営業生産性向上の近道!事業部門からはじめる、面倒な契約書業務の課題解決法

この記事でわかること
  • 営業をはじめとする事業部門における契約業務の5つの課題
  • 営業をはじめとする事業部門における契約業務の課題の3つの解決方法
目次

はじめに

みなさん、こんにちは。

さて、いきなりですが、非効率な契約業務によって、最大で収益の40 パーセントが失われるという話を聞いたことがあるでしょうか?

確かに、契約書はその内容が難解で、あまり読むのに気は進まないかもしれません。もっとも、契約書業務の難しさは、その内容だけでなく、社内外の多くのステークホルダーが関わりながら進める必要がある業務フローの複雑さにもあり、それゆえ多くの非効率が発生し、結果として事業部門やセールスパーソンの生産性向上を邪魔している、というのがその真相です。

そこで今回は、主として事業部門の皆様に向けて、契約書に関するよくある課題とこれを克服し、営業をはじめとする事業部門の生産性を向上する方法をご紹介します。

事業部門から見た契約書に関するよくある課題

営業をはじめとする事業部門では、契約書に関連する業務において、主に以下の5つの課題が、その生産性を阻害する要因になっていると考えられます。

顧客とのコミュニケーションにおける課題

① そもそも契約書がすぐに確認できない

関係性が長い顧客との間や様々な契約を一つの取引先と結んでいる場合、詳細な契約条件はもちろん、どの契約が今有効であるかもあやふやになる時があるでしょう。

こうした状況下で、契約書を確認したいと思っても自分がすぐに見に行ける環境がなく、わざわざ法務や文書管理の担当チームに閲覧を求めにいくといった煩雑な状況になっていないでしょうか(図1参照)。

図1:「新企画アンケート!法務以外のみなさんに聞きました!①「契約書を読みますか?必要ですか?」」の補足調査として実施。複数回答可。

営業メンバーとしては、一刻も早く顧客とのコミュニケーションを行いたい一方で、前提となる情報を探すところで時間を費やしており、非効率な状況です。

② メンバーの異動に伴って引き継いだ案件の過去の経緯がわからない

転職市場が活発な現下においては、(異動も含めれば)営業のメンバーが数年間固定された状態でチームが運営されることは稀です。

メンバーの入れ替わりがあれば、担当顧客の情報は必ず引き継ぎが必要になりますが、契約の具体的な交渉経緯ややり取りは、普段顧客管理のために活用しているCRM(Customer Relationship Management)ツールの中ではなく、契約書のWordファイルの中やこれを送ったメールの中にしか残っていないことが多いでしょう。

こうした情報は、担当者の退職を機に後から辿れなくなる可能性が非常に高く、引き継いだ担当者が「なぜこの条件で合意したのか」といった一番重要な過去の経緯が不明となることがよく発生します。

こうなると以前議論が済んでいる内容について蒸し返した交渉を持ちかけてしまうなど、顧客の信頼を失うようなコミュニケーションを意図せずとってしまう危険があり得るのです。

契約締結までのリードタイムにおける課題

③ 法務の対応が遅い、見えないと感じる

自社の法務の方の契約書レビューのスピード感が少し遅いと感じたり、社内のコミュニケーションに工数が取られているという印象を受ける方もいるかもしれません。

実際にLOLで調査をした結果でも、「法務の対応スピードが速い」と感じている事業部門の方は約4割にとどまっています(図2参照)。

図2:「新企画アンケート!法務以外のみなさんに聞きました!②「法務は頼りになりますか?」」Q7

実際に本当に対応のスピードが速くないのかはわかりません。ただ、契約を1日でも早く締結したいと考える特に営業チームの方々からすれば、法務から(理由もわからず)受ける確認事項の多さ、そしてこれにより消費される時間の長さ、そして法務側の対応状況がブラックボックスになっていることに辟易し、ストレスを溜め込んでいるかもしれません(図3参照)。

