一人法務の成功に重要な3つのポイントとは?一人法務経験者が徹底分析!

みなさん、こんにちは!

世の中の専業・兼業問わず「法務」と言われる職種の方は、中小企業を含めれば、お一人でお仕事をされていることが多いのが現状です(参考:東京商工会議所実施「中小企業の法務対応に関するアンケート結果」(2019年)P14など)。

こうした皆様を、世は一人法務(ひとり法務)と呼びます。

本記事では、そういった環境にある皆様がより上手く業務が行えるように、一人法務経験者である筆者が、自身の経験と法務の皆様へのヒアリングに基づいて、一人法務の成功に向けた課題とTipsをまとめました。

目次

課題① 事業部門との関係の築き方

法務に相談が集まらないことは、最大のリスク

一人法務ということは、そもそも社内に法務を担当する「専門家」は一人だけです。

このため、仮にその一人が法務として頼りない・相談しにくいとの印象をもたれてしまうと、適切な情報が適時に法務に集まらず、結果としてリーガルリスクを増長させてしまう可能性があります。

特に複数の拠点がある企業では、法務担当者と日常的にコミュニケーションをとることも難しく、上記の問題をより誘発しやすいです。また昨今のリモートワーク環境下だと、ビジネスチャットなどの簡易なコミュニケーション手段が用意されていないと、より法務へ相談しづらい状況になってしまいます。

法務に相談がきちんと集まるために

1. 頼りない、と思われないために

これは一人法務に限られないことですが、まずは正しい知識・適切なスキルを備え、安定的に業務を実行することが重要です。単なる顧問弁護士への「取り次ぎ役」という印象を事業部門に持たれてしまうと、(取り次ぎに価値があるとしても)社内に法務がいることの存在価値を疑われることになりかねません。

知識インプットのための一般的な勉強法は他の記事に譲りますが、少ないリソースで広く法務領域をカバーする一人法務としては、特に新しい世の中の動向、他社法務の実務を知る機会が乏しくなりがちです。昨今は、無料でも良質なメディア・コンテンツが増えてきていることから、基本書や業界雑誌以外に、下記のような受け身の情報収集を行うのも手でしょう。

また、知識レベルの基準値として必須になるのは、実は会社の「基本的情報」です。業務の範囲によって異なる場合もありますが、自社の契約雛形、そして自社の社内規程について、何がどこに書いてあるのかを頭に入れることをお勧めします。

筆者の経験上、社内規程のうち、特に権限規程や承認規程の類は、会社の決裁の基本を成すとともに、他の部門のメンバーが悩みやすい規程であるため、優先的に押さえておくと良いでしょう。

2. 相談しにくい、と思われないために

筆者が見聞きする範囲では、「法務に相談しづらい」という印象を持たれているケースでは、

  • ①事業部門の方々が持つイメージや経験上、法務は堅く、気難しく、ビジネスのストッパーになりがちで、
  • ②それが、現在の法務担当(=あなた)にも当てはまると思われている

ということが多いです。この場合、自身でコントロールすることができるのは②の部分ですが、その解決方法で意外に重要なのは、いわば「社会人の基本的スキル」です。

適切な関係性を築くことができないと、事業部門メンバーに怖がられてしまうという例も…

それは、下記の記事でも言及されていますが、例えば相談者に対して正対して話を聞く(場合によっては隣同士で座って味方感を演出する)、相談に対して嫌な顔をしない、ため息ばかりつかないといったことです。昨今のリモート下であれば、

  1. 社内チャットで「!」などを使ってコミュニケーションを重くしすぎない
  2. (テキストベースなら)「ありがとう」「ごめんなさい」を毎回きちんと書く
  3. (Webミーティングなら)相手の発言中に、話を聞かず他の作業をしているように見られないように注意する

といった本当に基本的な所作が重要になります。場合よっては、チャットのアイコンを自分の笑顔の写真にするということも手かもしれません。とにかく法務も企業の一員で、他のメンバーの味方であることを示すことが重要です。

加えて「面倒見の良さ」も重要になります。
一般的に法務は、事業判断そのものを行うことは少ないですが、事業部門の決定に対して間接的に肩を押したり、ここが決まればGoできると指南するなど、事業を進めるためのガイド役を買って出ることが必要になることもあります。

