- ChatGPTの概要と企業法務における活用余地
- ChatGPT活用時の注意点
- 現役法務パーソンのChatGPT活用法
はじめに
みなさん、こんにちは。
2022年にOpenAI社から発表されたChatGPTは、生成系AIとしてテキストでの指示に基づいて人間のように会話を行ったり、質問に答えたりする能力を持っています。特に企業法務では、このAIの応用が大きな可能性を秘めています。この記事では、ChatGPTの基本機能、そして法務部門での効果的な活用方法について解説します。
本記事は、ChatGPTに指示をして作成した原案を、LOL編集部が修正して公開しています。参考までに「企業法務の担当者向けのメディアの記事として、「ChatGPTの活用法」というタイトルで、日本語の記事を書きたいと思っています」と伝えてGPTが作成した、その原案(初稿)は、こちらでご覧頂けます。
(OpenAI、GPT、ChatGPTは、OpenAI社の商標です。)
ChatGPTの基本機能と法務での利用シナリオ
ChatGPTの概要
ChatGPTは、従来の画像認識や音声認識をはじめとする「識別系 AI」に対して、提供するプロンプト(指示)に基づいて新たにクリエイティブなアウトプットを生成できる「生成系 AI」(Generative AI)の一つです。大量のテキストデータを使って、言語のパターンについてトレーニングされた自然言語処理のモデル、LLM が応用されることで、ChatGPTは文章を読み、内容を把握し、適切な反応を生成できます。
ChatGPTの企業法務における活用の可能性
GPTによる生成対象は、画像や音声にも及びますが、企業法務との関連では、やはりテキスト情報の読み取り・要約や生成行為における活用を通して工数低減、効率化の実現が非常に期待されます。
Thomson Reuters Instituteが2023年4月に実施した、企業の法務部門におけるChatGPT等生成系AIの使用に関する調査によれば、法律専門家の間で、その潜在的な利用に対する楽観的な見方が広がっています。後述するようなリスクの存在を認識した上で、実に回答者の82%が生成系AIを法務業務に適用できると考え、54%が適用すべきだと回答しています。
法務業務であれば、まずは一般論として、契約書のレビューと作成支援への期待が高まるところです。米国のCLMで、早々に下記のようなレビューを支援する機能が発表されたように、ChatGPTをエンドユーザーがそのまま使うだけでなく、既存のサービスに取り込まれ、かつよりチューニングされた状態で活用することが想定されます。
更にチャット形式である特徴を生かして、訴状の内容の要約はもちろんのこと、具体的案件に関する質問を、根拠となる証拠を引用しつつ、チャット形式で回答するようなサービスを提供している例もあります。
元々2021年9月までの情報しかインプットされていないGPTですが、有料のChatGPT Plusなどでは、Webブラウジングした内容も踏まえて回答を生成できるため、情報の古さという懸念は払拭されており、最新情報の収集やリサーチにも活用の可能性が出てくるでしょう。
企業法務におけるChatGPTの導入により、外部弁護士、つまり外部リソースの活用にも変化をもたらす可能性があります。具体的には、前述のようなある程度類型化された業務について、企業(法務)の外部弁護士に対する期待は、契約書のドラフト作成やリサーチを超えた、より高度な法的分析や戦略的アドバイスの提供になっていくでしょう。
これに伴って弁護士側の変化も予想されます。以下の松尾氏の記事内でも、弁護士自身ができることの支援と(警戒が必要という前提で)弁護士自身ができないことの拡張のためAIを活用する可能性について言及されています。
ChatGPT活用時の注意点
上記の通り、ChatGPTの導入が企業の法務部門に大きなメリットをもたらす一方で、実際の導入には慎重なアプローチが取られているケースが多いです。
前出のThomson Reuters Instituteが実施した調査によると、ChatGPTの活用に前向きな意見が多いのと同時に、法律専門家の約75%が、ChatGPTおよび生成型AIの使用に関してリスクに関する懸念を表明しています。具体的には以下に示すようなポイントです。
プライバシーとセキュリティ
最初に、データプライバシーとセキュリティの確保が重要です。原則として、ChatGPTに入力した内容は、学習データに活用され、一定期間保存されることになるため、特に企業で活用する場合には、企業の機密情報や個人データを入力させないようなルール作りが必要です(※)。
(※)なお、ChatGPTでは、入力した情報を学習データに使われないようにオプトアウトする設定が用意されている。ただ、この場合においても30日間は入力されたデータがChatGPTのサーバーに保持され続けることにはなるため、いずれにしても注意が必要となる。
もっとも、この運用の担保という観点では、企業においてChatGPT Enterpriseの導入を検討するのが最も直接的です。企業向けに設計されたChatGPT Enterpriseに入力されたプロンプトやデータは、OpenAIのモデルのトレーニングには使用されません。
回答精度-ハルシネーション-
生成系AIでは、あくまでこれまで学習した情報に基づいて、いわば統計的に確からしいアウトプットを提示しているにすぎません。このため、内容が常に正しいものとは限らない点、そしてあたかも正しいような体裁でウソを提示する(ハルシネーション)可能性があることには注意が必要です。
こうした観点から、医療、法律、金融などの重要な決定に影響を与える可能性がある事項には、利用規約上も専門家の指示を仰ぐように規定されています。
知的財産
ChatGPTの利用規約上、ここへインプットされる内容及びアウトプットとして取得した情報については、各ユーザーが所有権を持つとされています。その一方で、ChatGPTが生成するコンテンツが他人の著作物の内容を無意識に使用してしまう可能性に注意する必要があります。ChatGPTは、広範なテキストデータから学習するため、特定の出典を特定せずに他者の著作物を参照することがあり得ます。
このため、ChatGPTが提供する内容をそのまま使用する際には、著作権の侵害に注意し、必要に応じて別途確認作業を行うことが必要です。
【特別収録】現役法務パーソンが語る、ChatGPTの具体的な使い方
本記事の最後に、早くから活用を進めている、現役法務パーソンの金子晋輔氏に実際の業務の中でのChatGPTの活用法について伺いました。
遠慮なくダメ出ししてOK
金子さんがChatGPTを業務で使う際のコツを是非教えてください!
