「事業成長全力支援」を掲げる法務組織の長が経営として求める人材とは? 法務の立ち上げと組織化時に気を付けたいポイント – ナイル株式会社 長澤斉氏<前編> –

ホリゾンタルDX事業や自動車産業DX事業などを手掛け、幅広い領域で企業のデジタル変革を支援するナイル株式会社。同社の取締役でコーポレート本部本部長の長澤斉氏は、法務を含めたコーポレート部門の立ち上げと運営を経験してきました。「事業成長全力支援」を掲げる同部門が人材採用時、何を重視し、どのように人材育成をしているのでしょうか。組織立ち上げ〜運用の際に気をつけるポイントとは。長澤氏にお聞きしました。

〈聞き手=山下 俊〉

目次

人材採用時に重視するのは「現場感」

山下 俊

本日は宜しくお願いします!
さて早速ですが、長澤さんのような経営の立場からご覧になって、どんな法務の方と働きたいと感じますか?

長澤 斉

自分の発言や行動の全てが事業成長のためにあると考えられる人でしょうか。法務を含めた当社のコーポレート本部では「事業成長 全力支援」をミッションに掲げています。法務に限らず管理部門でも、究極的には事業の成長にどれだけコミットできるかが重要です。ブレーキをかけなければならないときでも、それが事業の成長のためであるということを丁寧にコミュニケーションしながら伝えられる人が良いですね。

取締役 コーポレート本部 本部長 長澤斉氏
山下 俊

こうした貴社の求める人材像を採用するための最初のステップとなるのは募集要項かと思いますが、これを作成するときのポイントはありますか?

長澤 斉

どんな人と働きたいかを、明確かつ詳細に言語化することです。もちろんその全てに当てはまる人はそうそういませんし、コーポレート部門の採用枠は多くはないので、優先順位付けは必須です。どの項目までが必須かを可能な範囲で社内の人事や人材紹介会社にも共有しておくことで、スムーズな採用に繋がります。

山下 俊

その募集要項を見て応募してきた方が、本当に自社にフィットする人材であるかを見極めるためのTIPSのようなものはあるのでしょうか?

長澤 斉

わかりやすいのは、ワークサンプルテストという試験を受けていただいていることです。難しい問題ではありませんが、問題は現場のメンバーに作成してもらっており、入社後実務上すぐに使う実践的な知識を問うものばかりです。

山下 俊

スキル面を確認するためのテストという位置付けでしょうか?

長澤 斉

基本的にはそうですが、入社後の働きぶりをイメージするための手段でもあります。例えば、事業部門からのよくある法律相談へどのように対応するかという問題が含まれます。この問題に対する回答では、事業部門に対して冷たい対応だと感じるもの、考えすぎてしまっているもの、あるいは事業が前に進まなくなってしまうことが予想されるもの等、多種多様な回答が出るのが特徴です。お互いのフィット感を確認するためですので、正解はありません

山下 俊

マインドセット面で重視されているポイントはありますか?

長澤 斉

現場感」を持っているかどうかという点は重視しますね。私自身は管理部門と並行して事業部でも働いていたことがあるので、事業部所属経験がある方の場合は話がスムーズかなと思います。ファーストキャリアが法務という方であれば、アルバイト経験等、法務以外でのご経験も聞いています。正解はありませんが、私の過去の経験から、必要以上に法務寄り、管理部門よりの考えが強い場合には齟齬も発生しやすいように思います。

1人目の法務には、リスクの取り方に対する価値観を見る

山下 俊

今、長澤さんが新たに法務組織を立ち上げるとして、1人目はどんな人を採用したいですか?

長澤 斉

やはり経営層と話が合う人が良いと思います。管理部門のトップよりも社長と話ができる人の方がいいですね。

山下 俊

それは掘り下げると「高い視座を持っている方」ということでしょうか?

長澤 斉

視座の高さはもちろんですが、リスクの取り方に対する価値観の近さが大事だと思っています。社長が許容するリスクの範囲を理解していないことで、リスクを取って事業を推進すべきタイミングで事業を止めてしまったり、逆に注意すべきリスクまで許容してしまったりすると上手く機能しません。

山下 俊

1人目の採用を考えるのは従業員規模でいえば50-100名くらいの時期でしょうか。そうなると、社長と話す機会は多そうですね。

長澤 斉

採用した1人目の法務人材が、その後、管理部門のトップになる可能性もあるので、総合力の高さも必要です。特に法務は、本来は多様な分野まで見渡せる職種なので、管理部門のトップとしては、経理出身の方も多いと思いますが、法務出身の方が向いている場合もあるように思います。

自律自走するプロフェッショナルが相互に補い合う組織を目指す

山下 俊

2人目以降の法務採用のポイントも教えてください。1人目の採用と違うポイントはありますか?

