- 法務(組織)において指標を設けることの意義と効果
- 法務で追うべき指標の例
はじめに
みなさん、こんにちは!
現在の法務機能は、その役割が広がり、また企業の重要な機能として、その重要度が上がっていると言われる一方で、その機能が果たして適切に評価されているのかは疑問がないわけでもありません。
実際に、LOLでも度々引用している「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」(以下、「在り方報告書」)では、「その機能がどれくらい効果的に発揮されているか、あるいは、発揮されていないかについての成果の「見える化」を図ることが容易でないこと」が「法務機能を発揮するための潜在的な障害」になっていると指摘されています。
今回は、少しでも法務機能が発揮されているか、また進化しているのかをアピールするための「見える化」の一環として、法務(組織)において活用可能性のある指標7つをまとめていきます。
指標を設けることの効果
とはいえ、指標を設けることで得られる効果は、もう少し手触りのあるものでなければ、どれが自社にとって必要となる指標なのか判断ができません。まずは、実際にどういった効果を得られるのか、まとめていきます。
組織や業務の状態が比較可能になる
「増えた・減った」「忙しい・余裕がある」といった表現は、相対的な評価であり、適切な比較対象が設定されて初めて意味をなす言葉です。一定の条件のもとで取得した指標や数値は、こうした相対的な評価を行うための比較を可能にするものです。
上記に補足すると、あくまで数字は無味乾燥な数字でしかない一方で、評価は、これらの数字を比較して一定の思惑を持って行われるものです。この2つは全く別物であり、大きな差があります。
言い換えると、指標を取得してもそれを活用した評価方法が公平なものでなければ、メンバーに大きな疑問を抱かせることになります。
つまり、指標を設けて数値を取得した上で、組織としてこれらの指標や数値をどのように評価するのかを決めること、これがとても重要になります。そして、この点はマネジメント層や会社がきちんと意思決定をするべきポイントと言えるでしょう。
見えていなかった情報が顕現する
特にマネジメント層からすると、チームのメンバーが増えてくると、自分が見えない領域が増えてきます。特に法務の場合、思考過程はもちろんのこと、アウトプットもチーム内に共有されないケースがあり、意外に見えない領域は自分が想像するよりも広いことがあります。そこを補って、見えない情報を「見える化」してくれるのが、今回特集している指標です。
例えば、マネジメント層から見ると、一見あまり目立たないメンバーが、実は誰よりも案件数を多く対応してくれていたり、誰よりもスピーディーに対応してくれるといったこともあるかもしれません。
前述の「在り方報告書」でも以下のように指摘されています。
法務部門における日々の業務量やリアクションのスピードなどを数値化する、具体的に貢献した例を事業部門からも評価してもらうなどして、目に見えにくい法務機能の成果をなるべく具体的に見える形にして提示することが有効である。
「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」より
組織や業務のボトルネックがわかる
上記の2つの結果として、チームに存在する課題を特定することができます。
例えば、「昨年と比較して、法務のレスポンスのスピードが下がってきているが、これは昨年比1.5倍の案件数が原因と思われる、つまり端的に人員が不足している可能性がある」といった具合です。単に「法務のメンバーが忙しいと言っています」と言っても、そこから掘り下げなければ、本当のボトルネックが何か具体的に掴めませんし、説得力もありません。比較可能な指標があれば、ボトルネックを特定できる可能性が上がります。
下記の書き起こし記事では、リーガルテック導入の文脈の中で、ボトルネック特定のための見える化の重要性についてディスカッションしています。
法務で追うべき指標の例
以下では、法務でトラッキングすると一定の示唆を得られる可能性のある指標をまとめています。比較的指標として計測しやすい「反復継続して実行されるアクション」を主な対象として選定しています。
なお、以下に列挙するものが全てではないですし、もちろん全部をもっておく必要もありません。自分達の企業や組織の目指す方向性や目標に合う指標を取得してみましょう!