ChatGPTを使う際のまず重要なポイントは、出されたアウトプットに対して今のは良い、今のはズレているということをしっかり伝えて、精度を高めていくことです。
人間と同じようにフィードバックをするということですね!
はい、ただ人と違ってAIはどれだけ論理的に突っ込んでも平気なので、「遠慮なくダメ出ししていく」のが大事です。直接的な表現でまっすぐフィードバックするとAIはまっすぐ受け止めてくれます。言い換えると、質問する側は、どういった情報を得たいのか、クリアにした上で、その回答を得られるようにフィードバックすることをやめない、ということですね!
「一人ブレスト」に有用
こういった性質があると、どういった場面でChatGPTが力を発揮するのか、具体的に見えてきそうですね!
はい、私は、ChatGPTは仮説を立ててその正しさを検証するような使い方よりも、やや議論が発散する「一人ブレインストーミング」の目的での活用がフィットすると感じています。
具体的にどんな場面になるでしょうか?
例えば、会議でやや雑談的なテーマを話すにあたって、事前に軽くブレストするといったイメージですね。こういったクイックリサーチとブレストは数分でできるので、かなり効率化します。「リーガルオペレーションズって何?」「リーガルオペレーションズを語る上で重要なキーワードは何?」「すごく良さそうだけどあまり流行っていないのはどうしてだと思う?」といった感じで、思考を深めていくという観点では良いと思います。
金子さんの場合、更にここから別のサービスも合わせてご利用されていると伺いました。
はい、ここでパラパラと出てきた情報を要約に強いClaudeに入れて要約させることで、より他人に説明しやすくなります。この使い分けは、色々と生成系AIを触ってきた中で私のオススメの使い方です。
いやぁ、新しい働き方だなと感じますね!
ちなみに他にもChatGPTをはじめとする生成系AIを活用するオススメな場面はありますか?
もちろん英文のメール案の作成などでも十分使えますが、それ以外で言えば、1on1のシミュレーションとして活用するのも良いと思います。1on1の相手の定性的、属性的な情報をGPTに前提として与えることで、活用できると思います。
こうして見てみると、法務パーソンの中でも管理職の方が活用余地はより大きいのかもしれませんね。
法務業務を再定義する必要性
せっかくなので、最後に生成系AIによって企業法務の業務に与える影響について金子さんがお考えのポイントをご教示頂けますでしょうか?
まず、法務の業務は一言一句の細かい精度が重要な業務なので、これまではいわゆるAIを業務に取り入れることをなかなか進めてこれなかった印象があります。ただ、生成系AIの登場でこれは変わりました。今後は既存の仕事をどうするかというよりも、もっと根本的に法務の業務全体を再定義することが必要になってくると感じています。
確かに実務レベルでは、向こう数年で本当に大きく変わりそうな印象もあります!
法務パーソンの存在意義自体も問われるかもしれませんね。
とはいえ、かねてより私は法務の役割は、「事業の見通しをよくすること」であると考えているのですが、生成系AIの登場によっても、引き続きこの役割、存在意義は変わらないだろうとも感じています。
ありがとうございます!
このテーマ、GPTともディスカッションしてみます!
まとめ
- ChatGPTの概要と企業法務における活用余地
- 生成系 AIの一つで、大量のテキストデータから言語のパターンをトレーニングされた自然言語処理モデルが適用されている
- 企業法務では契約書作成補助やドキュメントの要約などに活用可能性がある
- ChatGPT活用時の注意点
- プライバシーとセキュリティ
- 回答精度
- 知的財産の取り扱い
- 現役法務パーソンのChatGPT活用法
- フィードバックを端的に出し続け、自分が求めるものに近づけていくことが重要
- メールのドラフトなどでの活用のほか、一人ブレストでの活用が最適
本記事の内容は2024年1月時点での公開情報に基づいて作成したものです。
ウェビナーアーカイブのお知らせ
本記事で、ショートインタビューにお答え頂いた法律事務所 Verseの弁護士、金子晋輔 氏をお迎えし、GPT-4 搭載の無料で使えるAIチャットアプリ「Copilot」(コパイロット)を皆様と一緒に使いながら法務業務における GPT 活用ワークショップを開催しました。以下よりご覧頂けますので、ぜひご覧ください。(Hubble社のWebサイトに遷移します。)
山下 俊(やました しゅん)
2014年、中央大学法科大学院を修了。日系メーカーにて企業法務業務全般(主に「一人法務」)及び新規事業開発に従事しつつ、クラウドサインやHubbleを導入し、契約業務の効率化を実現。
2020年1月にHubble社に1人目のカスタマーサクセスとして入社し、2021年6月からLegal Ops Labの編集担当兼務。2023年6月より執行役員CCO。近著に『Legal Operationsの実践』(商事法務)がある。