「法務のための法務」ではなく「事業のための法務」を -ビジョナル株式会社 法務室室長 小田将司氏- <後編>

ビジョナル株式会社の法務室室長としてVisionalグループの法務機能を統括する小田将司氏は、大手法律事務所に6年間勤務後、出向、留学を経て同社へ参画。入社後は、営業、組織開発、企画など法務畑から離れて仕事をしてきたものの、2019年に再び法務の世界へと戻ってきました。事業の現場を経験してきた小田氏の信念は、「事業のための法務」。今回は、その具体的な実践方法について伺いました。

〈聞き手=山下 俊〉
(以下、敬称を省略して記載した箇所がございます)

他の職種の「当たり前」を、もっと学んだほうが良い

山下 俊

法務の組織づくりにおいて、小田さんが大切にされている考え方やポリシーはありますか。

小田 将司

法務はあくまで事業の成長のための一つのファンクションでしかないので、法務組織だからどうという考え方は、実はあまり持っていません。営業や財務であっても、結局皆さん、企業価値を向上させるために働いている人たちです。

小田 将司

私が一番大事にしているのは、そうした企業価値へコミットするという意識を持つことです。それを私は「事業のための法務」と表現しています。でも実際の法務の世界では「法務のための法務」をやっている人がすごく多いと思うんですよね。

山下 俊

「事業のための法務」。すごくいい言葉ですね!
そうした発想に至られたきっかけは何だったのですか?

小田 将司

自分自身が営業を経験したことが大きいでしょうね。営業部門では、営業のために営業をやるのではなく、事業のために営業をやっています。これはわかりやすいですよね。でもなぜか、法務に来た瞬間に、法務のために法務をやる人が多くなってしまいます。

山下 俊

そういう意味では、小田さんのように、法務人材が自社や他社の営業のポジションを経験してみることは、一つの解決策になり得るのでしょうか?

小田 将司

やったほうが良いと思いますね。
ただ、万人にはおすすめできないです。中途半端な覚悟で行っても、営業からしたら迷惑なだけです。そんなに甘い世界ではありません。

小田 将司

法務が営業を経験することの価値を細かく分けると、二つあると思います。一つは「事業とは何かを本当の意味で理解できるということ。その会社やサービスについて、お客様は誰で、何を価値に感じていただいているのか、プロダクトはどのように使われ、今後どう進化していくべきなのか、リアリティを持って理解することができます。
すると、法務として支援する立場になったときに、何が事業部門にとって勘所となるのか、解像度高くわかるようになります。

小田 将司

もう一つは、法務のサービスのクオリティが営業目線からよく理解できるようになること。どのような振る舞いや言葉遣いをすれば事業部門に受け入れられるのか自然とわかるようになります。

山下 俊

具体的に、事業部門から受け入れられるために気をつけるべきポイントのようなものはありますか。

小田 将司

それは繰り返すようですが、「事業のための法務」を意識することです。「私たちが実現したいのは、この事業を成長させることです」という姿勢が事業部門に伝わるだけでもぜんぜん違いますよ。

小田 将司

「これをやりたいんですよね」と営業から相談を受けたときに、「だめですね」とだけ返してしまうのは、法務のあるあるです。でも、本当に事業を成長させたいと思っていれば、「このやり方だと法律に引っかかっちゃうけど、こういうやり方だったら事業をもっと成長させることができるかもしれない」「迂回ルートでこういう方法があるかもしれない」と提案できる。

小田 将司

要は、事業の成長を目的としている人であれば、いろんなアイディアが出てくるはずなんですよね。そうした姿勢が事業部門にも伝われば、「だめ」という言葉ですら、「この人がだめって言っているんだからしょうがない」と受け止めてくれるようにもなります。

山下 俊

「事業のための法務」をやっているという姿勢を伝えていくには、具体的にどういうアクションが必要でしょうか?

