【電帳法解説 vol.2】 紙の契約書は廃棄OK?法務が知るべき電帳法の「スキャナ保存」と実務への適用方法

この記事でわかること
  • 電子帳簿保存法の「スキャナ保存」の概要
  • 対応必須な「電子取引」とは異なる「スキャナ保存」におけるポイント
  • スキャナ保存対応を行う場合の契約書管理の具体的な対応策
目次

はじめに

みなさん、こんにちは!

前回、2022年1月1日に施行された改正電子帳簿保存法(「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」、平成10年法律25号。以下、「電子帳簿保存法」)について、制度の概要と対応が義務化された「電子取引」に関して、特に契約書管理の観点から必要な具体的な対応策を解説しました。

本稿では、上記電子帳簿保存法解説記事の続編として、対応義務はなく、任意で対応するかどうかを選択できる「スキャナ保存」について、保存対象を契約書に絞り、電子帳簿保存法以外の法令や訴訟への対応の視点も交えて考察します。

対応義務のない「スキャナ保存」で、紙の契約書を廃棄可能?

契約書に関して電子帳簿保存法に対応すべき義務があるのは「電子取引」だけ

前回の復習になりますが、電子帳簿保存法に定められている以下の3つの制度のうち、契約書の保存方法について定めたのは①と②です。

  1. メールやインターネットを介して取引情報を得た場合(電子取引
  2. 取引に関する書類等を画像データ化して保存したい場合(スキャナ保存
  3. 会計ソフト等パソコンを使用して帳簿等を作成・保存したい場合(電子帳簿・電子書類

さらに、①と②のうち、電子帳簿保存法への対応義務があるのは、電子契約サービスを介して締結した場合が典型である①電子取引であり、②スキャナ保存は、契約書を含む書類を廃棄するという選択をした場合にのみ従えばよく、廃棄をしない選択をする場合には紙の契約書をデータ化する行為義務はありません(※1)。

(※1)例えば、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)第150条の2第1項において、「保存しなければならない」とされているのは「書類」であり、電子帳簿保存法第7条に規定する「電子取引の取引情報に係る電磁的記録」の保存についての規定はありません。

対応義務になぜ差があるのか?

電子帳簿保存法への対応義務があるものと任意の選択に委ねられているものの2通りが設けられている理由は、電子帳簿保存法が社会の変化に法律が追いつくための対応措置であるという側面にあります。

すなわち、法人税法等の国税に関する法令は、古典的な契約書を含む紙媒体の国税関係書類を想定して、その保存義務を定めたものであったため、制定当時にはメールや電子契約等、電磁的記録(電子データ)の取り扱いは、想定されていませんでした。しかし、紙の契約書であっても電子の契約書データであっても、企業にとって帳簿の証憑の一つであることに変わりありません(税務調査等の際に、取引の流れを追うためにも不可欠です)。

このため、電子帳簿保存法の制定・改正により、「電子取引」という保存類型を設け、さらに電子データについて保存義務を設ける形で、時代遅れになっていた法令の内容を補完してきたという背景があります。

「スキャナ保存」は、紙を廃棄可能にする制度

紙の契約書については、もともと電子帳簿保存法以前から、上記の通り、法人税法第150条の2第1項等で「書類」として保存義務が規定されています。しかし、昨今のペーパレス化(紙の電子化)、DX推進等の流れを受けて、コストや環境負荷の軽減あるいはデータ活用等の観点から、紙媒体以外の保存方法を認めない法制度の見直しを迫られるようになりました。

そこで、スキャニングしたデータを保管する場合には、一定の要件を満たした上で紙媒体を廃棄できる選択肢を新たに設けたのが「スキャナ保存」の制度です(※2)。

(※2)電子帳簿保存法第4条第3項は、「保存義務者は、国税関係書類…の全部又は一部について、当該国税関係書類に記載されている事項を財務省令で定める装置により電磁的記録に記録する場合には、財務省令で定めるところにより、当該国税関係書類に係る電磁的記録の保存をもって当該国税関係書類の保存に代えることができる。」と定めています。「国税関係書類の保存」とは、書面の保存のことを指しますので、上記規定は、財務省令(電子帳簿保存法施行規則の要件)に従い、電磁的記録(スキャニングしたデータ)を保存している場合には、書面の保存に代替できる(保存義務のある紙の契約書ではなく電子データの保存でよい)ということが書かれています。

