全メンバーのポテンシャルを120%引き出す!リーガルオペレーションズ実践マニュアル⑥人材編

この記事でわかること
  • 「日本版リーガルオペレーションズ」で「人材」が一要素をなす理由
  • 「人材」の各レベルで必要となる要素
目次

はじめに

みなさん、こんにちは!

日本版リーガルオペレーションズ研究会(以下、研究会)の発表したドキュメントをベースとしながら、日本版リーガルオペレーションズの8つのCOREそれぞれについて、レベル別に何をどこまでできていれば良いのかをご紹介する本シリーズ、今回は、「人材」に関してまとめていきます。

日本版リーガルオペレーションズのCORE8

概要-なぜ人材が重要なのか-

定義と目的

まず、ここでいう「人材」のスコープは、自社にフィットする人材を獲得する人材採用戦略と入社後のメンバーの成長や自己実現を支援する育成戦略、そしてこれを会社として正当に評価する組織戦略を含んだものとなっています。

マクロで見ると、昨今の人口減少の傾向により、将来に向けて人材をいかに確保し、成長を促し、また企業に定着させるかは、法務を問わず日本経済界で非常に重要な問題であることは、疑いの余地がないでしょう。こうした中で、LOL内でも度々言及している通り、法務に対する専門性、そして事業貢献への期待は、これまでになく高まっており、法務に求められる業務の範囲は広がってきています(※1)。

このため、法務人材を確保したい企業は以前に比べて増えています。これに呼応するように、昨今では法務人材の転職も非常に活発化しています(※2)。ただし、少なくとも2023年現在においては、多くの企業間でこの候補者の獲得競争が繰り広げられます。つまり人材の獲得難度は高い状態なのです(※3)。

こういった中で、法務における人材戦略の肝は、

  • いかに自社のカルチャーに適合するメンバーを採用し、
  • いかに限られた数のメンバーのポテンシャルを最大限に引き出すか、そして
  • こうしたメンバーにいかに長く自社で働いてもらうか(言い換えると、その会社が自分を成長させてくれる場所であることについて、メンバーに確信を持たせる)

という問いに答えていくことにあります。

※1)参考になるデータとして、米田憲市 編、経営法友会 法務部門実態調査委員会 著『会社法務部〔第12次〕実態調査の分析報告』(商事法務、2022年)P328など。
※2)参考となるデータとして、米田憲市 編、経営法友会 法務部門実態調査委員会 著『会社法務部〔第12次〕実態調査の分析報告』(商事法務、2022年)P30,P40,P57など
※3)参考になるデータとして、KPMGコンサルティングとトムソン・ロイター社が共同で実施した「法務・コンプライアンスリスクサーベイ2022 持続可能な経営に向けた変革」では、実に53.8%が「人材の採用・育成」に課題を感じているとの調査結果が出ている

米国における人材の考え方
Legal Operationsの「CORE12」(https://cloc.org/what-is-legal-operations/より引用)

米国のCLOC(The Corporate Legal Operations Consortium)が定めるリーガルオペレーションズの「CORE 12」では、”Training & Development”と”Organization Optimization & Health”の項目が設けられており、それぞれを合わせると日本の人材パートと重なるように思われます。

Training & Development

Desired state: Help your teammates be effective, compliant, and energized by designing high-quality targeted training. Design a compelling new hire experience that equips your newest employees for success. Manage CLE requirements across the team to ensure compliance and help build skills in important emerging areas.”
(望ましい姿:質の高い的確なトレーニングを設計することで、チームのメンバーが効率的で、法に従順で、活力に満ちた仕事ができるようにします。新入社員を成功に導く魅力的な新入社員体験を設計します。チーム全体のCLE(※3)の要件を管理することで、コンプライアンスを確保し、重要な新興分野のスキル構築を支援します。)

※3)”Continuing Legal Education”の略。米国などで弁護士資格保有者に毎年所定の時間を割くことを義務付けられている専門教育のこと。

「What is Legal Operations?」(https://cloc.org/what-is-legal-operations/)より引用。日本語訳はLOLにて追記。