小田 将司

特に昨今のリモートワークのなかでは、テキストコミュニケーションにおける言葉遣いには気をつけたほうが良いです。
個人的には、第一文目は必ず肯定的なものにすることを心がけています。Slackで「できません」とだけ一言返ってくるのと「そうですよね、やりたいですよね。でも、できないんですよ」というのとでは、ぜんぜん印象が違いますよね。

山下 俊

確かに、小さいことかもしれないですが、積み重なってくると印象は大きく変わってきますよね。

小田 将司

事業として実現したいことを理解し、共感を示すことが大切ということですね。「この取り組み最高ですね」「次の事業の柱になる取り組みですね」と伝えたうえで、法的な話を始める。法務が皆、そういうコミュニケーションの仕方をするようになったら、その組織はすごく気持ち良くないですか? 事業部門の方もつい相談したくなりますよね。

小田 将司

私自身、イベントの登壇などに関して広報に相談することがあるのですが、「これ、すごく良いイベントですね!」「この企業さんと一緒に並ぶなんて、すごくないですか?」といったような第一声から入ってくれる方は、気持ち良いのでどんどん相談しちゃいます。それと同じ感覚だと思います。

山下 俊

やはり、他の職種の方から学べることは多いのですね!

小田 将司

法務の世界ってガラパゴスなんですよね。
たとえば、法務でけっこう多いのが、何か問題が発生したときに「こうしたほうが良いですね」と、すぐに打ち手に飛びついてしまうこと。でも、事業や企画の仕事では、そもそもなぜそうした事態が起きているのか課題を特定していくところから始めて、最後の最後に打ち手を考えるというのが自然な所作です。

小田 将司

法務は「専門性が高い」というマジックワードに逃げがちですが、汎用的な力を磨くことによって、前回お話しした狭義の意味での「専門性」を磨いていなくても、結果として事業に対するアウトプットが飛躍的に高まる、ということが起きえます。そうした意味では、他の職種であれば当たり前にやっていることを、皆もっと学んだほうが良いかもしれません。

ビジョナル株式会社 法務室室長 小田将司氏

「ダイバーシティのためのダイバーシティ」をするな

山下 俊

今後、どれくらいまで法務室のメンバーを拡大されていきたいと考えていますか?

小田 将司

事業の成長に応じて必要な人員が増えれば良いと思っているので「法務室としてここまで大きくしたい!」という気持ちは一切ないです。ただ、今の事業がこのまま線形で成長していけば、3年以内に15人程度の組織になっているというイメージは明確に持っています。

山下 俊

人員を増やしていく際に、同質性の高い方を集めたほうが良いのか、異質な方を集めたほうが良いのか、小田さんはどのように考えられていますか?

小田 将司

人間性や業務に対するコアな価値観においては、絶対に同質であることが必要ですが、それ以外の部分は異質であることの方がむしろ好ましいと思います。ただ、正直に言うと、同質性を重視して採用した結果、さまざまな強みを持った人が入ってきて、ちょうど良いバランスができているという感覚はあります。

小田 将司

ダイバーシティを目的にダイバーシティを推進するよりも、本当に大切な価値観の同質性を担保することのほうが、遥かに重要だと思います。「ダイバーシティのためのダイバーシティ」をするな、ということです。

山下 俊

最後に敢えてお聞きしますが、今の法務室において、小田さんの理想とする組織に不足していると考えるポイントってありますか? 

小田 将司

やはり、知識や経験の質ですね。経験の浅い組織は、未知ではないものを未知だと思ってしまうんです。だから、うろたえたり、「これ、どうしたらいいんだろう?」といろんな人に聞き回ったりと、てんてこ舞いになって時間が掛かってしまいますが、経験があり勘所がわかっていれば、秒速で最適な解にたどり着くことができます。

小田 将司

法律家としての質が高い人を採用する、組織のなかで質が高い人材に成長してもらう、という2つの戦略があると思いますが、いずれにしても、さまざまな背景を含めたうえで問題を理解し判断できる人が組織の中にいるかいないかという違いは、すごく大きいと思います。そこは、私自身も含め明確にまだまだ追求できるポイントなので、今後強化していきたいですね。

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