事業貢献する法務への第一歩!評論家にならない契約書レビューのためのチェックポイント

この記事でわかること
  • 契約書が果たす機能
  • 契約書をレビューする際に必要となるインプットとアウトプットのポイント
  • 契約書をレビューする際のチェックポイント
目次

はじめに

みなさんこんにちは。
法務担当者の重要な業務の一つである、契約の審査業務。各種契約の雛形は世の中に多数出回っているものの、これと照らし合わせるだけでは契約書のレビューは完了しません。

今回は実際に元法務の筆者が、自らの経験に基づき、どのように契約書レビューを行っていくのか、そのポイントについてまとめていきます。特に本稿では、一般的な契約書レビューの際のチェックポイントだけでなく、法務が企業のメンバーの一員として存在することに重きを置き、「評論家にならず、ビジネスに寄り添ったレビュー」となるようなポイントを併せてご紹介します。

契約書とは

とはいえ、大前提として、契約が果たす役割の理解は非常に重要です。
契約とは、「私法上の効果の発生を目的とする合意の総称」(中田裕康『契約法』(有斐閣、2017年))など、当事者間に法的な拘束力をもたらす合意であると表現されます。本来契約は、一部の類型を除き、書面の用意は必須ではなく、当事者の合意のみで成立します(民法522条1項)。ただ、一般的に企業間では、その合意の内容を明確にするために「契約書」が作成されることになります。

一般に契約には、①確認機能、②紛争予防機能、③立証機能がある、とされます(詳細は、喜多村勝德『契約の法務』第2版 (勁草書房、2019年))。こうした機能の多面性がありつつ、契約書は、契約の当事者それぞれの現在だけでなく、将来発生する事象をもその対象とし、カバーする領域は広範です。

どの機能に重きを置いたレビューが望ましいか?

契約の果たす機能のうち、まず優先的に考えるべきは「紛争予防機能」と考えられます。
というのも、一度紛争化、特に裁判になってしまえば時間もコストもかかり、企業活動に対してはマイナスとなり得ます。このため、法務としてはまず「なるべく紛争にならないような契約書づくり」に意識を集中させるべきと言えるのではないでしょうか。
とはいえ、もちろん紛争化を避けられない場面もありますので、次にレビューワーとしては、紛争化した際にきちんと証拠として当該契約書が機能するように、立証機能も考慮したレビューを行うイメージが望ましいです。

上記のような契約の機能の多面性と対象の広さから、チェックする法務の担当者も、限られた時間の中で漏れなくレビューを実施するために、その方法を「型化」していく必要があるでしょう。

以下では、契約書レビューの際に実施すべきアクションとチェックポイントをまとめます。

契約書レビューの手順の概要

インプット

まず「インプット」と耳にすると、法的な知識のインプットを想起される方が多いかもしれません。もちろん自社が関わるビジネスに関する法的な知識や動向をインプットしておくことは、法務の役割として非常に重要です。

ただ、どんなに優秀な法務の方でも、契約書と関連する法規だけを見て契約書のレビューを行うことはできません。前述の通り「紛争予防機能」を持つ契約書は、時に実務の行動規範の役割を果たすこともあります。このため、法務としては事業部門がこれから実施しようとしている取引の内容をよく把握することが、評論家にならない契約書レビューのための第一歩と言えるでしょう。

そして、取引の内容を一番よく知っているのは、通常事業部門のメンバー(依頼してきた担当者)になりますので、審査依頼の段階で、また不足する場合にはその後に追加で、事業部門からヒアリングを実施することも必要になります。

以上の法的な情報とビジネス上の情報の2点のインプットがある状態で契約書のドラフトをチェックしていくことで、法的観点とビジネス観点をバランスよく踏まえたレビューが可能になります。

アウトプット

前提となる法的知識、そして当該取引に関する情報(すでに対象となる契約書がある場合にはその契約書に記載されている内容を含む)をインプットしたら、それが自社にとって望ましいものなのかを分析し、最終的に必要となる内容を契約書に記載し、不適切な記載を修正していきます。

法務としては、後述するチェックポイントに沿って、考え得る修正案の全てを修正ドラフトに盛り込みたいところです。
実際に、相手方から来たドラフトに対して初めてカウンターを返す場合には、自社の「要望モリモリ」での返答も良いかもしれません。

ただ、複数回のやりとりを繰り返している場合には、そのようにならないケースの方が多いでしょう。クリティカルな条件で合意に至らないケースであれば別ですが、既に一度議論した内容を蒸し返したり、枝葉の条件で交渉を長引かせることが、トータルで見た時に企業にとって本当にプラスなのかを考えるバランス感覚が必要です。

