外部弁護士も含めて1つのチームに!リーガルオペレーションズ実践マニュアル③外部リソース活用編

この記事でわかること
  • 「日本版リーガルオペレーションズ」で「外部リソース活用」が一要素をなす理由
  • 「外部リソース活用」の各レベルで必要となる要素
目次

はじめに

本企画では、日本版リーガルオペレーションズ研究会(以下、研究会)の発表したドキュメントをベースとしながら、日本版リーガルオペレーションズの8つのCOREそれぞれについて、レベル別に何をどこまでできていれば良いのか、具体例を交えつつご紹介します。

今回は、「外部リソース活用」に関してまとめていきます。

日本版リーガルオペレーションズのCORE8

概要-なぜ外部リソース活用が必要なのか-

定義と目的

企業法務にとってのメジャーな外部リソースといえば、いわゆる外部弁護士で、これはインハウスローヤーの人数が増えた現在も変わりません(※)。ただ、CORE8によれば、外部リソースには「外部弁護士のみならずリーガルテックベンダーなども含まれる」とされています。

※例えば、米田憲市編、経営法友会 法務部門実態調査委員会著『会社法務部〔第12次〕実態調査の分析報告』(商事法務、2022年)P263によれば、2020年時点の調査で、およそ80%の企業が法律事務所と顧問契約を締結していると回答しており、これは、2015年実施の同様の調査よりも数ポイント増加している。

事業の国際化や外部環境の複雑化、さらには「攻めの法務」という言葉に代表されるように、ビジネスの深い理解と積極的な関与をも求められる企業法務においては、限られた社内リソースに加えて、いかに社外のリソースを有効活用するかが言うまでもなく重要です。

米国における外部リソース活用の考え方
Legal Operationsの「CORE12」(https://cloc.org/what-is-legal-operations/より引用)

米国のCLOC(The Corporate Legal Operations Consortium)が定めるリーガルオペレーションズの「CORE 12」では、”Firm & Vendor Management”の項目が、いわゆる外部リソース活用に相当します。

これ以降で説明する日本版の内容と大きく齟齬はありませんが、RFP(Request for Proposal、提案要求書)の提出を推奨するなど、より依頼(委託)内容の明確化とこれに紐づくコストコントロールが強調されています。弁護士のフィーの金額感がやや異なりはするものの、日本の実務においても大いに参考になります。

Desired state: Create, sustain, and strengthen firm and vendor relationships that support your business needs. Bring in talent and expertise that complements your own capabilities. Define flexible, fair terms that improve transparency and reward value and innovation.
(望ましい姿:ビジネスからの要請を支援する法律事務所やベンダーとの関係性を創出し、維持継続し、また強化すること。(自社の組織の)能力を補完する人材や専門知識を取り入れること。そして、透明性を向上し、価値とイノベーションに見合う成果を出す、柔軟で公正な契約条件を定めること。)

「What is Legal Operations?」(https://cloc.org/what-is-legal-operations/)より引用。日本語訳はLOLにて追記。

加えて、外部リソースの活用を前提とした場合、社内法務は何をするべきか、どういった価値を発揮すべきかという観点も自ずと定義する必要性が出てきます。社内・社外の法務や弁護士がそれぞれ発揮するべき価値については、組織の戦略にも結びつく重要な論点となります。

さて、ここからは、各レベルの構成要素について簡単に何をすべきか、またその際に注意すべきポイントは何かを、LOL独自の視点からご紹介していきます。

テクノロジー活用の全体像(「日本版Legal Operations CORE 8 EVENT Report」より引用)

レベル1:現状を把握し、情報を集める

概要

レベル1は、まず自社の外部弁護士との関わり方の現状を把握し、改善できる課題を抽出し、これを解決するための情報収集をするフェースです。

規模の大小関わらず、これまでに外部弁護士の起用実績が全くないという企業はほとんどないと思われますので、まずはこれまでどういった法律事務所や弁護士と関係があったのか、その紐解きから始めていきます。

レベル1の構成要素とそのチェックポイント

(各項目をクリックまたはタップすることで、詳細な情報が表示されます。)

