、この中長期のメンバーレベルにまで落とし込まれた方針が、各チームのミドルマネジメント層からのメッセージではなく、(少なくともGCや役員以上のクラスからのメッセージであり)全グループ企業統一の方針に基づくものであることが、メンバーにもわかる状態になっているという点にあります。
- そして、具体的な進め方や考え方は、他のCOREを参照するのが適切です。まず、法務組織の中長期の方針については、「戦略」パートのレベル1でもミッションの作成という形で求められており、更にレベル2でメンバーに共有されることになっています。そしてこれが個々のメンバーのキャリアプランにもある程度影響を与えることは、「人材」パートのレベル2とレベル3で示唆されているところです。
✅ One Teamとして、活発にマネジメント情報やノウハウが共有・活用される
- アウトプットのイメージ
- 各グループ企業間で、予算やリーガルテック、外部リソースなどリーガルオペレーションズに関連する情報、また実務に関するナレッジやノウハウなどの情報が共有される仕組みが構築されている状態。
- 補足
- 本要素の実現は、他のCOREの各要素の達成状況と密接に結びついています。企業規模や法務の状況によって、以下のようなイメージで、アウトプットが出ているのが望ましいでしょう。
項目例 | 目指すべき状態 | 他のCOREとの関係 |
---|---|---|
予算 | 法務部門独自の予算が編成されてこれが管理されている状態 | 「予算」レベル2 |
外部リソース活用 | 法務部門が外部弁護士の選定権限を持っており、選定基準や起用ポリシーが明確になっている状態 | 「外部リソース活用」レベル2 |
テクノロジー活用 | 法務主導で導入したテクノロジーの効果を検証し、また見直しを行なっている状態 | 「テクノロジー活用」レベル3 |
ナレッジマネジメント | 法務組織内でナレッジが蓄積される仕組みが存在し、実際にナレッジが活用されている状態 | 「ナレッジマネジメント」レベル3 |
業務フロー | 定期的に業務フローや業務分担、回答方針などが見直されている状態 | 「業務フロー」レベル3 |
項目例 | 目指すべき状態 | 他のCOREとの関係 |
---|---|---|
予算 | グループ全体の予算を(グローバル)HQが承認する体制が構築(規程化)されている状態 | 「予算」レベル3 |
外部リソース活用 | グループ間で共通して起用可能な弁護士に関する情報を共有し、各国の弁護士起用の方針に役立てている状態 | 「外部リソース活用」レベル3 |
テクノロジー活用 | 各社が導入したテクノロジーに関する情報を共有し、必要に応じて共通化することの議論がなされている状態 | – |
ナレッジマネジメント | グループ間で(各国)法務実務に関するナレッジが集約され、必要に応じてこれが共有され、活用されている状態 | – |
業務フロー | グループ間で業務フローのベストプラクティスや契約類型別のプレイブックの共有などがなされ、(法域が異なることによる影響が少ない領域について)統一的な方針の実践が試みられている状態 | – |
その他 | 上記各項目について、グループ全体の部会が必要に応じて設置され、グループ全体での定期的な情報共有や意見交換がなされている状態 | – |
まとめ
- 「日本版リーガルオペレーションズ」で「マネジメント」が一要素をなす理由
- 各CORE8の施策を国内外のグループ企業も巻き込んでスムーズに実行するにあたり、レポーティングラインや組織内連携が非常に重要な役割を果たすから。
- 「マネジメント」の各レベルで必要となる要素
- レベル1
- レポートライン・報告基準が定められている
- 法務組織の役割が定義されている
- レベル2
- 法務部門全体の方針があり、期初に周知や徹底の場が設定されている
- レベル3
- 法務部門全体の中長期の目指す姿 メンバーに対する期待が明確に共有されている
- One Teamとして、活発にマネジメント情報やノウハウが共有・活用される
- レベル1
山下 俊(やました しゅん)
2014年、中央大学法科大学院を修了。日系メーカーにて企業法務業務全般(主に「一人法務」)及び新規事業開発に従事しつつ、クラウドサインやHubbleを導入し、契約業務の効率化を実現。
2020年1月にHubble社に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2021年6月からLegal Ops Labの編集担当兼務。2023年6月より執行役員CCO。近著に『Legal Operationsの実践』(商事法務)がある。
リーガルオペレーションズの他のCOREなどについての解説はこちら!