ミス防止だけじゃない!オンボーディング、ナレマネにも効く契約書ダブルチェック総論

この記事でわかること
  • 契約書レビュー業務でダブルチェックの意義
  • 契約書レビュー業務でダブルチェックが必要な理由
  • ダブルチェックの仕組みづくりのポイント4選
目次

はじめに

みなさん、こんにちは。

契約書レビューは、わずかな文言の修正漏れや欠落が取引上のリスクに直結するため、極めて重要かつ正確性が求められる業務といえます。

しかし、一回のレビューでミスや見落としなく完璧なレビューをするのは現実的には困難です。そこで、こうしたリスクを回避するために有効なのが、いわゆる「ダブルチェック」の仕組みです。

本記事では、契約書レビューにおけるダブルチェックの目的と、その実践の具体的なポイントについて詳しく解説します。

契約書レビューにおけるダブルチェックとは?

ダブルチェックの定義

本記事においてダブルチェックとは、契約書の初回レビューを行った後に、別の担当者(チェッカー)が再度レビューを行い、契約審査の精度を形式面と実質面それぞれから担保する仕組みを指します。

このダブルチェックは、契約(書)業務のあるべき姿を、審査依頼から契約管理までのプロセスごとにまとめた「Contract Productivity Model」のステージ1で、法務(組織)内で契約審査の精度を担保する仕組みがあるとある通り、契約レビュー業務のあるべき姿の一要素です。

契約業務の理想的なモデル、Contract Productivity Modelの図

なぜダブルチェックが必要なのか?

契約書レビュー業務におけるダブルチェックの目的は、以下のような点にあると考えられます。

a. アウトプット品質の担保

一人の担当者が契約書をレビューしただけでは、誤字脱字などの形式面はもちろんのこと、重要な修正ポイントの見落とし、条項間の矛盾といったミスが発生するリスクが相対的に高い状態です。ダブルチェックを行うことで、多角的な視点から契約書を確認することができ、契約書の品質を一定以上に維持することが可能になります。

加えて、契約書の内容そのものだけでなく、前提となる事業部門からの依頼内容も再度整理することにつながり、担当者だけでは発見できなかった新たな検討事項を抽出できたり、事業部門へ提示する具体的なアクションをブラッシュアップすることができるメリットもあります。

b. 契約書締結までのスピードアップ

ダブルチェックは、契約書締結までのスピード向上にも寄与します。

一見、二重のレビューが手間と時間を増やしているように見えるかもしれませんが、経験豊富なチェッカーが目を通すことで、自社で過去にすでに検討した論点や、過去に作成したドラフトを活用できることに気づき、いわゆる「車輪の再発明」を防ぎつつ、新たな論点のみにリソースを割くことが可能になり、レビュー自体のスピードを向上させます。

更に、ミスの早期発見と修正は、後々の修正作業を先んじて対応することになり、締結までのスピードを上げる効果があります。というのも議論が進んだ後に契約の内容を変更するコストは、たとえ同じ修正箇所であっても、当事者双方にとって相対的に「重くなる」傾向があるからです。

c. レビュー基準の標準化

ダブルチェックのプロセスは、メンバー間のレビュー基準を標準化するための有効な手段でもあります。 もちろん本来、レビューの基準は、ひな形やプレイブックを整備して、これによって担保するのが基本です。ただ、ダブルチェックでは更にこれを超えて、案件に応じてどこまで厳密にチェックするのか、どれくらいが妥当な落とし所なのか、といった自社のレビューの勘所、言い換えれば契約書レビューにおける暗黙知を継承する効果をも期待することができます。

特に、ジョブローテーションや人員増加で、法務組織に新しい人材が断続的に入ってくる環境においては、新たに配属されるメンバーのオンボーディングを促進する観点で、ダブルチェックの重要性は高いと言えるでしょう。

d. 心理的安全性を高める

ダブルチェックの体制が整っていることで、チーム内の心理的安全性を高める効果もあります。

そもそも契約書のダブルチェックは、一方的にマネージャーがメンバーに修正点を指摘しこれを受け入れることを強いる仕組みではありません。むしろ契約書を通して、チーム内での意見交換が自然と行われる環境を作ることにつながる仕組みです。こういったコミュニケーションが、少なくともチーム内でオープンに行われれば、チームの心理的安全を確保、向上して契約書レビュー業務を進めることが可能となります。 心理的安全性が確保された環境においては、情報やナレッジの共有に前向きになる相乗効果も望めます。

一人法務の「ダブルチェック」

一人法務の場合でも、ダブルチェックの概念を取り入れることは可能です。

例えば、重要な契約書をレビューする際には、一度レビューを終えた後、一定期間を置いて再度自分で確認する方法やAIレビューツールをダブルチェッカーとして活用することが考えられます。一人法務でも、工夫次第で効果的なダブルチェックを実践できます。

以下の事例では、具体的に現役一人法務によるダブルチェックの方法についても言及があります。

ダブルチェックの仕組みづくりのポイント4選

以下では、ダブルチェックをより効果的なものにするための具体的な仕組みづくりのポイントを4つご紹介します。

案件へのアサインルールを決める

ダブルチェックを聞いて多くの方がイメージするのは、案件にペアでアサインすることでしょう。 メンバーが少ないチームでは、必然的に最初にチェックするのがメンバー、ダブルチェックするのがマネージャーという形式になりますが、他にも法務組織のフェーズや所属しているメンバーのスキルレベルによってペアの組み方は様々あります。