組織全体の状況を知るための指標
- ①月間の契約審査依頼・相談件数
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非常にオーソドックスで出発点になる指標です。単純にこの数字をとるだけで、そもそも毎月どれくらいの案件数が自分達のチームに依頼されてきているのか、具体的にイメージをもつことができます。
これを依頼元の部署・部門別に分ければ依頼部門の傾向、つまり法務がリソースを多く割いている事業部門がどこかを知ることができます。これは、将来的に経費の配分などに活用したり、当該部門に重点的に契約リテラシーを上げる施策を打つことにも繋げることもできます。
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また、契約類型・言語別に分類すれば、どの類型にリソースを投下しているのかがわかります。次に雛形化すべき契約類型を知ることにも繋がるでしょう。
- ②契約締結件数
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締結後の契約は、法務の業務の管轄外ということもあるかもしれません。ただ、例えば、締結した契約書のうち、自社雛形ベースでの締結件数の割合が5割を下回る場合、事業部門と協力して、自社雛形ベースで締結する機会を増やす、つまりより締結までにかけるリソースを下げるための方策を検討するきっかけにできます。
また、施策次第ではありますが、紙と電子締結での締結割合なども、電子契約を励行している企業であれば、その施策の進捗を示す良い指標になります。
- ③進行中の案件数
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現在依頼を受けている件数と、これらが誰に何件ずつ振られているのかの指標です。契約類型などによって重み付けを変えていく必要はありますが、今このメンバーに仕事が集まりすぎている、またはスタックしてしまっているのではないか、などマネジメント層に対してリアルタイムに示唆を与える指標と言えるでしょう。
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こちらは、やや定性的な指標です。
アンケートを事業部門からとることで、法務が社内から一体どういう評価をされているのか、どういった期待値があるのかがわかります。もちろん仮に結果のスコアが低かったからといって事業部門に迎合する必要はありません。ただ、会社内の一組織として活動している以上、「生の声」としてある程度は耳を傾ける姿勢は必要になるでしょう。
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組織のパフォーマンスを知るための指標
- ①各メンバーの月間の契約審査・相談対応件数
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特定の期間内で、各メンバーがどれくらいの案件に対応したかの指標です。もちろん対応している類型によって、かかる工数は異なるので、評価に結びつける際には注意が必要です。
ただ、例えば、自社雛形が多い企業で、かつ前述した契約類型の区分と組み合わせることができれば、一定の信頼性を担保した貢献度を表すことは可能でしょう。
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こちらは対応の速さに関する指標です。回答目標を定めている企業では、掲げた目標に対しての達成度を測るためには必須の指標です。
なお、上記は、事業部門に対してのレスポンスをする時間も含めた指標ですが、より厳密に、契約書ごとのレビューのスピードを計時する企業もあります。
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通常、レビュー内容や回答内容に多少の誤りがあったとしても、それが紛争化してトラブルになることは多くないですし、しかもそれが発現するとしても数年単位でかなりの時間差があるケースが多くです。このため、レビュー時点で、本当に対応が正しかったのかの評価は非常に難しいです。とはいえ、仮に上記のようなレビューの速さを指標にした場合、内容の正しさも指標にしたい(してほしい)と考える方は多いでしょう。
実際にスピードと内容の両面から評価を実施する場合には、いわゆる「ダブルチェック体制」をひいて第三者(多くの場合はプレイングマネージャーの方)の目を入れ、そのチェッカーが数値とは別個の基準として、レビューや回答の適切さをチェックし評価することで補うことが考えられるでしょう。
- ③1日の各業務にかけた時間
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日報の仕組みのように、1日のうち、何にどれくらいの時間をかけたのかを指標として計測する指標です。例えばマネージャーが、もっと契約に時間をかけてほしい、と考えるメンバーの実際の工数配分を知ることに活用できます。
実際に実施している企業もありますが、具体的な配分の記載については、計測方法の限界とメンバーへの信頼を前提として、自己申告制をとっている場合が多いです。
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まとめ
ここまで、法務(組織)に役立ちそうな指標をまとめてきました。
繰り返しにはなりますが、これらの数字は、数字でしかなく、どのように評価するのかは、組織のマネージャーや会社が、「どういった法務となることを期待するのか」を反映して決定されます。従来の議論を見ていると、この指標化、定量化することとその評価方法についての議論が一緒くたになされていることが多いように思われます。逆にいえば、こういった指標を法務として設け、また評価に繋げる場合には、マネジメント層がきちんとどういったメンバーを評価する組織なのかを、その背景から伝える必要があるということになるでしょう。
- 法務(組織)において指標を設けることの意義と効果
- 組織や業務の状態が比較可能になる
- 見えていなかった情報が見えるようになる
- 組織や業務のボトルネックがわかる
- 法務で追うべき指標の例
- 月間の契約審査依頼・相談件数
- 契約締結件数
- 進行中の案件数
- 満足度
- メンバーごとの月間の契約審査・相談対応件数
- 契約書の初回レビュー日数
- 1日の各業務にかけた時間
山下 俊(やました しゅん)
2014年、中央大学法科大学院を修了。日系メーカーにて企業法務業務全般(主に「一人法務」)及び新規事業開発に従事しつつ、クラウドサインやHubbleを導入し、契約業務の効率化を実現。
2020年1月にHubble社に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2021年6月からLegal Ops Labの編集担当兼務。2023年6月より執行役員CCO。近著に『Legal Operationsの実践』(商事法務)がある。