どうすれば法務のオペレーション改善は進むのか? – BYARD 代表取締役 武内俊介氏<後編>

法務のオペレーション改善の必要性は理解していながらも、目の前の業務に追われていると「従来のままでも回っているから問題ない」、「自分の頭の中に情報があるから大丈夫」と、つい後回しにしがちです。法務のオペレーション改善はどうすれば進むのか。そもそもなぜオペレーションを整備しなければならないのか。「業務設計士®」としてベンチャー企業のバックオフィスを中心に業務改善を手掛け、現在SmartHRグループにて業務設計プラットフォーム「BYARD」を提供する株式会社BYARD 代表取締役 武内俊介氏に聞きました。

〈聞き手=山下 俊〉

目次

事業部門を巻き込むには、普段のコミュニケーションが重要

山下 俊

前編では、全体最適のフローの重要性をご説明頂きました。
実際に全体最適を目指して業務オペレーションを改善していこうとすると、社内の様々な人を巻き込む必要があると思います。この時のハードルは、どう乗り越えていけばよいでしょうか?

武内 俊介

何のためにやるのか、目的を明確にすることが大切だと思います。
ツールありきで考えたり、目の前の課題を解決したいという理由だけで進めたりすると、上手くいきません。現状とあるべき姿をきちんと整理したうえで、今やるべきことを逆算して考えていくのが最善です。

代表取締役 武内俊介 氏
山下 俊

例えば、全社的なシステムを導入する際、導入部門が他の部門を説得しきれなかったり、そもそも説得できる自信がなく導入が進まない、というケースもあると思います。業務オペレーションを改善しようとした時に、利害関係者を説得するポイントはありますか?

武内 俊介

例えば法務が推進する部門である場合、事業部門の邪魔をする敵ではなく、サポートする味方であるということを理解してもらえていることが前提になります。そのためには、事業部門の方が疑問に思ったことがあれば聞きやすい環境を意識的に作っておく等、普段から事業部門に寄り添った仕事をすることが大切だと思います。

山下 俊

法務と事業部門間での常日頃のコミュニケーションが大事ということですね!

武内 俊介

例えば、契約業務について考える場合、企業同士で何かあったとき、最後の拠り所となるのが契約書ですよね。契約書は、企業や事業を守るために必要なものである、と改めて説明しておくことも重要だと思います。契約書の最新版を営業担当者がきちんと保存しておらず、前のバージョンで契約締結してしまうミスがあれば、お互いに手戻りが発生しますし、会社としてのリスクにも繋がります。

山下 俊

推進担当者だけの課題解決ではなく、まさに会社「全体」におけるメリットに繋がりました

武内 俊介

業務オペレーションの改善ツールを導入することで、推進担当と利害関係者の双方の業務やビジネスにおいて大きなメリットがあるという点を理解してもらえるような説明を果たすことが大事なのだと思いますね。

そもそもなぜオペレーション整備が必要なのか?

山下 俊

「そもそも論」になってしまいますが、業務オペレーションを整備する必要性はどこにあるのでしょうか。 必要性を明確にすれば、社内の巻き込みもしやすそうです。

武内 俊介

再現性」「代替性」「改善」という3つの段階で説明できると考えています。特にツール導入にあたっては、まず再現性をどう担保するかという点を考えます。再現性がない状態でメンバーに指示しても、上手くいかないですよね。スポーツで例えるならば、正しいフォームや効率の良いフォームを身に付けるところから始めるということだと思います。

山下 俊

ルールを設けるのも再現性を確保するためですよね!

武内 俊介

はい。ただ、ルールブックを策定することを目的にしてしまうと上手くいかないので注意が必要です。効率性の確保や手戻りの防止、教育コストの削減等を目指して再現性のある状態を実現するためにルールがある、という考え方が適切です。

山下 俊

再現性が確保できたら、代替性を高めてサステナブルな状態を目指し、それをより良くするために改善を行っていく、という流れになるでしょうか?

