- 2023年11月時点におけるシステム導入におけるハードルの調査結果
- システム導入において、他のメンバーを巻き込む具体的手段
はじめに
みなさん、こんにちは!
業務効率化のためにはリーガルテックをはじめとするテクノロジーの活用が必要ですが、多くのシステム導入は、他の法務メンバー、場合によっては事業部門のメンバーなど組織レベルで利用者を巻き込まなければなりません。
今回は、LOLが独自で調査した結果をご紹介しつつ、どのように他のメンバーを巻き込みながらシステム導入を進めて行くべきか、考察していきます。
システム導入におけるハードルに関するアンケート結果
調査の概要
今回、LOLではシステムの導入及び活用の推進の際にハードルになり得る「他のメンバーの巻き込み」に注目し、実際にシステム導入の推進者とシステム利用者の感じている苦労や不安を明らかにするべく、以下のようなアンケート調査を実施しました。
回答数:1000
対象者:会社等の組織に所属し、主要な業務として、「法務以外」の業務に従事している方
調査時期:2023年11月上旬
調査方法:インターネット上の回答フォームへの回答
回答者の属性
本アンケートの回答者の属性は以下の通り、半数近くが1-99名の比較的小規模の組織に属しています(図1参照)。
全回答者のうち、実際に新しいシステムの導入に何らかの形で関わったことがあるのは全体の3割程度となっています(図2参照)。
【Q1-Q2】システム導入推進者の苦労と傾向
まず、ここでは、企業において、業務で活用するシステムの導入を推進した経験がある方に、導入時に苦労したと感じることを聞きました。自身の業務量の調整はもちろんのこと、予算取得も含めて関係者間の調整に苦労した方が多いという結果となりました(図3参照)。
苦労を挙げる方が多い反面で、一定の成果を感じることができたからか、再度システム導入を推進したいかとの質問には、約6割の導入推進経験者がまたシステム導入を推進する役割を担いたいと回答しています(図4参照)。
【Q3-Q4】システム利用者の不安と傾向
次に、広く本アンケートの回答者に対して、新しいシステムが導入されることに伴う不安感を聞きました。新たなシステム導入経験がない方も含めた回答のためか、不安に感じる方は必ずしも多くないものの、主に新しいシステムの機能を覚えることへの億劫さが見られる回答結果となりました(図5参照)。
上記の設問で、システムの導入自体への不安はないと半数以上の方が回答した一方で、業務のやり方が変わることへの感情は、少し違う結果となりました。
5割以上の方が、改善を見込めるなら今の業務のやり方を変えても良いと考えていますが、一方で従来のやり方を変えたくない層も根強く存在する結果(約33%)となりました(図6参照)。
システム導入において他のメンバーを巻き込む手段
上記のアンケート調査を見る限り、やはりシステム導入に伴って、利用者は業務のやり方が変わることに一定の心理的ハードルを感じていることがわかり(Q4参照)、それもあってか、導入推進者もここに苦労を感じることがあるように思われました(Q1参照)。
つまり、システム導入と活用促進に際しては、必ずしも積極的ではない自分(または自分の部署)以外のメンバーをいかに巻き込んでいくかが重要になると言えるでしょう。以下では、その具体的手段をまとめていきます。
①なぜやるのかを丁寧に説明する
当然ながら、システム導入を推進する側と巻き込まれる利用者の間には、これまでの経緯や課題感、システムの導入検討過程について圧倒的な情報量の格差があります。このため、システム導入をし活用を推進するに当たっては、まずシステム導入の目的を丁寧に説明することが必要になります。
ここを疎かにすると、システム導入によって得たい効果など基本的な方向性でのボタンのかけ違いが発生し、推進者と利用者双方で不満が燻り続けてしまうこともあり得るため、注意が必要です。
そもそも論として、全社規模か一部の組織かを問わず、システム導入が円滑に進むかは、その導入推進者や推進組織が、システム利用者からどれだけ信頼されているかが大きな要素となることも否定できません。
多くのシステム導入に携わって来た身からすると、導入推進者が利用者となる他部署の方々からしっかりと信頼を得られていれば、仮に推進が難しいと思われる案件だったとしても「〇〇さんが言うのならやってみようよ」と社内の利用者が協力してくれることも多いです。やや残酷ですが、システム導入時の利用者の反応が、これまでの利用者との信頼構築の「通信簿」となるのです。
つまり、組織の中で働く以上、普段から社内の他のメンバーとどのように信頼関係を構築しておくかが、スムーズな業務の遂行に際して、非常に重要な要素となり得るということなのです。
②客観的な効果を示す
前述のQ4で、「仮に効果が見込めるとしても業務のやり方を変えたくない」という回答が多く見られたのは、いわゆる「現状維持バイアス」の結果と考えられます。
「現状維持バイアス」とは、ウィリアムズ・サミュエルソンとリチャード・ゼックハウザーが発表した(※)、あらゆる場面において、個人(意思決定者)が現状維持に固執する傾向を表す言葉で、認知バイアスの一種とされています。
(※)William Samuelson and Richard Zeckhauser (1988)”Status Quo Bias in Decision Making“
現状維持バイアスは、その原因の一つに人間の損失回避性があるとされ、「変化を起こすことが非常に大きな利益になる場合でさえ、変化を起こさないように圧力をかける」(リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン『実践 行動経済学』(日経BP、2009年))ことがあるとされています。
