クレドやスキルマップを設定し、法務組織化に向けた土台を固める – GMOフィナンシャルゲート株式会社 西澤朋晃氏 <後編>-

成長企業にとって、一人法務の状態から組織化に向けた法務体制を構築していくことは非常に重要な課題となります。GMOフィナンシャルゲート株式会社の法務部長である西澤朋晃氏は、今まさに二〜三人目の採用を実施し、より強固な法務体制の整備に向けた取り組みを進めています。後編では同社法務の組織化に向けた具体的な取り組みについて伺いました。

〈聞き手=山下 俊〉

目次

マインドセットが揃えば、同様の成長過程を踏めるという仮説

山下 俊

前編では入ってくる方々に対してフォーカスしましたが、後編では、その方々を待ち構えている企業側として何を準備しておけばよいか聞いていきたいと思います。
貴社法務ではクレドをつくられていますよね!

GMOフィナンシャルゲート株式会社の法務のクレド
西澤 朋晃

はい。作成したのは2021年12月です。
クレドのほか、業務ポリシーや理想の法務部門像などを言語化していきました。完成してからは、それを採用の場でもお話ししたりしています。

コーポレートサポート本部 法務部 部長 西澤朋晃氏
山下 俊

クレドを作られたきっかけは、やはり法務の組織化が念頭にあったのでしょうか?

西澤 朋晃

そうですね。経験者採用から育成へシフトしていこうとしたときに、能力やバックグラウンドが近しければ、クレドでマインドセットを揃えることで同じような成長過程を踏めるかもしれないという仮説を立てました。
統一したマインドを持つ組織であれば、個性はありつつも目的を同じく目指せる集団になれる、と。

山下 俊

入社後の育成はマインドの醸成といったところを重視されているんですね!

西澤 朋晃

仕事の仕方としてどこまで求められているのか、は結構伝わりにくい側面もあると思います。私が良しとしていることでも、他の人は何か違う・自分のやり方と合わないと思うかもしれない。その基準が合っていないと、たとえメンバーに能力があっても評価されないという状況が発生しかねません。

だからこそ、入社前にも開示し入社後も一貫して、育成にあたってマインドセットは揃えておく必要があると考えました。なるべく客観的な判断基準というか、基本となる判断軸とか信念を用意したイメージです。クレドに賛同して自分で選んで法務部にきてくれたよね、と。

オンボーディングではまず会社のビジネスの全体像から

山下 俊

二人目採用時のオンボーディングで工夫されたことがあれば教えてください。

西澤 朋晃

入社直後は目の前の仕事ももちろんたくさんあるとは思いますが、それをやっているだけでは全体感をつかむことはできません。まずは当社のビジネスモデルを知ってもらうために、説明資料を作成して共有したり、決算説明会を見てもらったりしながら、具体的なビジネスがどう契約に落とし込まれるのかなど、ビジネスモデルから法務業務に紐付けた形で説明しています。ビジネスの実態と契約書を結び付けて理解できるよう工夫しています。

山下 俊

まずは会社の全体像をつかむところからスタートしたということですね!

西澤 朋晃

その後、売買契約をはじめとした当社のビジネス上の基本的な契約を振り分けていきます。全体のビジネスの流れのなかで、自分が今どの部分の仕事をしているのか、なるべくその位置付けが意識できるようサポートしています。

山下 俊

会社に馴染むためには、他のチームとのコミュニケーションも大切だと思いますが、取り組まれていることはありますか?

西澤 朋晃

事業部門とのミーティングに同席してもらったり、ヒアリングなどで社内を巡回するときに同行してもらったりして、何をするにも隣にいてもらうようにする期間があります。そこで発言の機会も提供します。
このようにして「いつも一緒にいるよね」という周囲の認識を得ながら、人と人とをつないでいきます

山下 俊

入社後の数ヶ月〜数年スパンでのプランニングもされているのでしょうか?

西澤 朋晃

私が独自のスキルマップを作成しており、今はそれに基づいたプランを用意し、次にどんなステップを踏んでいくべきかを示しています。これを確認しながら、四半期に一度フィードバックの機会を設けて、自己評価と私の評価が合っているかどうかをすり合わせて、何をどうしたら成長できるのかを一緒に考えられるようにしていきたいと思っています。

三次元のスキルマップで「スキル」と「キャリア」と「業務」をつなげる

山下 俊

今お話に出たスキルマップとは具体的にどのようなものでしょうか?


GMOフィナンシャルゲート株式会社の法務におけるスキルマップ
西澤 朋晃

三次元の立方体のようなイメージで生み出しました。まず1つめの軸(縦軸)に、基礎・基本となる部分、法務特有の部分、ビジネス的な部分といった観点から20項目のスキルがあります。2つめの軸(横軸)となるのが、キャリアのステップです。Junior Step(Assistant)、Middle Step(Leader)、Senior Step(Manager)、CLO/GC(Executive)と4段階に分け、簡単に言うと、個人的スキルの段階でJunior、周囲への影響を与える段階でMiddle、人を導けるような段階でSenior、組織を導けるようになったらCLO/GCといったイメージで、それぞれのポジションにおいて必要なステップを1つ1つ定義して、これが20段階あります。

山下 俊

これにもう1つ軸があるというのがユニークですね!

