- 契約書管理を構成する4つの要素
- 契約書管理が必要な理由
- 契約書管理の始め方と運用時のポイント
電子契約をはじめとするリーガルテックの普及で、契約業務は電子化され、徐々に効率化されつつある一方、意外にもベストプラクティスが普及していないのが、「締結後の契約書管理」です。
そこで、今回は契約書管理サービスのBUNTAN(ブンタン)を開発、販売する株式会社セキュリティリサイクル研究所(以下、SRI社)の文書管理コンサルタントの紺野様に、アフターコロナにおいても通用する、契約書管理のベストプラクティスを伺いました。
〈聞き手=山下 俊〉
そもそも、「契約書管理」とは?
そもそも「契約書管理」とはどういったことなのでしょうか?
意外にスコープが曖昧な印象をもっています。
まず当社では、契約書管理は以下の4つの要素から構成されていると考えています。
- ①台帳管理
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契約情報が一つの台帳に集約・統合されていること
- ②利用者の管理
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然るべきメンバーが台帳を閲覧できるようになっていること
- ③期限管理(廃棄含む)
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各契約の期限が把握されており、有効・失効がわかること
- ④履歴管理
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いつ誰が契約書(のデータ)を追加・修正したか、また原本の貸出・返却履歴がわかること
このいずれもがきちんと実施されていることが、契約書管理が完璧にできている状態ということになります。
契約書管理が不十分で日常業務にも支障
法務の皆様のお話をお聞きしていると、契約書管理はなんとなく後回しにされがちな印象があるのですが、実際に契約書管理が不十分だと、どういったリスクがあるのでしょうか?
4つの要素の全部または一部の管理ができていないことにより、様々なリスクが生じます。
最も深刻なのは、管理ができていないことで、なすべき債務の不履行が発生してしまったり、契約書を紛失してしまったために、紛争の証拠が準備できなかった場合です。
こういった懸念から大企業を中心に内部監査で指摘を受けた、といったケースも増えているようです。
ただ、日本の場合、契約書管理の不十分さに起因して紛争化したり、紛争で不利益を被るケースはそれほど多くないようにも思われます。
例えばSRI社にお問い合わせなさる企業様は、どんなリスクをお感じになられているのでしょうか?
むしろ、日常的な実害やリスクを感じていらっしゃるように思われます。例えば、契約更新(解約告知)のタイミングを逸してしまったことにより、本来会社で支払うつもりのなかった経費の支払いが発生してしまったような場合です。
人的なコンサルティングやSaaSなど、サブスクリプションサービスが増加してきていますし、確かに買い手側に立った時の期限管理は重要ですよね。
加えて日常的な実害として皆様がお感じになっているのは、「法務への問い合わせの増加」です。
「この会社との契約書を見せてください」といった問い合わせが増えると、該当の契約書を探してきてPDF化してそれを依頼者に送るといった対応だけでも結構大変で、本来の業務を圧迫してしまいます。
かといって全部を事業部門に委ねるのも不安と感じることも多く、その意味では、「必要な時に事業部門のメンバーも適切な範囲で過去の契約書とその情報を見られる」ということが求められていると言えます。
契約書管理も「ミニマムスタート」でOK
なるほど!こういった課題感から、契約書管理は改めて法務はもちろんのこと、会社全体にとって必要だと思われました。
とはいえ始め方が難しい気もします。契約管理を実際に行う際に押さえておくべきポイントを教えてください。
まず何よりも「台帳管理」をする以上、情報が統一的に管理されていることが非常に重要です。
台帳のフォーム(書式)が不統一で、入力情報が不均一になっていたり、精度が悪かったりすると、正しく検索ができず、また、契約期間などの把握もできなくなるので、適正に台帳管理しているとはいえません。
他方で、最初は管理する対象を絞って運用していくことも構わないのでしょうか?
もちろん理想は、紙の契約書のPDF化も含めた全件管理ですが、前述したようなリスクが低減されるのであれば、会社として「高リスク」と判断した契約書や直近数年分の契約書のみを対象として始めていくこともOKです。
SRI社の調べによると、改めて見返す機会がある契約書は全体の3割くらいというデータがあります。
このため、特に工数のかかる紙の契約書のPDF化は、いきなり全てについて行わずとも支障はないケースが多いです。
契約書管理もミニマムスタートがあり得るということですね!
運用に当たっては、どんな属性のメンバーが主導していくのが良いでしょうか?
法務または総務が主管部署となることが適切だと思います。
契約業務を管掌するという意味を強調すれば法務、社内の文書管理を管掌する意味合いを強調すれば総務というイメージです。
そして最も大事なのは、何を使うか、だと思いますが、台帳についてはMicrosoft ExcelやGoogle スプレッドシートなど、いわゆる表計算のアプリケーションでも問題ないのでしょうか?
