本記事でわかること
Over view
- リーガルオペレーションズの概要とその構成要素
- リーガルオペレーションズの日米における違い
- リーガルオペレーションズの中でも今の日本企業に特に重要な要素
目次
- はじめに
- リーガルオペレーションズ(Legal Operations)とは
- リーガルオペレーションズの構成要素
- 特に注目のリーガルオペレーションズの構成要素
- まとめ
はじめに
みなさん、こんにちは!
当社が運営する法務の生産性を高めるメディア「Legal Ops Lab」(以下、LOL)では、米国発祥の「リーガルオペレーションズ」に関する記事を掲載しています。
本記事では、改めて、リーガルオペレーションズの概要をご紹介していきます。
リーガルオペレーションズ(Legal Operations)とは
リーガルオペレーションズの定義
まず、リーガルオペレーションズ(英:Legal Operations, Legal Ops)とは、米国のCLOC(The Corporate Legal Operations Consortium)によれば、「法務部門が(社内の)クライアントに対して、より効率的に法務サービスを提供するための仕組み・活動、専門家」を指すとされています。言い換えると、法務の中核的業務である法的評価や判断以外の全てのアクションを包含する概念」とされています。
リーガルオペレーションズの起源
米国では2010年代から、また日本では2020年代から、その重要性が業界内で認識されるようになってきました。
米国では主として高騰する弁護士費用をどのように適正化していくかという顕在化していた課題感と、シリコンバレーを中心としたITスタートアップ企業の業務効率化が、その普及の主な要因だと言われています。
一方で日本においては弁護士費用が過大という認識は必ずしも共有されておらず、むしろ法務DXを通じた業務効率化に重きが置かれた出発点でした。そしてそのゴールには、法務機能を強化し、企業におけるリスク管理はもちろん経営に貢献していく法務をゴールとして見据えています。特に、2019年に公開された「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」(いわゆる「在り方報告書」)の存在も日本におけるリーガルオペレーションズの普及に影響を与えたものと思われます。
そして、日米両国に共通してリーガルオペレーションズの取り組みを加速させたのは、COVID-19による就労環境の変化でした。リモートワークが普及し、それぞれがどんな環境から働いたとしてもオフィスにいる時と同じようにチームワークを発揮し、同じスピード、同じクオリティで業務を遂行する必要が出てきたことも、大きな要因と思われます。
リーガルオペレーションズの構成要素
前述の通り、リーガルオペレーションズの内容は非常に広く、何から取り組んでいくべきか、悩む方も多いでしょう。前出のCLOCは、リーガルオペレーションズの主な項目を12個抽出し、「Core12」としてフレームワーク化しています。
アメリカの「Core12」 by CLOC
- Business Intelligence
- Financial Management
- Firm & Vendor Management
- Information Governance
- Knowledge Management
- Organization Optimization & Health
- Practice Operations
- Project/Program Management
- Service Delivery Models
- Strategic Planning
- Technology
- Training & Development
前述のような課題感から、まず目の前の状況をデータなどを使って可視化し、コストを最適化していくことに重きが置かれた要素が目立ち、またそれゆえ、米国の場合は必ずしも法務の専門家(米国では多くは弁護士)が担い手となることが想定されていません。
そして、これらの各要素について、Reactive、Emerging、Developing、Leadingの4つの成熟度が提示されており、それらと照らし合わせることで、自社の到達状況を測ることができるようになっています。
日本の「CORE8」 by 日本版リーガルオペレーションズ研究会
一方で日本では、Core12を念頭に置きつつ、日本により適合した形に引き直した「CORE8」が、日本版リーガルオペレーションズ研究会によって公開されています。
- 戦略
- 予算
- マネジメント
- 人材
- 業務フロー
- ナレッジマネジメント
- 外部リソース活用
- テクノロジー活用
CORE8においても、3つのレベルが示されており、自社の組織の状況を確認することができます。
CORE8の各項目は、Core12と比較すると、いずれも聞き慣れた言葉が多いと思われます。日本企業においてリーガルオペレーションズを実践しようとする場合には、まずCORE8を参照すると良いでしょう。
実際に以下では、CORE8を基準にして法務組織の改善を行った事例を紹介しています。この記事でもあるとおり、2024年現在の日本では、法務の実務を知っている方、つまり法務メンバーがその担い手となるケースが多く見られます。
注目のリーガルオペレーションズの構成要素
日米それぞれで紹介されている全ての項目が、リーガルオペレーションズの観点では非常に重要ですが、以下では、その中でも特に日本企業の法務機能に重要な要素をピックアップしてご紹介します。