もっとも、従来何らの保存義務も存在しなかったために、重要情報・証憑を廃棄(消去等)されてしまうリスクがあり、税務調査を行う国として新たに義務を課す必要があった「電子取引」に比し、もともと保存が義務付けられていた紙の契約書について、紙での保存方法を廃止してデータ化を一律に強制するまでの社会的要請はなく、任意の選択肢となっています。

紙の契約書は本当に廃棄できるのか?法務ならではの視点

では、各企業は、紙の契約書をデータ化する「スキャナ保存」を選択して、紙の契約書を廃棄すべきなのでしょうか?

確かに、電子帳簿保存法への対応を経理部門だけで実施している場合には、書類保管スペースやコスト削減のメリットが大きいために、「廃棄すべき」との結論に至るかもしれません。しかし、この問いは、法務が電子帳簿保存法への対応の視点に加えて、法的リスクや訴訟リスク等の視点も踏まえて結論を出すべきものです。各社それぞれ異なる判断があり得るとは思いますが、本稿では、現時点で施行されている電子帳簿保存法以外の法令も紙検討した上で、以下の①と②のセット対応をお勧めします。

①紙の契約書をスキャニングしてデータ化する

典型的な紙の契約書をスキャニングしてデータ化すべき理由は、以下3つの理由を挙げることができます。

  • 紙のまま契約書を保管するだけでは、契約書の内容を確認するためだけにオフィスに出社し、または倉庫から書類を取り寄る必要が出てしまう一方で、データ化すれば時間・場所を問わず、かつ複数のメンバーが同一ドキュメントにアクセスすることができるようになるため
  • データ化しておくことで、契約書名・相手方・締結年月等の書庫のファイリング項目以外にも、条項検索、本文検索、重複確認や検索ヒット数の確認等様々な観点から検索・確認することができる上、データや情報の活用の基礎を作ることができるため
  • 紙の紛失・災害等のバックアップデータとすることができるため
②ただし、紙の契約書の廃棄については慎重に検討する

電子帳簿保存法の「スキャナ保存」制度を利用することで、紙の契約書を廃棄することができるのに、なぜ紙の契約書の廃棄を慎重に考えるべきかと言えば、法令・裁判制度上、現時点ではまだ紙で締結した契約書が「原本」として取り扱われる場面が存在するからです(※3)。

(※3)例えば、国税庁『電子帳簿保存法一問一答(スキャナ保存関係)(令和4年6月)』問3には、「印紙税の過誤納があった場合の過誤納還付申請については、当該過誤納となった事実を証するため必要な文書(原本)の提示が必要であり、スキャナデータ(又はスキャナデータを出力した文書)に基づいて印紙税の過誤納還付を受けることはできませんのでご注意ください」との注記があります。電子帳簿保存法の観点を離れて、民事訴訟法や民事裁判について考えてみても、現時点では、紙の契約書で契約締結をした場合、「原本」とされるのはスキャニングしたデータではなく、紙媒体の契約書です。契約書は契約当事者の意思表示が書面の上に表れている重要な書面(処分証書)であることからすると、事後紛争に備え、証拠価値の評価に影響が出得るデータでの保管・管理ではなく、原本である紙媒体を保存・管理しておくべきとの判断もあり得ます。

上記のような印紙税の過誤納や紛争の可能性がないと判断できるケースでは、紙の契約書を廃棄しても大きなリスクにはならず、むしろ紙の保管スペースにかけていた経費の削減等のメリットを享受することができます。

このように紙の契約書を廃棄するかどうかを判断するにあたっては、締結した契約の状況を把握していなければ行うことができず、この判断は、多種多様な要素、リスクの内容・程度と上述したペーパレス化によるメリットとを比較衡量した上で、まさに法務が主導して行うべきでしょう。