もちろん最初の一歩という意味では構わないと思います。汎用アプリケーションで手軽に始められるのは魅力です。
ただ、管理しなければならない契約書の数はどんどん増えてくるので、次第に表計算アプリケーションでは動作が不安定になるなど管理が難しくなってくることもあるでしょう。
またマクロなどで作り込んだとしても、担当者が退職してしまったらメンテナンスができなくなった、という話もよく耳にするので注意が必要です。
更に冒頭でお話しした、履歴管理や利用者の管理の点は、システム上の制約から難しいので、こういった課題感に対処しようと思ったら、我々のBUNTANのような専用のシステムが必要になると思います。
管理は「基本9項目+1」から
どのような仕組みを用いるにしても、管理する項目はとても重要だと思われます。
具体的にどんな項目を台帳に持っておくべきでしょうか?
SRI社では「基本9項目」と言っているのですが、以下のような項目が基本と考えています。
- 管理番号
- 相手先
- タイトル
- 締結日
- 契約開始日
- 契約終了日
- 自動更新の有無
- 自動更新期間(更新時の周期)
- 契約の有効 or 失効
そして電子帳簿保存法対応として「取引金額」の項目が必要とされておりますので「基本9項目+1」が、現在の必須項目のイメージです。
これだけでも数としては多い印象かと思います。
管理を始める時には、あれもこれもと管理したくなりますが、今後運用できるものなのかを吟味した上で追加頂くのが良いと思います。結果運用できず穴ぼこだらけの台帳では、利用者の信頼度が低下してしまうと思うので。
その意味で、運用をきちんと続けていくために重要なことは、「運用のしやすさ」や「シンプルさ」ということになるのでしょうか?
一番大事なことは、契約書管理に限ったことではありませんが、前述した主管部署をきちっと決めることだと思います。
そして管理項目など、運用がシンプルであることが2番目ですね。
この2つが我々が様々なお客様へのサポートを通じて感じたことです。
まさに、一つのプロジェクトとして主管部署が責任を持って推進できるか、ということですね!
はい、そしてこうした状況をベースに、内部監査を定期的に行っている会社であれば、内部監査を一つのマイルストーンにして運用状況を確認できる機会を定期的に作れるので、より良いですね。
もう一つ重要なテーマとして、冒頭にお話し頂いた利用者管理、つまりどの範囲に台帳(と契約書データ)を閲覧可能にするか、は結構悩ましいポイントかと思います。
こちらはどういった思考プロセスで考えていくのが良いでしょうか?
こちらに関しては、前述した表計算アプリケーションですと、主管部署以外に見せるか、見せないかの二択になりますよね。他方でBUNTANをはじめとする契約管理システムですと、そこが細かく設定できることが多いかと思います。
この場合には大きく分けて2つの考え方があると思います。
一つは部署など組織によって分ける、という最もメジャーな方法です。ただ、契約書は企業によっては複数部署が関わるため、他の部署でも参照できる必要があるというケースも多いと思われます。この場合には、契約書の類型で分類することをお勧めしています。こうすると組織横断的な契約も適切な閲覧者を設定することができますよね。
今から契約書管理を始めるにあたって
最後に、これから契約書管理を始めようとされるベンチャー企業やスタートアップ企業は、何から手をつけていったら良いか、ご教示頂けますでしょうか?
冒頭でお話しした4つの管理のうち、なんと言っても「台帳管理」が最も大事なので、繰り返しになってしまいますが、どのように始めていくにしても運用する主管部署、責任者を決めて始めるのが重要です。
これが決まったら、誰が、いつ台帳を入力するのかを決めて行けば、スタートを切ることができます。
「まだ契約書の数が少ないので…」とおっしゃる方も多いですが、逆に多くなってから始めると初動の工数が非常にかかります。むしろ契約数が少ないうちからクイックに始めて、習慣化しておくことをお勧めします。
確かにこれからは紙と電子と両方の契約書の形式が当然のように併存する時代になりますから、早いうちから始めておくに越したことはなさそうですね。
ありがとうございました!
- 契約書管理を構成する4つの要素
- 台帳管理、利用者の管理、期限管理、履歴管理の4要素で構成
- 契約書管理が必要な理由
- 管理が不十分だと有事の時だけでなく、日常業務にも支障が発生する
- 契約書管理の始め方と運用時のポイント
- 主管部署を決めることが最重要で、運用の安定化にも寄与する
- 主管部署は法務 or 総務が一般的
- 高リスクの契約書や直近数年分などミニマムスタートもOK
- ただし、台帳が統一的に管理されていることが非常に重要
株式会社セキュリティリサイクル研究所
セキュリティリサイクル研究所(SRI)は文書管理の専門会社です。コロナウイルスの感染拡大により、密を避けるためのテレワークやフレックスタイムなど、“空間と時間にとらわれない働き方” が新しい常識として定着してきました。働く場所と人は集合から分散へ、業務や情報は紙から電子へと、ビジネス環境の大きな変化にともない、文書管理の在り方も、新しい常態(ニューノーマル)を構築していくことが求められています。SRIは、これからもお客さまに向き合い、寄り添いながら、「新しい時代に適した文書管理」をお客さまとともに、つくってまいります。
所在地 :東京都中央区日本橋本石町 3-1-2FORECAST 新常盤橋 6 階
代表取締役社長 :北村 真
企業サイト :https://www.sri-net.co.jp/