若手法務パーソン必見!未経験からでも大企業の法務部で成果を出す具体的アクション5選

この記事でわかること
  • 大企業の法務部で成果を出すための具体的なアクション5選
目次

はじめに

みなさん、こんにちは。

今回は、数千名規模の日系グローバルメーカーにて新卒から法務を経験した筆者が、「法務未経験者が大企業法務部で成果を出すための具体的なアクション5選」をご紹介します。 いずれも、筆者の実経験にもとづいたリアルかつ実践的な内容となっていますので、参考になった部分は、ぜひ皆様の業務に取り入れてみてください!

1. 法務実務に必要な知識・法的思考力を身につける

企業法務では、当然ながら法務実務に関する知識と、それを運用するための法的思考力が求められます。後述する事業理解と両輪をなす企業法務の基本スキルといえます。

自社の人事戦略や法務戦略によっては、必ずしも法的バックグラウンドがない方が法務部に配属されるケースもあります。仮に法的バックグラウンドがあったとしても、企業によっては企業法務で求められるものに大きなギャップが有ることもあります。

そこで、法務の基礎体力とも言える部分をゼロから鍛えるにはどうすればよいのか?法的バックグラウンドが全くない状態でも始められる手順をご紹介します。

座学を通じて、体系的知識を習得する(配属初日〜)

まずは初学者向けの書籍を読み、外部セミナーに参加することで法律や契約実務に対する解像度を上げることから始めます。加えて学習したテーマに応じて部門内で勉強会を開催し、議論を繰り返すことで効率よくインプットできるようになります。

具体的な書籍については、まず直接上司や先輩におすすめの本を聞いてみましょう。その会社のビジネスに関連する領域を中心に効率よく学習できますし、実際の事例に当てはめたときの話を聞くことができたり、難解な箇所を直接質問して解決できるメリットがあります。 上司や先輩から指定された初学者向けの書籍は、実務が忙しくなり始める前、例えば配属後半年以内にはすべて読み終えておくことが望ましいです。

併せて、法務メディアや個人ブログ・SNSも有用です。これらの媒体は書籍に比べると理論よりも実践的な内容が多く、日々の業務に活かしやすいため、書籍である程度体系的な知識がついてきたら、積極的にチェックすることをおすすめします。 なお、法務界隈で著名な方はXで情報発信されるケースが多く、交流も可能ですので、恐れず参加してみると良いでしょう。

検定試験を受ける(配属後1年〜2年目)

企業法務領域では「ビジネス実務法務検定」という検定試験があり、学習の過程で幅広く企業活動に関する法律が学べます。試験合格を目標にして、短期集中で学習することで、学習効率も高いです。

なお、受験の際には、あらかじめ部内で受験する旨の宣言をすることをおすすめします。「落ちるわけにはいかない」という良い意味でのプレッシャーをかけることでモチベーションを高く保てますし、補助制度を有する大企業も多く存在するので、経済的にもメリットがあります。

何級から受け始めるのが良いのか?

ビジネス実務法務検定には、易しい順に3級、2級、1級がありますが、法務の初学者には「2級」がおすすめです。

その理由は、3級は社会常識的な側面が強く、非常に易しい一方で、1級は論述形式で題材も高度になり、初学者には難しすぎるためです。 筆者自身も法務2年目にさしかかるタイミングで2級を取得しましたが、学習には3ヶ月ほどを要しました。余裕を持った受験スケジュールとするとよいでしょう。

アウトプットのクオリティを上げる(配属半年〜配属3年目)

契約レビューや法務相談へのメール回答などのアウトプットを上司にチェックしてもらいつつ、実務の勘所を学ぶフェーズです。メールのccで流れてくる上司や先輩の回答内容も全てチェックするようにし、自分のアウトプットに取り入れるようなサイクルを回します。 その中で特に重要なのは、以下の要素です。

事実を正確に把握・記述する

多くの場合、法務への相談の際には事実と意見が混ざっていたり、重要な事実が含まれていなかったりします。事業部門の方を信頼する姿勢は持つ一方で、発言を鵜呑みにすることはせず、常に「本当に事実はメールに記載の通りなのか?」と疑い、必要に応じて確認することも重要です。