例えば、事業部門からもらった相談がリーガルマターではなかった場合に、「これは法務の問題じゃないんで。」と突き放すのではなく、「これは税務的な判断も必要そうなので、ちょっと△△さんに聞いてみましょう!」と、事業部門が次になすべき具体的アクションを示すようにします。こうしたことを繰り返すと、あなたは事業を進めるために協力してくれる人だと認識され、とりあえず法務の〇〇さんに聞いておこうという空気が出来上がってきます。

下記の記事では、「リスクヘッジとホスピタリティのバランス」をキーワードに、一人法務としてあるべき姿が語られています。

必然的に業務の領域・量は広がりますが、間違いなく事後に相談されるケースは減るので、事業部門との間で適切な関係性を築くために一度は必要なプロセス、と割り切って臨みましょう。このお話は、社内における法務のプレゼンスを上げていくという動きと連動するので、気になった方は是非、こちらの記事もご覧ください。

更に、得意不得意があるとは思いますが、特に一人法務の状態であれば「人間同士のコミュニケーション」を取れるようになるために、敢えて一歩踏み込んだアクションをとってみることもお勧めです。

例えば、

  1. 全社的な製品リリースイベントに顔を出すようにする
  2. (出社するケースであれば)意識的に他の部署の方とちょっと雑談してみる
  3. (リモート下であれば)ちょっと多めにチャットツールでリアクション👍を残してみる

といった方法もあるでしょう。この辺りは、あくまで副次的なアクションなので、自分が無理せずに続けられるものを行うと良いです。ちなみに筆者は、社内にある同好会のリーダーをやったり、年一回の全社イベントの司会を数年にわたって務めたりすることで、他拠点の方にも効率的に顔と名前や人となりを知ってもらうことができた、という経験があります。

課題② 自己の成長の機会を逃さない方法

やっぱり法務に割ける時間が少ない

一人法務は、そもそも社内に法務を担当する「専門家」は一人だけ、という前提にも拘らず、いくつかの業務を兼ねるなど「兼業」であることが多いのが現実です。それゆえに、物理的に法務としてのスキル習得の機会が限られてしまうことは、多くの一人法務にとって、大きな悩みの種となります。

法務業務は深堀り、非法務業務は切り出す

解決策として、二つのアプローチを示したいと思います。

まず一つ目。法務としてのスキルの向上に非常に役立つ、顧問弁護士への依頼案件を上手く活用することです。弁護士への相談を行う際には、どんなに忙しくても、簡単なリサーチを行い「あたり」をつけてから質問をする癖をつけるようにしましょう。自分のアプローチや考え方を後からもらった回答を使って「答え合わせ」できるからです。また、弁護士からの回答についても結果だけでなく、そこに至った経緯を理解(場合によっては深堀って質問)するようにしましょう。こうした日常の習慣は、その後のスキル習得に大きく影響します。

こちらのインタビュー記事では、弁護士を「壁打ち相手」にすることで、悩ましい問題にも深く、また多方面からの検討ができたとのお話がありました。

また、実際に一人(兼業)法務として活躍されている飯田氏のこちらの記事には、更に詳細にノウハウが書かれていますので、ご興味がある方は是非ご覧ください。

とはいえ、多くの一人法務パーソンにとって、いつまでも非法務業務を抱えながら業務を続けていくのは酷な面もあります。スキル習得の機会を更に得られるように、いつまでも業務範囲が広がったままにせず「一度業務範囲を広げて、その後徐々に絞る」ということを実践することが必要です。これが二つ目のアプローチです。

前述の通り、まずは事業部門からの信頼を得ることが重要です。特に着任したタイミングなど、自己のモチベーションが比較的高く、周囲の期待値がやや高めの時に、少しずつ依頼の間口を広げて仕事を集めておきます。「落ちそうなボールを拾う」という表現が適切かもしれません。おそらくこの時に、純粋な法務業務ではない業務が紛れ込んでくるはずです。こうして集めた業務を、他の部門の期待値を大きく下回らない水準で遂行していきます。

そして、半年から1年程度、上記の業務を続けながら、今度は徐々に定型化できるものはマニュアル化して、他のメンバーに少しずつ委譲していきます。もちろんこの時点で、法務の二人目が加入しているのが理想ですが、非法務(主に管理部門になると思われます)のメンバーに割り振ることも考えられます。そもそも非法務の業務が貴重な「一人法務」のリソースを消費していることは会社として良い形ではないので、業務を通して築いてきた信頼関係を基盤にすれば、非法務のメンバーとの業務バランスの調整もそれほど難しくはないでしょう。こうした環境を整えて、専門領域や自分が成長できると思った領域へのコミットを強めていくことになります。