長澤 斉

1人目との差を意識することでしょうか。人には得意分野と不得意分野があるので、スキルマップを作成して、1人目に足りていない要素を補う人材を採用するとバランスが良いですね。法務に限った話ではありませんが、チーム全体で見たときに各項目に対して得意な人が必ず1人はいるという状態にしておくことが大切です。

山下 俊

2人目はジュニアクラスの人材が適しているのでは、とも思っていましたが、そこはフラットな方が良いんですね!

長澤 斉

もちろん育成をする環境が整っているのであればそれでも良いと思います。ただ、会社として育成に時間を割けない場合には、1人目をスキル的に補える方が良いですね。2人目ということならば育成前提よりは即戦力になる人を採用した方がいいように思います。

山下 俊

確かに教育リソースが限られてしまう企業では、そういった組織の組み立て方がベストですね。

長澤 斉

言い換えると、スキルがかけ離れたメンバーの間で上下関係をつくらない方が良いということになると思います。「下の人はできない」と上の人が思い込むことで、必要以上に指導をしてしまうケースもあると思うので。

山下 俊

補える関係性があるものの、基本的なスキル差が大きくならないように配慮した人員採用と配置ができると、相互に高め合える点でも良さそうですね。その一方で、結構採用の要件は高くなりそうですが…

長澤 斉

とはいえ、プロフェッショナル思考な方、つまり「自律自走できる方は、現時点でスキルが十分に成熟していなくても、後から身に付けることができるのも事実です。裏返せば、法務の経験年数だけがあってもプロフェッショナルかどうかは別問題なのかなと。若い方でもプロフェッショナルな方は沢山いらっしゃいます。

山下 俊

若手には嬉しいメッセージだと思います!
ちなみに、こうしたプロフェッショナルなメンバーだからこそ実現できているのかもしれないなと私が感じたのが、案件の相談の受付に関する貴社の「曜日担当制」でした。

長澤 斉

はい、月曜日に依頼されたリーガルチェックはどの事業部からの依頼であろうとこの人が対応する、といったイメージで、曜日によって担当するメンバーを変えている仕組みのことですね。担当外のメンバーは、プロジェクト業務や、忙しそうなメンバーの補助業務、あるいは積み残しの消化を行います。

山下 俊

貴社は自動車産業DXをはじめ複数の領域で事業を展開していますが、こうした企業では、事業部門ごとで担当を分けるケースが多いと思いました。

長澤 斉

法務は少人数(※)なので、事業領域毎に専任担当を配置してしまうと、仮に担当者が休んでしまった場合に事業が止まってしまうおそれがあるというのが理由の一つです。メンバーからしても、交代や分業が容易になり、体調不良での欠勤や旅行などで休暇をとりやすくなるというメリットもあります。

(※)取材時、同社の法務メンバーは3名。

オンボーディングでは前職との違いを意識

山下 俊

採用した人材が、早期に100%の力を発揮できるようにするオンボーディング期間には、どのような取り組みをされていますか?

長澤 斉

前職との違いを意識しながら、3か月程度かけて当社のやり方をお伝えします。特に最初の1か月は「宝物の1か月」です。前職と違うところがあったら、良い面も悪い面も全て教えてもらいます。前職のやり方が良いと感じる点があれば、当社に取り入れる場合もあります。その人にとってやりやすい方法もあると思うので、「うちの会社はこうだからと押し付けないようにしています。

山下 俊

オンボーディングのプロセスの中で、自社と前職との差分を知ってもらうということですね!

長澤 斉

はい。良いものがあれば取り入れるというスタンスでいると、自社のオンボーディングプロセス自体も改善していきます。時には、「わかりにくい」マニュアルを改訂してもらうこともあります。入社していきなり行うには、難易度の高いことではありますが、それができる人こそが法務人材だと考えています。

山下 俊

ありがとうございます!
後編では切り口を変えて、業務の定量化と目標設定についてお話を伺います!


★今回のLegal Ops Star★

長澤 斉(ながさわ ひとし)

ナイル株式会社 取締役 コーポレート本部 本部長

2007年、中央大学在学中にインターン生としてナイル株式会社に参画。 セールス業務に従事しつつ、 管理本部の構築を担う。その後執行役員を経て、2010年に取締役に就任。コーポレート本部の担当として法務・財務・会計・IR など管理部門の関連業務を幅広く管掌する。 事業部門としての業務経験も活かし、管理部門の「事業成長全力支援」を体現する。

(本記事の掲載内容は、取材を実施した2023年7月時点のものです。)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次
閉じる