現役ひとり法務の著者が伝授する、兼業法務で成果を出すための仕事術

この記事でわかること
  • 兼業法務のメリットとデメリット
  • 兼業法務として業務をうまく回すコツ
  • 更に法務として専門性を向上する方法
目次

はじめに

みなさん、こんにちは。

今回は、以前Legal Ops Labでもインタビューを掲載した飯田裕子氏が、特にこの春に新たに「兼業法務」になる皆様に向けて、「兼業法務ことはじめ」というテーマで寄稿して頂きました。

兼業法務のメリット・デメリット

兼業法務とは、他の職種を兼任しつつ、法務業務も担当することです。総務や経理等のバックオフィスと兼任する場合もあれば、契約関係を事業や経営に関わるメンバーが兼任することもあるかと思います。私自身、もうすぐ法務をやって4年になりますが、総務・労務・広報・マーケ等、法務として大半の時間を、その時々によって異なる職種と兼任で過ごしてきました。

兼業法務には残念ながら「法務業務にかけられるリソース(時間や精神的余裕)に限りがある」というデメリットがあります。法務は「法律を理解し、リスクの舵取りをする」という専門性が求められる職種ですが、兼業法務においてはリソースが足りず、専門性を深める余裕のない中で業務をする必要が出てくるため、不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。

一方で、兼業法務には、法務業務だけでは手に入りづらい知識や情報や経験が手に入るというメリットもあります。例えば、今の組織のコンディションや社外に対して届けたい情報、現在の事業進捗等、普通の専任法務ではなかなか入ってこない情報が、兼業によって手に入りやすくなります。

また、兼業していると、自然といろいろな部署との接点が増えるため、社内の繋がりが増えるというメリットもあります。法務として業務を進めるにあたり、リスクの検知や対処を行うために、他職種・他部署との連携やコミュニケーションは欠かせません。コミュニケーションが円滑にできることで、事業の解像度高い状態で契約書作成や法務相談への対応ができたり、実際にリスクを検知した後に社内の業務フローの改善や研修の実施がスムーズにできたりといったこともあるでしょう。

兼業の中で「法務」業務をうまく回すコツ

では、兼業法務の「デメリット」を最小化して、「メリット」を最大化するには、どういう点に気をつけると良いでしょうか?

まず大事なのは「頭を動かす業務」に集中できる環境を作ることです。法務業務にもいろいろな種類がありますが、例えば「過去の契約書が見当たらない」といった問題は一覧を作ることで解消できますし、「契約にあたり必要な情報がわからない」といった問題はドキュメント等を整備することで解消できます。そのような「(考えるというよりは)手を動かす」業務をできるだけ効率化し、契約書の中身の審査や新規事業の法的な枠組み検討等、頭を動かす(=法務の専門性を活かして価値発揮できる)業務に時間を使いましよう。

そのためには、①優先順位を法務外と擦り合わせてから始める②「手を動かす」業務を効率化する③外部のリソースをうまく活用する といった3つのステップを意識すると良いかと思います。

①優先順位を法務外と擦り合わせる

まずは法務の専門性を活かして価値発揮できる業務、法務が時間を使うべき業務が何かを明らかにする必要があります。その業務のボリュームによって、一部の法務業務を後回しにしたり、場合によっては「兼業法務やっている場合じゃない!」とリソースの調整をしたりする必要があるかもしれません。

特に法務に軸がある兼業法務の方は「自分が得意な業務」や「自分がリスクだと感じる業務」にまず手をつけたくなるかもしれませんが、兼業法務の場合はとにかくリソースに限りがあるため、まずは「自分がやりたいこと」よりも「会社としてやるべきこと」を意識して進める必要があります。この優先順位付けができていないと、限られたリソースで法務を頑張っているにも関わらず、会社の期待とズレてしまい評価されない、なかなか思うような成果に繋がらないといった、悲しい結果となってしまいます。

優先順位を擦り合わせるためには、まず、「会社から期待されていること」と「法務としてやるべきだと思うこと」を一覧にしてみましょう。

「会社から期待されていること」とは、例えば「契約書のレビューをもっと早くしてほしい」「弁護士費用を抑えてほしい」「利用規約において顧客から質問が多い部分をわかりやすくしてほしい」等といった、主に事業部門からの法務に対するリクエストです。もし情報が集まらない場合は、兼業を生かして社内のメンバーとの接点を増やし、コミュニケーションを円滑にするところから始める必要があります。

