【一人法務・管理職の方必見】法務のプレゼンスを高めるためには

この記事でわかること
  • 組織内で法務のプレゼンスが低い、と言われる理由
  • プレゼンスを高めるために有効と思われる具体的アクション

本稿では、先日公開した株式会社SHIFTの照山様のインタビュー記事を出発点として、どのようにすれば、会社における法務のプレゼンスが高まるのかという問題について考察します。照山様のインタビュー記事も、ぜひ併せてご覧ください。

目次

法務のプレゼンスとは

プレゼンス(presence)とは、「存在」や「存在感」という意味を持つ言葉で、近年ではビジネスの現場でも使われる機会が多くなってきています。

会社や組織において、法務は他の部門からどのように見られているでしょうか。「法務の意義や役割がよくわからない」「法務はコストセンターである」という印象のもと、そのプレゼンスの低さに頭を抱える担当者も多いと思います。こうした状況を変え、法務のプレゼンスを高めていくには、どのような取り組みが必要でしょうか。

法務のプレゼンスが低い企業が多い理由

経営法友会が実施している「第12次法務部門実態調査」の中間報告(2020年実施、経営法友会会員企業や上場企業など1233社回答)によれば、法務部門が経営陣から「(非常に)頼りにされている」と感じる割合は8割を超えるとされ、2015年に実施された前回調査からは、10%程度良化しています。なお調査結果の詳細は、米田 憲市編、経営法友会法務部門実態調査検討委員会著『会社法務部〔第12次〕実態調査の分析報告』(商事法務、2022年)をご参照ください。

もっとも、ヒアリングを実施していると、特に小規模法務を中心に法務のプレゼンスが低いと考えている企業は多いようです。それはなぜでしょうか。

原因の一つとして、会社内で、法務が事業にどのように貢献しているのかが理解されづらい、という点が挙げられます。そして、これは下記のような事情に起因すると考えられます。

法務の皆様からすると、少し耳の痛い話かもしれませんが、一つ一つ見ていきます。

法務の業務内容や背景が理解されておらず、時間をかけすぎだと思われる

「この契約書、今日中に見ていただけますか?」

こんな依頼、一度は受けて、おいおい…と感じたことはありませんか?
法務の仕事は専門性が高い一方で、多くの場合アウトプットの機会が限られています。例えば、契約書のレビューの場面では、基本的にレビューしたドラフトが法務のアウトプットになりますが、それが生まれるまでに行われた、顕在化しうるリスクの検討、それらの契約書上での取り扱いの確認、関連する法令などのリサーチといったアクションは、事業部の担当者、ひいては経営陣には必ずしも明らかではありません。

こうした「作文の推敲」とは異なるアクションがあることを知ったら、契約書のレビューを突然依頼されたその一日でレビューするのはなかなかに難儀すると、経営陣や事業部門にも理解してもらえるはずです。

案件を進める役割よりも、ストッパー的な役割が強調されがち

案件について法務に相談したところ、思いもよらないリスクを指摘され、その対応のために締結までの時間がかかってしまった……。経営陣や事業部門がこのような経験をするうちに、法務部門はビジネスを進めていく味方であるという前提が忘れ去られてしまうことがあります。

「うちの法務はビジネスのことをわかっていない」

「法務に相談すると余計に時間がかかる」

「法務の指摘に全部対応していたら、ビジネスが進まない」

by 某社の事業部門のメンバー

こういった表現をされてしまっていたら、まるで法務は社内と敵対している関係かのようですね。

与えられたタスクをこなすだけの融通の利かない組織と思われる

経営陣や事業部門から見た場合に、法務は言われたこと「だけ」やっていると思われていることがあります。この場合、法務は融通が利かない組織として、事業部門から法務に相談するのに、ハードルが高いという印象をセットで持たれていることも多いです。
こうした印象が定着してしまうと、法務に相談が集まらなくなり、法務が会社に貢献できるポイントがどんどん狭くなってしまい、プレゼンスも低下する一方となってしまいます。

上記の3つの事象は、法務としては非常に悔しい気持ちになるものばかりです。しかし、仮にこのような状況であれば、法務にとってはプレゼンス向上のチャンスしかありません。それを以下で見ていきましょう。

プレゼンスを高めるために必要なこと

繰り返しになりますが、上記のような理解や印象も、事業部門の、法務の業務内容や意義に対する理解の不十分さが根底にあります。この状況において、契約書審査や法律相談に受動的に対応しているだけでは、法務のプレゼンスは高まりません。

では、法務はいかにしてプレゼンスを高めることができるのでしょうか?

