今日からスモールスタート!契約レビューの質とスピードが変わる、事前準備アイテム4選

この記事でわかること
  • 現代の法務の契約書作成における基本動作
  • 契約書の最小単位たる「条項集」作成のメリットとTips
  • 自社のベストな取引条件たる「ひな形」作成のメリットとTips
  • 審査基準のブレを解消する「プレイブック」作成のメリットとTips
  • 作業の再現性を上げる「マイルール」作成のメリットとTips
目次

はじめに -契約書作成を支える「コピー&ペースト」-

みなさん、こんにちは。

現代において多くの契約書作成は、法務業務の中でも定型的作業と分類されることが多いです。各契約書に記載された条項も、どこかの契約書で見たことがあるようなものが多く、ゼロから契約書を作成するときであっても、別の契約書から条項を拝借(して仔細のみ調整)することが当然のように行われています。今や多くの契約書の作成は、過去の契約の「コピー&ペースト」に支えられています

誤解のないように付言すると、これは決して悪いことではありません。現代の法的問題の複雑化、法務に求められるスキルや期待される業務内容の変化に照らせば、法務には新たに契約や条項を「生み出す」時間は殆どありません。言い換えると、契約書の作成や審査は、一定以上の質を担保しつつ、スピーディーに、かつ再現性のある形で実施されることが期待されています。こうした中で、「コピー&ペースト」は、無意味な「車輪の再発明」を避ける効率的な行動と言えます。

こうした観点を踏まえ、以前公開した契約書レビューのプロセスに関する記事と対をなす形で、一定以上の質を担保しつつ、スピーディーに、かつ再現性のある形で契約審査を実施するための事前準備すべき「アイテム」をご紹介していきます。

契約書の最小単位をストックする「条項集」

条項集の種類と作成のメリット

条項集は、よく使う条項をまとめた自分や組織の契約条項集になります。
契約書を構成する最小単位である条項をストックしておくことで、「あの条項を引用したい」という場面に遭遇した時に、素早く、かつ品質的にブレのない条項を常に引用することができる点がメリットです。

条項集は、個人的に用意する場合と、組織として法務チーム内で用意する場合の2つのパターンがあります。筆者が様々な企業にヒアリングする限り、条項集を組織で保有しているケースは必ずしも多くないようです。

条項集をGitHubで公開

昨年LOLの記事にご登場頂いた片岡氏により、2017年頃からGitHubを使った契約条項集が公開されています。
条項集を公開しつつ、広くそのアップデートも募るという「集合知」スタイルは、今なお非常に新しさのある取り組みと言えると思います。気になった方は是非アクセスしてみてください。

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条項集作成のTips

条項集作成の対象を絞る

まずは、立ち上げのコストも踏まえ、どの条項を条項集としてまとめておくかがポイントになります。
今から法務を立ち上げる、組織化するという段階であれば、どの契約にも必ず登場する「反社会的勢力の排除」条項や「不可抗力」条項といった一般条項について条項集を作成しておくと良いでしょう。
他方、個人で準備する場合には、いつも使うわけではないが近い将来必ず使いそうな条項気に入っている条項などをストックしておくだけでも、検索や作業の手間は大きく減少するためオススメです。

活用のしやすさを重視する

加えて、個人でも組織でも、継続して活用していくためには、使いやすさ、探しやすさとコピーのしやすさが非常に重要になります。
最も身近なのは、普段活用しているWordなどのエディター上で、条項を集めたファイルを作成しておくことです。個人で作成する場合には、自分自身でどこに何が書いてあるのかを覚えていやすいので、この方法でもそれほど大きな問題はないでしょう。

他方で、組織で作成していく場合には、チームのメンバーがきちんと検索できることが重要なため、esaNotionConfluenceといったナレッジマネジメントツール上に条項集を残していくことを試みていることが多いです。