「法務としてやるべきだと思うこと」とは、例えば、契約書雛形の自社ビジネスに適していない部分の改定や、来月に迫った法改正の対応等といった、法律の専門家の視点で出てくるリスクへの対応です。もし、あまり思いつかない・自信がない場合は、自社の顧問弁護士等に相談しつつ、自社が抱えるリスクを法的な観点で洗い出します。

それぞれを一覧にできたら、リスクの大きさや経営・事業への影響度合いを考慮しつつ、事業や経営に関わるメンバーも巻き込んで、一緒に優先度を決めていきます。なお、優先度の決め方や実際のリスクの軽減策についてはこちらの書籍が参考になります。

この工程を経ることにより、今自社が抱えている法的なリスクや法務として対応すべき課題が洗い出されるため、法務と法務外での認識の相違を防ぎ、「課題VS法務」というシンプルな構図で必要とされている課題にリソースを割くことができます。また、それぞれの課題の進捗も同じ表で管理することで、法務としてどのような成果を出しているかについても、外から見て分かりやすくなることで、法務としての成果をアピールしやすくなります。

②「手を動かす」業務を”効率化”する

課題に対する優先順位がつけられたら、次は「効率化」が必要です。基本的に、法務としてリスクヘッジのために必要な業務フローを整えていくと、法務の仕事は増えていきます。今まで誰もチェックしていなかった契約書を法務でチェックすると、当然「契約書審査」という業務が増えるといった具合に、特に繰り返し発生する業務(=定常業務)が増えていきます。一方で兼業法務にはその他の仕事もあるため、持続可能な形に法務を整えるためには、片方で課題を倒すために定常業務を増やしながら、もう一方では増やした定常業務を効率化していく必要があります。

効率化するにはまず、定常業務の中の「(頭というよりは)手を動かす業務」に注目しましょう。契約書の雛形の場所や過去の契約書のデータの保管場所を聞かれる度に探していないでしょうか?同じような質問を別のチームから受け、前に回答した内容を探すのに時間がかかっていないでしょうか?契約書作成の依頼時に、必要な情報が揃っておらず、依頼者とのスケジュール調整に時間を使っていないでしょうか?

よくデータの保管場所を確認されるものがあれば、契約書の雛形や締結後の契約書の一覧をスプレッドシートで作り、Slackのbotで呼び出せるようにしておけば、次からそのbotを呼び出すだけで済みます。一度受けた質問をQAとしてドキュメント化しておけば、次のQAの際には回答をコピーして渡すことができますし、社内研修を実施することで質問自体を減らすこともできます。契約書作成の依頼をフォームで受け付けることにし、フォームに必要情報の入力欄を設けることで、初案が作れる情報をあらかじめ収集することができます。

そのような形で、法的に悩む必要のない、手を動かす作業を極限まで減らすと、問題解消して定常業務が増えても課題解決のために使える時間をある程度はキープできます。もし、兼業先の方が業務フローが整っている場合は、そちらを参考に法務の業務フローを効率化することで、社内のメンバーが「慣れている」方法で整備ができるのも、兼業のメリットかと思います。

③外部のリソースをうまく活用する

課題に向き合い、定常業務をできるだけ効率化しても、残念ながらやはり兼業法務のリソース問題は完全に解決はせず、どうしてもリソースが足りなくなる場面があるかと思います。兼業法務については効率化だけでなく、外部のリソースをうまく活用することも、重要です。

「頭を動かす業務」については、社外の専門家である顧問弁護士の先生を頼ることができます。顧問弁護士は、兼業法務の一番身近な「味方」です。問題が発生した際の相談だけでなく、課題の洗い出しやリスクヘッジの”相場感”等、要所で頼るべき存在です。頼り方がわからない場合は、定期的に1時間程度の定例会をお願いして、今取り組んでいることや今後取り組むことについて話すことで、先生に壁打ちしてもらいつつ、専門家がどこに注目するのかという着眼点を知り、参考にすることから始めると良いでしょう。

