エンゲージメントを下げない、法務・事業部門双方に効く契約書業務の引き継ぎ方法

本記事でわかること

Over view

  • 契約書業務において引き継ぎができないことのリスク
  • 契約書業務における引き継ぎを行う際のポイント
  • Hubbleで行う、「引き継ぎをしない」引き継ぎ

はじめに

みなさん、こんにちは!

当社が運営する法務の生産性を高めるメディア「Legal Ops Lab」(以下、LOL)の以下の記事で、法務業務における業務の引き継ぎの意義と具体的方法についてご紹介しました。

今回は特に事業部門側にも配慮が必要な、契約書業務の引き継ぎ方法に絞って、ご紹介していきます。

契約書業務の引き継ぎができていないことのリスク

まず、契約書業務において引き継ぎができていないと、どのようなリスクがあるのでしょうか?以下に簡単にまとめていきます。

1. 法務(組織)におけるリスク

法務組織においては、以下に記載する通り、せっかく期待を抱いてやる気に満ち溢れて入社する法務の新メンバーが力を発揮するに当たって、その足を引っ張り、結果として会社や組織へのエンゲージメントを下げてしまうことが最大のリスクです(※)。

(※)現に2019年にサイボウズ チームワーク総研が実施した調査によると、引き継ぎが「スムーズだった」人は「スムーズではなかった」人に比べ、今の職場で働き続けたい気持ちが強いとの結果が出ています。

検討の背景やノウハウが失われる

まず、法務で引き継ぎができる体制になっていないと、個別の案件における契約条項の修正の背景といった思考プロセス、またこれを一段階抽象化した交渉カードの切り方、落とし所の想定といった具体的なノウハウが失われるおそれがあります。

法務(組織)として、それ自体が大きな損失ですが、更にこういった思考プロセスやノウハウが判然としない状態で後任に引き継がれた場合、引き継いだ側には、過去の社内の情報を集めるコストとこれに伴う大きな心理的ストレスがかかる点にも配慮が必要でしょう。

事業部門との信頼関係にヒビが入る

法務内で案件の進捗が引き継がれていないと、既に一度事業部門との間で議論がし尽くされている論点について、同じ議論を蒸し返してしまうことにもなりかねません。これは事業部門との信頼関係の構築の阻害要因になるでしょう。

特に新任の法務メンバーがそのようなアクションをとってしまうと、本人は良かれと思ってやっていることにもかかわらず、事業部門からの第一印象の時点から損をしてしまいかねません。

2. 事業部門におけるリスク

事業部門においては、元々それほど好きな方が多いわけでもない契約書業務について、引き継ぎがやりにくい環境を放置すると、以下のように、より「わからない」「見えない」といった感想を抱かせる結果となり、契約書業務への心理的なハードルをまた上げてしまうことが懸念となります。

重要な背景情報が失われ、取引先に迷惑がかかる

特に事業部門では、引き継いだ取引先が強い懸念を示していた契約条件、双方で議論を重ねてようやく妥結に至った条件、交渉においてあえてぼかした条件など、重要な契約における背景情報が失われる可能性があります。こうした中では、既に議論が済んでいる箇所について議論を蒸し返して、本来必要ではない交渉に取引先の時間を使ってしまい、結果として事業部門が最も重要にしたい取引先からの信頼を失う恐れがあります。

特に、契約書のドラフトが作成された後に議論となったポイントは、必ずしも事業部門側が活用しているSFAやCRMなどの顧客管理ツールにも記録が残らず、引き継ぎの前提となる情報の記録自体の難度が相対的に高い点にも注意が必要です。

事業部門の業務効率化を阻害する

上記のような背景情報が十分に引き継がれていないと、法務の場合と同様に、「なぜこの取引先とこの条件で契約したのか」が自分たちでは解決できず、当時法務側で担当していたメンバーに確認するなどプラスアルファのコミュニケーションが必要になります。

単なる事実関係の確認が自分だけで完結しないのは結構な非効率で、下記の当社で事業部門の方に向けて実施した調査においても、何度も法務に確認をしなければいけないことへのストレスがあることがうかがわれます(図1)。

契約書業務での引き継ぎのポイント

引き継ぎの準備は、日々の業務から始まる

上記のようなリスクを回避するために、契約業務に関してどのような引き継ぎがなされるべきでしょうか?