例えば、以下の要素を考慮した時に、「修正案としては考えられるが、あえて契約書には書かない」という選択をすることもあり得るでしょう。

  • 自社の商材の強みや弱み
  • 自社の経営状況
  • 相手方とのパワーバランス
  • これまでの交渉過程

このバランス感覚は、まだまだ人間にしかできないことであり、また交渉過程の全体を見てきた「社内法務」にしかできないことであると考えられます。

契約書レビューの主なチェックポイント

取引の全体像の確認

細かな検討に入る前に、そもそも事業部門からインプットを受けた「想定する契約」と、目の前にある契約書の内容とが大枠で合致しているかを確認します。

この時点で、取引の内容が違う、当事者関係が違う、など看過できないようなズレがある場合も決して珍しくはないため、最初にざっと目を通しておくことは意外に有効です。

例えば、双方から情報開示がある想定にもかかわらず、相手方から片務的なNDAが送付されてきた場合には、当該契約書を直すのではなく、別途双務的なNDAのフォーマットを用意する方が合理的なケースがほとんどです。こういった点に気付くのが遅れると、改めてNDAのフォーマットに関する議論を展開する分、当然レビューが完了するタイミングも後ろ倒しになってしまいます。こうしたケースもあることから、依頼が来たらなるべく早い段階で、一度ざっと目を通すことが望ましいと言えるでしょう。

パスワードにも要注意!

契約書の内容に関係ない部分ですが、他にも依頼を受けた契約書を早めにざっと見ておく習慣づけが有用な場面があります。それは、「パスワード」でファイルを開く場面です。

契約書のやり取りの中で、そもそもファイルを開くためのパスワードが事業部門から送られてきていなかったりパスワード自体が期限切れになってしまっているケースに遭遇したことがある方は多いのではないでしょうか。気づくタイミングが遅れてしまうと、改めて事業部門、場合によっては取引先に問い合わせをしなければなりません。
これによって、交渉内容が左右されることは通常ありませんが、印象面ではマイナスになる場合もあるので、注意が必要です。

契約類型特有の事情

想定する取引が、自分の目の前にある契約書の中に記載されていそうだとわかったら、「通常であれば入っているべき条項」が抜けていないか確認します。いわゆる「抜け漏れの確認」です。この際、当該契約が全13種類の民法上の「典型契約」に該当するのかを少し意識してみると良いでしょう。つまり典型契約に該当する場合には、契約書上に必要な取引条件の記載がないときでも、民法や商法が適用されることになるため、当該契約においてこうした法律上の条件が適用されて良いのか、という議論になります

抜け漏れチェックの方法

典型的な契約条件の抜け漏れの確認には、まず各種書籍、更には「AIレビューツール」が非常に役立ちます。書籍では、阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式』第2版(有斐閣、2019年)などが非常によく読まれているようです。

また自社において必須とする契約条件がある場合には、「同種契約の自社雛形」とも照らし合わせると、より実態にあった抜け漏れチェックが可能になります。

上記に加えて、そもそも公序良俗違反、消費者契約法など強行法規違反、または下請法など罰則を伴う法規に違反するような条件が定められていないか確認します。仮にそのままでも定め自体が無効になると考えられる場合であったとしてもも、実際に契約書に基づいて実務を行うメンバーにとっては混乱のもとにもなるため、削除、修正対応するべきといえます。

本件特有の事情

そして、最も重要な、実際の案件に沿ったレビューを行います。

以後に記載する本稿の構成とは少し異なりますが、愛知県弁護士会 研修センター運営委員会 法律研究部 契約審査チーム『新民法対応 契約審査手続マニュアル』(新日本法規、2018年)にも具体的なチェックポイントが記載されていますので、併せてご確認頂くのも良いでしょう。

①自社にとって一方的に不利な箇所の洗い出しと修正

これが、法務が契約書をチェックする第一の目的といえるでしょう。中には、取引開始時から発現する不利な条件もあれば、一定の期間が経過したタイミングで発現する不利な条件もあるため、法務としては各条項がどの場面で作用し、どういった効果をもたらすかを具体的にイメージしていく必要があります

特に、取引関係からの撤退など、契約を終了させる場面は、今から取引を開始しようとしている事業部門にとってはあまり具体的にイメージがしにくく、時間をかけて検討していない場合も多いため、法務としては目を光らせておくべきポイントの一つと言えるでしょう。

②不利ではないが、自社として(オペレーション上受け容れ難く)実現可能性が低い条件の洗い出しと修正

目に見えておかしくはないものの、自社のリソースやフローに照らすと履行がかなり困難な条件が記載されていることもあります。

例えば、成果物を納入する際の検収期間に関して「3営業日以内の検収」を求められた場合、それが自社にとって履行可能なのか、それとも難しいのかといった場合です。

これは実務上のアクションに関わる条件のため、可能であれば担当部門が自発的に発見し、修正してほしいポイントでもあります。ただ、法務としてはいきなりこういったポイントを事業部門に丸投げするのではなく、実務の観点からチェックして欲しいポイントを都度案件に対応した時や内部研修などを通じて一定の時間をかけて伝えていくのが良いでしょう。