ここでまずは、法務サービスを受ける法務の「顧客」を定義してみましょう
法務の顧客として、最もわかりやすく、かついかなる会社でも共通となりそうなのは、①経営陣(会社)や②事業部門と考えられますので、本稿では、「対経営陣」および「対事業部門」という観点から、法務のプレゼンスを向上させる方法を見ていきます。

経営陣に対して

①法務が果たすべき役割について経営陣と合意する

プレゼンスを高めるために、何よりも重要なことは、企業が目指す方向性やビジョンに沿う形で法務が果たすべき役割について経営陣と合意することです。
近年では、ガーディアンとしての機能はもちろん、事業と経営に寄り添って、積極的に戦略を提案するナビゲーターとしての機能が法務に求められる場面も増えてきています(参考:「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」(経済産業省))。時にはリスクを抑えるリスクマネジメントだけではなく、良いビジネスチャンスを増やすため、適切なリスクテイクのサポートをすることも必要です。

その一環として、企業が目指す姿へ向かうに当たって、法務として何が必要なのかをディスカッションし、求められる役割を定め、明文化しておくことをお勧めします。

もっとも、上記の「求められる役割」について、単に業務分掌規程や権限規程に、業務や権限という切り口で記載するのみでは、法務が果たすべき役割の意識の浸透を図ることは難しいでしょう。例えば、クレドやミッションの形で法務としての意思表明をしたり、人事評価の要素にクレド・ミッションを追加したりするなどして、日常的に「求められる役割」を意識する環境を作ることが肝要です。

企業が目指す姿に沿った「法務の役割」が決まれば、これに沿った具体的目標を定めることができます。この目標は、定性的なものばかりではなく定量的な要素も含めることができれば、より経営陣と良いコミュニケーションができるでしょう。法務の役割の決定における経営陣との具体的なコミュニケーション方法については、下記の記事にも記載されています。

②どのような仕事をしたのか振り返り、報告する

前述した役割を決めて、目標を立てて実践したら、その役割を全うできたのかを振り返り、経営陣に対して報告することも必要になります。これがプレゼンスを高める2つ目の要素になります。

これにより、

  1. 法務が果たすべき役割を果たしているか否か、現状の法務の課題がどこにあり、どのように対策するのか
  2. 法務の仕事のスピードとクオリティがどの程度向上しているのか
  3. 人的リソースの配分状況とビジネスの成長がきちんとバランスしているのか

などを示しやすくなり、「与えられたタスクをこなしているだけ」という印象の法務から、少しプロアクティブな印象を与えられるようになります。

この際に、前述したような定量的な要素があれば、振り返りしやすいのは言うまでもないでしょう。法務業務のどの業務にどのくらい時間を割いているか、前年と比較してどうか、それは法務が果たすべき役割と照らして合理的なものか、改善する余地はあるか……など、法務の評価・改善に資するような指標をあらかじめ可視化しておくことができれば、振り返りも有意義なものとなります。言い換えれば、経営陣にアピールしたい指標をきちんと可視化しておくことが肝要とも言えるでしょう。

手軽な可視化の方法としては、比較的定型的な契約業務について、エクセルやスプレッドシートなどの表計算アプリケーションを用いて工数管理することが考えられます。契約業務に関して、実際に定量化する際の指標の例は、当社のメンバーが下記の記事にもまとめています。

したたかさも必要?