西澤 朋晃

奥行きとなるもう1つの軸には、私がこれまで担当してきた広範な業務内容を設定しています。これにより「この業務をこういう風に進めると、この能力が伸びる」という考え方で仕事を捉えなおすことできるようになります。

たとえば、議事録作成でも、意識しなければ「時間がかかる面倒な作業だな、あまりやりたくないな」と思うかもしれない。そんなときに、「議事録を作成することで、色んな専門用語や短縮用語を理解できるようになり、議論のポイントが分かれば経営陣が気にしている点も気付けるようになる。それがビジネスへの理解につながり、結果として契約審査の品質も能力も上がる」というように、未来につながる形で位置付けてあげると、仕事の意味が伝わりモチベーションにつながることもありますよね。ただ、やるのではなく、「考えて」仕事をするようになれます。この意識が超重要です。
スキルアップは、業務外の自己学習でできるものというよりは、日々の業務で自然と身についていくもの、という発想です。これが奥行きだ!と。

山下 俊

貴社の法務が担当している業務範囲が広いことの1つのメリットかもしれません。

西澤 朋晃

自主学習だけでは、そこまで急速に能力が上がることはないように思います。学習が普段の業務に直結していなければ、本を読んだだけ。うまく成長に活かせてないんですよね。
つまり、業務範囲が広く種類が沢山あることは、成長するためのメニューの種類が豊富ということでもあるんです。「契約法務しかやりません」という法務よりも、「商事法務やります」、「取引先と話します」、「ITツールを入れます」、「企画を担当します」と様々な視点の仕事を経験する法務のほうが、成長の機会だけでなく、選択の幅も広がりますよね。

山下 俊

そうした業務に対し、日常的なフィードバックはあるのでしょうか?

西澤 朋晃

昨年から実施している1on1がその機会になっています。また、できる限りではありますが、毎日朝夕30分間の「壁打ち」という時間を設定しています。
例えば契約書の壁打ちの場合、どう考えた結果そのアウトプット(条項)に至ったのか聞いたうえで、表現の仕方は大丈夫か、どこが足りていないのかなど視点や気付き、思考プロセスをフィードバックしていきます。1on1は、「新しい効率化ツールを入れたいが、どうやって進めたらいいか」「誰と社内連携したら良いか」などといった仕事の進め方における不明点を解消できる場にも利用しています。

「法務部」化には、トップレベルの成果を出し続けて構想を語ること

山下 俊

貴社では、管理部のなかの法務課から法務部が独立しました。総務や管理部門から新たに法務部を立ち上げるには、どのようなことが必要になるでしょうか?

西澤 朋晃

正直、自分でコントロールできるものではないです。でもだからといって、何もせずにただ待つのも自分らしくないなと。
そこで、いつ「その時」がきてもすぐ反応できるように、ずっと準備を続けていました。法務部門が組織として成長すると、企業価値創造や競争力強化に貢献してくれるのではないか、と価値を感じてもらえるような「準備」です。まずは日々の仕事で成果を出し続けることが大前提です。次に、自分の頭の中で考えている構想を言語化していきました。そして、言語化した内容を機会があれば伝えられるように資料に落とし込んでいきます。いくら構想があっても何も行動しなければ考えを知ってもらえることもありませんので、実際に行動することが大事です。

山下 俊

具体的にはどのような行動が求められますか?

西澤 朋晃

自分の基本に立ち戻って深く考えること、そしてそれを周囲に語れるレベルに言語化することです。
自分の中だけで完結するのではなく、同僚、企業法務仲間、友人、家族など色んな方に話してみて率直な感想やフィードバックを貰いつつ、自分の想いを1つ1つ確認して表現していきました。一度アウトプットしたものを、千本ノックを受けて精査していくイメージですね。
自分なりの理想の法務組織を、魅力的だと思える組織像を形にしていく、という行動だと思います。ミッション、ビジョン、バリューとしてまとめることも有効だと思います。

山下 俊

構想を語るんですね!

西澤 朋晃

その構想が実現して「法務部」として組織化したらもっと力を発揮してくれるのではないか、と周囲に思ってもらえる仕事をすることが大切です。そのためには、期待値を超えていくような仕事を日々、地道に続けなければなりません。業務の標準化や可視化に取り組み、属人性を減らし、一人法務の限界からチームビルドへシフトして、「チームになるともっと対応できる」という状況を目指せるようになったことが大きかったと思います。

山下 俊

課から部になったことで何か変化はありましたか?

西澤 朋晃

責任の重みが違うので、対外的な印象が変わったように感じます。例えば、契約交渉やトラブル交渉の場に、課長ではなく部長が出てくる意味、は少なからずあるのだと思います。こうした法務の使い方をしてもらえるのは、「部」になったからこそだと思います。

山下 俊

現場で役立つ法務にもなれるということですね!

西澤 朋晃

成果は常にトップレベルで出しつつ、構想を言語化して語る。それに基づき仕事を進めて実行していくというサイクルを回しながら、これからは人材育成にも注力していければと思っています。

山下 俊

ありがとうございます。
今後の組織としての成長を楽しみにしています!


★今回のLegal Ops Star★

西澤 朋晃(にしざわ ともあき)

GMOフィナンシャルゲート株式会社
コーポレートサポート本部 法務部 部長

大学・法科大学院卒業後、約3年間の休憩を経て東証プライムの大手小売業にて法務キャリアをスタート。2018年から現職で一人法務として法務組織を立ち上げ。IPO実務・内部監査・個人情報保護等法務関連業務を一通り経験し、現在は契約法務、商事法務全般、コンプライアンス関連、稟議事務局等決裁制度の仕組み側まで幅広く担う。企業法務とは「法務という専門性を駆使するビジネスマンである」と定義し、攻守コンプリートを企み躍進中。

(本記事の掲載内容は、取材を実施した2023年10月時点のものです。)

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