業務効率化と高品質化への最短ルート!ゼロから始める契約書のひな形づくりのポイント

この記事でわかること
  • ひな形を活用するメリット
  • ひな形の具体的な作成手順
  • ひな形をよりよく活用するためのポイント
目次

はじめに

みなさん、こんにちは。

円滑な契約業務を行うためには、法務のメンバーのスキルもさることながら、事前の準備が大きな要素を占めます。中でも自社のビジネスに即した契約書のひな形を整備することが欠かせません。

本記事では、ゼロから自社の契約書ひな形を作成する具体的な手順やポイント、更には作成したひな形の管理・活用のための工夫を整理して解説します。

ひな形を活用する3つのメリット

契約実務においてひな形を活用するメリットは、以下の3つがあります。

①工数の削減

取引を始めるにあたって、自社ひな形がなければ、自社で一から起案するか、取引先からひな形を送付してもらうことになります。いずれの場合であっても、自社ひな形を活用するケースに比べて、審査に要する時間は倍以上も長くなることが一般的です。

このように工数を大幅に削減することができるのが、ひな形を活用するもっともわかりやすい効果と言えます。

さらに、こうした工数の削減は「取引開始までの時間」を短縮することにも繋がるため、実は法務だけでなく、会社全体の工数削減・生産性の向上に貢献できるのです。

②品質の担保

複数の法務部員を抱える企業においては、自社ひな形を備えておくことにより、退職や異動、経験値の差によるスキルのばらつきなど、人的要素に左右されることなく契約書の品質を維持することができる、という利点があります。

加えて、相手方から受領した契約書ドラフトのファーストレビューの際にチェックリストとして利用することで、自社にとってどの程度の条件が望ましいのか、または検討すべき項目に抜け漏れがないか、といった判断の軸を持つことができます。

③自社に有利に交渉を進められる

通常、自社のひな形は、これまでの自社の契約交渉における成功・失敗事例等のノウハウを反映し、自社にとってベストな取引条件を凝縮したものとなっています。

このため、自社ひな形をファーストドラフトとして提示することで、相手方に修正を求められたとしても、自社に有利な条件をベースに議論することになり、交渉上有利な立場を取ることが可能となります。

ひな形の具体的な作成手順

以下では、実際にどういった手順でひな形を作成すればよいか、考慮すべきポイントとともにご紹介していきます。

STEP
自社にとってひな形が必要な契約類型を特定

まずは、そもそも自社にとってひな形がどの程度必要かを考えます。

法務立ち上げ期において必要なひな形

たとえばスタートアップ企業であれば、月間の契約審査依頼が10件を超えてくるなど、ルーティンの法務業務が増えてきた段階で、ひな形の整備に取り組んでおくと良いでしょう。 具体的には、PMF(プロダクトマーケットフィット)が進み、法務が忙しくなるシリーズBのフェーズが目安となります。

この段階では、NDAや取引基本契約書、またはサービスの申込書など、自社で日常的に、かつ継続的に取り交わす機会の多い契約類型についてひな形を作成していれば十分といえます。

また、そのひな形も必ずしも自社固有のものである必要はなく、経産省が公開しているひな形やOneNDAなどの汎用的なテンプレートを活用することでも問題ありません。

スタートアップ以外の企業でも、「法務機能が立ち上がったばかり」、「新規事業をローンチする」などの出来事が、ひな形を整備するきっかけとなるでしょう。その際の考え方も上述の通りで、まずは日常的に・継続的に締結することの多いものからひな形化することを検討しましょう。

法務安定期において必要なひな形

定型的な契約実務が負担なくこなせるようになった後で、月間の契約審査依頼が30件前後、またはひな形にない契約類型が数ヶ月に一度発生するような段階となったら、ひな形のバリエーションを増やすことを検討しましょう。

たとえば、NDAの片務型・双務型、業務委託契約の請負型・準委任型または委託側・受託側など、パターン別にひな形を用意しておくことで、一部のイレギュラー案件を除いてほとんどの取引に対応した体制が実現します。

STEP
ベースとなるテンプレートを確保

必要なひな形を決めたら、実際の作成作業に取り掛かります。
その際は、ベースとなるテンプレートがあると便利です。主に、以下のような手段で入手することが可能です。

  • 書籍
  • (経産省NDAやOneNDAなど)オープンソース化されたひな形
  • インターネット上のテンプレートサイト
  • 有料のテンプレート提供サービス
  • 弁護士に依頼
  • 他社から提示されたひな形

費用、クオリティや信頼性のバランスを考慮すると書籍の活用が中心になるでしょう。実際に元法務の筆者が法務担当者とお話をする限りでも同様の傾向があると感じます。

なお、最近では法務関連の書籍読み放題のオンラインサービスもあり、テンプレートをWord形式でダウンロードすることもできます。

ファイルの「作成者」に要注意!