「うちの法務が頑張ってくれている」と経営陣から認識してもらうためには、ある程度したたかに、活躍する場所を選ぶことも必要になるかもしれません。

以下のインタビューでは、M&Aや知財などのプレスリリースに載る案件へ関わることの重要性が紹介されています。個人でも組織でも重要なアクションになると思われます。

事業部門に対して

続いて、「対事業部門」という観点からできるアクションを考えていきます。

①法務に対する期待値の調整を行う

前述の通り、各種の法務業務について「時間をかけすぎ」と事業部門から思われている理由の一つに、事業部門の、法務の業務内容や意義に対する理解の不十分さがあると考えられます。このために、事業部門の法務に対する期待値と、実際の対応スケジュールにズレが生じているのです。

こういったズレを埋めるには、初動の速さと正直さがキーポイントになります。具体的には、下記のような事情を早めにレスポンスをして伝えておくことが重要です。

  • 本件はどのくらいの時間がかかりそうか
  • 急ぎの案件が立て込んでおり、順番の対応となってしまうこと(それでも問題ないかの確認)
  • 個別のリサーチや顧問弁護士への相談が必要な場合はその旨

上記のような事情を正直に回答することで、案外理解をしてもらえるケースが多いです。
個別案件に限らず、実際に「秘密保持契約なら平均回答期間は2営業日」といった平均所要時間のアナウンスを社内向けに予め実施しているケースも多く見られます。
法務としては、一度案件に軽く目を通して、「必要な工数を読む力」を養っていくことが必要です。

「本当に急ぎの案件なのか判断できない」問題

事業部門との調整という観点では、そもそも「急ぎ」であるか否かは、法務側では判断がつかないことが多いと思われます。そういった場合には、事業部門に判断してもらうということも一案です。
下記の事例では、現在法務で処理している案件の一覧や数などを公開しておき、案件が立て込んだ場合には、事業部間で調整してもらうという手法をとっています。

また、下記の事例では、オリジナルの「ロケットスタート制度🚀」を設けて、案件の優先度判断を事業部門(のマネージャー)へ委ねています

②事業部門が相談しやすい環境をつくる

前述の通り、法務のストッパー的な役割が強調され、また融通が効かない、堅い組織で、結果として「相談の敷居が高い」と思われるケースがあります。

こうした状況に対しての対処策としては、やはり事業部門との適切なコミュニケーションを意識的に行い、事業部門が相談しやすいような雰囲気や関係性を構築していくことが非常に重要です。

a. 使う言葉に注意を払う

法務には法務の専門用語があり、また事業部門には事業部門の専門用語があります。全てを使いこなすのは難しいですが、少なくとも法務の専門用語ではなく、平易な日本語で事業部門と話そうとすることが法務に対する相談のハードルを下げるきっかけになります。
また、専門用語ではないですが、あまり普段使わない言葉づかいや漢字も特段必要がない場合には、用いない方が良いでしょう。「若しくは」や、最近は目にすることは減りましたが「乃至」「雖も」といった表現も、テキスト上はあえて漢字で書く必要はないですよね。

下記のインタビューでも、経営や事業と目線を合わせる手段として共通言語で話すことの重要性が語られています。

b. 社会人としての一般的スキルを疎かにしない

特に「法務はお堅い」というイメージを持たれている場合には、話しやすい印象を事業部門に与えることが重要です。こうしたイメージの払拭には、一般的な社会人スキルが意外に効果的です。
例えば、どんな相談を受けても嫌な顔をしないこと、話を聞く際にはきちんと相手方に向いて話を聞く、挨拶をきちんとする、といったことです。法務の「顧客」が事業部門であるなら、顧客に対する当然のアクションといえますが、非常に重要な視点です。
下記の記事でも、こうしたちょっとした所作について言及されています。一人法務だけでなく、全法務パーソンにとってなポイントですね。

c. 企業の一員として、企業内の活動にも無理のない範囲で参加してみる

事業部門のメンバーも人間ですので、本丸の業務以外で接点を持った方には、親近感が湧き、より丁寧に対応してくれたり、気遣ってくれたりします。
そういった観点では、少し努力目標的ですが、例えば社内のイベントにはなるべく参加してみたり、雑談を積極的に行ったりすることも有用です。チャットツールを活用している企業であれば、リアクション👍やスタンプを少し積極的にしてみることも良いかもしれません。

