国内SaaS/フィンテック市場をリードし、事業を拡大しつづけるマネーフォワードグループ。同社グループの法務組織を支えるのが、強力な法務キャリアを持つ雨宮修氏と関田雅和氏です。前編では、それぞれ異なるキャリアを歩んできたお二人から見た、法務としてのやりがい、そして若手法務パーソンの成長へのポイントを伺いました。
〈聞き手=山下 俊〉
幅広い業務領域から信頼を積み重ねてきた
まずはマネーフォワードの法務組織の体制について教えてください。
法務知的財産本部という組織の下に、法務コンプライアンス1部・2部、知財戦略部という3つの部署があります。
1部の部長を私、2部の部長を関田が務めており、有資格者は5名です。これに加え、法務部門としてのインフラを支えるアドミニストレーショングループもあります。捺印手続きや登記、契約書のデータ管理など、法務メンバーがフロントで働くためのサポートをしてくれています。
法務コンプライアンス部は、どのような業務領域をカバーしているのですか?
企業が体外的な活動をする際には必ず法的なイシューが出てきますが、法務コンプライアンス1部・2部はそのすべてをカバーしています。一般的なビジネス法務はもちろん、ガバナンスやコンプライアンスも含め、1部・2部に所属する約10名のメンバーが非常に広範囲の業務を担当していますね。
ありがとうございます!かなり幅広く見られていますよね!
細かく役割を分けている会社もあると思うのですが、幅広くカバーする理由や背景はどんなところにあるのでしょうか?
事業の立ち上げとともに、現、執行役員CCO(Chief Compliance Officer)で弁護士の坂 (坂裕和氏)が最初の法務責任者として法務を「攻め」と「守り」の両面の役割を担う機能として設計してきたこともあり、幅広い領域をカバーすることが、マネーフォワードの法務にとって当たり前になっています。それによって、経営層や事業部門からの信用を積み重ねてきています。
業務領域が幅広いとそれに比例して業務量が増えて、どうしてもリソースがボトルネックになることがあると思います。
法務に対してこれだけ増員計画を認めてくれる会社は他にないと思えるくらい、会社としても法務人材に投資をしてくれています。だからこそ我々には「リソースが足りないのでここまでしかやりません」と業務を限定する選択肢はありません。
採用も常に必死でやっています。
スキルアップのために、自らに投資してほしい
そういった幅広い業務を遂行するために、メンバーの育成に対しては、どのようなお考えをお持ちですか?
当社の事業としては、金融やM&Aなど専門性の高い分野もあり難しいところはありますが、いわゆるガバナンスやコンプライアンス、リスク管理、そして一般的なビジネス法務に関しては、できる限りメンバーを固定化させることなくジェネラルな方向でアサインメントを組みたいと考えています。
基本的に本人のキャリア指向を考慮しますが、会社のビジネスを知ろうと思うのであれば、さまざまな切り口から見たほうが理解が深まります。仮にマネーフォワードを卒業して他社に行く場合にも、引き出しが多いほうが応用力が高まり、法務人材としての価値も向上すると思っています。
個人的にもこれまでの企業法務でのキャリアを振り返ってみると、そういった実感がありますね。
メンバーの皆様にも、継続的な成長や自分の価値を向上することを求められているのですね。
もちろん自分のコアは何かを意識する必要はありますが、ネガティブな意味で「居心地がよくなりすぎる」ことがないように、緊張感を持ってもらえるようにしたいと思っています。
その意味では「私はここしかやりたくないです」という方は、マネーフォワードの法務に向いていないかもしれませんね。毛嫌いせず、いろんなチャレンジをしてみてほしいです。
「チャレンジ」という言葉が出ましたが、具体的にはどういったことをするのが良いでしょうか?
当社は、新たに加入したメンバーにメンターを付けたり、事業理解のためのオンボーディングプログラムにも力を入れるようにしていて、成長の取っ掛かりを用意しています。
その一方で、基本的な業務の知識や事業への理解が身につき、きちんと組織にフィットした後、つまり一定の水準を超えていく部分では、是非各自で自分への投資をしてほしいなと思っています。法的な知識やスキルももちろん対象になりますし、法務以外の領域に目線を向けるのも良いと思います。
法務以外の領域、というとピンとこない方もいるかもしれませんが、具体的にどういったことがあるでしょうか?
