今だからこそ取り組みたい、忙しい法務に効く「見える化」

この記事でわかること
  • 一般的な「見える化」の意味と効果
  • 法務において今「見える化」を進めるべき理由
  • 法務において今「見える化」を進めるべき領域
目次

はじめに

みなさん、こんにちは!

今回は、期待値が高まり、かつ日常業務に忙殺されている法務の皆様の業務をより効率的に、また一歩高品質化するための手段として、改めて「見える化」の重要性をご紹介します!

みなさんの今、そして近い将来における業務の効率化を進めるために重要なことは何かを是非考えながらお読み頂けると嬉しいです。

「見える化」の意味

そもそも「見える化」とは、主に製造業の製造現場で「これまで見えていなかった問題を見えるようにすること」を指す言葉でした(遠藤功『​​見える化-強い企業をつくる「見える」仕組み』(東洋経済新報社、2005年))。発祥は日本のトヨタ社であるとされています。

現在では、製造業以外の業種でも「見える化」の言葉が使用されるようになり、「可視化」(※)という言葉とも併用されることもありますが、「企業活動上発生するさまざまな問題をいち早く発見し、解決を促進するため」に見える化が必要とされていることは変わりません。つまり、見える化をする目的は、自律的に組織が問題を発見し、いち早く解決することができるようにするためということになります。

(※) 可視化も「見えないことを見えるようにする」という点では変わらないが、「見える化」は(いやでも)自然に目に入ってくるという点に違いがあると表現されます。

「見える化」のメリット

遠藤功『​​見える化-強い企業をつくる「見える」仕組み』(東洋経済新報社、2005年)を元に、Hubbleにて作成

なぜ、見える化をすることによって問題解決も早くすることができるかというと、これまで見えなかったものが見えることで、新たな気づきを得ることができるようになり、それが自分やチームのメンバーの一段深い思考や他者とのコミュニケーションに繋がり、結果として問題解決行動へいち早く繋げることができるようになるからです。

その意味では、現に組織として活動するチームや近い将来組織として活動する方においては、従来から「見える化」することは重要だったといえるでしょう。

今、法務・契約業務で見える化を推進することの意味

高まる法務人材の流動性への対応

ここ10年くらいで、法務人口は増え、その流動性も増しています。

ロースクール卒や弁護士資格保有者など、実務に出る前から法的素養を持っていた方が企業の法務部に所属するケースが増え、その一方で転職する方も増えてきました(参考となるデータとして、米田憲市 編、経営法友会 法務部門実態調査委員会 著『会社法務部〔第12次〕実態調査の分析報告』(商事法務、2022年)P30,P40,P57など)。筆者も日頃接している法務の方々が、気づくと他の企業に転職されたり、他の部門へ異動されたりする場面に遭遇することが増えていると感じます。

このように、人材の流動性が高まると、一定の頻度でメンバーが入れ替わることが想定され、その度に業務の引き継ぎが発生します。法務でも自社や相手方との間で積み重ねてきた実務の延長線上に、次のアクションが存在するため、新たに加入したメンバーが早期に戦力となるためには、「過去にどういったことが法務組織や個別の案件で行われてきたのかが、すぐにわかる状態になっていること」が非常に重要になります。
これは仮に今一人法務であっても、近い将来にメンバーが加入することを想定するならば、同様に重要になります。

加えて、求職者もテクノロジーを駆使して見える化の進む法務組織に対しては、自らが加入した後のオンボーディング(組織への適応)のイメージがより具体的になり、安心感を覚えるでしょう。その意味では、まだまだ各社で取り組み状況に差がある2022年現在においては、以下の事例でも言及がある通り、見える化を推進するツール導入が採用時のアピールポイントにもなり得ます。

忙殺される法務に「車輪の再発明」をさせない

Hubble社主催ウェビナー「教えて、法務メディアの編集長!契約DX導入による課題解決の最新事例」の資料より抜粋

近年法務に求められるものはどんどん増えてきています。天災や疫病のような新たなリスクへの対処はもちろん、「攻めの法務」の言葉に代表されるように、一定のリスク低減を行いつつ、事業をドライブさせる役割を担うことも求められてきています。上記の人材の流動性の高まりも相まって、法務のみなさんは日常業務に忙殺されているのではないでしょうか?