③事業部門に「法務がいて助かった」と思われる仕事をする

ここまで、外堀を埋めてきましたが、最終的には、やはりアウトプットが非常に重要なのは強調しても強調しすぎることがないと言えるでしょう。法務がビジネスを共に進めていく味方であり、法務がいてくれてよかったと思ってもらえるような仕事をすることで、法務のプレゼンスを高めていきます。

とはいえ、専門的な内容の議論の緻密さや素晴らしさは事業部門には大抵理解してもらえません。そのため、以下の点に配慮できると良いのではないでしょうか。

a. 所属企業に特有な情報の取得・把握を行う

ここが最も重要だと思われます。
きちんと社内の情報を把握した上でのアドバイスか否かによって、アウトプットの質に大きく差が出ます。特に法務との関連で必須なのは、下記の通読と内容の把握です。

  1. 自社の契約の雛形
  2. これらに紐づく基本的なビジネスモデル
  3. 承認規程や権限規程などの主要な社内規程

これらについての質問がパッと答えられないと、いくら高度な議論ができたとしても、社内に法務がいることの価値を感じてもらえる場面が、かなり減ってしまう可能性があります。

b. 個別案件の情報整理役を買って出る

特にプレゼンスを高めたい、と言うフェーズでは(仕事は増えますが)必要なアクションです。
経験したことがある方も多いと思いますが、大抵法務に相談がくる場合には、その相談内容と背景が整理されているケースは少数です。こういった場合に法務がその情報整理役を買って出ることを試してみると良いでしょう。

直接法的論点に関する事実関係を整理するのはもちろんですが、例えば「このスキームは、会計上の処理の確認ってできていますか?後から問題になると皆さんも面倒だと思うので、先に確認してみるといいかもですね」や「この開発リソースの確保って大丈夫ですか?この前開発チームが相当パツっているって聞きましたけど…」など、社内外で自分が入手した情報に基づいて、情報を整理して相談・確認を促すことを実践してみましょう。

最初はピントがずれた指摘をしてしまうケースもあるかもしれませんが、こうした姿勢が相手に悪い印象を与えることは稀ですので、社内の情報にも積極的にアンテナを立てておくことをお勧めします。

最後に

最後までお読み頂き、ありがとうございます。
本稿で紹介してきたように、他の部署との間では、どうしてもお互いの業務の全体像が見えづらくなります。そして、こうした傾向は、企業規模が大きくなればなるほど顕著になります。そういった中では、法務の皆様から少し歩み寄り、非法務の部門との関係性をきちんと築いていくことが、結局のところプレゼンス向上の近道になり、外部専門家との明確な差別化された皆様の価値になります。
少しでも本稿が皆様の会社での法務プレゼンスの向上に役立てば幸いです。

この記事のまとめ
  • 組織内で法務のプレゼンスが低い、と言われる理由
    • 時間やその役割から、事業への貢献度が低いと思われがちであるから
  • プレゼンスを高めるために有効と思われる具体的アクション
    • 経営陣に対して:果たすべき役割を設定・合意して、一定期間経過後、振り返る
    • 事業部門に対して:事前に期待値調整をしつつも、相談しやすくまた頼りがいのあるアウトプットを出す、必要な要素として
      • 所属する企業に関する情報をきちんと集める
      • 情報整理役を買って出ること、など

ウェビナーアーカイブ配信のお知らせ

Hubble社のCLOで弁護士の酒井と企業法務経験者の山下が本記事にもあるように、法務のプレゼンスを高める活動の一環として、どのように契約交渉に事業部門とともに臨むかを、実際の経験も踏まえてご紹介しています。ぜひご覧ください!

上記ウェビナーの資料から抜粋、事業部門から判断を丸投げされたらどうするか?などを解説しています

本記事の著者情報

山下 俊(やました しゅん)

2014年、中央大学法科大学院を修了。日系メーカーにて企業法務業務全般(主に「一人法務」)及び新規事業開発に従事しつつ、クラウドサインやHubbleを導入し、契約業務の効率化を実現。
2020年1月にHubble社に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2021年6月からLegal Ops Labの編集担当兼務。2023年6月より執行役員CCO。

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