図3:「新企画アンケート!法務以外のみなさんに聞きました!①「契約書を読みますか?必要ですか?」」の補足調査として実施。複数回答可。
④ ドキュメントのやり取りが煩雑でファイルの取り違えなどのミスが起こる

契約交渉が長引くと、何度も相手方だけでなく自社の法務による修正のファイルやり取りが発生し、その度に自分のダウンロードフォルダやデスクトップに似たようなタイトルのファイルが蓄積されていきます。

結果として、どれが最新版かの判別がつきづらくなり、「先祖返り」したファイルを送付してしまうなど、締結までの双方の手間を増やすようなミスをしてしまうこともあるでしょう。これが単なる送付ミスで、リードタイムを数日延ばしてしまうだけで済めば良いものの、実際にはこうした過去のバージョンで契約の締結まで進んでしまうこともあるため、注意すべき事項です。

メンバースキル向上における課題

⑤ 交渉カードの選択肢やその切り方について過去を参照しづらい

人材の入れ替わりが発生しやすい営業チームにおいては、単なる顧客に関する情報はもちろん、実際に当企業で過去、契約交渉において切られてきた交渉カードの傾向を知ることで、新メンバーのオンボーディングもスピーディーに進み、営業組織としての底上げを図ることができます。

しかし、これが組織内で共有できる状態にないと、せっかく新しく加入したメンバーも力を発揮するまでに時間を要してしまうおそれがあります。

優れた営業パーソンの「動因」の栄養分として

優れた営業パーソンの資質として、共感力(Empathy)と動因(Ego Drive)が必要とされるという以下の論考があります。「動因」とは「自分なりのやり方で商談をまとめたい、まとめる必要がある」という思いを指しています。

どうしても失敗(失注)の数が多くなりがちな営業職においては、これを跳ね返して成果を上げることが必要になります。過去の契約交渉で積み重ねてきたナレッジをこの動因への「栄養分」として提供できないと、個々の営業パーソンの成長が望めない営業組織になってしまうかもしれません。

(本論考の最新の邦訳は、「Harvard Business Review 2023年1月」(ダイヤモンド社) P128「優れたセールスパーソンの資質」を参照。)

事業部門の契約書に関するよくある課題を解消する方法

営業をはじめとする事業部門でよくある5つの課題を解決し、営業活動の生産性を上げる方法論を3つのステップでご紹介します。

前述の通り、契約書業務は社内に多くの関係者がいる業務であるため、最初は営業部門最適で課題解決することも問題ないですが、最終的には法務組織を巻き込んで、全社最適な解決を目指していきたいところです。

ステップ⓪-締結後の契約書は一箇所にまとめる-

前述の課題①への対処として、まず取引先と締結した契約書は、(紙で締結した場合はPDF化した上で)電子データとして一箇所にまとめておきましょう。特に最近は電子契約での締結も増えたため、紙で締結した契約書とバラバラにならないように注意が必要です。

最初は自分達の部署に関係する契約書だけを集約して保管することでもOKですが、会社単位で見た時には、全契約書を一箇所に格納し、権限を分けて、必要な時に必要なメンバーが契約書を参照できる環境が作れるのがベストです。ここまで至るためには、法務や総務など文書管理を担うチームとのコラボレーションが必須になります。

ステップ①-締結前のドラフトも一箇所にまとめる-

ステップ⓪のように、何かしらの方法で、締結後の契約書を一箇所にまとめている企業や部署は多いかもしれません。一方で、売り上げを少しでも早く作るという観点では、契約書締結までをどう効率化するかの方が重要です。

前述したような引き継ぎに伴う情報連携の失敗(課題②)やドラフトの取り違えミス(課題④)は、メンバーのスキルの問題ではなく、情報が不必要に複製されたり、分散して保管されてしまうという環境による要因が大きいです。つまり、少なくとも社内の必要なメンバーが情報を蓄積でき、また参照しに行ける「統一的な環境」を設けられれば解決することが可能なのです。