このような状況下で優先度を上げて対処すべきは、日常業務をなるべく効率的に遂行するためのオペレーションを作ることです。

例えば、法務に依頼がある案件で、事実関係や法律関係が全く同一であるケースはまずないと思いますが、その一方で「似たような案件」は非常に多いはずです。
こうした過去の「似たような案件」の対処法を0から考える、いわば「車輪の再発明」をするのは非常に非効率です。本来は、従来検討してきたことを前提に、目の前の案件の特殊性に集中して検討し、対処していくことが望ましいでしょう。そのためには、過去の「似たような案件」に法務としてどのように対処したのかがわかる、見える状態であることが必要になります。

「見える化」すべき領域の具体例

前述の通り、法務においては、今まさに見える化が必要であること、そしてこれを実施することで一定の効果が見込めることをお分かり頂けたのではないでしょうか。
とはいえ、何でもかんでも見える化すれば良いというわけでありません。最後に、以下では実際にどの領域を見える化すると効果が出るのか、具体例をご紹介します。

業務の基準の見える化 -条項集・雛形・プレイブック-

効率化に着手しやすい契約業務においては、まず自分達のチームが「一定の水準」と位置付ける素材(雛形や条項集、プレイブックなど)を用意して、否が応でも参照する必要がある状況を作ることが最初のステップと言えるでしょう。

チームとしての基準が見えることで、目の前に書かれていることが異常なのか、許容できる程度の違和感なのかを(場合によっては他のメンバーと相談しながら)評価し判断することができるようになります。

これは仮に一人法務であっても、常に安定したアウトプットを出し続けるためには必要なアクションといえるでしょう。

業務経験の見える化 -日常業務の対応履歴-

次に、日頃の契約案件や法律相談案件の対応の状況や結果を法務組織内で共有(検索などを通して自然と目に入ってくるように)しておくことで、同様の案件に対応する際に、過去の検討経緯を参照することができます。前述のとおり、過去の対応例を出発点にしつつ、最短距離で当該案件に即した対応を行うことが可能になります。

こういった、いわば業務経験の追体験にも似た仕組みを構築できると、新たに加入したメンバーにとっては勿論のこと、法務経験が豊富ではないメンバーもその経験値の不足についての不安が軽減されるため、環境づくりの側面で非常に効果的です。

なお、文字通り「同じものを見る」という観点が事業部門との効率的なコラボレーションに資すると考えることもできます。以下の記事では、「デザイン」という一見すると法務とは無関係な職種が、どのようにデザイナー以外と効率的に業務を進めているのかを考察しています。

組織の状況の見える化 -現在の案件対応状況一覧-

さらに、管理職の方々からすれば、組織の状況をダッシュボード化するなどして見える化を推進することで、その本来の意味である、組織の問題点を把握し分析することができるようになります。

例えば、組織内で発生しやすい問題といえば、一部のメンバーに業務が偏り、結果として業務が滞っているといった問題が最たるものでしょう。この場合であれば「担当者ごとの対応中のステータスになっている案件の数」が見える化されていれば、簡単に組織に潜む問題点に気づくことができます。

更に、一部の事業部門から同様のテーマに関する相談が集中しているなど業務や組織を俯瞰して見た際に、問題点に気づくことも可能になり得ます。この場合であれば、組織内での回答の型化や一斉アナウンスで対処すべきという結論になっていくでしょう。

まとめ

この記事のまとめ
  • 一般的な「見える化」の意味と効果
    • 見える化は、これまで見えてこなかった問題点を見えるようにすることを指す
    • 見える化によって、個々人の気づきや思考を深めたり、組織内の対話が増え、行動量が上がる
  • 法務において今「見える化」を進めるべき理由
    • 人材の流動性の高まりに伴う人材の入れ替わり(早期戦力化)への対処のため
    • リソースが限られた法務が、忙殺される中で、効率的・効果的に業務を遂行するため
  • 法務において今「見える化」を進めるべき領域
    • 判断基準となる「条項集、雛形、プレイブック」
    • 業務経験を追体験できる「日常業務の対応履歴」
    • 組織の状況の改善に寄与する「案件対応状況一覧」

本記事の著者情報

山下 俊(やました しゅん)

2014年、中央大学法科大学院を修了。日系メーカーにて企業法務業務全般(主に「一人法務」)及び新規事業開発に従事しつつ、クラウドサインやHubbleを導入し、契約業務の効率化を実現。
2020年1月にHubble社に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2021年6月からLegal Ops Labの編集担当兼務。2023年6月より執行役員CCO。近著に『Legal Operationsの実践』(商事法務)がある。

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