VTuber市場が活発化するなか、同領域でプロダクション事業運営やライブ配信サービス開発を手掛けるカバー株式会社も急成長しています。組織の拡大に伴い、法務部門独自でSaaSを駆使した業務フローの改善に取り組んできました。今回は、SaaS導入のポイントや、システムを活用した業務可視化の重要性などについて、法務チームをまとめ上げる若きマネージャーに聞きました。
〈聞き手=山下 俊〉
案件状況は見える化し、ツールで自動化する
本日は宜しくお願い致します!
さて早速ですが、貴社の法務チームの業務内容を教えてください。
はい、当社では、契約審査と法律相談といった一般的な法務業務に加え、権利関係が複雑になりやすいことから、VTuberの動画自体のチェック等も一部行います。
なるほど、動画チェックは貴社ならではですね!
その中で、現在の法務相談や契約審査の業務フローは、どのようになっているのでしょうか?
法律相談・契約審査とも、事業部門からの問い合わせ窓口はすべてSlackに統一しています。事業部門側でSlackワークフローを起動し、表示された専用フォームのボタンをクリックすると、monday.comのフォームへ遷移します。
ここで、契約審査依頼や法律相談を選んだ上で必要事項を入力して申請することで、monday.com上にタスクとして起票されます。
法務部門内でタスクごとに担当者をアサインし、担当者がそれぞれ対応していくという流れで進んでいきます。最終的には、担当者からSlackを通して申請者に回答をします。
法務部門の案件管理・タスク管理は、monday.comを利用されているということなんですね。
はい、以前はタスク管理に別のツールを使っていましたが、最近他の部署が使用しているのを見て、monday.comへ移行しました。移行後は、各担当者の抱える納期ごとのタスク件数がダッシュボード上に自動で可視化されるようになったので、誰に仕事を振ればよいか判断しやすくなっています。
契約書審査の場合、取引先からのご要望も踏まえて事業部門と継続的にやり取りをする必要があると思いますが、このコミュニケーションにはどんなツールを使っていますか?
他部署とのコミュニケーションは、Slack内で法務と各事業部門それぞれのチャンネルを作成し、そこで行っています。
ここではSlackのスタンプを自動化に役立てています。
Slackのスレッド内で、たとえば「取引先から修正案が届いたので確認してください」と事業部門からのコメントが来たときに、それに対して「目玉👀」の絵文字スタンプを押すと、monday.comのステータスが変わり、作業期限も自動で設定されるようになっています。
Slackのスタンプですね!
簡単にフローの一部自動化が実現できるのが、非常に便利そうですね!
自らZapierを駆使してタスクの自動化を推進
どのようにして、こうした連携を実現させているのですか?
自動化ツールのZapierを導入しています。
Slackを起点にしてタスク管理ツールにつなげたいという構想はもともと持っていて、これを実現するツールを探していたところ、たまたまZapierというツールがあることを知りました。
Zapierは、ご自身で設定されたんですか?
はい。ネット検索しながら使い方を独学で勉強し、設定しました。今は法務部門内のインハウスのメンバーもハマってZapierを使っています。
徐々に全社的にZapierの利用が広がっていますが、Zapierを使ったのは法務部門が一番最初だったと思います。
法務起点でオペレーションが整備されていくのはなかなか他の会社では無いように思われます。
ちなみにZapier導入を進められて苦労したポイントなどありましたか?
事例が少ないことと、日本語のドキュメントが少なく、込み入った内容は英語のドキュメントを見るしかないことですね。
コードを書いた経験もなく、トークンやAPI連携といわれても、最初は何をどうしたらよいかわからない状態でした。
当時、社内に相談できる人はいらっしゃいましたか?
ほとんどいなかったですね。とはいえ、他部署のメンバーからAPI連携の方法を聞けたことは、助けになりました。
基本的にZapierはノーコードのツールなので、最初のハードルさえ突破すればあとは使いやすかったです。活用はおすすめできますね。
今振り返ってみて、Zapierの設定などオペレーションの構築自体をご自身でやってよかったと思いますか?他の方に任せたかったといったお気持ちはなかったですか?
ところによりますね。自分の手でやってみたことで、設定などにかかるコスト感が理解できたのはよかったです。また、自分でツールを組むことで、法務の実務に即したものになりやすいというメリットもあります。
ただ、Zapierについては本当に偶然知ったので、知らなければ今のように自動化は進んでいなかったと思います。こうした手段やツールがあるというナレッジは、情報システム部門などある程度ITのノウハウを持つ方から共有していただけると、より回り道が少なく目的を達成できたかもしれません。
法務業務を「可視化」する3つのメリット
貴社の法務チームにおいては、monday.comの導入に代表されるように、そもそもツールを使うことに関しては非常に積極的だと感じられました。こういった姿勢はどのような背景に基づくものなのでしょうか?