「手を動かす業務」については、リーガルテック等のツールに頼ることも可能です。最近はツールの種類も増えて頭を動かす業務のサポートまでしてくれるものもありますし、ツールのユーザーコミュニティでの情報交換も盛んに行われています。②のような効率化の場面では、ある程度型があるツールに嵌め込むことで業務設計が楽になる場面もありますし、業務フローや運用の話等は同じ規模や課題感の他社事例が参考になるケースもあるので、有効活用すると良いかと思います。

もちろん、弁護士への相談もツールの導入も費用がかかる話ではあるので、しっかりと目的と効果を考えつつお金の使い方を考える必要があります。一方で、自分だけでどうにもならない業務や、自分では時間もクオリティも不足する業務に対しては外部のリソースに頼ることで「ショートカット」する方が賢い場面もあるので、有効活用する方法を試行錯誤してみるのが良いかと思います。

もう一歩だけ「法務」に踏み出す方法

法務の専門家は、法律を現実の事業や発生した課題に”あてはめ”てリスクを判断しています。そのためには『どういうルールがあるか(=法律知識)』を知り、『自社がどういう状況か(=事業・組織の知識)』を知る必要があります。この双方のバランスが、より良い法務人材になるためには重要です。

兼業法務は、情報を多角的に得ることができ、社内でのコミュニケーションもスムーズになりやすいため、「事業・組織」について知識を得やすい立場にいます。兼業先の業務でも「リスクの舵取り」が自分の仕事であることを頭のどこかで意識しておくと、法務に役立つ情報が目につきやすくなり、情報収集力が高くなることで、兼業のメリットを活かすことができます。

一方で、「法律知識」についてはどうしても書籍等での勉強が必要な分野なので、そこでいわゆる「机の上の勉強」でのキャッチアップについては、時間をとって頑張る必要があります。「契約書審査の基本」や「XX法の基本」といった書籍に挑戦する、セミナーに参加してみる、社外で横の繋がりを作って情報交換してみる等、ぜひ法務の先にある「法学」の世界にも興味を持ってもらえると、さらにもう一歩深い法務の世界に踏み出せるのではないかと思います。

兼業法務をうまく回し、より楽しみつつ、効率化することで法学をキャッチアップする時間を捻出して、さらに一歩踏みだす。この記事が何らかの形で、そのお役に立てると幸いです。

まとめ

この記事のまとめ
  • 兼業法務のメリットとデメリット
    • 法務業務だけでは得られない知識や情報、経験を得られるメリット
    • 法務業務にかけられるリソースが限定的になるデメリット
  • 兼業法務として業務をうまく回すコツ
    • 「手を動かす」業務を効率化
    • 優先順位を擦り合わせた上で、会社としてやるべきことにリソース集中
    • 顧問弁護士やリーガルテックなどの外部リソースを活用
  • 更に法務として専門性を向上する方法
    • 得られる多角的な情報を活かし、事業や組織についての知識を深化
    • 法律知識は主に書籍やセミナーを通じて専門性向上

ウェビナーアーカイブのご案内🦈

本記事を執筆いただいた、飯田裕子氏に、著書『ひとり法務 – 情報収集力とコミュニケーション力で確実に進める』(同文舘出版、2024年)』の出版を記念し、一人法務・兼任法務として業務を始めてから、事業を共創できる力強い法務になるまでの道のりを改めて振り返り、会社からの期待に応える法務業務の在り方を徹底解説いただいたウェビナーのアーカイブを公開中です。是非ご覧ください!

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本記事の著者情報

飯田 裕子(いいだ ゆうこ)

LAPRAS株式会社 法務部門責任者

中央大学法学部卒業後、金融システム営業、司法書士法人での事務職、士業総合コンサルグループのバックオフィスを経て、現職にてひとり法務となる。契約業務から渉外業務まで幅広い業務をひとりで担当しつつ、ベンチャー企業のひとり法務で得た学びを「法務のいいださん(@iidasame)」としてnote等で積極的に発信している。U35若手法務の会(@wakahou_u35)主催者。『ひとり法務 – 情報収集力とコミュニケーション力で確実に進める』(同文舘出版、2024年)を上梓。

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