自分の意見・スタンスを表明したうえで、具体的なアクションを事業部門に提示する

上記で事実が整理された後は、それに対する法律・判例等の当てはめおよびリーガルリスクの抽出・評価をします。その際、一般論的なリーガルリスクを伝達するのみでは事業部門側も次のアクションが分からないため、自社としてそのリスクを許容してでも進めるべきか、保守的に進めるべきか等を示すことが重要です。もちろん、これには後述する事業理解が一定のレベルにあることが前提です。目安として、法務3年目くらいのタイミングまでには、ここまでのアウトプットを自力で出せることが望ましいでしょう。

法務以外の職種に関する知識もインプットする(配属3年目以降)

一定の規模以上の企業では、管理部門内で総務、法務、経理、財務、人事、労務、IR…といった職種が細分化される傾向にあります。その一方で、実務においてはリーガルマターど真ん中ではない案件や関連部署に判断を仰がないといけない案件が法務宛に来ることが多々あります。

その際には、適切な部署・担当者と連携をして解決に当たるようなスキルが求められます。ここで法務が関与できないと、あとでトラブルになった際に、かなり遅い段階で関連部署に共有がされ、もはや打つ手がない状態になってしまい、事業部門・関連部署双方に迷惑がかかってしまうこともあります。

特に国内外に子会社を抱えるような大企業であれば、「税務」は契約実務と絡むことが多く、優先的に学習する価値があります。筆者自身も、海外子会社との契約を見る機会が多かったのですが、移転価格税制の知識が必要な場面が頻繁にありました。国内子会社との取引においては、対価が妥当か?寄付金に該当しないか?といった視点で経理との連携が必要な場面にも多く遭遇しました。

他にも、業務委託契約のレビュー時に、偽装請負に該当しないかを労務と連携しながら確認したり、今進めている案件が適時開示を要するものかをIRと連携することもありました。全てを知っている必要まではありませんが、「当たり」をつけられる程度に学習しておくことが重要になります。

縦割り組織における責任分担の明確化

上述のように各部門が細分化されている企業においては、業務分掌が規程上明確に決まっており、最終的に判断する権限を持つ組織が明確になっていることがほとんどです。

そのため、法務的には積極的に問題の切り分けをすることは意識しつつ、責任分担を適切に行うという観点では、業務分掌範囲を飛び超えて「正式な回答」をしないように留意する必要があります。

2. 自社のビジネスを理解する

自社製品やサービスをよく理解する、とは?

法的な知識や思考力の次に重要なのは、自社の製品やサービスの特性、具体的には現在・過去において競争力のある点や市場から評価されている点、逆に製品自体や社内環境市場の変化がもたらすリスク、商慣習などをよく理解することです。そのためには、以下のようなアクションが有用です。

  • サービス・商品を、顧客の立場で実際に利用してみる。店舗やショールームがあれば実際に足を運んでみる。
  • 自分で体験することが難しい場合は、実際にどのような形でサービス・商品が提供・利用されているのかを事業部の担当者、または身近な利用者にヒアリングする。
  • メーカーであれば、製造拠点に訪問し製造工程の見学をする。
  • 製品の商流、主要な取引先および契約関係を図解する。

自社の製品やサービスの理解のメリット

こうした自社製品の理解によって、あらかじめ自社にとってのリスクを回避するような文言の条項を作成・提案したり、相手方との交渉が発生した場合にも現実的にこのラインであれば許容できる、といった妥当な落とし所を提案することが可能になります。

このように理解が進むと、事業部門とのコミュニケーションコストが大幅に低くなり、契約交渉〜ビジネス展開までのスピードが早くなることも望めます。 効率的に契約業務を進められ、また交渉の重要な局面で頼もしい存在であると認知されることで、事業部門との関係性も良好になり、場合によっては事業部門側も契約書を理解しようとするモチベーションが生まれることも期待できます。

反対に、契約書の文言だけをみてレビューしてしまうと、現場を無視した抽象的な法律の議論に終始して一向に契約書がまとまらない、自社として十分に許容できるリスクにもかかわらず過剰に反応してしまう、など現場の感覚との乖離が生じ、事業部門からの反発を受けてしまうことが想定されます。