Organization Optimization & Health

Desired state:Design and support balanced, driven, high-impact teams. Hire for team fit and bring in a diverse, complementary mix of skills and perspectives. Identify potential leaders and encourage promising careers through targeted mentoring and support. Help foster a positive and engaged culture through offsites and skills development.”
(望ましい姿:バランスの取れた、推進力のある、影響力の大きいチームを設計し、サポートする。チームにフィットする人材を採用し、多様なスキルと視点を補完し合えるようにする。潜在的なリーダーを発掘し、的を絞ったメンタリングやサポートを通じて有望なキャリアを後押しする。オフサイトやスキル開発を通じて、前向きで積極的な企業文化の醸成を支援する。)

「What is Legal Operations?」(https://cloc.org/what-is-legal-operations/)より引用。日本語訳はLOLにて追記。

さて、ここからは、各レベルの構成要素について簡単に何をすべきか、またその際に注意すべきポイントは何かを、LOL独自の視点からご紹介していきます。

人材の全体像(「日本版Legal Operations CORE 8 EVENT Report」より引用)

レベル1:人材を確保する

概要

レベル1は、まず法務人材を社内に確保することから始まります。

法務は企業活動において非常に重要であることは疑いありませんが、例えば従業員が100名を超えても、法務案件を外部弁護士に委託し、社内には法務を担当するメンバーがいないという企業も多く存在します。

しかしながら、会社の戦略や事業のありよう、そしてそのニュアンスをつかみ適時に法的な課題に対処するには、やはり社内の法務担当者が欠かせません。こうした観点から、まずは人材をしっかりと社内に確保することから始めます。決してレベル1の難度は高くありません。

レベル1の構成要素とそのチェックポイント

(各項目をクリックまたはタップすることで、詳細な情報が表示されます。)

新卒採用、 中途採用、 異動等を通じて、 業務遂行に必要な法務人材を確保している
  • アウトプットのイメージ
    • 専業・兼業問わず、法務業務を担当するメンバーが社内に存在する状態。
  • 補足
    • 「法務」は同じ管理部門の経理や総務と比べても、一人目の専任担当者が設置されるタイミングは比較的遅くなりがちです。
    • こうした中で、法務担当者を設置するタイミングは、新興企業であれば上場を見据えたN-3からN-2のころ、それ以外では、業務量を見て判断されることが多いです。例えば、月間で契約書が5-10件程度発生する場合に専業法務を採用する意思決定をするといった具合です。
    • 特に近年では、スタートアップ企業も上場を見据え、早期から一人目の専業法務を雇用する傾向も顕著に見られます。特にフィンテックなど法的な規制との調整が必要な場合には、弁護士資格保有者を一人目の専業法務として選ぶケースも増えています。
業務遂行に必要な教育・研修を行っている
  • アウトプットのイメージ
    • 新たに入社するメンバーへの全社共通のオンボーディングプログラムを用意している状態。
  • 補足
    • レベル1の段階では、法務に特化した教育プログラムを必ずしも求められているわけではありません。法務のメンバーももちろん当該企業の一員であることから、当該企業のミッション・ビジョン・バリューなどのカルチャー面の理解は、他のチームのメンバーと同様に不可欠です。
    • また、法務業務を遂行するに当たって、自社の事業理解は必須ですが、例えばプログラム内に各事業の責任者からの事業内容の説明などがあれば、事業部門との関係性構築のきっかけともなるでしょう。

レベル2:人材のポテンシャルを引き出す

概要

レベル2は、レベル1で獲得した人材のポテンシャルを、より自社で発揮してもらえるように段取りをしていくフェーズです。とはいえ、この取り組みは人材の募集・採用の段階から始まるものでもあるため、募集・採用段階でも一段階高い目線を求められています。

レベル1から比較すると難度はグッと上がりますので、特に法務を本格的に組織化する段階で、人事チームと相談しながら一つ一つ整えていくと良いでしょう。

レベル2の構成要素とそのチェックポイント

(各項目をクリックまたはタップすることで、詳細な情報が表示されます。)

