- Legal Operationsにおける”Information Governance”
- 情報の収集・作成において、企業内の法務として気をつけること
- 情報の整理・保管において、企業内の法務として気をつけること
- 情報の保護・廃棄において、企業内の法務として気をつけること
(Hubble社のサイトに遷移します)
はじめに
みなさん、こんにちは!
今回は、Hubble社の山下が、商事法務ポータルにおける連載企画「Legal Operationsの実践」の第6回目として寄稿した、Legal Operationsの文脈におけるInformation Governanceに関する記事の内容を、情報管理という視点から再編集し、コンパクトにまとめてご紹介します。
日本における”Information Governance”
まず、Legal OperationsにおけるInformation Governance(以下「IG」)とは、Corporate Legal Operations Consortium (CLOC)の公開する情報によれば、「貴重なビジネス資産」たる「企業情報を管理するための包括的なアプローチ」とされています。
ここで、IGがその対象に含める「情報」とは、個人情報や営業秘密など、特定の個別法によりその管理方法が定められた情報に限られません。言い換えると、管理方法が必ずしも法定されていない、現場の一次情報、当事者の意思、ビジネスプランなど案件に関わるあらゆる情報がIGの対象となり得ることになります。
こうした情報は、日本においてももちろん重要です。
しかしながら、2022年に日本版リーガルオペレーションズ研究会が公開した「日本版リーガルオペレーションズCORE8」の8項目には、IGに相当する項目は独立して設けられおらず、「ナレッジマネジメント」を中心とした他の項目に部分的に取り込まれる形となっています。
ここからも推察される通り、日米間でIG自体の重要性は変わらないものの、その位置付けは少し異なります。つまり、日本におけるIGは、それ自体の重要性よりも、取得した情報が、他のCORE8の要素を通じて価値を発揮すること、そしてそのための管理を、相対的に強く求めていると考えることができるのではないでしょうか。
以上を前提として本稿では、IGに関する現実的な対応状況を、情報が経る「一生」(収集・作成、整理・保管、保護・廃棄)に沿ってご紹介します。
① 情報の収集・作成段階
企業内法務における、効率的な情報の入手の視点
企業法務のリスク判断には、一定の情報収集が必要です。
通常その貴重な情報は、ビジネスを遂行する非法務部門(以下「事業部門等」)が保有しています。この事業部門等の個々のリテラシーにバラつきがあると、契約審査の依頼や法務相談の際に法務が受け取れると期待している情報が、社内のメンバーから適切かつ効率的に聞き出せないことが起こり得ます。
こうした課題に対しては、LOLでもご紹介している通り、いわゆる「申請フォーム」の活用が一般的かつ最適な解決方法となります。具体的には、(追加の金銭及び実装コストが低い順に)SlackやTeamsのワークフロー機能、Googleフォームなどのアンケートフォーム、その他リーガルテックの受付機能やワークフローシステム、内製のシステム等を用いて、契約審査や法律相談に関する情報収集を行っている企業が多いです。
もっとも、下記の記事でも指摘がある通り、この方法でしか申請や相談を受け付けないとすると、事業部門等のメンバーからは「ちょっと聞きたいのですが」という相談をすることへの心理的ハードルが上がることが予想されます。実際にこうした懸念がある場合には、定型化が可能な契約書の審査依頼については、フォーム形式で情報取得する一方で、法律相談などの雑多な質問は、メールやチャットでも受け付け、重要な場合には改めて正式な方法で申請を促すような「ハイブリッド型」が解決策となり得ます。
予め「情報の活用」を想定した情報の取得も有用
上記で取得した情報は、冒頭でも記した通り、日本版のCORE8の「ナレッジマネジメント」や「人材」の育成にも活用されることが想定され、また期待されているため、入手した情報の共有・利活用も予め念頭に置いた上で情報の取得方法を考える必要があります。
例えば、社内の他の部署からの情報取得の主な手段としてEメールを活用する場合、情報を取得した当人が共有を怠り退職や異動をしてしまうと、組織内で探索不可能な情報が発生するリスクがあります。こうした懸念に対しては、情報を共有できるように、常にccに法務のグループメールアドレスを入れることはもちろんのこと、重要と判断する情報については、抜粋してMicrosoft ExcelやGoogle Spreadsheetなどの表計算アプリケーションにまとめて転記する運用を取り入れている企業も多いです。
こうした情報共有についての徹底した運用が望めない、または過度な工数がかかってしまうことが想定される場合には、チャットツールやワークフローシステム、リーガルテックなど、他のメンバーへの情報共有も想定されたプラットフォーム上で情報を取得することが、その後の散逸リスクへの直接的な対処法となりうるでしょう。
② 情報の整理・保管段階
今だからこそ考え直す「情報の一元化」
情報は整理され、必要な時に引用し、参照ができて初めて活用が可能になります。情報を整理したいと感じている法務の方は多いと思いますが、これを適切に行うには、一定の工数がかかることを、多くの方が同時に体感済みだと思います。そこで、いかに労力をかけずに情報整理を実践するかを考える必要があります。
特に、案件に関する情報が、共有フォルダ等のストレージ、コミュニケーションツール、個々人のメモなどにバラバラで、他の法務メンバーが欲しい情報を探すのに時間を要してしまう(または結果として見つからない)という問題は、組織の規模を問わず発生しています。この課題の解決のキーワードは「情報の一元管理」です。
この令和の時代は、法務人材の流動性がこれまでになく高まっている時代です(※1)。このため、過去の情報にアクセスできなければ、組織として一貫した法的サービスの提供を遂行することは難しくなりました。裏返すと「情報の一元化」は、法務のメンバー全員がアクセスできる場所で行われて、初めて意味をなすことになります。
