「業務設計士®」から見たバックオフィスが直面する課題とは – BYARD 代表取締役 武内俊介氏<前編>

SmartHRグループにて業務設計プラットフォーム「BYARD」を提供する株式会社BYARDの代表取締役 武内俊介氏。自身で立ち上げた前職のコンサルティング企業では、「業務設計士®」としてベンチャー企業のバックオフィスを中心に業務改善を手掛けてきました。今回は、武内氏がBYARDを立ち上げるに至った経緯を探りながら、バックオフィス業務が直面している課題を紐解きます。

〈聞き手=山下 俊〉

目次

バックオフィス業務はベルトコンベアのように流せば効率化できる「量産品」ではない

山下 俊

本日は宜しくお願いします!
まずは、バックオフィス業務の課題についてお聞きしたいです。武内さんが特に注目しているポイントを教えてください!

武内 俊介

課題として注目しているのは、企業毎・業務毎に個別化した最適なオペレーションを設計する必要性です。ある程度型にはめて一般化した改善手法を採用すべき部分もある一方で、それだけで完全に業務を効率化することは難しいと考えています。私自身も、かつては「効率的」な業務とは、ベルトコンベアのように流れるものだと考えていました。

代表取締役 武内俊介 氏
山下 俊

トップダウン式に「最高のオペレーション設計」を決めても限界があると。お考えが変わったタイミングはいつだったんでしょうか?

武内 俊介

前職の会社でコンサルティングを行う中で、お客さまの業務を固定化された型に当てはめて考えようとすると、逆に非効率になってしまう場合も多くあったんです。例えば、細部が重要となるケースや、担当者のこだわりや会社の雰囲気等の事情を汲む必要がある案件です。そこで、バックオフィス業務は工場と異なり、ベルトコンベアで量産品を作っているわけではない、と気付いたんです。

山下 俊

お客様の事情に応じた、柔軟でカスタマイズされた提案こそが重要なポイントなんですね!

武内 俊介

ここ数年、お客様のご相談に対応する中で、業務を決まった型に当てはめようとして、実際に試してみると回らないという状況を繰り返し見てきました。この経験から、業務フローの大枠は作るものの、1つひとつの細かいタスクを柔軟に上手く融合させて取り回すことの大切さを感じるようになったんです。
法務業務で言えば、契約業務で同じ内容の秘密保持契約書をレビューする際、案件によって許容できるかどうかの判断は異なりますよね。これに近いものがあるのかなと。

「スキーのポール」のように必ず通るポイントだけを決めて、柔軟性を確保する

山下 俊

機械ではなく人間による判断が必要なシーンは意外と多いのかもしれません。

武内 俊介

AI技術も発展してきていますが、個別性も含め様々な情報を総合して瞬時に判断する人間の能力は、非常に優秀なんです。業務のオペレーションとはいえ、要所要所では単に知識の量だけでなく複雑な経験を踏まえて判断しているはずです。

山下 俊

そういう意味で「属人化」は1つのキーワードになりそうです。

武内 俊介

そうですね。日付や金額等の数字が正確かどうかは機械で判断できる一方で、正解がない問題に対して複合的な判断ができるのは人間だけです。この数年で自動化やDXに取り組んできた企業には、「結局人間にしかできない部分もかなり残ってる」「自動化できる業務は、そもそもそんなに多くない」という感覚を持っている方も多いのではないでしょうか。

山下 俊

確かに、世の中の自動化やDXへの期待値が高いですからね。

武内 俊介

費用対効果やスピードを考えると、人が行う方が最適な業務もまだまだ多くあり、組織規模や求めるスピード感によってオペレーションを考え直さなければならないケースもあるので、難しいんですよね。

山下 俊

そう考えると、オペレーション設計においては、いい意味での諦めポイント」を見つけることが重要なのかもしれません。

武内 俊介

全ての道を整備するのは大変ですし、柔軟性がなくなってしまいます。ガチガチにレールを敷くのではなく、スキー競技のポールのように絶対に通らなければならないポイントだけ決めて、それ以外の部分の柔軟性を残しておくことが重要なんです。我々のBYARDも、ルールがない無法地帯に対してレールを敷くことが求められている一方で、そこにある程度の幅はあっても良いという考え方で設計しています。