①戦略
CORE8では「戦略」、Core12では「Strategic Planning」に当たる項目です。
特に日本においては、人材の流動性が高まる一方で、(現在そして将来に向かっての)人手不足も大きな課題です。こういった中で複雑さが増すリスクの適切な管理を実践しつつ、企業の成長へ貢献する「攻めの法務」を実現するのは、非常に難易度が高いことです。そこで、法務部門が何を重要視し、何から優先的に取り組むかを決める「戦略」が非常に重要になります。
日本版リーガルオペレーションズ研究会からのコメントにも「特に中心にあるべきは戦略であり、まずは戦略からということが重要である」とあり、リーガルオペレーションズを考えるにあたっての出発点となることが示唆されています。
②人材
CORE8では「人材」、Core12では「Training & Development」や「Organization Optimization & Health」などに当たる項目です。
前述のとおり、日本では人材の流動性が高まっている一方で、優秀なメンバーの採用はまさに争奪戦で、非常に難しくなっています(※1)。そういった状況下では、いかに自社のカルチャーに適合するメンバーを採用した上で、彼らに早期に活躍してもらい、いかに長く自社で働いてもらうかが非常に重要です。
(※1)参考になるデータとして、米田憲市 編、経営法友会 法務部門実態調査委員会 著『会社法務部〔第12次〕実態調査の分析報告』(商事法務、2022年)P30,P40,P57など
日本版のCORE8では、組織的な人材戦略やキャリアパス設計など、一定規模以上の法務組織がもれなく持っておくべき施策や仕組みが網羅されています。その一方で、人材の流動性が元来高い米国のCore12では、更にワークライフバランスやメンタルヘルスなどにも配慮することが要素として示されており、日本企業においても参考になるでしょう。
③ナレッジマネジメント
CORE8では「ナレッジマネジメント」、Core12でも「Knowledge Management」と項目立てされています。
日米両国において、人の入れ替わりが発生する法務組織では、入れ替わりとともに過去検討したアプトプットが消失したり、検索できなくなることは、組織として大きな損失です。また、こういったナレッジが蓄積されて活用できる状態にあれば、結果として新しく入社したメンバーが(先人のアウトプットを参考にして)早く活躍できるといった効果も望めます。こういった背景からナレッジマネジメントが重要視されています。
ナレッジマネジメントと聞くと、何から手をつけるべきか悩ましいですが、例えば契約業務であれば雛形の整備や定期的なアップデートのプロセスを定めることから始めると良いでしょう。
④テクノロジー(リーガルテック)
CORE8では「テクノロジー活用」、Core12でも「Technology」と項目立てされています。
リーガルテックをはじめとして、法務の業務効率化にテクノロジーが必要になっていることにあまり疑いの余地はないでしょう。直近では生成AIの登場により、特に反復して行われる作業を中心として、法務業務の効率性が大きく変わり始め、テクノロジーで解決できる領域はテクノロジーに任せ、(法務・事業部門ともに)人が注力すべき領域を見極めていくことが、より求められるようになりました。
従来からリーガルテックによる効率化の恩恵を受けやすいとされていた契約業務においては、CLM(Contract Lifecycle Management)システムを用いて、法務部門だけの個別最適な効率化でなく、事業部門を巻き込んだ全体最適な契約業務の改善、契約DXを行うことが、ビジネスリスクとリーガルリスクが重なる傾向が強まる現代に適合するものとなってきました。
以下の記事で示すように、全体最適な契約書業務には、一定の理想像が存在しています。限られた法務人材の数で、契約業務のリスクを最大限マネージしていくためには、事業部門も巻き込みながら対処していくことが日本企業においても重要になるでしょう。
まとめ
最後までお読み頂き、ありがとうございます!
今回は改めてリーガルオペレーションズについてご紹介しました。
記事内でも繰り返し言及しましたが、現在の日本の法務を取り巻く環境は10年前と大きく変わってきています。転職が当たり前になった一方で、即戦力の採用は激化し、すぐに代わりのメンバーが採用できるかはわかりません。
そういった中では、真に法務が遂行すべき業務、テクノロジーが遂行すべき業務、そして事業部門をはじめとする非法務部門との間で役割分担する業務をわけていく必要があります。直接的にリーガルオペレーションズのCORE8やCore12ではそこまでの言及はないものの、これらのフレームワークを用いることで、法務の業務の内容は圧倒的にクリアになるでしょう。
ぜひこういった業務の棚卸しも含めて、リーガルオペレーションズの仕組みを活用してみることをお勧めします。
本コラムの著者情報
山下 俊(やました しゅん)
株式会社Hubble Cheif Customer Officer
中央大学法科大学院を修了後、日系メーカーにて企業法務業務全般に従事しつつ、業務効率化にも取り組む。2020年1月に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2023年6月より現職。法務メディア「Legal Ops Lab」の編集担当も兼務。近著に『Legal Operationsの実践』(商事法務)がある。