例えばこれを判断するための考慮要素の一例としては以下のようなものが考えられます。

  • 契約類型に照らして一般に訴訟に発展する可能性の高低
  • (法定保存期間含め)保存期間に応じた紛争リスク低減の程度(※4)
  • 仮に紛争化した場合に、発生する金額その他のコストとリスクの大小

(※4)例えば、数年前に合意解除した契約や契約当事者が数年前に亡くなっている場合の契約書については、原本を廃棄することで生じるリスクは少なくなるという考え方もあるでしょう。

スキャナ保存を行う場合の具体的な対応策

紙の契約書を捨てないなら、「スキャナ保存」の対応義務はない

以上から、紙の契約書の廃棄を含め、スキャナ保存へ対応するかどうかは各企業の法務が法的リスクや裁判リスクを踏まえた上で、判断・決定していくことが必要となりますが、仮に、紙の契約書の廃棄を行わずにデータ化のみを進める場合は、電子帳簿保存法の要件を気にする必要はありません。

対応義務のある「電子取引」とは異なり、一定のシステムの導入が必要

紙の契約書の廃棄を含め、スキャナ保存へ対応すると判断した企業の法務担当者が気を付けるべきは、「電子取引」とは異なり、事務処理規程での対応だけでは足りず、いずれかを満たす電子計算機処理システムにスキャニングしたデータを保存する必要がある点です(電子帳簿保存法施行規則第2条第6項第2号ニ(1)又は(2))。

  • 国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができるシステム
  • 国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行うことができないシステム
参考条文はこちらをクリックまたはタップ
電子帳簿保存法施行規則第2条第6項第2号

当該国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存に併せて、次に掲げ前号の入力に当たっては、次に掲げる要件(当該保存義務者が同号イ又はロに掲げる方法により当該国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認することができる場合にあっては、ロに掲げる要件を除く。)を満たす電子計算機処理システムを使用すること。

イ-ハ(略)

 当該国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について、次に掲げる要件のいずれかを満たす電子計算機処理システムであること。

(1) 当該国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。

(2) 当該国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行うことができないこと。

2024年1月の改正による変更点

なお、2024年1月1日に施行された改正電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の改正点は、以下の通りです。

  • 解像度・階調・大きさに関する情報の保存が不要となった
  • 入力者等情報の確認要件が不要となった
  • 帳簿との相互関連性の確保が必要な書類が、重要書類に限定された(※ただし契約書は「重要書類」である点に注意)

過去の契約書をスキャナ保存する場合に必要な特別対応

さらに、紙の契約書のうち、過去の契約書のスキャナ保存を行う場合には、新たに契約した紙の契約書をデータ化する場合と充足すべき要件が若干異なり、電子帳簿保存法施行規則第2条第9項に規定する「適用届出書」を納税地等の所轄税務署長に提出しなければならないという点にも注意する必要があります。

