大転職時代でも後任者を困らせない!成功へ導く、法務の業務引き継ぎマニュアル

この記事でわかること
  • 業務の引き継ぎが重要である4つの理由
  • 業務の引き継ぎで実践したい4つのステップ
  • 業務の引き継ぎが成功するためのポイント
目次

はじめに

みなさん、こんにちは。

皆様もご存じの通り、2023年現在において、法務の皆様の転職は活況で、かつてない「大転職時代」となっており、人材獲得競争は、引き続き厳しいものとなっています(図1参照)。

直近3年で法務に退職者が出た企業の割合の画像
図1:【アーカイブ配信】脱・法務の属人化!個人への依存度を減らす法務組織の生産性向上術」資料より引用

本記事の読者の皆様も、転職を機に、業務を引き継ぐ側、引き継がれる側それぞれになって苦労したことがある方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?

そこで今回は、主に法務業務を念頭に置きつつ、業務の引き継ぎにおけるポイントをまとめていきます。

業務の引き継ぎとは?

業務の引き継ぎとは、業務の担当者が交代する際に、前任者の業務内容や手順、対応過程や進捗を後任者に伝えるもの、と定義します。

実務では、前任者が退職した場合はもちろんのこと、産休や育休によって一時的に業務から離れる場合や人事異動やチーム内の担当変更など、思った以上に多くの場面で発生します。

業務の引き継ぎが重要である4つの理由

業務の引き継ぎの重要性は、以下のような要素から説明することができます。

①情報が失われる危機を回避できるから

特に法務のような専門職だと顕著なのが、「この人しか知らない、持っていない情報」が存在し、その方がいなくなると、その情報もろとも喪失してしまうことです。

前任者からしっかりと情報を引き継ぐことで、こうした情報喪失を回避することができます。属人性の回避、業務の見える化とも言い換えられるでしょう。

②業務効率を維持・改善できるから

後任者に情報が適切に引き継がれていないと、お作法や情報が不十分なまま業務を進めることになり、結果として(前任者だったら発生していなかった)確認や手戻りが何度も発生し、業務の効率性が低下する可能性があります。

特に法務の業務は、法務のみで完結するものが必ずしも多くなく、結果として法務の業務効率の低下が、事業部門の業務やビジネスの推進を阻害してしまう恐れもあります。

また、引き継ぎでしっかりと当該業務の問題点まで共有できると、このタイミングで後任者が業務改善の提案をすることも可能になります。業務引き継ぎによって業務効率を維持するだけでなく、改善する契機になる可能性もあるのです。

③社内外のクライアントの満足度の低下を防げるから

前述の通り、引き継ぎが不十分だと確認や手戻りが増えることになります。これに加えて、突然前任者の業務の進め方を意識せず変えてしまうことで、後任者と一緒に働く事業部門(いわば社内クライアント)にはストレスが溜まります

これに伴って顧客にも迷惑がかかるようなことがあれば、社外クライアントの満足度も下げてしまうことになります。会社全体としても、これは最も避けたい事態でしょう。

④従業員の定着率に寄与するから

2019年にサイボウズ チームワーク総研が実施した調査によると、引き継ぎが「スムーズだった」人は「スムーズではなかった」人に比べ、今の職場で働き続けたい気持ちが強いとの結果が出ています。

引き継ぎをはじめとする体制の整備が、従業員のエンゲージメントと相関していることが示唆された調査と言えるでしょう。

業務の引き継ぎ時に実施したい4ステップ

以下では、実際にどういった手順で、業務の引き継ぎを実施していくべきか、そのポイントとともにご紹介して行きます。

STEP
「業務の棚卸し」で網羅性を確保

前述の通り、引き継ぎに漏れがあると、それだけで業務効率が低下したり、ともに働くメンバーの満足度が低下したりする懸念があります。このため、引き継ぐ情報の網羅性が重要です。

もし、業務の全体像が他のメンバーから見えない状態になっている場合には、業務の棚卸しを必ず実施し、業務の全体像を可視化しましょう。

なお、この業務の棚卸しにおいては、以下のように、定期発生する業務か否か、また法務業務の種類で分類・マッピングすると漏れが発生しにくくなるのでオススメです(表1参照)。

ビジネス法務商事法務コンプライアンスその他
年次株主総会関連業務従業員向け研修
月次契約更新意向確認取締役会関連業務コンプラ委員会報告資料
週次部内定例MTG準備
不定期契約審査、法務相談
表1:引継対象業務のマッピングの例
STEP
「A4で1枚の引継書」で、後任者の拠り所を確保

引き継ぎの重要性は前述の通りで理解できるものの、前任者の引き継ぎに対するモチベーションは(自らが引き継ぎによって業務が楽になるという場合を除いては)必ずしも高くないのが通常です。