筆者の経験上、他社の完成したひな形を拝借することも多くありました。その場合の注意点として、Wordの「作成者」があります。そのままWordファイルを流用してしまうと、その他社の名前が残ってしまいます。

Windows OSのMicrosoft Wordであれば、ファイル開き、ファイル>情報>関連ユーザーから確認ができます(図1参照)。 細かい点ですが、もしファイルごと流用する必要がある場合には、作成者をチェックして削除するか、全く新しいWordファイルに文言(書式)をコピー&ペーストすることをオススメします。

Wordの作成者の編集画面の画像
図1:Wordの「作成者」の編集画面
STEP
自社のビジネスに合わせて、ひな形を修正

入手したテンプレートをベースにして、自社のビジネスに合わせて条件を修正していきます。

この際、ついつい自社に有利な条件を盛り込んでしまいがちですが、あまりにも一方的な内容では取引先が受け入れてくれないため、自社に有利だが、相手も呑みやすい、適切なバランスを探ることが重要です。

こうした調整はひな形づくりでもっとも頭を悩ませる点ですが、過去の契約交渉の履歴が非常に参考になります。これが残っているのであれば、具体的にどのような交渉があり、どういった条件で妥結しているのかがわかるため、積極的に活用しましょう。

ひな形作りにも効く、過去の履歴

この過去の契約交渉の履歴はメールボックスやファイルサーバから探す方法もありますし、事業部門で契約交渉の窓口をした経験のあるメンバーに質問してもよいでしょう。

もっとも、こうした方法では、各社のデータ保持ポリシーや従業員の異動・退職などによって追えない情報が出てくる可能性があります。こうした事態への対処方法の一つに、契約ライフサイクルマネジメント(CLM)ソフトウェアなど専用システムの活用があります。交渉の履歴を含めたあらゆる情報が一元的に蓄積されるため、必要な情報に格段に早くアクセスすることができます。

上記に加えて、ひな形全体でメリハリをつけることも重要です。
たとえば、自社にとって重要な取引条件以外は、あえて一般的かつ平等な内容とすることで、実際の交渉の場面で些末な修正が来ることを防ぎ、契約交渉をスムーズにすることが期待できます。

STEP
社内に公開

作成が完了したら、社内に公開し、社内の事業部門のメンバーがいつでも使えるようにしましょう。 社内イントラやGoogle Drive等のストレージサービスなど、利用者にとって最もわかりやすい場所で公開することがおすすめです。

併せて、公開先のURLを社内向けの法務ポータルサイトに載せる、ビジネスチャットツール内でピン留めするなど、社内のメンバーが見る可能性のある至るところで周知をしましょう。

ひな形をよりよく活用するためのポイント

ひな形は一度作って終わりではなく、円滑な契約業務を遂行するためにアップデートやメンテナンスが欠かせません。

以下、具体的なひな形の管理・活用方法についてご紹介します。

ひな形の適時で継続的なアップデート

①ひな形のアップデートのタイミングを掴む

たとえば以下のようなタイミングでは、ひな形のアップデートを検討しましょう。

  • 法改正があったとき
  • 相手方から頻繁に同様の修正を求められるとき
  • ひな形と実際の取引内容に乖離が生じたとき

特に法改正への対応ができていない場合、業種・取引内容によっては非常にリスクが大きくなり得ます。特に規制業種を中心に、弁護士事務所のニュースレターや、法改正アラートを受け取ることのできるサービスを活用して、常日頃から法改正の情報収集をすることが欠かせません。