自社のベストな取引条件を凝縮した「ひな形」

ひな形作成のメリット

企業法務、弁護士双方において、ひな形が一つもない組織は殆どないと思われるくらい、契約書のひな形、テンプレートは契約業務で一般化しています。

ひな形は、契約内容検討の工数を先方に転嫁できるという工数面でのメリットが強調されがちです。
もっとも、自社のひな形は、これまでの取引における成功と失敗を写す「鏡」です。その条件でそのまま締結できれば、自社にとって最も良い条件で契約を締結できる(仮に修正が入ったとしても、自社ひな形を議論のベースにアンカリングできる)という事業部門を含めた会社全体へのメリットがあります。この点はもっと強調されても良いかもしれません。

なお、ひな形の活用メリットは大きく、自社のひな形があれば、仮に同様の類型の相手方のひな形が送付されてきた場合にも、条件の有無や内容の比較に役立つため、いわばチェックリストと同等の機能を果たしてくれます。

ひな形作成のTips

ひな形が「自社にとって最も良い条件で契約を締結できるツール」であると考えた場合、重要なのは、適時に契約条件のアップデートが行われることです。
ビジネス環境やビジネスモデルの変化などにより、「ひな形を見直さなきゃな」と思っていても中々進まないケースをよく耳にしますが、この場合は、ひな形アップデートのプロセスが明確になっていないケースが多いです。つまり、誰が提案できて、誰が承認すればひな形をアップデートできるのかを仕組み化するのが、継続的なアップデートの秘訣です。

ある企業では、法務のメンバーは誰でもいつでもひな形のアップデートの提案ができ、その提案に対して、特定のメンバーが承認をすることで、ひな形のアップデートが完了するというルールを運用していました。プロセスが非常にシンプルなので、どんどんひな形がアップデートされているとのことでした。

前述した一般条項の条項集と連動させることができれば、さらにひな形のアップデートはスムーズに進むでしょう。

ひな形「統一化」の流れ

ひな形は、個社が保有するのがこれまでの「当たり前」でしたが、ひな形を公開し、更に広い範囲で活用する、いわばひな形のオープンソース化を促す流れが近年目立ってきています。

①経済産業省提供ひな形

NDAなど基本的な契約類型に関しては、(統一化するという趣旨まではないと思われますが)ひな形を提供するという形で経済産業省が「参考例」を公開しています。実務家の先生方が作成のプロセスに関わっている点で信頼感があり、実際に自社のひな形として経産省ひな形を活用している例もあります。
なお、本ひな形のMicrosoft Word形式については、「サインのリ・デザイン」にて提供されています。

②NDA統一化プロジェクト「OneNDA」

新たなひな形を提供するということからもう一歩踏み込み、コンソーシアム型のモデルをとったのがこの「OneNDA」です。
まだまだ多くの企業が様子見といった状況ですが、少しずつ事例や活用に向けたベストプラクティスも公開されてきており、更に大きなムーブメントになることが期待されます。

なお、こうした業界の大きな潮流については、OneNDA発起人のHubble社CLOの酒井が以下の記事に寄稿していますので、是非ご覧ください。

審査の基準のブレを解消する「プレイブック」

プレイブック作成のメリット

プレイブックとは、契約書のレビューに当たっての審査基準を指し、米国など海外では標準的に用いられているものです。
契約書の審査基準を明文化することにより、契約書審査における基準のブレを低減することができます。

現在の日本においては、プレイブック自体は必ずしも定着しているとは言えず、組織として統一的な審査基準を設けているケースは多くありません。ただ、法務人材の流動性が上がっている昨今では、新たに加入したメンバーがすぐに当該企業で「適切な」レビューを実施するための手段として必要性が上がっているものと思われます。

プレイブック作成のTips

すぐに効果が出るのは、自社ひな形の修正パターンをプレイブック化することです。
従来から自社ひな形に対して、相手方からどういった修正提案があり、これに対してどういったリアクション(採用の適否と対案)をとってきたかをパターン化することで、修正対応の過程を見える化し、またメンバーの入れ替わりによる審査基準のブレも解消することができます。また、形式的に判断が可能な条件であれば、この点の判断を事業部門に委ねてしまうことも可能になります。