法務部門の求める人材要件を明確化している
  • アウトプットのイメージ
    • 求める人材像が言語化され、社内のメンバーや募集要項にも示されている状態。
  • 補足
    • ここでは、スキルセットはもちろんですが、それよりも自社の法務として持ち合わせるべき姿勢が特に重要になります。つまり、自社の法務組織のミッションやクレドがしっかりと定義されていることで初めて明確化できるものになります。この点で、CORE8の「戦略」のレベル1「法務部門のミッション・方針を定めている」という項目と密接に関連します。
採用過程に法務部門の関与があり、 適性の見極めやミスマッチ予防を行っている
  • アウトプットのイメージ
    • 書類選考や面接などの選考過程に、法務が積極的に関わっている状態。
  • 補足
    • スキルセットに関して、期待するレベルを下回っている、またはオーバースペックであるといった観点でのミスマッチは、もちろん法務の専門的知識がないと判断しがたい面があるため、現段階でも採用過程に法務のマネージャー等が関わっているケースは多いのではないかと思われます。
    • 一方で、チームとして働くことを考えると、少なくとも現状の法務のメンバー、ひいては事業部門など法務以外のメンバーとも良い関係を築きながら業務遂行できるかが選考上、重要なポイントになります。
    • 前述した「法務部門が求める人材要件」がその第一の判断軸になりますが、可能であれば選考過程で、メンバーとのカジュアル面談を挟むなどして、長く一緒に働いていけるかを確かめてみるのも良いでしょう。
「従業員エンゲージメント」の重要性

従業員と企業の相互理解や適合度合いを測定する指標として「従業員エンゲージメント」という指標が注目されています。こちらの調査では、お互いに感じる「ミスマッチ感」が少なく、従業員エンゲージメントが高い企業では労働生産性や営業利益率も高いという結果が出ており、ミスマッチを回避することの重要性が示唆されています。

そして、このミスマッチの回避は、採用ステップから始まっています。

法務部門独自の教育プログラムを準備し、OJT以外の教育・研修の機会を提供している
  • アウトプットのイメージ
    • 外部セミナーや研修、社内勉強会など、法的(またはそれ以外の領域の)知識やスキルの成長機会を十分に提供している状態。
  • 補足
    • 現代は、企業が「社員にどれだけの価値を注ぎ込むことができるか」の時代になっていると表現されることがあります(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部『ハーバード・ビジネス・レビュー HR論文ベスト11 人材育成・人事の教科書』(ダイヤモンド社、2020年)第1章「最高の職場」をつくる6つの原則)。この観点からすると、現代においては、企業が教育の機会を提供することは必須となってきています。
    • 法務は、その職務の特性上、法改正を含めて一定の座学が前提となる一方で、業務遂行自体においてはOJTに頼る傾向がありました。言い換えると、体系的な知識の習得はいわば本人の努力に委ねられる傾向が強かったと表現できます。もちろん全てについて企業が面倒を見るということは中々難しいですが、自社の法務(担当)として最低限押さえておいてほしい知識やスキルを伸ばすための一連のウェビナーなど、パッケージが用意できることが望ましいでしょう。
    • 例えば、経験が少ないメンバーに対しては、まず基礎を固めます。契約書の読み方や民法や会社法など基本的な法令の知識、更にリサーチ方法に関する教育を行うと良いでしょう。少しレベルが上がってくれば、下請法や特商法などの個別の法規についての体系的理解、また英文契約にも成長の機会を見出せそうです。
キャリアパスのステージ毎に必要とされるスキル・経験・教育等を明示し、 期初に育成・充員目的のローテ計画を策定し実行している
  • アウトプットのイメージ
    • 必要となるスキルマップを作成し、これが各メンバーの目標設定やキャリアパスの設計の前提となっている状態。
  • 補足
    • ここでいうスキルマップは、企業で定められている各職務等級の要件を前提としつつ、これを法務業務に照らしてより詳細に落とし込むイメージで考えると良いでしょう。
    • 具体的には、業務上理解が必要な法規に関する知識の習得状況や交渉・プロジェクトマネジメントスキルといった項目について、「理解している」、「指導を受けながらできる」、「一人でできる」、「指導できる」といった3-5段階程度の判断基準を設け、それぞれの等級で求めるレベルを定めるのが良いでしょう。
    • なお、「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」(以下、「在り方報告書」)によれば、法務においては、法的な知識を深く極めたエキスパート人材となるだけでなく、経営人材や事業部門の人材として活躍する可能性もあるとされています。このため、可能であれば、あり得るキャリアパスを複数示した上で、それぞれに求める項目と水準が示せると望ましいでしょう。
個人別にスキルマップを作成し、上司・部下間で、保有するスキル・経験等について定期的に確認・フィードバックを行っている
  • アウトプットのイメージ
    • 各メンバーごとにスキルマップが作成されており、これに基づき期初に目標が設定され、半期(または四半期)ごとに振り返りが行われている状態。
  • 補足
    • この取り組みをによって、前述したキャリアパスの各ステージにおいて必要となるスキルセットと現状の各メンバーのスキルマップとの差分を確認し、何が足りないのか、何ができるようになれば次のステップに進めるようになるのかを明確に示すことができます。
    • これは、目標達成を目指す各メンバーにおいて、取り組む対象が明確になる点で当該メンバーに有用なことはもちろんのこと、これをコミュニケーションのきっかけにするマネージャーの観点からしても、非常に有用なツールになるでしょう。
意図的に育てることの重要性