例えば、ある程度の人数が所属している法務組織であれば、教育的な観点から新入社員とベテラン社員を組ませることも良いでしょう。また、チーム間でのナレッジ環流を目指すのであれば、必ずしもダブルチェッカーを固定する必要はなく、一定の経験を積んでいるメンバー同士で組ませ、案件によってダブルチェックする役割を入れ替えることも有用です。

ダブルチェックのプロセスを明確に定める

経験の浅いメンバーの困りごとでよくあるケースは、「そもそも相談した方が良い案件なのか、判断がつかない」、「どう進めればよいかわからない」というものです。

プレイブックがなく、単に必要な時にアウトプットを提出してそれをチェックしてもらうことだけが決まっているようなダブルチェック体制では、レビューに取り掛かる前に上記のような不安を抱えてしまうことになります。 そこで、ダブルチェックのプロセスを明確に定めることをお勧めします。

  • どういった案件についてダブルチェックを必須とするのかを定義する
  • 依頼が来てから1営業日以内にペアで論点の確認をし、大まかな回答方針や修正案の作成期限を決める(日常的な案件であれば省略可)
  • 初回レビュー担当者が、回答期限の2営業日前までにレビューを実施する
  • ③の過程で、ペア間で朝会などの定例のショートMTGを行い、進捗を共有する(日常的な案件であれば省略可)
  • レビュー案提出後、チェッカーがレビュー案を確認し、フィードバックを返す
  • ペアで最終案を確定し、ファーストチェッカーから回答する
  • 案件を振り返り、特筆すべき論点やドラフト文例の抽出、ドキュメントの保管をする
  • 汎用性がある要素を抽出し、プレイブックやひな形への反映を提案する

上記のプロセスはあくまで一例ですが、ポイントは(a)早期に大まかな方針についての認識を合わせ、手戻りを少なくすること、(b)情報共有の頻度を高める工夫をすること、そして(c)可能な限りタスクを具体化・細分化することになります。

ダブルチェックの過程を記録に残す

ダブルチェックの過程、つまりダブルチェッカーが指摘したポイントやこれに基づいて修正した条項案を詳細に記録することで、レビューに関わったメンバーの振り返りの素材になることはもちろん、それらがチームのナレッジの源泉になります。

具体的には、共有ドライブにすべてのバージョンのWordファイルを保管するような記録の方法もありますが、この場合は作業自体の負荷が高く、忙しさから記録保管のプロセスが形骸化してしまうおそれがあります。 この問題に対する解決策の一つに、契約ライフサイクルマネジメント(CLM)ソフトウェアなど専用システムの活用があります。こうしたツールを活用することで、ほとんど工数をかけることなくバージョンの管理やナレッジの蓄積を行うことができます。

④チェックリスト・プレイブックの活用

チェックリストやプレイブックを活用することで、レビュー基準の一貫性を確保できます。契約書の重要項目や見落としがちなポイントをリスト化することにより、見落としや誤りのリスクが大幅に減少し、レビューの標準化が進みます。特に新入社員や異動してきたメンバーのオンボーディングにも効果抜群です。

ここがある程度運用できる体制になっていると、ダブルチェックの内容は、暗黙知の継承により時間を割くことが可能になります。やや逆説的に聞こえるかもしれませんが、こういったフェーズになると、ダブルチェックはメールやチャットベースのテキストコミュニケーションから、より口伝を中心としたものになりえます

ナレッジ共有を目的としたミーティングを定期的に実施する

ナレッジ共有を目的としたミーティングを定期的に実施することで、チーム全体のスキル向上とナレッジの共有が促進されます。

ミーティングでは、各メンバーが直面した問題やその解決方法、良い事例やドラフト文例などを共有し合います。これにより、個々の知識や経験がチーム全体に広がり、メンバー全員がより高いレベルで業務を遂行できるようになります。また、定期的な交流はチームの結束力を高め、意見を言いやすい雰囲気を醸成することにつながります。

ポイントは、(a)定期的(週に1回など)な開催であること、(b)メンバーが全員参加すること、そして(c)全メンバー・ペアが必ず1個はナレッジを共有するルールとすることです。 これによりある種の強制力がはたらくため、普段の契約レビューの際にも共有すべきナレッジがないかを意識することになり、業務のクオリティが向上する効果も期待できます。

まとめ

この記事でわかること
  • 契約書レビュー業務でダブルチェックの意義
    • 契約書の初回レビューを行った後に、別の担当者が再度レビューを行い、契約審査の精度を形式面と実質面それぞれから担保する仕組み
  • 契約書レビュー業務でダブルチェックが必要な理由
    • アウトプット品質の担保
    • 契約書締結までのスピードアップ
    • レビュー基準の標準化
    • 心理的安全性を高める
  • ダブルチェックの仕組みづくりのポイント4選
    • ペアで案件にアサインする
    • ダブルチェックのプロセスを明確に定める
    • ダブルチェックの過程を記録に残す
    • チェックリスト・プレイブックの活用
本記事の著者情報

佐藤 史弥(さとう ふみや)

日系グローバルメーカーの法務部門にて、法務業務全般に従事。従来の契約書の業務フローに疑問を抱き、自らDocuSignの全社導入PJを立ち上げ、全社的な業務効率化やリモートワークの推進を実現。その後、法務の働き方をもっとポジティブ・クリエイティブにしていきたいと考え、2022年にHubbleのカスタマーサクセスとして入社し現職。

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