「OneNDA」と「oneNDA」の誕生 -日英で同時発生した契約のかたちを変えるプロジェクトが大切にする理念-

この記事でわかること
  • 「OneNDA」の概要とその拘束力の法的根拠
  • イギリス発祥「oneNDA」の概要
  • 「OneNDA」と「oneNDA」の共通点
目次

はじめに

前回の記事では、「契約内容の標準化と合意プロセスの透明化」をテーマに、昨今見られる潮流について寄稿しました。

今回は上記のような潮流を踏まえつつ、実際に契約内容の標準化にチャレンジする「OneNDA」等の具体的取り組みにフォーカスして、これからの契約のあり方について考えていきます。

秘密保持契約書の標準化を目指す「OneNDA」

プロジェクトの概要

2020年8月にHubbleの一大プロジェクトとして、「OneNDA」というプロジェクトを開始しました。
「OneNDA」は秘密保持契約書の内容を統一化し、個別の契約締結作業をなくし、コンソーシアムの参画という根拠の下で契約の拘束力を及ぼそうとする、まさに新しい契約のかたちを実現しようとするプロジェクトです。
2020年11月には日経新聞の一面にも掲載され、多くの注目を集めてきました。

日本経済新聞
秘密保持契約書を統一 野村不動産など100社、商談早く
秘密保持契約書を統一 野村不動産など100社、商談早く企業間で取引を始める際に取り交わされる秘密保持契約書を統一するプロジェクトが始動した。参加企業同士が個別に契約書を取り交わすことなく、迅速に商談や共同開発などを...

法的根拠

このコンソーシアムが法的拘束力を及ぼす根拠については、

  1. 民法上の組合
  2. 権利能力なき社団
  3. 利用規約に基づくサービス提供者とそのユーザー(合意に基づく効力)

こういった整理がありえます。
ただ、①については、出資要件や共同の事業性要件が要求され、また②については多数決原理を採用しなければいけないこととなり、いずれも参加へのハードルが上がり、かつコンソーシアム運営の負担にもなっていく可能性が高く、取り得ないと判断をしました。そこで、より多くの方に参加いただき、このプロジェクトを一緒に大きなものにしていきたいという思いのもと、③のサービス提供者と利用者の間の合意、と整理しています。

「クリエイティブコモンズ型」はあり得るのか?

OneNDAの内容を検討するにあたり、NDAをシンプルにする方法として、クリエイティブ・コモンズライセンス(以下、CC)のような類型化を図るという方法も、選択肢にありました。

しかし、CCを使う場面は、1:Nのライセンス関係であるのに対し、NDAは基本的には1:1の情報開示関係であるという点に違いがあります。加えてCCでは、著作権者が対象情報のコントロール権を支配する立場なのに対し、NDAではその相互性・双方向性が強いという点から、CCの使い方とOneNDAの使い方は異なり、CC型を採用することは適さないと判断しました。

特に2点目は重要で、今回のOneNDAでは、できるだけイーブンな条件でのNDAを広めていきたいという思いもあり、やはりコンソーシアム型が最も適していると考えています。

類似プロジェクトの出現〜「oneNDA」

そんな中、イギリスにおいて、‘a universally standardised’ なNDAを提供する「oneNDA」というプロジェクトが立ち上がりました。

名前も一緒(日本版は「One」イギリス版は「one」です)、目的も共通するところが多く、同じ時期に、日本とイギリスで同様のプロジェクトが立ち上がるという点は非常に興味深いと感じます。

「oneNDA」は、2017年設立のイギリスのリーガルテック「The Law Boutique」がローンチしました。これまでは、Contract Management system等を提供しています。今回のプロジェクトは、Electra Japonas(CEO)、 Roisin Noonan(COO)の女性弁護士2名が創業者とのことです。

「OneNDA」と「oneNDA」の目的の共通性

「oneNDA」プロジェクトの目的について、法務業務の削減・契約内容の透明性向上・商取引スピードアップが挙げられています。この点について、Hubbleの「OneNDA」も業務効率化はもちろんのこと、契約内容の統一によって契約内容の理解が容易になったり、迅速な取引開始が実現できることを目的としています。その現れとして、統一規格の要約や概要を記載しています。

OneNDAのスマート要約、内容を噛み砕いて説明している

加えて弁護士、裁判実務についても言及があります。「oneNDA」においては、社内弁護士が、実質的に同じ内容の契約書を複数保有して煩雑な管理になっていること、またNDA違反による損害立証が困難であり、訴訟提起に至るケースがめったにないにも関わらず、社内弁護士が交渉等に時間を要していることが指摘されています。

この点に関しても非常に共感するところがあります。
日本でもNDA締結後、仮に秘密情報が漏洩された可能性がある場合に事後的救済手段をとっても、事実上回復が難しい場面も少なくありません。債務不履行責任や不正競争防止法に基づく損害賠償請求や行為の差止め請求が理論上可能であっても、その立証活動は容易でないことも多いです。さらに企業内の問題でいえば、時間の経過とともに人事異動等に伴う情報の正確な引継ぎが十分ではないケースもあり、結果として第三者に開示されてしまう可能性もあります。

同時期に日本、イギリスで同種プロジェクトが立ち上がったのは偶然なのか?

