プレスリリースに載る仕事をせよ! 法務人材の活躍の場を広げるためのキャリア論 -弁護士ドットコム株式会社 橋詰卓司氏- <後編>

長年の法務キャリアを活かし、現在は弁護士ドットコムでクラウド型電子署名サービス「クラウドサイン」などのマーケティング&リーガルデザインを手掛ける橋詰卓司氏。前回のインタビューからは、「給与を上げる」という一貫した行動原理のもと、法務の枠を超えた幅広い仕事に挑戦している姿が浮かび上がってきました。そこで今回は橋詰氏に、法務人材の活躍の場を広げるためのキャリア論をお聞きしました。

〈聞き手=山下 俊〉

目次

みんなが逃げるような仕事を拾って、信頼を得て、次の仕事に繋げる

山下 俊

前回のインタビューでは、給与を上げるために創意工夫をされてきたと仰っていましたが、橋詰さんがこれまで意識して取り組んでこられた具体的事例があれば教えてください。

橋詰 卓司

プレスリリースに載る仕事をする、ということでしょうか。
私は前職で自分の仕事がどれだけプレスリリースにつながったか、カウントするようにしていました。法務でそうした意識を持って仕事をしている方はあまり見たことがありませんが、「プレスリリースに載った案件で法務ががんばっていた」となれば、経営陣からの信頼を得ることができますし、給与交渉の材料にもなります

山下 俊

実際に「プレスリリースに載る仕事」となると、どういったものが想定されますか?

橋詰 卓司

一番わかりやすいのが、M&Aですね。M&Aは買う方も買われる方も社長にとっては一大事です。そのときにきちんと法務が支えていたら、やはり印象は良くなります。
また前職では、なるべく多くの特許を取るようにしていました。特許庁が公表している国内企業の特許出願件数ランキングに掲載されたこともあります。法務起点でプレスリリースに掲載される仕事は何かという観点で見てみると、いろいろと考える余地はあるように思います。

山下 俊

プレスリリースにつながるような案件に携わるための動きも必要になるかと思います!

橋詰 卓司

お呼びが掛かる状態をどう作るかということですよね。
こういう話題になると「現場に寄り添って……」という精神論になりがちですが、要は、相談したいときにそこにいるかどうかということなんだと思います。

山下 俊

物理的なアクセスのしやすさ、ということですかね?

橋詰 卓司

土日や深夜に大変なことが起こってみんなが見て見ぬ振りをしている状況で、「何か手伝いましょうか」と言える人がいたら、頼りたくなりますよね。その案件がプレスリリースにつながるかどうかはシビアに判断すべきですが、そうやって会社を背負って仕事をしている人に恩を売っておけば、信頼関係が構築でき、次の仕事も一緒にやろうということになる。

橋詰 卓司

それは、精神論でいうところの「現場に寄り添う」ことになるのかもしれませんが、1件1件すべて丁寧にやるということではなく、ポイントを見定めてしたたかに仕事を取ってくるという意識が必要だと思います。みんなが逃げるような仕事を拾って、信頼を得て、オイシイ仕事を狙っていく、というイメージです。

法務にも競争が必要。法務部内のナレッジマネジメントは無駄!?

山下 俊

事業部門に働きかけて積極的に仕事を取ってこようとする場合、マネージャーが仕事を振るべきなのか、振らないほうが良いのか、橋詰さんはどちらだとお考えですか。

橋詰 卓司

メンバーが自分で取りに行くようにすべきではないでしょうか。
「なんか良い案件があったら回してよ」と自ら事業部門に営業して、法務部員同士で競って仕事を取りに行くマインドは必要だと思います。仕事が回ってこなくなるようなら、それは信用されていないだけ。そういう人にかわいそうだからといってマネージャーが仕事を回したとしても、会社のためにはならないですよね。能力のある人に能力が必要な仕事をしてもらうほうが良いはずです。

山下 俊

法務部門にも競争が必要ということだと思います。
そうした考え方のもとでは、チーム内でナレッジをシェアしようという昨今の流れはどのように捉えられていますか?