法務部門が弁護士起用事実を把握・何らかのコントロールをしている
  • アウトプットのイメージ
    • 以下の情報について、法務組織として認識している状態。
      • 依頼している(した実績がある)事務所名
      • 担当弁護士
      • 当該事務所や弁護士の得意分野
      • 契約の内容(稼働時間やフィー)
      • 主な特徴(レスが早い、紹介元の情報など)
  • 補足
    • 今どの事務所や弁護士と顧問契約や法務受託の契約があり、また過去依頼した実績があるのかという情報は、意外にも属人化する傾向があり、特に途中加入の方は、契約書を見つけたり、請求書をが送られてきて初めて存在に気づくというケースも多いと思われます。これを組織として認識し、場合によっては一覧化して可視化するのが最初のステップです。
    • 加えて子会社が存在する場合には、各社についても同様に、可能な限り上記の情報について把握できると良いでしょう。
外部弁護士に依頼する業務範囲・案件を明らかにしている
  • アウトプットのイメージ
    • 以下の一つまたは複数の項目について、外部弁護士を起用する可能性のある領域を特定した状態。
      • 単発案件に伴う業務の委託:M&Aに伴うデューデリジェンス、訴訟etc
      • 特定の領域に関する専門的調査等の委託:金融、知財、個人情報保護、輸出管理、外国法規etc
      • 日常的な業務のアウトソース:契約審査や法律相談の対応、法的判断に関する壁打ち
  • 補足
    • 特定の領域に関する調査を委託する場合には、具体的にどういったスコープについて、何を依頼したいのか(場合によってはどういった意図のもと依頼しているのか)を明確にする必要があります。
      • 依頼文例①:自社の行為の違法性を排除するためのポイントを求める場合
        「以下の事案について、このままでは当社の行為が、〇〇法第n条の「YYYY」という部分に抵触する恐れがあるとの所見を持ちました。まず同行為の適法性について、先生の率直な所見をお聞かせください。また、以後の当社の行為が法律違反とならないように注意すべきポイントをご教示頂けますと幸いです。加えて、同様の行為について争われた裁判例がございましたら2、3件ご教示頂けますと幸いです。事案は以下の通りです。(以下略)」
      • 依頼文例②:新規事業の法令違反の可能性について、フラットにディスカッションを求める場合
        「「BBB」という新規事業を検討しているのですが、〇〇法第n条、第m条との関連で問題となりうる可能性があると考えており、ここについて問題点を整理したく、まずは1時間程度ディスカッションさせて頂きたく存じます。なお当該新規事業の概要は、添付資料にございますので、一度ご覧頂きたく存じます。日程候補は…(以下略)」
外部弁護士の候補に関する情報を収集している
  • アウトプットのイメージ
    • 以下のソースを中心に情報を収集している状態。
      • Googleなどの検索エンジンでの検索
      • 外部セミナー、ブログ、SNSからの情報収集
      • 周囲の企業が起用している弁護士や法律事務所の情報(口コミ)
  • 補足
    • 前述の外部弁護士に委託する業務範囲の全体像がはっきりすると、これと自社の現状を見比べることで、現状と強化すべき領域とのギャップが見えてきます。このギャップを埋められる外部弁護士の情報を収集できると良いでしょう。
    • 更にプラスアルファですが、数年後も見越しつつ、案件化しそうな特定領域(IPOやM&Aなど)も含めて、依頼できそうな弁護士や事務所についても情報収集を進め、可能であれば関係を少しずつ構築できると良いでしょう。
業務範囲・案件ごとの外部弁護士の候補をリスト化している
  • アウトプットのイメージ
    • 以下の項目について一覧(以下、候補弁護士リスト)を作成している状態
      • 依頼している(した実績がある)事務所名
      • 担当弁護士
      • 得意分野(≒起用可能性のある領域・分野)
      • (実績がある方のみ)契約の内容(稼働時間やフィー)
      • (実績がある方のみ)主な特徴(レスが早い、紹介もとなどあれば
  • 補足
    • この候補弁護士リストができることで、自社の「専門家チーム」プールができるイメージです。依頼内容によっては、弁護士だけではなく、司法書士や行政書士が入ってくる場合もあるでしょう。
    • なお、この候補弁護士リスト(エクセル版)のサンプルイメージは、以下のリンクからご覧いただくことが可能です。