武内 俊介

はい。特に改善が重要です。「昔決めたから」という理由でやり方が固定化されてしまい、誰が決めたのかも、なぜやっているのかもわからない状態が生まれれば、目的と手段が逆転してしまっている証拠です。

山下 俊

一度オペレーションを作り上げると、あたかもそれが不変のものであるかのように扱われ、「変えられません」といわれてしまうケースもありますよね。

武内 俊介

当初はきちんと設計したはずのオペレーションも、時代が流れていけば、古いものになっていきます。ルールは変えられないものではありません。「なぜ?」とか「この方がいいのでは?」と言える状態にしておくことは大切です。

山下 俊

そうした意識を持っておく必要があるのは、マネージャーや、一部の担当者だけでいいでしょうか?それとも組織全体として必要ですか?

武内 俊介

組織全体にそうしたマインドや文化が根づいていることが大事だと思っています。DXも変革すべきはカルチャーであり、うまく進まないのはマインドが変えられないからである、という話があります。DXに失敗する原因は、デジタルに対応できなかったことにあるのでなく、新しい状況に対して、自分たちのあり方を柔軟にアップデートできなかったというマインドの問題にあるんですよね。

オペレーションを改善してより付加価値の高い法務業務を

山下 俊

では、法務の方々にとって、オペレーション改善をすることのメリットはどこにあるのでしょうか?

武内 俊介

オペレーションやルールについて考える時間を短くして、より付加価値の高い法務業務ができるようになるという点です。
法務の強みは決して「作業すること」ではないはずです。事案のしっかりとした分析や隠れたリスクの洗い出し等、本来やるべき業務に時間を充てられるようにしていくべきなんです。

山下 俊

集中すべき業務に集中できる環境を整えていく必要がありますね!

武内 俊介

日々目の前にきた依頼を打ち返すだけの仕事をしていると、杓子定規な対応しかできず社内の敵になってしまい、より状況が悪化するという負のスパイラルに陥ってしまいます。オペレーションを一回整備してルールを作ってしまえば使い回しでき、コスパも良いと思います。

自分が思い描いたとおりに動くようになれば「業務設計」は楽しい

山下 俊

お話を聞いていて、業務設計という取り組み自体、楽しそうです。武内さんは業務設計の魅力をどこに感じられていますか?

武内 俊介

自分の想定通りに動くと嬉しいですし、楽しさがありますね。
例えばゲームでも、「相手はこう攻撃してくるはずだから、ここに伏兵を置いておいて…」等と考えて、実際にその通りになると楽しいですよね。

山下 俊

予測し、戦略を立てて実行する、知的な楽しさですね!

武内 俊介

業務の初期設計は仮説から始まります。「多分こうなんじゃないか」とか、「こういう流れの方が良さそう」と仮説を立てた上で実際に動かしてみる。そこで想定どおりに動けば良いですが、その通りにならなくても、その原因を検証してPDCAを回していけば、精度は高くなっていきます

山下 俊

段々と自分の理想に近づいていく過程そのものがエキサイティングですね!

武内 俊介

実際にBYARDの事例インタビューをしていても、こうした取り組みが好きだという方は一定数いらっしゃいます。自分が思い描いていたとおりに物事が進むようになることだけでなく、それによってメンバーに感謝されるというのも嬉しいポイントのようです。

山下 俊

お話を伺っていて、オペレーションに着目して業務を設計できる人の「尊さ」を感じました!

武内 俊介

現在、そうした人材の希少価値は、相当高いと思います。
ただ、どうしても見つからない場合は、皆で一緒に作るという方法をおすすめしています。先ほどお話しした自分が把握している業務の前後にどんな業務があるのかがわかるという点でも良いですね。

山下 俊

改めて業務の全体像を見ながらオペレーションを組んでいくことが必要ということですね!
ありがとうございました!


★今回のLegal Ops Star★

武内 俊介(たけうち しゅんすけ)

株式会社BYARD 代表取締役

業務設計士®、税理士。金融系での商品開発、システム企画を経て、会計事務所に勤務し、税理士資格を取得。その後、ベンチャー企業のバックオフィスを中心に営業やマーケティングを含めた業務改善を手掛ける。現在は、業務プロセスを構築し進捗管理ができるサービス、BYARDの代表として、バックオフィス×ITの領域で、ツール導入から運用設計まで幅広く手掛ける。

武内氏がリーガルテックなど各分野のテクノロジーについて語る連載はこちらから!

(本記事の掲載内容は、取材を実施した2023年2月時点のものです。)

LOLで実施したSmartHRグループのインタビュー記事はこちらから!

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