南 和気『人事こそ最強の経営戦略』(かんき出版、2018年)では、特に経営を担うリーダー人材に関しては、従来のように育つのを待つという形式では、「事業戦略に合わせてその戦略実行に必要な若手リーダー人材を選抜して育成する、といったことができ」ないため、「若いころから様々な経験を意図的にさせて、育成や人材配置を行わなくてはな」らないとの指摘があります。

こちらの書籍では、グローバル人材の育成を指向することが前提となっていますが、経験や教育の機会の提供に企業側の責任があるとされる現代においては、法務人材を「経営法務人材」にするために欠かすことのできない視点と思われます。

法務部門における人事評価基準を明確化し、客観的指標に基づき、適正・公平な評価を行っている
  • アウトプットのイメージ
    • 評価対象が明確にされた上で、定量的な評価と定性的な評価のバランス、更にそれぞれの評価項目が明確化されて、評価を行っている状態。
  • 補足
    • まず、ある程度組織化されてきた企業においては、基本的に期初に立てた目標に対する達成度を主な評価対象とすることになります。このため、基本的に評価対象とその評価基準は、目標設定の時点で確定している必要があります。
    • この点で最もわかりやすいのは、目標設定した項目について、100%達成と言える基準、75%達成と言える基準、50%達成と言える基準を、目標設定の時点で言語化しておき、期末にその時点の状況と照らし合わせて評価を決める形式です。
    • ここで注意しておくべきは、企業活動においてつきものの「事情の変更」をどのように加味するかを予め決めておくことです。事情が変わったことが認識されたら、都度メンバーと1on1をして、期中に目標の再設定を行うことが望ましいです。ただ時期的にこれが困難であった時のことも考え、最初から全体の3割程度は、弾力的評価が可能な定性的評価の項目として持っておくのも一案でしょう。

レベル3:より高度な人材戦略を計画し、実行する

概要

レベル3では、法務の人材の多様性に着目し、カルチャーフィットしていれば、ある程度どのようなスキル・経験・モチベーションを持っているメンバーであっても活躍ができるような仕組みを作るフェーズです。ここまでくると、会社単位での高度な戦略構築が必要となるため、同社における法務のプレゼンスも重要な要素となるでしょう。

レベル3の構成要素とそのチェックポイント

(各項目をクリックまたはタップすることで、詳細な情報が表示されます。)