レベル2:外部弁護士の起用責任を、法務組織に集中させる

概要

レベル2では、レベル1で作成した候補弁護士リストにリストアップした法律事務所や弁護士を実際に起用し、その結果に基づいて定期的に評価を加えます。少なくとも外部リソースのうち、外部弁護士の起用については法務組織が責任を持つ体制になっている状態です。

特に法務機能が確立されていないベンチャー・スタートアップ企業においては、少しハードルが高いアクションになるかもしれませんが、専任担当が入り次第、着手できると良いでしょう。

レベル2の構成要素とそのチェックポイント

(各項目をクリックまたはタップすることで、詳細な情報が表示されます。)

外部弁護士の選定の決定権をもっている
  • アウトプットのイメージ
    • 承認(決裁)規程に、外部弁護士の選定は法務組織が行う旨が、定められている状態。または規程化せずとも、そのポリシーが社内に浸透している状態。
  • 補足
    • 外部弁護士を起用する場面や発生するコストをコントロールするには、一元管理が望ましく(具体的案件の説明を除き)事業部門が窓口となることは最終的には避けた方がベターとされています(中村 豊・淵邊 善彦著『強い企業法務部門のつくり方』(商事法務、2020年)P31など)。
    • 企業によっては「社長が信頼する弁護士」の起用を薦められることもあるでしょう。もちろん関係上、無下にはできないですが、当該弁護士が自社にとって最良の選択肢であるのかしっかりと見極める必要があります。必要な場合には当該弁護士以外のセカンドオピニオンをとっておくなど、法務としてのリスクマネジメント能力が試される場面でもあります。
外部弁護士を適正に選定している
  • アウトプットのイメージ
    • レベル1で作成した候補弁護士リストに基づいて、適切な弁護士を選定している状態。
  • 補足
    • 初回の依頼となる場合は、従来の実績がないため、収集した情報ベースでの選定とならざるを得ません。一方で、再度の起用となる場合や顧問契約の締結を前提とする場合には、実績、スピード、ビジネス理解度、専門性、テクノロジー活用への障壁がないかなど、自社にとって重視するポイントに基づき、選定することになります。
外部弁護士に対する評価基準 ・ 起用ポリシー ・ Engagement Letterが具体的に示されている
  • アウトプットのイメージ
    • 弁護士への依頼時に、事前に作業見積もりを取得した上で、以下を明示した書面や文面を用意することが実践されている状態。
      • 具体的に依頼する内容とスコープ
      • 委託する期間
      • 委託する内容に応じて不測の事象が発生した場合の処理方法
    • 以下の項目を中心とした外部弁護士の各案件のアウトプットに対する評価基準を社内で用意している状態
      • 依頼内容に対するアウトプットの精度(専門性とビジネス理解の観点)
      • 対応スピード
      • 以上を前提とした総合評価(ABC評価や5段階評価など)
  • 補足
    • 特に特に海外の法律事務所へ依頼する場合やタイムチャージの場合には、委託内容やこれに関わる弁護士の人数などを把握していないことで、想定外のコストがかかる場合もあるため、このプロセスの履践は非常に重要となります。
    • もっとも、重要な案件で、調査や検討の精度を担保する観点では、一定のコストは当然必要になってきます。過度にディスカウントの要請をすることを想定するものではないことに注意が必要です。
上記評価基準・ポリシー等に基づき、外部弁護士を適正に評価し、記録している
  • アウトプットのイメージ
    • 以下のような手順で、法務組織が外部弁護士の評価を実践している状態。
      • 案件がクローズしたタイミングで、案件(依頼事項)の記録を実施する
      • その上で、四半期〜通期など定期的に、総合的な外部弁護士の評価を行う
      • 組織内で評価の機会を設け、継続起用に値するのかを検討する
  • 補足
    • 案件の記録はメールに残っていることが多いため、特にシステムなどを活用しない場合には、Microsoft Excelなどに窓口となった法務担当が記録していく形が想定されます(上記のサンプルのExcelシートにも、テンプレートが入っていますので是非、ご参照ください)。
    • 本プロセスでは、起用した弁護士をはじめとする外部専門家の評価を中心としていますが、実際に外部リソースを活用しての案件の成功・失敗は、依頼側のディレクション(見積もりの甘さ、委託内容の不明確さ、稚拙なスケジュール管理、アウトプット内容への不十分なフィードバックなど)に左右される要素も大きいです。このため、本プロセスでは、表裏の関係で、自社の選定基準や実際の案件に関するディレクションに改善点がなかったかもチェックをすると良いでしょう。