このため、新たに重厚な引継書を作成してもらうことを期待するのは、業務の一環とはいえ少し酷です。こうした背景から、次のステップで作成する引継書は、後任者が仕事に慣れるまでに使う、何がどこに存在しているのかがわかる「地図」として用意するのが現実的でしょう。

具体的に引き継ぎ書に盛り込みたい要素は以下の3つです(図2参照)。

  • 引き継ぐ業務の手順を記載した業務マニュアルの保管場所
  • 引き継ぐ業務の日常的な記録の保管場所
  • 上記に書ききれていない、前任の担当者の所感
法務の引継書の構成イメージの画像
図2:引継書に盛り込みたい内容

上記のうち、①業務マニュアルや②日常の業務記録は、社内共有サーバやクラウドに保管されているのが通常ですから、この引継書にはその保管場所のURLさえ記載すれば十分で、結果として引継書もA4で1枚に十分おさまるイメージになります。

STEP
スケジューリングと重みづけで効率性を確保

最後にどのようなスケジュールで引き継ぎを実施するかを考える必要があります。

引き継ぎは丁寧にできることに越したことはありませんが、後任者の加入時期によっては、十分な時間を取れない場合もあります。このため、いかにポイントを押さえつつ効率的に引き継ぎができるかが重要になります。

具体的には、まず後任者の経験値をよく把握する必要があります。当該業務の経験が全くない方が後任になる場合には、業務マニュアルを読んでもらう更に前に「座学」が必要になる場合もあるためです。加えてこうした場合には、そもそも引き継いだ後も継続的に後任者をサポートする体制が必要になるかもしません。

その一方で、ある程度経験がある方に引き継ぐ場合には、当該会社における業務の進め方の注意点やノウハウの共有に集中する方が効率的です。幸いなことに法務業務は、各社でカバーする範囲に広狭があっても、それぞれの業務内容が大きく変わることは多くないためです。

つまり、経験者が後任者となる場合には、前述の業務マニュアルと日常業務の記録に目を通しつつ、最低でも2週間程度、実際の業務を並行して行い、前任者と後任者の間での感覚的・非言語的な要素を埋めていくといったイメージでスケジュールを立てられると良いでしょう。

STEP
マネージャーによるダブルチェックで実現可能性を担保

通常であれば、引き継ぎ内容については、マネージャーなどの目を通して情報の適正さなどをチェックする必要があります。

もっとも法務においては、必ずしもマネージャーが法務経験者とは限らず、内容の適正さについては判断ができない可能性もあります。

そうった場合に、マネージャーの関与として重要なのは、ここまでのステップで前任者がどれくらいの期間での引き継ぎを計画しており、それが果たして現実的なのかという点をチェックするということになります。

最後にステップ0 -業務引き継ぎの成功は、引き継ぎ発生前から

ここまで見てくると、実は引き継ぎは、その引き継ぎの瞬間が重要である一方でこれと同等、またはそれ以上に、引き継ぎ前の段階で、いかに引き継ぎしやすい環境が準備できているかが重要ということが見えてきたのではないでしょうか。

言い換えると、法務業務の引き継ぎにおけるマネージャーの仕事は、前述のステップ④に加え、引き継ぎが発生する状況になったとしてもスピーディーに必要十分な情報の引き継ぎができる環境を、チームのメンバーと協力して前もって整えておくことになるのです。

例えば、反復的に発生する業務の手順をマニュアル化しておくことや属人化しがちなドラフトやメモを他のメンバーも見ることができる環境に保存することをルール化し、定着させることなどが挙げられるでしょう。

もちろん、こうしたアクションは、現場のメンバーには新たな業務負担になる可能性もあり得ます。このため、情報を整理して管理することが忙しい日常業務の中で自然にできる(管理のための管理にならない)ような仕組みづくりまで、チームのマネージャーが責任を持って実行することが重要になるでしょう。

まとめ

この記事のまとめ
  • 業務の引き継ぎが重要である理由
    • 情報喪失の危機の回避、属人性の解消
    • 業務効率の維持・改善
    • 社内外クライアントの満足度の維持
    • 従業員の定着率改善
  • 業務の引き継ぎで実践したい4つのステップ
    • 業務の棚卸し
    • 後任者の「地図」になる引継書作成
    • 後任者の経験値を意識した引き継ぎスケジュール作成
    • マネージャーによる実現可能性チェック
  • 業務の引き継ぎが成功するためのポイント
    • 日常的な情報管理体制の構築

本記事の著者情報

山下 俊(やました しゅん)

2014年、中央大学法科大学院を修了。日系メーカーにて企業法務業務全般(主に「一人法務」)及び新規事業開発に従事しつつ、クラウドサインやHubbleを導入し、契約業務の効率化を実現。
2020年1月にHubble社に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2021年6月からLegal Ops Labの編集担当兼務。2023年6月より執行役員CCO。近著に『Legal Operationsの実践』(商事法務)がある。

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