法務部門における中長期の人材戦略・充員計画を策定し、運用している
  • アウトプットのイメージ
    • 企業の中期経営計画から逆算し、これに連動させた人材戦略・計画が存在する状態。
  • 補足
    • CORE8の「戦略」のレベル1「目標達成に向けた活動計画 (短期~中長期)を策定している」において、目標達成に向けた活動計画を中長期についても策定しているため、これと人材戦略や充員計画を連動させるイメージで検討すると良いでしょう。
    • もっとも向こう数年のレベルであっても、不確実性が高い現下の状況においては、それほど精緻な計画を設計することに必ずしも大きな意味があるわけではありません。むしろ常に変容する可能性を秘めた企業の事業計画を追いかけ、これに法務も連動するという連動性そのものが重要と思われます。
年齢・性別・国籍等の分布に配慮し、 多様性のある組織を構成している
  • アウトプットのイメージ
    • 企業の事業拡大に対応できる多様性を内包した組織構成を実現している状態。
  • 補足
    • いわゆる「ダイバーシティ」については、経産省からも「ダイバーシティ2.0 行動ガイドライン」が示され、多くの企業において人材戦略で取り組むべき課題の一つとなっています。ここでは主に属性レベルでのダイバーシティである「デモグラフィックダイバーシティ」への対応を想定しています。
    • 主に上場企業を中心に2023年3月期決算から義務化された「人的資本の情報開示」においても比較的開示しやすい項目の一つとして上げられることもあり、法務に限らず全社的に取り組む必要性が高まっています。
    • もっとも、無闇に多様性を謳った採用を行うことで、組織の統率を崩す可能性もあることから、あくまで経営戦略と連動する限りで多様性を確保するのが現実的な対応になると思われます。例えば、グローバル展開する企業が、各リージョンの実務の担当を、現地国籍を保有するメンバーに任せる、といったことが考えられるでしょう。
法務専門分野以外の知識やスキル習得を教育プログラムに含めている
  • アウトプットのイメージ
    • 法務以外の領域に関するセミナーや教育を受けるためのプログラムが存在する状態。
  • 補足
    • 実際にどのような知識やスキル習得が有用なのかについては、絶対的な正解はありませんが、ある程度法的な知識を習得したメンバーには、「在り方報告書」を参考にすると「経営法務人材」となるために、 税務・会計やITに関する知識、プロジェクトマネジメントや交渉といったスキル、さらには英語・中国語といった語学スキルなども対象になるでしょう。
法務に特化した報酬体系を整備し、優秀人材を、通常採用とは別枠組みで、柔軟、機動的に確保することを可能にしている
  • アウトプットのイメージ
    • 法務(または専門職)に特化した職務等級が別枠で設定され、これに連動した給与・報酬体系が存在する状態。
  • 補足
    • 全レベルを通して最も難しい項目はこれかもしれません。直近では弁護士資格を保有しつつも企業内で働く、インハウスローヤーが増えている一方で、こうした高度に専門的な人材を想定した報酬体系の整備は必ずしも進んでいません。極端な例でいえば、大手法律事務所や外資系法律事務所の報酬体系に合わせようとすると、ほぼ全ての企業で他の従業員と金額的な公平性は保てなくなります。これは法務に限らず各種専門職においても起こりうることであり、会社の制度の整備が必要になります。
    • もっとも、これでは一部の優秀な人材にいつまでも企業はアクセスできないことになります。こうした事態を避けるため、現実的には副業での関与を許容した形の別枠での給与設計をすることが考えられるでしょう。
適切なインセンティブを付与する等、 モチベーションを維持するための施策を講じている
  • アウトプットのイメージ
    • 評価が高い優秀なメンバーやモチベーションの高いメンバーに、給与・報酬面や業務経験面でのインセンティブを設けた状態。
  • 補足
    • 法務業務をはじめとする管理部門の業務は、契約業務や相談対応などルーティン業務が占める割合が大きくなりがちです。このため優秀なメンバーが長く同じ会社で成果を発揮できるように促すには、適切なインセンティブ設計が不可欠になります。
    • 最もわかりやすいインセンティブとしては、賞与設計に柔軟性を持たせ、優秀で成果を残している人材には、さらに大きく金銭的な評価を行うことが考えられます。ただ、優秀層のモチベーションは金銭面よりも達成感や承認の実感から生じる傾向が強いと言われることもあり、早期昇進の制度で権限を与えたり、より多様な経験が積めるようにチャレンジングな業務に関わる機会を与える方が有用かもしれません。
法務部門以外への異動を含む複線的なキャリアパスを準備している
  • アウトプットのイメージ
    • 希望するメンバーには法務以外のチームへの異動が可能となる仕組みが構築されている状態。
  • 補足
    • 「在り方報告書」にも「必ずしも「法務機能の担い手=法務部門プロパーの職員」ではないことを念頭において考える必要がある」との言及があるように、法務の素養を備えたメンバーが各事業部門に存在する状況は、企業の「法務リテラシー」の向上に寄与するものとして、望ましい形の一つです。
    • 一方で法務から事業部門に異動し「腰掛け」として関わってしまうと、組織の生産性を下げる可能性もあります。場当たり的な措置ではなく、中期的なキャリア・デベロップメント・プラン(CDP)の中の一行程に組み込み、当人の高いモチベーションの中で実行に移す必要があります。
個人の保有スキルや経験等を一元網羅的にデータベース等で管理し、活用している
  • アウトプットのイメージ
    • システムを導入するなどし、タレントマネジメントを実践している状態。
  • 補足
    • タレントマネジメントは、マッキンゼーが1997年に提唱した「ウォー・フォー・タレント」(人材育成競争)という言葉を起源とした概念です。当時ここでいう「タレント」はマネージャーなど一部の職責のメンバーを想定したもので、優秀な人材こそが企業の成長に寄与するとされていました。しかし、この定義については、幾度となく議論が繰り返され、現在では「タレント」は、組織に所属する全ての人材を指すように変容してきました。
    • 現代のタレントマネジメントも、個々のスキルや経験を把握することを前提としますが、それ自体が目的ではなく、特定の職務(キーポジション)に必要な経験やスキルを定め、ここに適合する人材を迅速に配置するための手段として考えられています。
    • 例えば、法務で言えば、各チームを実務的観点からまとめ上げる「チームリーダーがキーポジションである」と定義した場合、このチームリーダに必要なスキルや経験を予め定めておきます。その後、仮に一人のチームリーダーが欠けた場合に、このスキルセットを満たす(あと少しで満たす)社内の人材がいるかを判断し、客観的に後継を探すことができるということになります。