レベル3:テクノロジーも含めて継続的な評価と見直しを実施

概要

レベル3は、外部弁護士との適正な関係性構築と外部弁護士以外のアウトソース先が活用されている段階とされ、「理想像」とも形容されています。

レベル3の構成要素とそのチェックポイント

(各項目をクリックまたはタップすることで、詳細な情報が表示されます。)

レベル2の外部弁護士の記録をデータベース化して活用している
  • アウトプットイメージ
    • レベル2で作成した評価記録をベースとして、レベル1で作成した候補弁護士リストを定期的に更新・運用している状態
  • 補足
    • 2023年現在の日本においては独自のシステムを構築できる企業は少数派と思われ、基本的にはMicrosoft ExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算アプリケーションを用いてデータベース化していくことが主流と思われます。
レベル2の評価結果をふまえ、 外部弁護士候補を見直し、必要に応じて、 新しい外部弁護士の候補の情報収集、 ネットワークづくりを行っている
  • アウトプットのイメージ
    • 法務組織で実施した評価に基づき、レベル1で実施した情報収集を継続して行い、レベル2で実施した外部弁護士の選定(見直し)プロセスを継続的に実施している状態。
  • 補足
    • 自社の法務組織の状態とも照らし合わせる必要があることはいうまでもありません。例えばルーティン業務をこなせる人数が増えてきた場合に、これを外部リソースに委託している場合には、社内でより機動的に処理できる可能性を加味し、社内業務に戻してくるという可能性もあるでしょう。
外部弁護士のみならず、 新規分野の外部ベンダーのリスト、評価基準を作成し、運用している

こちらについては、以下の記事で特集しているので、割愛しますが、「テクノロジー活用」の文脈でレベル1〜3をしっかりと達成することができれば、本項目も十分満たしていると言えるでしょう。

まとめ

この記事のまとめ
  • 「日本版リーガルオペレーションズ」で「外部リソース活用」が一要素をなす理由
    • 業務範囲の拡大と業務内容の複雑化に、限られたリソースで対応する手段として、テクノロジーの活用が重要となるため
  • 「外部リソース活用」の各レベルで必要となる要素
    • レベル1
      • 法務部門が弁護士起用事実を把握・何らかのコントロールをしている
      • 外部弁護士に依頼する業務範囲・案件を明らかにしている
      • 外部弁護士の候補に関する情報を収集している
      • 業務範囲・案件ごとの外部弁護士の候補をリスト化している
    • レベル2
      • 外部弁護士の選定の決定権をもっている
      • 外部弁護士を適正に選定している
      • 外部弁護士に対する評価基準 ・ 起用ポリシー ・ Engagement Letterが具体的に示されている
      • 上記評価基準・ポリシー等に基づき、外部弁護士を適正に評価し、記録している
    • レベル3
      • レベル2の外部弁護士の記録をデータベース化して活用している
      • レベル2の評価結果をふまえ、 外部弁護士候補を見直し、必要に応じて、 新しい外 部弁護士の候補の情報収集、 ネットワークづくりを行っている
      • 外部弁護士のみならず、 新規分野の外部ベンダーのリスト、評価基準を作成し、運 用している
本記事の著者情報

山下 俊(やました しゅん)

2014年、中央大学法科大学院を修了。日系メーカーにて企業法務業務全般(主に「一人法務」)及び新規事業開発に従事しつつ、クラウドサインやHubbleを導入し、契約業務の効率化を実現。
2020年1月にHubble社に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2021年6月からLegal Ops Labの編集担当兼務。2023年6月より執行役員CCO。近著に『Legal Operationsの実践』(商事法務)がある。

リーガルオペレーションズの他のCOREなどについての解説はこちら!

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