具体的には、以下の記事でも解説している通り、以下のような環境整備と基本動作が重要です。

  • 「正となる情報」を格納する場所(クラウドサービス)を決めること
  • 格納された情報を共有する際には、それぞれ正の保管場所が発行するユニークなURLを使うこと

これにより都度のダウンロードによって発生するファイルの複製などはなくなり、情報の管理・共有時のミスは減るでしょう。

なお、この「正となる情報」を格納する場所は、例えばGoogle Drive、Box、SharePointなどのストレージサービスはもちろんのこと、ドラフトだけでなく関連するコミュニケーションも一緒にまとめる場合には、事業部門と法務とが一緒に活用する契約ライフサイクルマネジメント(CLM、Contract Lifecycle Management)ソフトウェアを活用することが考えられるでしょう。

こうした情報が閲覧可能な場所に蓄積されることで、前述の課題⑤のようなチームのナレッジの共有にも役立つことは言うまでもありません。

ステップ②-法務へ依頼フォーマット・進捗の可視化方法を法務とともに決める-

最後にご紹介するステップは、ステップ①と同様に、契約の締結までを効率化するものですが、少しだけ高度です。具体的には、法務のチェックの入り口部分を効率化する方法です。これで前述の課題③を解決します。

大前提として、契約書のレビューを行う際に、法務は、チェックする契約書が、今から行おうとしている実際の取引の内容と合っているかを見ます。このため、法務へ契約書のチェック依頼を行う場合には、今から行おうとする取引の具体的情報を提供することが必須なのです。

ただ、どこまでの粒度の情報を渡すべきなのかは、契約類型によっても少しずつ異なるので、なかなか法務からも伝えづらいですし、都度確認するのも事業部門にとって非常に面倒です。このため、特に自社で頻繁に発生する契約類型に関して、予めどういった情報を渡せばスムーズにレビューできるのかを法務との間で合意しておくことがここで実施したいアクションです。

具体的に合意した後は、SlackやMicrosoft Teams、Google FormやSalesforce、または各種リーガルテックなどを使って受付フォームを作り、事業部門からのチェック依頼は、基本的にこのフォームを通じて行うという業務フローにするのが良いでしょう。

ここが確立できると、その次に、このフォームから依頼した内容が、法務のどの担当者に割り振られ、また着手しているのかなどの情報を可視化することに進むことができ、前述したような「ブラックボックス化」した状態を解消することもできます。

更に一歩先へ「Deep Collaboration」

契約書業務は、専門家とされる法務のメンバーと非専門家である事業部門とのコラボレーションによって遂行されるものと評価することもできます。この当事者間のリテラシーの差を「共通認識」を形成しつつ埋めようとするソフトウェアのカテゴリを「Deep Collaboration」と呼びます。

現代では、デザイナーと非デザイナーの間での業務の進め方にもこの構造が当てはまり、ソフトウェアを活用して鮮やかに課題を解決しています。ご興味がある方は、以下の記事から契約業務の更なる効率化へのヒントを探ってみてください。

まとめ

この記事のまとめ
  • 営業をはじめとする事業部門における契約業務の5つの課題
    • 締結後の契約書がすぐに確認できないこと
    • 引き継いだ案件の経緯がわからないこと
    • 法務の対応が遅い、見えないと感じること
    • ドキュメントなどのやり取りが煩雑であること
    • 契約交渉に当たって切れるカードなどナレッジが参照しづらいこと
  • 営業をはじめとする事業部門における契約業務の課題の3つの解決方法
    • 締結後の契約書を一元管理する
    • 締結前のドラフトを一元管理する
    • 法務への依頼フォーマットを法務とともに決める

本記事の著者情報

山下 俊(やました しゅん)

2014年、中央大学法科大学院を修了。日系メーカーにて企業法務業務全般(主に「一人法務」)及び新規事業開発に従事しつつ、クラウドサインやHubbleを導入し、契約業務の効率化を実現。
2020年1月にHubble社に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2021年6月からLegal Ops Labの編集担当兼務。2023年6月より執行役員CCO。近著に『Legal Operationsの実践』(商事法務)がある。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次
閉じる