②ひな形をアップデートする際のルールを決める

①のようなきっかけがあったとしても、日々の業務が忙しく、緊急を要するものでない限り、なかなかアップデートが進まないことがあると思います。この場合は、ひな形アップデートのフローが明確になっていないケースが多いです。裏返すと、誰が提案し、誰が承認すればひな形をアップデートできるのかを仕組み化するのが、継続的なアップデートの秘訣です。

なお、たとえば複数名が所属する法務部において、メンバー全員の合意が必要というルールとしてしまうとアップデートが全く進まないことが懸念されます。色々な意見を参考にしたくなるところですが、「誰でも提案でき、一定の役職以上のメンバー1名が承認をすればOK」くらいにシンプルなルールにすることで、スムーズにアップデートを完遂できます。

③アップデートの経緯・バージョンを記録

ひな形をアップデートする際は、必ずその経緯と作業をした過程のバージョンを記録するようにしましょう。

これらの記録がないと、仮にそのアップデート部分を後から更に修正する必要が出た場合に、本当に今検討している改定案が自社にとって適切なのか(実は原案のままの方が良いという可能性)を見誤るおそれがあるためです。

事業部門が積極的に自社ひな形を使用できる環境づくり

ひな形を整備していても、事業部門が適切に活用できないのでは意味がありません。 そこで、主に以下のような対策をとることをオススメします。

①常に最新版のひな形を統一した場所に公開する

ひな形の格納場所を周知したうえで常に最新版を公開することで、古いバージョンのひな形を使うことを防げます。 アップデートがあった際には、社内に周知することも忘れずに行いましょう。

過去の調査においても、事業部門は「自社の契約書のひな形が、いつ新しく作成・アップデートされたのかがわからないこと」がひな形活用において最も不便な点として挙げられていました(図2参照)。

更にそもそも「自社の契約書のひな形が、どこにあるかわからない、社内に公開されていないこと」も、3番目に多い回答となっていました。このことからも、ひな形の活用には「格納場所の周知」、「新規作成・アップデートの周知」が特に重要と言えそうです。

契約書のひな形に関する不便さの調査結果の画像
図2:「新企画アンケート!法務以外のみなさんに聞きました!①「契約書を読みますか?必要ですか?」」の補足調査として実施。複数回答可
②事業部門側に、自社ひな形を活用するメリットを理解してもらう

上述の調査結果において、「自社の契約書のひな形を使う場面や取引の種類がよくわからないこと」が2番目に多い回答となっています。つまり実は事業部門にそもそもひな形を、いつ、何をどのように使ってよいかが伝わっていない可能性があるということです。

ひな形活用のメリットでも挙げたように、自社ひな形を活用することで、事業部門にとっても、取引をすぐに開始できるというメリットがあります。こうしたメリットの理解とともに、ひな形を活用すべき場面を具体的にイメージしてもらえるように、たとえば社内でひな形活用に関するセミナーを開催してはいかがでしょうか。

この際、もし自社におけるひな形の活用頻度が低いことがわかっていれば、事前に法務内で「全取引に占める自社ひな形の利用率を70%以上にする」といった定量的な目標を立てれば、施策の効果も振り返りやすくなります

これは、「ひな形の利用率を向上する=会社全体のコスト削減に寄与した」という法務の定量的な成果として、経営層にアピールする材料としても使うことが可能な指標と言えるでしょう。

まとめ

この記事のまとめ
  • ひな形を活用するメリット
    • 工数の削減
    • 品質の担保
    • 有利な交渉の展開
  • ひな形の具体的な作成手順
    • 「自社にとって」ひな形が必要な契約類型を特定する
    • ベースとなる書式を探す
    • 自社のビジネスモデルに合わせて、ドラフトを修正する
    • 社内に公開する
  • ひな形をよりよく活用するためのポイント
    • ひな形の継続的なアップデート
    • 事業部門が積極的に自社ひな形を使用できる環境づくり
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本記事の著者情報

佐藤 史弥(さとう ふみや)

日系グローバルメーカーの法務部門にて、法務業務全般に従事。従来の契約書の業務フローに疑問を抱き、自らDocuSignの全社導入PJを立ち上げ、全社的な業務効率化やリモートワークの推進を実現。その後、法務の働き方をもっとポジティブ・クリエイティブにしていきたいと考え、2022年にHubbleのカスタマーサクセスとして入社し現職。

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