参考条文はこちらをクリックまたはタップ
電子帳簿保存法施行規則第2条第9項

法第四条第三項の規定により国税関係書類に係る電磁的記録の保存をもって当該国税関係書類の保存に代えている保存義務者は、当該国税関係書類のうち当該国税関係書類の保存に代える日(第二号において「基準日」という。)前に作成又は受領をした書類(一般書類を除く。以下第十一項までにおいて「過去分重要書類」という。)に記載されている事項を電磁的記録に記録する場合において、あらかじめ、その記録する事項に係る過去分重要書類の種類及び次に掲げる事項を記載した届出書(以下この項及び次項において「適用届出書」という。)を納税地等の所轄税務署長(当該過去分重要書類が、酒税法施行令(昭和三十七年政令第九十七号)第五十二条第四項ただし書(記帳義務)、たばこ税法施行令(昭和六十年政令第五号)第十七条第五項ただし書(記帳義務)、揮発油税法施行令(昭和三十二年政令第五十七号)第十七条第五項ただし書(記帳義務)、石油ガス税法施行令(昭和四十一年政令第五号)第二十一条第四項ただし書(記帳義務)若しくは石油石炭税法施行令(昭和五十三年政令第百三十二号)第二十条第八項ただし書(記帳義務)の書類若しくは輸入の許可書、消費税法施行規則(昭和六十三年大蔵省令第五十三号)第二十七条第六項(帳簿の記載事項等)の書類若しくは輸入の許可があったことを証する書類又は国際観光旅客税法施行令(平成三十年政令第百六十一号)第七条ただし書(同条の国外事業者に係る部分に限る。)(記帳義務)に規定する旅客名簿である場合にあっては、納税地等の所轄税関長。次項において「所轄税務署長等」という。)に提出したとき(従前において当該過去分重要書類と同一の種類の書類に係る適用届出書を提出していない場合に限る。)は、第六項第一号に掲げる要件にかかわらず、当該電磁的記録の保存に併せて、当該電磁的記録の作成及び保存に関する事務の手続を明らかにした書類(当該事務の責任者が定められているものに限る。)の備付けを行うことにより、当該過去分重要書類に係る電磁的記録の保存をすることができる。この場合において、同項の規定の適用については、同項第二号ロ中「の作成又は受領後、速やかに」とあるのは「をスキャナで読み取る際に、」と、「こと(当該国税関係書類の作成又は受領から当該タイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合にあっては、その業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに当該記録事項に当該タイムスタンプを付すこと)」とあるのは「こと」と、同号ハ中「情報(当該国税関係書類の作成又は受領をする者が当該国税関係書類をスキャナで読み取る場合において、当該国税関係書類の大きさが日本産業規格A列四番以下であるときは、(1)に掲げる情報に限る。)」とあるのは「情報」とする。

 届出者の氏名又は名称、住所若しくは居所又は本店若しくは主たる事務所の所在地及び法人番号(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成二十五年法律第二十七号)第二条第十五項(定義)に規定する法人番号をいう。以下この号及び第五条第一項から第三項までにおいて同じ。)(法人番号を有しない者にあっては、氏名又は名称及び住所若しくは居所又は本店若しくは主たる事務所の所在地)

 基準日

 その他参考となるべき事項

まとめ

今後、電子帳簿保存法を含む国税関連法令の他、民事訴訟法等の他の法令についても社会の変化に従い、法令による規律も変化していくこと可能性が高く、またすでに改正が予定されている法令もあります。

したがって、あくまで現時点での方向性の示唆ではありますが、前回の電子帳簿保存法の記事及び本稿で解説した内容を踏まえると、まず義務化されている「電子取引」への対応や、紙の契約書のデータ化・利活用基盤の整備は法令順守の観点及び今後の社会の変化や企業戦略にも影響を与える重要な事項として対応が必要です。

その一方で、紙の契約書の廃棄(スキャナ保存対応)については一旦慎重に検討し、今後の法令や社会の変化を踏まえ柔軟な対応をとるという選択もあるでしょう。よりよい意思決定のために、法務が中心となり、多様な角度から各ステークホルダーと議論を重ね対応方針を決定することをお勧めします。

この記事のまとめ
  • 電子帳簿保存法の「スキャナ保存」の概要
    • 「スキャナ保存」は紙を廃棄可能にする制度で、対応すべきかは任意の選択が可能
    • 紙を廃棄しない場合は電子帳簿保存法の「スキャナ保存」の要件を満たす必要はない
  • 対応必須な「電子取引」とは異なる「スキャナ保存」におけるポイント
    • 仮に「スキャナ保存」に対応する場合にも、税法・訴訟法の視点から、紙の契約書の廃棄には慎重な検討が必要となる
  • スキャナ保存対応を行う場合の契約書管理の具体的な対応策
    • 法定の要件を満たすシステム導入が必須
    • 過去契約書のスキャナ保存には「適正届出書」の届出も必要である等、要件が異なる点にも注意

(※本記事に掲載している内容は、執筆時点の2023年6月末時点で施行されている法律の内容に基づいて作成し、2024年1月時点においてその内容を更新しています。)

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