(※1)参考となるデータとして、米田憲市 編、経営法友会 法務部門実態調査委員会 著『会社法務部〔第12次〕実態調査の分析報告』(商事法務、2022年)P30,P40,P57など)
物理的な一元化ではなく「緩やかな一元化」
ただ、「情報の一元化」は、実体のファイルを文字通り一箇所に集約するのが最適解とは限りません。というのも、実体ファイルを一箇所にまとめると、重要度の高いファイルが探しにくく埋もれてしまったり、法務に最適な一元化を推し進めた結果、組織ごとに実体ファイルが複製されてしまい、更新に伴ってファイルの取り違えが発生する恐れもあるためです。
こうした問題への解決には、URLを活用した「緩やかな一元化」が望ましいです。個別の契約書のドラフトや資料について、正となる情報の保管場所を決め、それ以外の場所でこれを引用する際には、それぞれ正の保管場所(クラウドサービス)が発行するユニークなURLを使うイメージです。
これにより、仮に正の保管場所でファイルが編集されても、このURLを辿ることで、常に最新のファイルにたどり着けますし、適度に実体ファイルを分散させることになり、重要度の高い情報(ファイル)を探す際のノイズも可及的に減らすことができます。
企業法務、特に相手方とのやり取りを伴う契約交渉に関する情報には、履歴管理が必須です。
その詳細とあるべき姿は、以下の記事に詳細に記載しているのでご参照ください。
この履歴管理にもなるべく労力を割かないようにするためには、可能な限り日常業務を遂行しつつ自動的に履歴管理が実行されることが望ましいです。言い換えると、ここはシステムに委ねるのが最も簡便と思われます。
例えばGoogle Driveやboxなどのストレージサービス、リーガルテックサービスではバージョン管理を標準機能として有するものが増えてきていることから、積極的に活用するのが良いかも知れません。
③ 情報の保護・廃棄段階
紙と電子をハイブリッド管理する時代
COVID-19の蔓延の影響もあり、近年、契約書の締結手段においていわゆる電子契約が有力な選択肢となりました。2022年現在においては、紙で締結した契約(以下「紙契約書」)と電子契約とをどのようにセットで管理するかという課題を聞くことが増えました。
その一つの要因が電子帳簿保存法(以下「電帳法」)の改正対応です。いわゆる検索性要件(電子帳簿保存法施行規則第3条第1項第5号)を充足する契約管理台帳を作成するにあたり、紙契約書についても電子契約と一元的に管理することへの関心が高まったことも背景にあると思われます。
そこで、最後に本セクションでは、主に締結後の契約書という「情報」の管理の対応方法をまとめます。
契約書の電子化は業務効率化の要所
まず、締結済みの契約書は、紙契約書も含めて電子での管理を原則とすることが望ましいです。というのも電帳法上、電子化が必ずしも義務ではない紙契約書の管理においても、電子化によって得られる利便性が大きいからです。
具体的な理由の一つに、紙に記載された情報を電子的に管理可能にすることで、法務(または総務)の業務効率の改善を図れる点があります。例えば、契約書をPDF化し、クラウドストレージや契約台帳サービスに電子契約と共に一元的に保存することで、OCR処理が施されていれば、(本文)検索の対象とすることが可能です。これによって契約内容の確認のために都度キャビネットに探しに行くといった手間はなくなります。同時に、事業部門等においても、自ら過去の契約書を探し出せるようになり、法務や総務は、(権限が適切に管理されていることを前提として)事業部門等からの締結済み契約書の閲覧要請からも解放されます。
この際、一斉に電子(PDF)化することは、企業によっては対象となる契約の件数が非常に多くなるため、腰が重くなることも多いです。この電子化対象の見極めについては、以下の記事にあるとおり、直近数年分のみなど、対象を絞って電子化することも良いでしょう。
ところで、紙の契約書は廃棄しているのか?
電帳法上の「スキャナ保存制度」は、紙の原本を廃棄して、代わりに同法上の要件を充足する電子データを保存することで、法人税法や所得税法上の国税関係書類の保存とみなす制度であると整理することができます。このため、要件を満たせば少なくとも税法上、紙契約書を廃棄することも論理的には可能ということになります。
しかし、現下において「紙の契約書を廃棄したいので電子化をする」との法務の皆様のニーズは、殆どないように思われます。いくつか理由があると思われますが、そもそも紙契約書においては、電帳法の要件に適合するスキャナ保存をした契約書の電子データが、民事事訴訟規則143条の「原本」にあたるかという、税法上の原本性と訴訟法上の原本性の関係についての問題が存在しているため、書面を廃棄することが訴訟上不利に作用することを懸念していることが大きいと思われます。
まとめ
- Legal Operationsにおける”Information Governance”
- 貴重なビジネス資産たる企業情報を管理するための包括的なアプローチ
- 日本では情報自体の管理や利活用が相対的に強く求められる
- 情報の収集・作成において、企業内の法務として気をつけること
- 情報の効率的な収集と事業部門等の心理的バランスがポイント
- 情報の整理・保管において、企業内の法務として気をつけること
- 物理的な情報の一元化ではなく「緩やかな一元化」を目指したい
- 情報の保護・廃棄において、企業内の法務として気をつけること
- 締結後の契約は電子化して保存するが、原本も現状は廃棄しない方が安全
山下 俊(やました しゅん)
2014年、中央大学法科大学院を修了。日系メーカーにて企業法務業務全般(主に「一人法務」)及び新規事業開発に従事しつつ、クラウドサインやHubbleを導入し、契約業務の効率化を実現。
2020年1月にHubble社に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2021年6月からLegal Ops Labの編集担当兼務。2023年6月より執行役員CCO。近著に『Legal Operationsの実践』(商事法務)がある。