このバイアスを取り払うためには、客観的にシステム導入によって、効果が出ることを定量的に示すこと(いわゆるROIを示すこと)が一つの回避策になり得ます。企業におけるシステム導入でいえば、数字を取り扱うことが多い営業職のメンバーを巻き込む際には有用な手段となるでしょう。
③会社や組織の方針との整合性を示す
コミュニケーションツールなど、導入しようとするテクノロジーの性質によっては、なかなか前述のような定量的な効果(ROI)を算出しづらい場合もあるでしょう。こういった場合には、他のメンバーにいかに「そこまで気が進まないけど、一旦やってみようか」という一歩踏み出す気持ちにさせるかが重要です。
その一つの手段が、会社や組織が目指す方針との整合性を示すことです。例えば、会社の中期経営計画に「社内DXの推進」といったビジョンが盛り込まれているのであれば、これをピン留めされた企業の方針とし、それを施策に落としたものが今回のシステム導入である、といった説明をするイメージです。これで組織の上長も巻き込むこともスムーズになります。
もちろんこれは、法務組織などの小規模組織においても同様に有効な手段といえ、戦略が定められている場合には、その戦略に沿ってシステム導入を進めると良いでしょう。
④「あなた」にも効果があることを実感させる
いくら机上で効果があると定量的に示しても、結局は各人が効果を実感しなければ、システムの運用が波に乗ることは難しくなります。
これを克服するには、やはり実際に効果を実感してもらうことが最上の手段です。システム導入であれば、短期間でもシステムをトライアル利用し、実際に巻き込みたい方にも使ってもらうこと、いわばスモールスタートを実践するのが良いでしょう。
ここで上手く行けば、巻き込まれる側に、自分達のいわば味方ができる(場合によっては推進側に引き込む)ことになるため、その後のシステムの展開も非常にスムーズになることが見込めます。
なお、前述のQ3から、利用者においては、システムの使い方を覚えることに不安がある方も非常に多いことがわかっています。このため、特に導入タイミングでは、活用する機能をあまり詰め込まず、利用者にとってシンプルな使い方にとどめるということも必要かもしれません。
前述の通り、利用者はシステムの使い方を覚えることに億劫さと不安さを感じていることが如実に出ていました。
確かに推進者から考えると、「あれもできてこれもできる」サービスは魅力的に映ることもあるでしょう。一方で利用者のことを考えると、常に機能が充実していることが幸せなことではない可能性があることは、推進者も頭に入れておく必要があるように思われます。
つまり、機能はあくまで課題の解決に必要十分であるか、そして多くの方にとって使いやすいかという観点から考えていくことが王道なのです。
⑤導入推進者自身が導入と活用にコミットする
最後に当たり前のことですが、どんなシステムであっても手放しで勝手に活用が推進されることはありません。
言い換えると、システム導入は使い方説明会を行って終わりではなく、一定期間は、活用が進むように推進者が責任を持って浸透させていくことが必要になります。
特にクラウドサービスでは、特定のファイルやコミュニケーションに固有のURLが振られていることが多いため、「今やり取りしているトピックはここに情報があるので、ご覧ください」といった形でその固有のURLとともに(ややしつこく)引用を用いたコミュニケーションしてみるというのも有用と思われます。
最後に -みんなが納得し、ハッピーになる世界はあるか?-
ここまで、システム利用者を巻き込む方法をご紹介してきました。本稿を読んでいると、あたかも利用者全員が納得しなければシステム導入や活用が推進できないと感じたかもしれません。しかし、現実はそうではありません。どんな素晴らしいシステムを導入しても、納得していない、いやいや使っているという方は必ずいるものです。
ただ、利用者を巻き込むことに漠然とした億劫さや不安を抱えた結果として、DXや業務改善が進まないのだとすると、それは非常にもったいないことです。実際にQ2において半数以上のシステム導入の推進経験者が「また推進役を担いたい」と回答しているところを見ると、実際にシステムの導入によって得られた効果が大きく、有意義な取り組みであったことが示唆されています。
本稿に書かれていることを実践するだけでも利用者を巻き込むハードルは大きく下がりますので、是非皆様や企業の生産性向上のために役立てて頂けると良いのではないでしょうか。
まとめ
- 2023年11月時点におけるシステム導入におけるハードルの調査結果
- 導入推進者
- 自己の業務量調整と他者の巻き込みに苦労を感じる
- ただし、半数以上の方は再び導入の推進を行いたいと感じている
- システム利用者
- サービスの使い方を覚えることへの不安が強い
- 業務のやり方が変わることへの不安感は一部において根強い
- 導入推進者
- システム導入において、他のメンバーを巻き込む具体的手段
- システムの導入目的の説明
- 客観的な効果の提示(現状維持バイアスの打破)
- 会社や組織の方針との整合性を示す
- 実際の活用による導入効果の実感
- 導入推進者のコミット
山下 俊(やました しゅん)
2014年、中央大学法科大学院を修了。日系メーカーにて企業法務業務全般(主に「一人法務」)及び新規事業開発に従事しつつ、クラウドサインやHubbleを導入し、契約業務の効率化を実現。
2020年1月にHubble社に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2021年6月からLegal Ops Labの編集担当兼務。2023年6月より執行役員CCO。近著に『Legal Operationsの実践』(商事法務)がある。
過去にLOLで実施したアンケートはこちら!