現場に足を運ぶことの意義

筆者自身、実際に国内外のいくつかの拠点に訪問をさせてもらったことがあります。その際、実際に訪問しなければわからない、以下のような気付きを得ることができました。

  • 製品の検品の様子を見ることで、検査にかかる期間について相場感を持つことができた。
  • 海外子会社にて現地の担当者のコンプライアンスに関する理解度があまり高くなく本社からの要請に淡々と対応する印象が強かったことから、本社からは担当者へそもそもの意義を伝えることに注力し、そのための定期的なコンタクトを取る方針となった。

契約書や資料だけを見ていてもイメージすることは難しく、デスクワークばかりだと視野が狭くなりがちですので、忙しい中でも時間を作って現場に足を運ぶことをおすすめします。特に大企業では、各部署・子会社との距離が遠くなりがちで、これが様々な不正・法的リスクの見逃しといった実害に繋がりえます。実際に訪問をし、一緒に会食等をして距離を縮めることで、法務へ情報が集まりやすくなり、早期に問題のエスカレーションができる体制を整えることが可能になります。

具体的な体験談

実際に、製品やサービスを理解することでどのようなレビューが可能になるのかを、部材メーカーの法務だった筆者の体験からご紹介します。

  • 自社製品Aの欠陥により、(Aが組み込まれる)最終製品Bにどのような影響が及ぶか?システムや最終製品が停止するなど、重大な経済損失や人体への危害に直結するか?
  • その可能性がある場合、Bの供給メーカーとの契約において、自社が負う責任の範囲を限定的にするように交渉する必要がある。加えて、損害賠償の金額に上限(Aの対価の代金受領総額など)を設けることも検討する。
  • この場合において、Aが画期的な技術を用いており、市場全体で見ても極めて取引価値の高い製品であるなら、まずは最大限リスクを排除するよう強気の交渉が可能。

この例では、主に商品の特性や商流の位置、取引する商品自体の価値・希少性に着目しました。あくまで上記の思考プロセスは一例で、上記に加えて、相手方が、自社の主力製品のひとつである別の部材Xの大口顧客でもある場合には、その取引への影響を危惧してそこまで強気になれないという別の結論にもなるでしょう。それでもなお、過去の取引において相手方のAの保管状況が悪かったことが原因で不具合が生じた、といったトラブルがあった場合であれば、自社が改めて強気の交渉ができるかもしれません。

3. 得意分野を見つける

得意分野を見つけるメリット

前述の1と2を経て、ある程度法務の基礎が身についた後は、自分にとっての得意分野を見つけることをオススメします。

具体的には、個人情報保護法などの特定の法律分野に精通している、英語等の語学スキルが高く英文契約の交渉や海外子会社との円滑なコミュニケーションができる、社内の人間関係や製品の仕様・開発の歴史に詳しい、といったイメージです。

得意分野を見つけそれをアピールすることで、社内・部内ではその分野のエキスパートとして認知され、新しいプロジェクトや「面白い仕事」にアサインされやすくなることが考えられます。さらにこれらの結果として転職の際に経験をアピールできるなど、キャリアアップのチャンスが増えることが期待できます。

得意分野を見つける方法

とはいえ、現時点で特別なスキルがあるわけではないという場合に、具体的にどのようにすれば得意分野としてアピールすることができるのでしょうか?

最も確実かつ手っ取り早いのは、社内で誰も経験したことのない案件へ挑戦し、実績を作ることです。

企業活動の中では、常に新たな法令への対応や事業領域の拡大などの変化がつきもので、そうした局面では、前例のない新しい案件が生まれやすいものです。社内で経験値が横一線の状態であるならば、法務経験の浅いメンバーにもチャンスがあるため、積極的に手を上げてみましょう。

筆者自身も、以下のような機会を得て実績を作り、以降の類似案件でもアサインをされることで自らの専門性を高める結果につながったことがあります。

  • 個人情報保護法の改正をきっかけとしたプライバシーポリシーの改訂プロジェクトに挑戦
    • →以降、個人情報保護法関連の案件に多く携わる
  • 社内では初となるWebサービスの立ち上げプロジェクトに法務として参画
    • →利用規約やプライバシーポリシーの新規作成、契約スキームの構築、広告物のチェックを経験する

4. チームの生産性を上げるオペレーションを構築する

法務を取り巻く現状

図1:Hubble社主催ウェビナー「教えて、法務メディアの編集長!契約DX導入による課題解決の最新事例」の資料より抜粋

LOLの他の記事でも取り上げている通り、近年の企業法務パーソンは、日常のルーティン業務に忙殺されることが多く(図1参照)、これをなるべく効率的に遂行するためのオペレーション構築が重要になっています。

