はじめに
契約申請から審査、締結に至るまでの業務フローにおいては、現場の事業部門との間や、法務部門内でさまざまなやり取りが発生します。例えば、以下のようなコミュニケーションがあるでしょう。
- 事業部門からの審査依頼受付
- 現場担当者からの相談や質問、それに対する回答
- 契約書レビューに必要な情報のヒアリング
- 法務部門内での検討
下記にて発表したアンケート結果によれば、こうしたコミュニケーションにメールを使用している企業が多いのが現状です。ただ、後述のデメリットがあるため、メールによってこうしたコミュニケーションを実施するのは、おすすめしません。
リーガルオペレーションにメールを使うデメリット
案件依頼など重要なメールが埋もれてしまう
メールのCCやBCC、メーリングリスト、他企業からのプロモーションメールなど、ビジネス関連のメールは日々大量に届きます。管理が煩雑化してしまい、重要なメールを見逃してしまった経験がある方も多いのではないでしょうか。
契約業務においても、案件依頼の連絡などが大量のメールに埋もれてしまうことで、法務担当者の生産性が低下してしまうという問題点があります。
この問題を解決するには、フィルタやラベルといったメーラーの機能や、各種の自動化ソリューションを利用して、自分に届いた全てのメールを適切に分類し、もれなく処理をすればよいわけです。しかしながら、このような仕組みづくりは誰にできるものではない上、「その人のやり方」に依存してしまうことになります。
結果として新しいメンバーを迎える際に同じ仕組み化をする必要が出てきますし、依存している人が退職するタイミングで破綻してしまいます。
「使い慣れているから」というだけの理由でメール使う。これをやめるだけで、上記のトラブルを回避できるとしたら、絶対に回避すべきではないでしょうか。
情報が分散することでコミュニケーションコストが高まる
リーガルオペレーションにメールを使う2つ目の問題点は、情報の分散です。
ドキュメントは本来、当該案件の進捗状況や社内折衝の経緯など、その背景や文脈を踏まえて確認すべきものです。しかしながら、そうした情報がドキュメント内、メール、その他ツールに分散していると、契約業務に必要な情報へのアクセシビリティが低下してしまいます。
メールに添付されたWordドキュメントを、共有フォルダやクラウドストレージに保存している企業は大変多いものです。あなたもそうではないでしょうか。
しかしそのうちのどれだけの人が、それに対応するメール文章をWordと保存しているでしょうか。文章を見た時、それがどういう背景で作られたのか……相手方がだしてきたものなのか、相手方が求めているものは何なのか、自社が勝ち取った条件はどれなのか……分かるでしょうか。
例えば締結から1年が経ち、トラブルになってしまったとして、当時の契約書を見て上記のような背景を思い出せるでしょうか。担当者が退職していたとして、後任の人が判断できるでしょうか。
上記のような事態を回避するためには、社内で運用ルールを決め、ドキュメントに関連するコミュニケーションはエビデンスとして保存すればよいわけです。例えば、メールをダウンロードしてドキュメントと同じフォルダに保存しておくような運用が考えられます。
面倒くさいですが、メールを使う以上、仕方ありません。
代替案
汎用ツールを活用する
審査受付やタスク管理ツールとしてGoogleフォームやTrello、Asana、コミュニケーションツールとしてSlackやMicrosoft Teamsなど、汎用的なITツールを活用している企業も多くあります。
メールを代替する、コミュニケーションの最適解という観点から考えると、Slack、Microsoft Teams、Chatwork等のビジネスチャットが候補に上がります。
ここでは一例として、ビジネスチャットのSlackをワークフローに使う例を見てみましょう。例えば、下記のような業務フローが考えられます。
- 事業部担当者が、「#契約審査依頼」チャンネルで、「@Legal」にメンションをつけて、Wordドキュメントをアップロードし、契約の審査を依頼する。
- 法務の管理者が内容を確認し、担当を指定して対応するようスレッドで指示を出す。
- 審査対象者はWordドキュメントを修正し、コメントと共に事業部担当者に回答する。
- 以降のやり取りも、同様にスレッド上で行う。
この場合、メールでやり取りをする場合と比べて、次のようなメリットがあります。
