安高弁理士に聞く、スタートアップにはいつから外部の知財サポートが必要か? -IPTech弁理士法人 安高史朗氏-

IT領域に特化した特許事務所であるIPTech弁理士法人。そのクライアントの多くはスタートアップ企業だといいます。今回は、代表弁理士の安高史朗氏に、IPTechの特徴や国内スタートアップの知財に関する取組み状況、安高氏のこれまでのキャリアなどについて聞きました。

〈聞き手=山下 俊〉

目次

IT・スタートアップの知財業務の支援に特化

山下 俊

本日は、宜しくお願いします!
まずは、IPTechを立ち上げられた経緯についてお聞かせいただけますか?

安高 史朗

IPTechは、IT系の技術分野とスタートアップ企業に特化した特許事務所です。前身となる安高特許会計事務所を開業したのは、2016年でした。当時、一部の人たちで盛り上がりつつあったスタートアップのニーズに応えたいと思ったことが立ち上げのきっかけです。
また、私は会計士でもあるので、特許と会計の両方を扱う事務所にしたいとも考えました。ただ、スタートアップの知財業務支援の仕事が楽しくなり、次第にそちらに専念するようになった形です。

IPTech弁理士法人 代表弁理士 安高史朗氏
安高 史朗

2018年5月には副所長兼COOの湯浅が合流し、法人化に至りました。そこからは数多くの優秀なメンバーが入所し、チームとしてスタートアップ全体を支援できるような体制ができあがってきています。

山下 俊

IPTechとしては、ちょうど丸4年経ったところですね。
最近では競合も増えてきていると思いますが、当時特許事務所として1つの技術分野に特化するケースは珍しかったのではないでしょうか?

安高 史朗

弁理士個人としてはそれぞれ専門の技術分野を持っていると思いますが、組織全体としては「何でもやります」と謳っている事務所のほうが多いですね。この組織規模で事務所としてITに特化しているというのは、やはりIPTechの特徴だと思います。メンバーも、経験豊富なエンジニアや最新のITサービスやゲームに詳しい人など、テクノロジー好きが集まっています。

年々高まるスタートアップの知財意識とニーズ

山下 俊

問い合わせや受任件数は年々増えていますか?
ITやスタートアップ業界が知財を気にし始めているというぼんやりとしたイメージもありますが…

安高 史朗

そうですね。組織の拡大とともに、問い合わせも受任も増加していますし、スタートアップの知財への感度も上がっている印象です。開業したばかりの頃は、リテラシーの高い一部の経営者からの問い合わせが多かったのですが、今はそういった偏りもなく、みなさん一定程度気にされているような印象を受けます。

山下 俊

知財というと、特許や商標などがメインになると思いますが、案件の内訳はどのようになっていますか?

安高 史朗

特許が多く、次いで商標ですね。
初期のスタートアップはプロダクトのローンチに併せて両方を扱う場合もよくあります。多くはありませんが、もちろん意匠やデザイン、著作権に関係する相談もあります。

山下 俊

先生方への問い合わせは、会社の代表から来るのか、それともリーガルに詳しい担当者から来るのか、どちらのケースが多いですか?

安高 史朗

会社のフェーズによって異なりますが、代表からお問い合わせをいただくことのほうが多いですね。IPTechに問い合わせをするような課題感を持っている段階だと、やはり専任の知財担当者がいない場合がほとんどです。
IPO前後、または社員数100人くらいの規模になると、「そろそろ社内に知財専門の担当者をフルコミットで採用しなければ」という意識に変わっていくイメージです。

山下 俊

なるほど!
そうだとすると、スタートアップは「知財顧問」を最初からつけておくことを考えたほうがよいでしょうか?

安高 史朗

相談できる関係性を構築するという意味でいうと、「最初から」が望ましいと思います。創業するタイミングでは、社名とサービス名を決めなければならないので、まずそこで商標登録が必要になりますし、プロダクトに関する基本発明の特許出願は、ローンチする前のタイミングでの一番初めにしかできません。

安高 史朗

ただ、その段階ではスポットで相談できる相手がいればよいと思います。企業が成長するにつれて、継続的に社内から発明が出てくるようになるので、そのフェーズになれば、それらをどう吸い上げて特許化するかという体制構築の課題が出てきます。そうした課題に対して顧問契約を結ぶという形がしっくりくるように思います。

山下 俊

非常にぼんやりしていた「大丈夫かな?」という不安感がクリアされた気がします!
ちなみにIPTechに寄せられる問い合わせは、どのような内容のものが多いですか?

安高 史朗

いろいろありますが、初期フェーズの問い合わせという点では大きく3つに分けられると思います。1つは、トラブルが発生して困っているケース。2つめは、良い技術があるので自発的に特許化を相談したいケース。3つめは、周りにやったほうがいいと言われたので問い合わせるケースです。

安高 史朗

ただ、トラブル系は意外に少なく、自発的な権利化の場合と、やったほうがいいと言われた場合とで6対4くらいのイメージです。最近は特に、漠然とした問い合わせが増えている印象があります。おそらく知財に注目しているVCや市場が増えてきたこともあり、意識が高まっているのだと思います。
もちろん、ある程度成熟した後の、事務所の切り替えや体制構築のご相談などの問い合わせもあります。

インターネットカルチャー vs 特許

山下 俊

安高さんは事務所を開業される以前、特許庁からヤフーへキャリアチェンジされた経験をお持ちですが、当時「企業の知財部門ってこんなこともやってたんだ」という気付きはありましたか?

安高 史朗

もちろん企業や業界の種類によって異なることもあると思いますが、大規模な組織に在籍していたことで、知財活動の全体感を感覚的につかめたような気がします。
その中で印象的だったのが、当時の先輩が「知財業務はドラクエ」と表現していたことです(笑)。知財に理解があり、発明をしていて、協力してくれるような重要人物を社内で探し出す作業が知財業務では特に重要という意味でそのように形容していました。自分も当時は、そうした人物がどこにいるのか、事業部というダンジョンを歩き回って探して会いに行くということを意識して行なっていましたね。

山下 俊

重要人物とコミュニケーションをとって、信頼関係を築けたら次に進めるわけですね。そういった中で、技術者に対して「これ、特許を出したほうが良くないですか?」といったような会話もされていたんですか。

安高 史朗

もちろんです。ただ、それに対して「別にいらなくない……?」「面倒くさい」と言われてしまうことも多く、仲間になってもらうのに苦労しました。インターネットカルチャーでは、オープンかつフリーであることを是とする価値観が強いので、却って一定期間独占的に利用できる特許の重要性を理解してもらうのが大変だったんですよね。なるべく理解してくれそうな人、説得できそうな人を探し出して、説明を繰り返していくという地道な作業が必要でした。

山下 俊

メーカーなどは特許の考え方と相性が良さそうですが、インターネットの領域だと確かに難しそうです。IT業界では、インターフェイスも技術もコモディティ化して、最終的にはユーザー体験の勝負になるように感じています。そうした価値観と、特許の考え方とは相反するものがあるのかもしれません。
次回の対談では、そのあたりも深堀りさせてください!

後編はこちら!


★今回のLegal Ops Star★

安高 史朗

公認会計士特許庁での審査官補、シンクタンクでの知財コンサル、IT企業での知財法務を経て、2016年、代表弁理士として、安高特許会計事務所を開業。2018年、法人化してIPTech特許業務法人(2022年7月に「IPTech弁理士法人」に名称変更)となり、IT企業やスタートアップ企業を中心に知財戦略に関するアドバイスを行う。

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