まとめ

この記事のまとめ
  • 「日本版リーガルオペレーションズ」で「人材」が一要素をなす理由
    • マクロでの人口減少に加え、法務人材の流動性の高まりから、企業にとっては、どれだけ早く各メンバーが最大限のポテンシャルを発揮するようになり、またその状態で長く働いてもらえるかが、重要であるから。
  • 「人材」の各レベルで必要となる要素
    • レベル1
      • 新卒採用、 中途採用、 異動等を通じて、 業務遂行に必要な法務人材を確保している
      • 業務遂行に必要な教育・研修を行っている
    • レベル2
      • 法務部門の求める人材要件を明確化している
      • 採用過程に法務部門の関与があり、 適性の見極めやミスマッチ予防を行っている
      • 法務部門独自の教育プログラムを準備し、OJT以外の教育・研修の機会を提供している
      • キャリアパスのステージ毎に必要とされるスキル・経験・教育等を明示し、 期初に育成・充員目的のローテ計画を策定し実行している
      • 個人別にスキルマップを作成し、上司・部下間で、保有するスキル・経験等について定期的に確認・フィードバックを行っている
      • 法務部門における人事評価基準を明確化し、客観的指標に基づき、適正・公平な評価を行っている
    • レベル3
      • 法務部門における中長期の人材戦略・充員計画を策定し、運用している
      • 年齢・性別・国籍等の分布に配慮し、 多様性のある組織を構成している
      • 法務専門分野以外の知識やスキル習得を教育プログラムに含めている
      • 法務に特化した報酬体系を整備し、優秀人材を、通常採用とは別枠組みで、柔軟、機動的に確保することを可能にしている
      • 適切なインセンティブを付与する等、 モチベーションを維持するための施策を講じている
      • 法務部門以外への異動を含む複線的なキャリアパスを準備している
      • 個人の保有スキルや経験等を一元網羅的にデータベース等で管理し、活用している
本記事の著者情報

山下 俊(やました しゅん)

2014年、中央大学法科大学院を修了。日系メーカーにて企業法務業務全般(主に「一人法務」)及び新規事業開発に従事しつつ、クラウドサインやHubbleを導入し、契約業務の効率化を実現。
2020年1月にHubble社に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2021年6月からLegal Ops Labの編集担当兼務。2023年6月より執行役員CCO。近著に『Legal Operationsの実践』(商事法務)がある。

リーガルオペレーションズの他のCOREなどについての解説はこちら!

人材確保のポイントを徹底深掘りするウェビナー

(Hubble社のWEBサイトに遷移します)

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