自分のことになりますが、MBAのマーケティングの入門講座に参加したりしました。そこでは、例えば「SWOT分析」など、マーケティングの世界の「フレームワーク」を学習して、それを法務の組織や業務のマネジメントに活かしたりしました。
ご存じの通り、法務にも法令などの基準があり、そこに事実を当てはめて、結論を出すというフレームワーク(※)がありますよね。このフレームワークが法務以外の場面でも十分活用できるように、マーケティングのフレームワークも非常に汎用性が高いものだったので、応用が利き、学習効果を感じられました。
(※)法的三段論法、IRACなどと表現されることがある。
確かに自分に投資する時間が確保できれば、世界が広がりそうですね。時間をどう確保するかが課題になりそうですが…。
勝手なイメージですが、担当者であれば日々の業務に忙殺されるのは世の常ではあるのですが、手を動かす日常業務を7、その他勉強やスキルを伸ばすアクションに3といった時間の使い方ができると、成長の実感も伴うことができて良いのではないかと思っています。
そのためにも当社では人材の獲得を更に推し進めたいですね。
木こりのジレンマ(※)に陥らないように、どこかで立ち止まって振り返る時間を確保したいですね。自分も当社に入社するまでに、色々なことを経験し、過去のストックがあると思っていましたが、新たな場所に飛び込んでから1年も経つと「枯渇しているな、斧を研がないとな」と痛感することも多いです。
(※)木こりが「木を切るのに忙しくて斧を研ぐことができない」として、ボロボロの斧で「頑張って」木を切ろうとするが、一向に効率的に木を切ることができない、といった状況から、忙しさにかまけて生産性の向上に取り組めない様子を比喩的に表すもの。
成長企業であれば、法務としてより大きなインパクトを与えられる
関田さんは法律事務所からマネーフォワードに移られてきましたが、業務の守備範囲が広いことに対して、違和感や難しさを感じられることはありますか?
それはまったく意識していないですね。
法律事務所では、あるスコープに対して依頼を受ける形になるので、業務の一部を切り取って担当する、逆にいうと依頼を超えて担当領域を拡大することは難しいという感覚がありますが、当社のような事業会社では、先ほどの話の通り、法務に関することは基本的に全部オーナーシップを持ってやることになります。結果として、経営にもコミットできる。法律事務所の弁護士とは、立ち位置が全然違いますし、違った充実感がありますよね。
関田さんにとって何か転機になった出来事があったのでしょうか?
法律事務所での働き方は、もともと依頼関係のもとで業務のスコープが決まっているため、各弁護士がどうしても時間を切り売りするという側面が強く、全体として業務の価値にレバレッジが掛からないという課題を感じていました。
一方、事業会社の場合、ファイナンスやM&Aも含め、プロダクトや会社が大きくなればなるほど、会社も事業領域を広げたり深めたりすることができるようになるので、法務として提供できる価値のインパクトもより大きくなるのではないかと考えました。特にマネーフォワードは、大企業とスタートアップ両面の良いところがあり、チャレンジのしがいがある魅力的な会社でした。
日々の契約案件が「面白い案件」へのチャンスを作る
法律事務所から事業会社に移られた関田さんからご覧になって、今のマネーフォワードでの仕事のやりがいや楽しさって、どんなところにありますか。
「この領域しかやらない」と決めて、日々契約書を見ているだけではどうしても蛸壺感が出てきてしまいます。
マネーフォワードをはじめとしたベンチャー企業で働くことのおもしろさは、明らかに日々成長していることです。事業だけでなく、中にいるメンバーも「そこまでいっちゃうの?」というくらいどんどん自らの領域を拡張していくのが目に見えてわかります。
部門や地域を問わず、雨後の筍のように伸びている姿を目の当たりにしていると、「本当にこの海って広いんだな」と感じるんですよね。こうした蛸壺から大海に出るような感覚が、いちばん大きいと思います。
一方で、弁護士資格の有無を問わず新卒で事業会社に入ると、最初はアカデミックと実務のギャップに戸惑う方も多いと思います。また、日々、NDAや業務委託契約書のチェックばかりしていて先が見えないと悩んでいる新卒の方のお話を聞いたこともあります。
私たちの日々の仕事においても、NDAや業務委託契約書チェックのボリュームはそれなりにあります。確かに案件としては地味かもしれませんが、事業部門との大切な接点であり、信頼関係を築けるチャンスという見方をしたほうがよいと思うのです。
事業部門の人たちからすると、「契約を結ぶときには法務に聞かなきゃいけない」とハードルになりがちなところに、速やかに返答したり、契約の先にある事業のことまで想像して対応することで付加価値を提供し、信頼関係の構築に繋げることができます。
そして、そうした関係性は、近い将来に新しい事業などの「面白い案件」に早期に自分達が関われるきっかけになったりします。日々の業務を通して「法務には〇〇ってやつがいたな、相談してみようか」と思ってもらえる関係づくりをしっかりしていくべきだと思っています。
こちらの記事でも言及頂いていた「事業部の扉を開けられる人」ですね!
後編はこちらからご覧いただけます。
雨宮 修
1996年に京都大学法学部を卒業。アラビア石油株式会社、株式会社ベ ネッセコーポレーション、任天堂株式会社、ヤフー株式会社、 Supershipホールディングス株式会社で法務を担当。ヤフー株式会社で は、法務部門長として組織運営や人材育成に携わり、Supershipホール ディングス株式会社では執行役員に就任。2020年10月より株式会社マ ネーフォワードに入社。現在は法務知的財産本部副本部長兼法務コンプライアンス1部の部長。
関田 雅和
2002年に東京大学法学部を卒業。2004年弁護士登録(第二東京弁護士 会所属)。2004年10月より三井安田法律事務所、2005年4月より外国法共同事業法律事務所リンクレーターズ、2019年2月よりT&K法律事務所に所属。ファイナンス関連取引法務を専門とし、証券化やLBOファイナンスなどの案件を主として担当。2021年1月より株式会社マネーフォワードに入社。現在は執行役員CLO(Chief Legal Officer) 兼法務コンプライアンス2部の部長。
(本記事の掲載内容は、取材を実施した2022年3月時点のものです。)