こうしたことを実現するためには、今からでも、自社ひな形に対してどういった理由でどういった修正要求が相手方からあったのか、またこれに対してどういったリアクションを法務としてとったのかを、何らかの見える形で残しておくことが非常に重要になります。

近年では、AIレビュー機能を備えるリーガルテックで「自社基準」を登録してレビューする機能を備えるものも出てきているため、よりプレイブックを作りやすい環境になってきています。

自分の作業の再現性を向上する「マイルール」

マイルール作成のメリット

最後に、自分の行動パターンについて一定の再現性を担保できるように、自分なりの契約を読み進める順番や手順の統一(マイルールの設定)をご紹介します。
この点は、いわば「当たり前」となっているのか、世の中に出ている情報があまり多くない印象です。
以下はあくまで一例となりますが、例えば、以下のようなポイントに関してマイルールを設けてみると良いでしょう。

  • 定義条項がある場合には、先に全て読むのか、都度読むのか
  • 1回目に契約書に目を通す場合には、いきなり本文を直すのか
  • 読みながら気づいたポイントをどこにメモするのか
  • 社内向けのコメントはどこに記載するのか
  • 案件はどのように図解するのか
  • 形式面のチェックはいつ実施するのか
契約書を何回読んでレビューするか?

契約書によって各規定の順番や言葉の言い回しは必ずしも一定ではないため、特に相手方の雛形をレビューする場合は、少なくとも3回、目を通すことをオススメします。
例えば、1回目は大枠を把握する趣旨でざっと全体に目を通します。2回目で改めて細かく見ながらレビューをし、最後に形式面を整える趣旨で、もう一回通読するといったイメージで、各回で目的意識を持って読み込んでいくと良いでしょう。

マイルール作成のTips

非常に重要なことは、自分に合うルールを見極めることです。
こうしたルールは、最初に所属した組織の先輩方の影響を受けることが多いと思われますが、それが全てにおいて自分に合っているかはやってみないとわかりません。

かくいう筆者も実は法務の時に、そこまでマイルールを多く持っていたわけではありませんでした(正確には試したものの、定着しなかったものが多かったです)。
ただ、形式チェックを実施するタイミングやメモを残す場所、案件の図解方法は一定のルールに基づいて運用し、これがミスの低減や効率的なレビューに繋がっていた実感があります。他の方が実践しているルールを参考にし、時には試しながらも、実際に自分にフィットするルールを見つけることが最重要といえます。

まとめ

この記事のまとめ
  • 現代の法務の契約書作成における基本動作
    • 質とスピードを両立するために過去の契約の「コピー&ペースト」が当然の動作
  • 契約書の最小単位たる「条項集」作成のメリットとTips
    • 素早く必要な条項を探し当てて、活用することが可能
    • 条項集にする対象の選定と引用のしやすさにフォーカスする
  • 自社のベストな取引条件たる「ひな形」作成のメリットとTips
    • 自社にとって最も良い条件での契約締結に(最小の工数で)結びつけられる
    • アップデートのプロセスを明確にする
  • 審査基準のブレを解消する「プレイブック」作成のメリットとTips
    • 審査の基準を標準化でき、客観性ある基準であれば、判断を委譲することが可能
    • 自社ひな形に対する相手方からの変更提案のストックが必要
  • 作業の再現性を上げる「マイルール」作成のメリットとTips
    • 自分の作業手順の明確化とアウトプットの再現性向上
    • マイルールの作成を目的にせず、自分に合った方法を絶えず探し続ける

お役立ち資料のご紹介

株式会社Hubbleが2022年に実施した、契約書のひな形に関する調査レポートを公開中です。
実際に様々な規模の企業に所属する企業法務パーソンが、どういった契約類型に対してひな形を用意して備えているのか、自社ひな形の利用割合や改定のタイミングなどについてもレポートされていますので、是非ご覧ください。

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