① 案件がプロモーションメールに埋もれることがない
Slackにはプロモーションメールは届きませんから、これは当然ですね。
② 1つの案件についてのコメントが、1つのスレッドに集約される。
Slackにはスレッド機能があり、一つのトピックについてのやり取りが1箇所に集約されます。案件を進行する際に見やすいということのみならず、下記のようなメリットがあります。
(A)あとから振り返ったときに、どのような経緯をたどったのかすぐ分かる。
(B)担当者が退職しても、チャットの履歴はそのまま残る。
③ 必要に応じてチャンネルを分けることができる。
案件によっては、閲覧できる人を制限したい場合があります。またそうでなくても、事業部門ごとに相談チャンネルを分けたい場合があります。
逆にSlackのデメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
① 運用フローを徹底できるかは、担当者次第
スレッドに返信する、特定チャンネルで依頼する、依頼するときにグループ宛にメンションする、といった運用ルールを作ったとして、それを徹底できるかというのは、それぞれの担当者に依存してしまいます。
チャットツールは汎用性が高いため、契約審査に使う場合にはこのデメリットは甘受しなければなりません。
② 管理台帳を作る場合には、別システムで作ることになる。
Slackには、法務の案件を一覧化して管理するような機能はありません。案件ごとに、受付日・回答日、難易度、ステータス等の情報を入力して、タスク管理や人事評価で使いたい場合には、別のシステムを使う必要があります。
③ 検索性を担保するには、一工夫が必要
Slackの検索機能は優秀ですが、こと契約業務において、必要な情報をすぐに見つけるには、一工夫が必要になります。
例えば審査受付時にユニークなIDを設定し、管理台帳を残した上で、スレッドにも「ID:000-xxxBBB」のような形で記載します。このようにすれば、トラブルが起きた場合にもIDを起点にしてやりとりの履歴を追跡することができます。
株式会社ロコガイドでは、Slackを活用した契約業務フローを実施されていますので、是非参考にしてみてください。
このような汎用SaaSツールは、条件によっては無料で導入できるものもあり、小規模で使う場合には導入コストを低く抑えられるというメリットがあります。さらに、これらのSaaS製品の使いやすさや、汎用性の高さは眼を見張るものがあります。
本腰をいれて業務を最適化するには力不足感が否めませんが、足元で業務が回せるようにする、という意味では有力な候補と言えるでしょう。
専用ツールを導入する
上記のようなメールによるオペレーションの課題解決に向けては、各種リーガルテックの導入が有効です。メールをリプレイスすることをスコープに入れるのであれば、実は選択肢はあまり多くありません。
導入したいシステムの望ましい条件は、例えば下記が挙げられるでしょう。
- 契約書に特化した機能
- 法務担当がタスク漏れを回避できる
- 法務内・事業部とのコミュニケーションができる機能が内包されていて、情報を集約できる
- 事業部が使いやすいデザインで、説明コストが低い
- リーズナブルな価格
リーガルテックには、AIによる契約書をレビューしてくれるシステムや、ワークフロー機能が売りのシステムもあります。これらのシステムは、「契約業務の各ステップに特化したサービス」と、「契約業務全体を管理・マネジメントするプラットフォーム」とに大別できます。自社の契約業務フローを振り返った時、必要なのはどちらか、考えてみると良いでしょう。
サービスの思想や目的、自社の業務フロー、予算なども考慮しながら、自社にとって最適なリーガルテックを検討・選定することがポイントです。
ちなみに、私たちが展開しているHubbleは後者の「契約業務全体を管理・マネジメントするプラットフォーム」にあたります。
終わりに
事業部門や、法務内でのコミュニケーションは、リーガルオペレーションの根幹をなすものです。ここの改善なくして最適なリーガルオペレーションの構築はありえません。法務1人目の専任担当者になったら、まずは契約審査業務におけるコミュニケーションの仕組み化から始めてみてはいかがでしょうか。
法務組織内外のコラボレーションを促し、より生産性の高い働き方の実現を目指していきましょう!
法務業務でよく使うツールに関するノウハウもまとめています!