これは憶測の範囲を超えませんが、「OneNDA」と「oneNDA」は同様の背景で生まれてきた可能性があると思っています。

「The Law Boutique」は2017年設立のリーガルテックとして、contract management の領域でプロダクト開発を行ってきたようです。Hubbleも同様に、2017年秋から開発をしてきました。

I started TLB in 2017 having spent 10 years in-house when I realised that the key to an effective legal function is user-centricity. I never understood why terms and conditions were written so inaccessibly or why the ‘legal’ elements of a product user journey were ignored. I also never understood why external legal support was so often so misaligned with our business objectives.

The Law BoutiqueのWebサイトより引用(https://www.tlb.law/about)

契約業務を効率化していこうと思った場合に、まずは「存在している契約を前提として」それを管理していくことを考えるはずです。Hubbleもそうでしたし、現在進行形でそれにチャレンジしています。他方で、方法はそれのみではないと気付きました。

それは「存在する契約のかたち自体を変える」ことです。

Hubbleを通じて日本の企業の契約業務についてお話を伺ったときに、契約書のデータ形式やその業務フローは本当に多岐にわたり、それを統一的なシステムで管理できるプロダクトを提供することが非常に難しいと感じる日々でした。これは今も感じています。

もちろんこのチャレンジはこれからも継続していく一方、別方向からのアプローチもあると思っており、それが、「OneNDA」と「oneNDA」だと思っています。2017年以降に開発を続け、別の国とはいえ、契約書管理(Contract Management)について考えたとき、上記のようなことを同じくして考えた可能性もあるのかな、といったことも考えています。

「契約とは、コミュニケーションそのもの」

契約業務の効率化を考えるとき、一つの方法として、AIによる審査はこれから益々使われていくと思います。またこれにより、契約に潜むリスクを、AIが人間の能力を補完する形での、効率的なリスクコントロールがより一層可能になるでしょう。

ただ、契約は、人と人との合意やコミュニケーションそのものであることに、再度遡って考えるべきだと思います。その内容をお互いが理解して、そこにどんなリスクがあるのか、その後どんなことをしなければいけないのか、してはいけないのか、それを理解してくことが契約の本来的意義です。

契約書の的確なレビューを通したリスクコントロールのプロセスを効率化していくだけではなく(その状態も大きな改革であることは間違いないと思いますし、それが大きな意味を持つ契約も存在します)、契約内容を標準化して、一つのルールとして明確化することで、お互いがルールを把握した状態で取引を迅速に開始していく世界ができてほしいという思いがあります。

まとめ

テクノロジーによって、あらゆる分野でこれまでの商慣習等がアップデートされている時代です。日本、イギリスから同様のプロジェクトが立ち上がり、契約についても過去のものから形を変えようとしています。契約とはこういうものであるという先入観を捨て、皆様とともに新しいかたちを作っていきたいと思っています。

この記事のまとめ
  • OneNDAの概要とその拘束力の法的根拠
    • 2020年開始のコンソーシアム型プラットフォーム
    • 利用規約に基づくサービス提供者とそのユーザーの合意に基づいて効力を発する構成
  • イギリス発祥oneNDAの概要
    • 日本発祥の「OneNDA」とほぼ同時期に開始
    • イギリスのリーガルテック企業「The Law Boutique」が運営
  • OneNDAoneNDAの共通点
    • 商取引のスピードアップや契約内容の透明化を目的とする
    • 従来の契約のかたちを変えようとするリーガルテックベンダーによるプロジェクトであること

ウェビナーアーカイブ配信のお知らせ

本記事の監修も行なっているHubble社の酒井が、本記事でもご紹介した「OneNDA」の概要やその使い方を解説するウェビナーを開催し、そのアーカイブ配信を公開しました。
契約内容標準化や合意プロセスの透明化の潮流を体現する「OneNDA」にご興味がおありの方は、ぜひご覧ください。


本記事の著者情報

酒井 智也(さかい ともや)

弁護士(67期/第二東京弁護士会所属)。
2013年慶應義塾⼤学法務研究科(既習コース)卒業後、同年司法試験合格。東京丸の内法律事務所でM&A、コーポレート、スタートアップ支援・紛争解決等に従事。18年6⽉より、Hubble取締役CLO(最高法務責任者)に就任。2021年に立ち上げた「OneNDA」の発起人。

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