はい、ことmonday.comについて言えば、会社の拡大につれて法務のメンバーも増え、各メンバーの業務状況を把握しづらいことが、マネージャーの自分にとって大きな課題になっていました。
前述の通り、当社ではVTuberの動画チェックも法務部門で一部行っていることもあり、これらの案件も含めて月に250件くらいの依頼件数になります。各担当者のタスクを可視化することの必要性を強く感じていました。
この「必要性」という観点に関連してお伺いしたいのですが、業務を可視化することのメリットはどこにあるとお考えですか?
大きく分けて、①メンバー内の公平性の確保、②マネージャーによる管理のしやすさ、③分析への活用という3点ですかね。
メンバーからすると、自分のタスク量が人と比べてどうなのかわからない状況では、「自分は頑張っているのに、あの人はどうなんだろう…」と不信や不平不満につながりやすいです。加えて「仕事がキツイ」と自分から言い出しにくいメンバーもいると思います。現に私もそうでした。
マネージャーとしては、誰が何件案件を持っているか、業務が詰まってしまっていないかを客観的に管理することで、メンバーに対して少しでも「透明性」を確保したいと考えています。
特にリモートワーク下では、よりメンバーの負荷は目に見えづらくなりますしね。
3つ目の分析の観点はいかがでしょうか?
業務の可視化によって月間の件数推移も把握できるようになるので、たとえば、契約審査の件数は社員数の増加に比例していないが、法律相談は増えているといったような客観的な事実もわかります。
そうした分析の結果、契約書の雛形を作成した効果が現れているので引き続き雛形の整備を進めよう、とか、法律相談に対応できる人材を採用しよう、といった判断にもつなげられますよね。
会社の成長に合わせてマイナーアップデートできる
いわゆる「オールインワン」のツールもあるなか、個々のツールを組み合わせて利用されているという点は、非常に特徴的かなと思いました。ご自身なりのポリシーがあってのことかと思います。
ツールを組み合わせて使う場合の特徴として、リプレイスのしやすさが挙げられると思います。たとえば、将来的にコミュニケーションツールをSlackから他のサービスに移行しようとなった際にも、今のシステム構成であれば、連携の部分だけ変更すれば維持できます。
会社や組織の「成長の歩幅」にあわせてシステムをマイナーアップデートしやすいというのは、私たちのような会社にとっては大きなメリットです。
ちなみに私が入社してから1年数ヶ月の間でも会社は成長を続けているので、法務内のフローは3回くらい大きく変更しました。
事業部門にも同じようなことをしようと思うと、説明するコストも大変そうですよね。
その通りですね。この点も個々のツールを組み合わせて利用する強みが活きると思います。
つまり、オールインワン系のツールを導入しようとなると、事業部門にとっては従来の受付窓口が変わってしまうので、慣れてもらうまでの時間や労力のコストが非常に掛かります。本件で言えば、フローは変えてきましたが、事業部門にとってはSlackを窓口とすることは変えていません。これがスムーズなフロー変更のキーポイントだったと思います。
もちろんSlack botやSlackのリマインダー機能などを使いながら、変更したフローのお知らせを定期的に自動投稿させたりと、地道にやってもいますが。
システム導入の社内理解を得るのにも「可視化」
ちなみに、monday.comなどの各ツールを導入していくにあたって、「また入れるの? お金かかるじゃん……」といったようなネガティブな意見は社内から出なかったですか?
勿論お金はかかるのですが、そもそもオールインワン系のツールより安いという認識が前提としてあるので、比較的決裁は下りやすかったと思います。
なるほど!
決裁の通しやすさは重要ですよね。新しいシステムを入れるときの決裁の通し方のポイントはありますか?
可視化して数値に落とし込むことが重要だと思います。「今どういう仕事に誰が何時間掛けていて……」と法務一人あたりの単価を計算し、「ツールを導入することによって、その業務フローがなくなる、短縮できる」という形でメリットを定量的に説明すれば、理解してもらいやすいと思います。
法務の方は、そうした費用対効果、投資対効果の話にあまりピンと来ない方も多くいらっしゃるように感じています。
根拠を見つけてくるという意味では、法務の仕事とあまり変わらない気はします。「なぜこのシステムでなければいけないのか」を説明するための根拠を探そうとすると、やはり数字の持つ力は大きいと思います。
その考え方はとても大事ですよね。
自分たちの人件費を考えてより高度な業務に時間を使っていくという議論の中で具体的な数字感が語られていくとよいと感じました。
ありがとうございました!
法務業務でSlackを活用している具体的なケースもご紹介しています!