橋詰 卓司

全従業員の法律知識というナレッジであれば、ある程度シェアしておいたほうが会社全体の効率は上がるように思います。ただし法務部内のナレッジマネジメントとなると、方向性を誤らないように気をつけた方がいいと思います。
特に、「メンバー全員のナレッジを平準化しよう」とする考えは、個人的に無駄だと感じています。

山下 俊

なるほど!それは中々耳にしないお話かもしれません。

橋詰 卓司

知識は使わないと錆びていくものなので、あるメンバーにとっては使う頻度が少ない知識を植え付けている時間がもったいないですよね。必要な知識は、仕事をしながら本を読んで調べるというのが普通の態度だと思います。
今日頼まれた仕事に関する知識は今日のうちに身につけて、明日にはアウトプットするというスピード感で世の中は動いているはずです。部内勉強会を実施したり、部内ナレッジシェアリングシステムをつくったりして、そこに知識を溜め込んでいったところで、それが必要とされるニーズやタイミングには永遠に追いつくことができません。

法律をわかっていることが特殊能力だと思わないように

山下 俊

今、橋詰さんは法務というよりはマーケター的な動きをされている印象が強いです。法務の次のキャリアを考えるにあたって、どのように仕事の領域を広げていけばよいのでしょうか。

橋詰 卓司

法務のネクストキャリアとしては、「ルールメイキング」が想像しやすい領域だと思います。ただ、自分の5年間の活動を振り返ってみると、みなさんが思っているような世界とは少し違うように感じています。法務の知識や論理性よりも、馬力のほうが求められる仕事なんですよね。

山下 俊

興味深いポイントです。その内実を教えてください!

橋詰 卓司

一般的な法務では関わってこなかったような政府や中央官庁の方々に対し、自分の話を聞くことがメリットだと思ってもらえるような状態を作り上げそのうえで当社の主張を強く打ち出していく、といった動きが必要になります。
そのためには、図々しくもビジョンを語って、そこに賛同する人を1人ずつ地道に増やしていける人も必要ですし、緻密に考えたり理論武装したりする人も必要です。そうしたたくましさをもっている人であれば、ルールメイキングはチャレンジしがいのある領域なのかもしれません。

山下 俊

ありがとうございます!
他にも法務がそのキャリアを広げていける領域はあるものでしょうか?

橋詰 卓司

私は前職で投資のマネジメントにも携わりました。
投資というプロセスには法的知識が必要な場面も多いので、法律を理解している人のほうが効率的という見方も確かにできるように思います。ただ、投資をするということは、アクセルを踏むということ。ブレーキを踏むことばかりに慣れていた法務にとっては、難しい面もあるように感じます。
自分自身も、アクセルを踏みながら心のなかではブレーキを踏んでいる状態で、正直人格が破綻しそうになりましたね…。

山下 俊

さて、最後になってしまいますが、法務の可能性や価値を高めていくにあたっては、どのような心構えが必要になるでしょうか。

橋詰 卓司

法律をわかっていることが特殊能力だと思わないようにすべきです。法律は、誰もが守るべきものであり、知らないと損をするものなので、本来は社員全員が知っているほうが良いことです。だけど、ほんとうに社員全員が法律を理解するまで待っていたのでは、ビジネスのスピードに追いつくことができないため、法務部門が皆の代わりにその役割を担っているだけ。そこが好きだとか得意だということを鼻にかけるような部署であってはならないはずです。
本来は皆ができて当たり前のことを、代理でやっているという気持ちでいるほうが良いと思います。

山下 俊

ここは肝に銘じておく必要があるところですね!

橋詰 卓司

はい。でも、せっかくやるんだったら、法律をきちんと押さえているからこそ効率的に進められる領域の仕事をなるべく多く見つけて、臆することなくそこに突っ込んで、プレスリリースに載るような案件にすべく、主体的に進めていく。
こうした考え方でいると、自然と仕事の幅は広がっていくのではないでしょうか。

橋詰 卓司

幸いにも、法務部門は常に相談が寄せられる側であり、会社にとって重大なことが起こるときには最新の情報が勝手に集まるという強みがあります。恵まれた環境がせっかくあるのだから、法律の仕事はさっさと片付けて、「法律だけの人と思わないでくださいという勢いで、仕事を前に進めるための手伝いをしていく。そういう態度を繰り返していれば、知財やルールメイキング、投資マネジメントにとどまらない、これまでにはなかったパターンの新しい活躍の領域が見つかっていくかもしれません。

山下 俊

ありがとうございます!
前後編通じて、本当に幅の広いお話をお聞きできたと思います!


★今回のLegal Ops Star★

橋詰 卓司

弁護士ドットコムクラウドサイン事業部「サインのリ・デザイン」編集長。電気通信業、人材サービス業、Webサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業など上場・非上場問わず大小様々な企業で法務を担当。主要な著書に『アプリ法務ハンドブック』(レクシスネクシス・ジャパン、2015年)や『良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方』(技術評論社、2019年)などがある。弁護士ドットコム社、リクルート社とで共同開発する法務の規約管理を支援するSaaSプロダクト「termhub」の立ち上げにも参画。

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