実際に、2020年時点で実施された調査によると、今後取り組む課題として、「法務業務の効率化・IT化」を上げる企業が50%近く、法務が10名以上属する大企業においては60%以上に上っており、企業法務における業務効率化のニーズが非常に高いことが窺われました(※)。

(※)米田憲市 編、経営法友会 法務部門実態調査委員会 著『会社法務部〔第12次〕実態調査の分析報告』(商事法務、2022年)P388-390。

オペレーション構築がおすすめの理由

オペレーションを構築すること自体に法務実務の経験年数・スキルはさほど影響しないと考えられるため、経験の浅いメンバーにとっては絶好の活躍の場といえます。ある程度実務に慣れ、非効率な業務の峻別ができるようになるであろう法務2年目くらいのタイミングでは、効率的な業務オペレーションの構築に着手してはいかがでしょうか。

オペレーション構築について、具体的には以下のような内容が考えられます。

CLMや電子契約ツールなど、リーガルテックの導入
ひな形のアップデート、または利用規約化の励行
条項集やプレイブックを作成・共有
採用時にツール導入の経験が評価される?!

周囲で法務の転職をされた方の体験談をお聞きすると、転職面接時にリーガルテックの導入・活用経験を問われることや、実際に求人票の要件にそれが含まれるケースが増えてきているようです。

ツール導入プロジェクトを完結できる人材であれば、部門を横断したプロジェクトマネジメント能力やコミュニケーション能力ある程度担保されているといえます。加えて、一定のITリテラシーを備えていることや業務効率化への意識、つまりチームへの貢献意識が高いというポジティブなパーソナリティも伝わることもプラスに働くのでしょう。

5. 職務経歴書を作成し、定期的に更新する

現時点で転職をする意思がなくとも、職務経歴書を作成することは定期的なスキルの棚卸しと中長期的なキャリア形成の観点から非常に有用です。

職務経歴書は通常、自身のことを全く知らない他人に届けるものであるため、自分の成果やスキルを、客観的にみて説得力のある内容で説明しなければならないという意識が働きます。

実際にアウトプットをすると、書けるネタがなければもっと行動量を増やす必要があるのでは、定量的な成果を示す必要があるのではないか、といった気付きがあり、日々の業務を見直す良いきっかけとなります。

ただし、仮に行動量を増やすとしても、それは会社が目指す方向と一致していることが大前提です。期初の目標設定の際に上司とすり合わせをするなどして、最終的には会社が求める法務の役割と自己の関心のあるキャリアの方向性をあわせていきましょう。もし、これらがどうしても合わないということであれば、その際は転職という選択肢も検討すべきでしょう。

法務における定量的な成果とは?

筆者は前職の法務時代に電子契約導入を推進したのですが、これも実は職務経歴書に書くネタが欲しくて始めたという側面があります。

電子契約の導入により全社的にどのくらいのコストが削減できるのかを具体的な金額を用いて試算し、この削減効果を個人の定量的な成果としてアピールできると考えたのです。

法務はコストセンターに分類されるため、会社の利益に貢献するとすれば、基本的にはコスト削減の方向性で考えるべきです。ルーティン業務があれば1件あたりにかかる時間からおおよそのコストは試算できるため、みなさんの日常業務の中でも定量的な成果を出すことができないか検討してみることをおすすめします。

まとめ

この記事のまとめ
  • 大企業の法務部で成果を出すための具体的なアクション5選
    • 法務実務に必要な知識・法的思考力を身につける
    • 自社のビジネスを理解する
    • 得意分野を見つける
    • チームの生産性を上げる
    • 職務経歴書を作成し、定期的に更新する
本記事の著者情報

佐藤 史弥(さとう ふみや)

日系グローバルメーカーの法務部門にて、法務業務全般に従事。従来の契約書の業務フローに疑問を抱き、自らDocuSignの全社導入PJを立ち上げ、全社的な業務効率化やリモートワークの推進を実現。その後、法務の働き方をもっとポジティブ・クリエイティブにしていきたいと考え、2022年にHubbleのカスタマーサクセスとして入社し現職。

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