結論からいえば、一部の重要案件や進行中の案件を除き、基本的にはわざわざ引き継ぎ行為をしなくても、引き継ぎができる状態を作っておくことが理想形です。

というのも、個別の契約案件は、一担当者だけでも相当な数に及び、過去の案件まで遡ればさらに数は増え、細かな引き継ぎが事実上不可能だからです。

具体的には、営業をはじめとした事業部門が取引先の面会記録を随時SFAやCRMに記録して残しているように、契約に関する情報や経緯、背景も、日常業務の中で自然と記録される環境を作ることがポイントになります。この記録を必要な時に(法務や事業部門の)後任者が確認し、取引先とのコミュニケーションや新たな条件交渉に活用するイメージです。

引き継ぎするのは法務だけではない

もっとも、契約書業務で引き継ぎが必要なのは、事業部門も同じで、法務だけが引き継ぎができる状態を作るだけでは、対応としては不十分ということになります。

契約業務は多くの企業では法務と事業部門とが協働して行うことが多いものの、具体的なドキュメンテーションは法務が行うことが多いという特性もあり、事業部門側で契約書に関する履歴を習慣的に残せる環境が整っていることは稀です。

こういった状況からすると、契約に関する情報や経緯が日常業務の中で自然と記録される状態を作る際には、事業部門もこの記録が(必要な範囲で)見られる状態を作るのが望ましいことになるでしょう。

契約書業務の引き継ぎに必要なもの

上記を踏まえ、契約書業務の引き継ぎに必要なものは、以下の通りとなります。いずれも改めて引き継ぎに際して新たにまとめるものではなく、日常の契約書業務の中で必ず発生するものです。

  • 締結した契約書原本(データ)
  • 契約書のドラフト
  • (交渉時の主要な変更点について)変更の背景・理由
  • 契約案件に関連する資料
  • 社内外の交渉に関するコミュニケーションの記録

Hubbleが使えれば、契約書業務の引き継ぎは完了

日常の業務をやるだけで、引き継ぎの準備完了!

Hubbleでは、日常的に行う契約書業務によって発生する契約書のドラフトとその履歴、これに関連するコミュニケーションと資料、そして締結した契約書のファイルなど、前述した引き継ぎに必要な情報を、まとめて保存しておくことができます。

しかも、これらの情報は、日常的な契約審査を行う中で自然に蓄積されていきます。言い換えると、日常業務をやっているだけで引き継ぎの準備は完了で、引き継ぎのために新たにファイルをまとめるといった作業は必要はありません。

仮に何年前の案件であっても、そのドキュメントのページにアクセスすれば、締結に至る変遷(もちろん、締結に至らなかった理由も)を分かりやすく一目で追うことができるため(図2)、Hubbleの使い方さえ伝えておけば、あえて個別の案件について引き継ぎ行為をする必要もなくなるわけです。

図2:各ドキュメントの画面でどういったやり取りが行われたのかわかる

なお、このドキュメントのページは固有のURLを持っているため、仮に他のメンバーに共有したい場合には、そのURLをシェアするだけでOKです。

事業部門も同じ画面を見て、記録を追体験

そして、Hubbleに残した記録は、交渉の最前線に立つ事業部門内の引き継ぎにも役立ちます。

Hubbleでは、(権限を分けつつ)法務も事業部門も、基本的に同じ画面を見て契約書業務に取り組むことが可能です。このため、過去の事業部門側の担当者が何を考えて条件交渉をしたのか、また法務からはどういった提案を受けたのかを、個別の案件の引き継ぎを受けずとも(Hubbleの見方さえわかっていれば)事業部門側の後任者が追体験し、把握することができます。

こうした環境を整えておくことで、法務・事業部門双方においても「〇〇さん、全然引き継ぎされていないな」という負の感情も発生しなくなり、新たに入社したメンバーが最速で活躍することを強く後押しすることができます。

まとめ

最後までお読み頂き、ありがとうございます!

実は本コラムを書いている筆者も、最初期のHubbleユーザーでした。自分が退職する際も、後任の方にはHubbleに背景情報やコメントが残っていることを伝え、非常に引き継ぎがスムーズに進んだことを覚えています。

当時よりも現在は、更に中途で新しく入社される方に対する「即」戦力となることへの期待は大きくなっている印象で、これまで企業や法務が具体的にやってきたことの引き継ぎが遅れること自体が、当該中途入社の方の社内での悪い評価に繋がりかねない状況です。

優秀なメンバーの採用がどんどん難しくなっている現下においては、折角入社してくれる新メンバーのスムーズなオンボーディングは非常に重要です。そのためにも引き継ぎがしやすい(そもそも引き継ぎがほとんどいらない)環境を目指せると良いのではないでしょうか。


本コラムの著者情報

山下 俊(やました しゅん)
株式会社Hubble Cheif Customer Officer

中央大学法科大学院を修了後、日系メーカーにて企業法務業務全般に従事しつつ、業務効率化にも取り組む。2020年1月に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2023年6月より現職。法務メディア「Legal Ops Lab」の編集担当も兼務。

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