③有利不利以前に、内容が不明確な条件の洗い出しと修正

契約書の中には、内容がぼんやりしていて、不明確な条項も多く存在します。

よくあるのは「等」を非常に多用してしまうケースでしょう。対象の範囲が非常に広がってしまうため、使いどころには注意しつつ、実際に使用する場合にはなるべく具体例を列挙し、範囲をある程度画定していくことが必要です。

もちろん、前述した紛争予防機能や立証機能を果たすべく、契約書の内容は明確であることが望ましいです。ただ、全てにおいて明確に条件を記載しようとするのは、物理的な難しさを伴う場合もあります。また、条件を明確にしようとした結果、相手方との交渉が予想外に長引くこともあります。

法務としては、最終的に不明確であることによって自社にどういうデメリットがあり、またそれがどれくらいの可能性で発現するのかを加味した上で、不明確な内容を明確にする修正を実施していくことが必要になるでしょう。(なお、不明確になりやすい規定の具体例は、上述の喜多村勝德『契約の法務』第2版 (勁草書房、2019年)にも記載があるため、ご興味がおありの方はご参照ください。)

④より有利にできそうな条件の洗い出しと修正

現状の条件で締結できないことはないが、あえてもう一歩好条件を引き出せる部分がないかを検討します。

通常、契約書の検討をする場合、主要なビジネス上の条件は既に固まっているケースがほとんどですが、細かな条件は「雛形に書いてあるだけ」で議論が尽くされていない場合も多いため、好条件を引き出せる可能性があります。

ただ、特に相手方の雛形をベースに議論を開始する場合、どうしても当該条件がアンカリング(最初に出された条件が基準になってしまうこと)がされるため、更なる好条件を引き出すことはあくまで+αとして位置付け、必ずしも深追いするべきではありません。

少しでも好条件で契約を締結したいものの取引上本質的ではない部分で、交渉を不必要に長引かせることは、事業部門としても本意ではありません。当該契約の重要性や緊急性を見ながら、自社雛形や従来締結してきた条件と比較して劣る条件があれば、それを自社雛形同等の水準に引き戻したり、自社が譲歩する条件と引き換えに別の項目で好条件を引き出していくといった動き方が現実的な対応となるでしょう。

最後に形式面

条項番号のズレや誤字脱字、インデントのズレをはじめとする形式面での不備がある場合には、勿論全て修正するのが望ましいといえます。(形式面での具体的なチェックポイントについては、瀧川 英雄『スキルアップのための企業法務のセオリー』(第一法規、2018年)にも記載がありますので、そちらもご確認頂くと良いでしょう。)

ただ、修正箇所が、その誤字だけであり、かつ修正せずとも十分意味が伝わる場合には、敢えて直さず、ビジネスとして先に進めることを優先しているケースもあるようです。

セルフチェック方法

一人で色々な契約をチェックしていると、形式面での確認に漏れが出たり、思わぬ確認漏れが発生したりします。こうしたミスを予防する手段の一つとして、複数人でアウトプットを確認する「ダブルチェック」があります。

他方で、いわゆる「一人法務」ではダブルチェックの環境を作るのは非常に難しいとされます。この場合には、例えば文字通り修正案を一晩寝かせて、翌日改めてフレッシュな目で「セルフダブルチェック」するという方法を取るという方法を実践している場合もあります。

なお、形式面については、Microsoft Wordなどのエディタが持つ機能などで、多くの部分でのミスを防いだり、誤りに気付くことが可能になっています。

まとめ

この記事のまとめ
  • 契約書が果たす機能
    • ①確認機能、②紛争予防機能、③立証機能がある
  • 契約書をレビューする際に必要となるインプットとアウトプットのポイント
    • インプット:ビジネスに関する法的な知識や動向はもちろんのこと、実際の取引内容の把握が必須
    • アウトプット:自社の経営状況や相手方とのパワーバランス、交渉過程などを踏まえて、契約書に落とし込むバランス感覚が必要なこともある
  • 契約書をレビューする際のチェックポイント
    • 全体像、契約類型特有の事情、当該案件特有の事情、形式面を確認する
    • いずれの場合においても、当該条件の交渉で会社にどれほどのメリットがあるかを常に考慮する
    • 複数回契約書に目を通して上記を確認していく

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本記事の著者情報

山下 俊(やました しゅん)

2014年、中央大学法科大学院を修了。日系メーカーにて企業法務業務全般(主に「一人法務」)及び新規事業開発に従事しつつ、クラウドサインやHubbleを導入し、契約業務の効率化を実現。
2020年1月にHubble社に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2021年6月からLegal Ops Labの編集担当兼務。2023年6月より執行役員CCO。

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