山下 俊

ポイントをしっかり押さえていれば、あとはある程度個人に任せる、という考え方ですね。

武内 俊介

ただその際にも、オペレーションの棚卸しは必要です。承認や上長のチェックなどが絶対に必要なポイントはどこなのか、そこで何をチェックすべきなのか、きちんと決めておく必要があります。チェックリストを作って満足するのではなく、そもそもチェックリストがなぜ必要なのかというところから考えなければなりません。

コンサルタントとして感じていた歯がゆさ

山下 俊

今お話頂いた通り、BYARDにもそうした思想が反映されていますよね。サービスを立ち上げようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

武内 俊介

コンサルティングをやっていた時代、業務設計書を納品したとしても「これが本当に正しく現場で使われているのだろうか」と疑問に思うことが多かったんですよね。理想は、設計書を基に自分たちだけで業務をうまく進められるようになるところまで見届けることになりますが、コンサルタントはそこまで面倒を見切れないという歯がゆさを感じていました。

山下 俊

だからこそ、BYARDはSaaS(※)という形で提供されているんですね!

※「SaaS」:Software as a Serviceの略。従来のオンプレミスシステムと異なり、クラウドサーバー上でベンダーが駆動させるシステムに、ユーザーがアクセスする形式で使用する。セットアップする工数や自社での保守コストが最小限で済み、導入コストが低いことがメリットとして挙げられる。

武内 俊介

はい。大まかな方法論や型を示したうえで、業務を回しながら自社にあった形にチューニングして落とし込んでいくところまで、継続的に見ていけるものを作ろう、という思いからスタートしています。

BYARDのイメージ画面、各業務によって柔軟にフローを配置することができる

バックオフィス担当者に必要なのは、全体最適の発想とコスト感覚

山下 俊

法務も含めたバックオフィス業務のオペレーションを最適化するために、現場の方々はどのような意識を持つ必要があるのでしょうか?

武内 俊介

バックオフィス業務は、ひとつひとつがぶつ切りになっているために、全体最適の発想を持ちにくいという特徴があると思っています。目の前の業務に集中して個別最適を追求しがちですが、その業務が全体の流れの中で持つ意味に思いを巡らせるだけで、意識は大きく変化します。

山下 俊

業務の専門性への高い意識もあってか、確かにそういう側面はありますよね。他にも意識すべきポイントはありますか?

武内 俊介

もう1つはコスト感覚です。バックオフィスは自分の活動にコストが掛かっているという意識を持ちにくく、極端に言えば、1万円の請求書の確認に1時間掛けてしまう恐れもあるわけです。マニュアル通り真面目に業務に取り組んでいるとしても、コスト感覚がなければ生産性が低いということになってしまいます

山下 俊

確かに、法務もリスクをヘッジするという観点に注意が向きすぎた結果、コスト感覚が飛んでしまう可能性がある職種ですし、全体最適で考えている人はなかなか多くないかもしれません。

武内 俊介

秘密保持契約のチェックでも、ただの作業として捉えるのではなく、その先にどんなビジネスがあるのか想像するだけで意識は全く変わっていくと思います。

山下 俊

全体像を掴みながら仕事をするというマインドは、業務の精度や品質向上にも繋がりますよね。後編では業務オペレーションを改善していくための進め方について教えてください!

(以下の後編記事に続きます)


★今回のLegal Ops Star★

武内 俊介(たけうち しゅんすけ)

株式会社BYARD 代表取締役

業務設計士®、税理士。金融系での商品開発、システム企画を経て、会計事務所に勤務し、税理士資格を取得。その後、ベンチャー企業のバックオフィスを中心に営業やマーケティングを含めた業務改善を手掛ける。現在は、業務プロセスを構築し進捗管理ができるサービス、BYARDの代表として、バックオフィス×ITの領域で、ツール導入から運用設計まで幅広く手掛ける。

武内氏がリーガルテックなど各分野のテクノロジーについて語る連載はこちらから!

(本記事の掲載内容は、取材を実施した2023年2月時点のものです。)

LOLで実施したSmartHRグループのインタビュー記事はこちらから!

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