なお、筆者の経験上、最初に広げた業務範囲での経験は、決して無駄にはなりません。業務の順序立てや企業内にどんな業務が発生しているのかが具体的にイメージできるようになるので、地に足の着いた着眼点が身に付くと考えています。

課題③ 適切な投資をしてもらう方法

法務はコストセンター

そもそも法務はコストセンターと言われ、追加の投資もコストと捉えられてしまうことが多く、投資に対してはネガティブとされることがまだまだ多いのが現状です。更に一人法務だと、投資の効果がその一人に帰属すると思われてしまいがちで、それゆえに投資の必要性が薄いと考えられてしまうことがあります。こうして適切な投資を受けられないという問題は、特にリーガルテックの登場によって先鋭化してきた問題点と言えるでしょう。

会社全体へ、中長期にわたる効果をもたらす投資へ

上記の問題点に対する結論としては、一人だからこそ、投資されるべきであるというのが筆者の考え方です。

その理由は、(実際に経験者の多くが語る通り)そもそも一人であること自体にリスクが内包されているからです。例えば、当該担当者が病気、けがなどで業務を離れなければならなくなった場合、その穴を埋めることはそう簡単ではありません。その備えとしての投資は、理屈としてはどの決裁者も理解できるところです。

とはいえ、当該投資がその担当者にとってしかメリットがないとなると、より高い投資対効果(ROI)が見込める他の案件の優先度が上がってしまうのは当然です。このため、一人法務として投資を受ける場合には、その承認を受けるに当たって、今の業務が楽になるという視点だけでなく、中長期的にメリットがあるという①「時間的広がりのある効果」と、法務だけでなく、他の部署にとってもメリットがあるという②「組織的広がりのある効果」の2点を説明できると良いでしょう。
下記の記事では、実際にそういった効果を稟議に書いて決裁を取ったという体験談が語られています。

とはいえ、仮に上記のような効果があったとしても、「なぜ、いま投資するのか」という問いに答えなければ、投資を勝ち取るのは難しいかもしれません。
法務ではなかなか他社の水準感を知ることが難しいですが、仮に水準感が分かれば、上記の問いに対する有力な回答、つまりいま投資することの正当性の論拠になります。その観点で、まずは、自社の契約案件や相談案件の数は通年できちんと記録しておきましょう。「件数自体がXX%増えた」ということが説明できれば、説得力は高まります。

なお、筆者の有するイメージですが、契約業務が法務業務の全体の5割程度のウエートを占めている状況で、自社雛形:相手雛形:ゼロドラフト=5:4:1といった割合の場合、月間の依頼件数が20件を大幅に超過している状態であれば、業務負荷が高めと思われます。こういった状況であれば、法務としては人やテクノロジー投資すべきタイミングだと言えるのではないかと考えています。

最後に

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

一人法務は、どうしてもその担当者のパーソナリティに依存する部分が大きくなりがちなので、業務を上手く実施するという点では、やや再現性を見出しにくい側面もあります。ただ、基本的な各種のスキルによって十分企業で信頼を置かれる一人法務になることができますので、こういった点を上記にまとめてきました。多くの方にとっては当たり前のことだったかもしれませんが、今一度自らの業務を見直す機会になれば幸いです。

会社の法務としては、「最後の砦」ではあるものの、外部専門家の力や事業部門の協力を得ながら、少しでもご自身、そしてまだ見ぬ二人目にとって働きやすい環境を作れるようになればと思います。

ウェビナーアーカイブのお知らせ

本記事でも記事を引用している飯田氏に、一人法務・兼任法務として業務を始めてから、事業を共創できる力強い法務になるまでの道のりを改めて振り返り、会社からの期待に応える法務業務の在り方を徹底解説いただいたウェビナーのアーカイブを公開中です。一人法務のみなさんは必見です。

(Hubble社のサイトに遷移します。)


本記事の著者情報

山下 俊(やました しゅん)

2014年、中央大学法科大学院を修了。日系メーカーにて企業法務業務全般(主に「一人法務」)及び新規事業開発に従事しつつ、クラウドサインやHubbleを導入し、契約業務の効率化を実現。
2020年1月にHubble社に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2021年6月からLegal Ops Labの編集担当兼務。2023年6月より執行役員CCO。近著に『Legal Operationsの実践』(商事法務)がある。

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