AI契約書レビューツール「違法可能性」判断から3か月。この状況を提供者はどう見ているか? -GVA TECH株式会社 山本俊氏-<前編>

国内でもリーガルテックが盛り上がりを見せ、複数のスタートアップがAI契約書レビューサービスを提供しています。こうしたなか、今年6月に「グレーゾーン解消制度」を通じて、AI契約書レビューサービスは「弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性がある」との見解が示され、大きな話題を呼びました。あれから約3か月が経過した今、提供者はこの状況をどう見ているのでしょうか。AI契約審査クラウド「GVA assist」を提供するGVA TECH株式会社の代表取締役 山本俊氏にお話を伺いました。

〈聞き手=山下 俊〉

目次

現状のサービスの状況では、「グレー」ではなく「白」

非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

弁護士法第72条(昭和二十四年法律第二百五号)
山下 俊

「グレーゾーン解消制度」において、AI契約書レビューサービスを巡って「弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性がある」との照会結果が今年6月に公表されました

山本 俊

私としては「グレー」ではなく「白」という認識です。
「グレー」だと思っている人のほとんどは、AI契約書レビューサービスを実際に利用したことがなく、「AI契約書レビューはすごいものだ」というイメージを持っていらっしゃるのではないかと思います。確かに、「AI」という言葉の持つ力は非常に強く、特に2017〜2019年頃は、AI契約書レビューサービス提供者としての立場からでも、世間からのAIへの期待値の高さは感じていました。

GVA TECH 株式会社 代表取締役 山本俊氏
山下 俊

山本さんが「白」だと認識されている理由はどこにあるのでしょうか?

山本 俊

AIが弁護士と同等のアウトプットを出せるのであれば、確かに弁護士法72条に触れる可能性はあります。ただ、現状でAIが行っている作業が弁護士法72条における鑑定にあたるかといえば、私はそうではないと考えています。

山下 俊

なるほど、もう少し詳しくお聞かせください!

山本 俊

さまざまな論点がありますが、私は「個別性」が大事だと思っています。たとえば当社のGVA assistでは、理想の雛型と比較してレビュー対象の契約書に不足している条文がないか検知します。ここに個別性はなく、一般の域を超えないという認識です。

山下 俊

「個別性」がキーワードなのですね!

山本 俊

仮にこのチェックリストの項目が一億個用意されていて、契約の背景まで含めた情報をインプットしたうえで選択される場合は、個別性があると指摘されてもおかしくはないと思います。

ただ、現時点ではチェックリストの項目はせいぜい100程度。そのなかから契約書の内容に適したものが表示されるだけなので、個別性はなく一般の域を超えず「鑑定」には当たらないと考えるのが自然です。「鑑定」とみなせるレベルには、まだまだ達していません。

山下 俊

DIAMOND SIGNALの取材で、山本さんはグレーゾーン解消制度の結果について「適法な領域と違法な領域の切り分けがされていく、その起点たる位置付けの回答」と仰っていました。

山本 俊

私は一貫してそう言っていますね。
契約書の字面の情報が本当にAIのアウトプットに影響するようになれば、「個別性」が高まり、「鑑定」に当たる可能性は出てくるように思いますが、現状のAI契約書レビューサービスには、そこに至るほどの総合的な技術力がまだ圧倒的に足りないように感じています。

経営者として、弁護士として、サービスの方向性を改めて考え直した

山下 俊

「弁護士法72条に違反するのでは」という論点は、サービスをローンチされる段階でも頭の中にあったのではないでしょうか?

山本 俊

はい。2016年末にGVA TECHの事業計画を作成したのですが、そこでは、自然言語処理の技術がどこまで発展するか、弁護士法の壁を突破できるか、という2つの課題を考えていました
リリース当初は、弁護士にもよく指摘されていましたね。ただ、法律的にどうかというよりは、「AIは弁護士の敵か味方か」といったわりと感情的な質問のほうが多かったように思います。

山下 俊

なるほど!
グレーゾーン解消制度の照会結果に関して、ユーザーのみなさんから反応はありましたか?

山本 俊

質問はいくつかいただきましたが、半分は興味本位のようなものでした。ビジネスには大きな影響はありません。

ただ、あのときは「このピンチをチャンスに変えられないか」と、いろいろ考えましたけどね。当時の頭の使い方は、自分ならではだったと思います。私は経営者でもあり、弁護士でもあります。法務の解釈と経営戦略というサービスの根幹となる要素をどう組み合わせて今後の戦略を描くかという発想で、改めてサービスのあり方を考えることができたのはすごく良かったですね。

AI契約書レビューサービスは、あくまで専門家が使うもの

山下 俊

弁護士の方々にとって、貴社が展開されているような「AI契約書レビューサービス」とはどのようなものなのでしょうか?

山本 俊

弁護士の仕事は基本的に一般民事の裁判が多いので、弁護士でも実際には契約法務をほぼ担当したことない人のほうが圧倒的多数派です。とはいえ、付き合いのある中小企業から依頼されるケースもときどきあり、慣れていないながらも本などを見ながら契約レビューを進めていく形になると思います。
AI契約書レビューサービスの雛形集は、それを補完するものと捉えるとよいです。弁護士業務の質的な補強と効率化につながり、中小企業の受け皿が増えることになります。

山下 俊

なんとなく、法的な素養がない方が使ってハッピーになる将来も可能性があるのかなと思っていましたが、まずは法律の専門家なんですね!

山本 俊

日本の企業のうち、弁護士の関与率は1割にも満たないといわれています。確か何かのデータでみたのですが、社労士が3割、さらに税理士がもっと多い割合なので、非常に低いですよね。
AI契約書レビューサービスで弁護士の仕事が増強されることによって、弁護士の関与率向上につながるといいなと思っています。

山下 俊

社会貢献的な面もあるということですね!
改めてですが、AI契約書レビューサービスを中小企業の方が直接的に利用するということもありえますか?

山本 俊

もちろん中小企業を直接サポートすることにも取り組んでいきたいとは考えていますが、まだ具体的な形は見えていません。
AIによるレビューの正確性を上げない限りは、非専門家にはサービスを使いこなせないと思っているためです。現状の9割程度の精度では、最終判断ができない人からすると不安ですよね。

山下 俊

やはり、現状では最終的には人の判断は欠かせないですよね。
法的な素養がない方は、忙しさも相まってサジェストされた内容を全部盛り込んでしまったりすることもあるかもしれませんよね…。

山本 俊

たとえば、「9割の精度でどんな病気かわかります」という医療回答システムがあったとして、1割のミスがあるなら医療の知識がない人には怖くて利用できないでしょう。一方、医師にとっては、9割程度でも1次回答を出すものとして利用できれば、かなり仕事が楽になるはずです。
AI契約書レビューも、当面は法務の専門家が使う域を超えないと思いますね。企業内の法務担当者が利用するか、弁護士を通じて間接的に中小企業の裾野を広げていくのが現実的なところかなと考えています。

AI契約書レビュー機能に付随する機能の集合体として受け入れられている?

山下 俊

企業法務の方にとっても、弁護士同様に業務の質の向上と効率化がポイントになると思いますが、企業法務特有のAI契約書レビューサービスの使い方があれば教えてください。

山本 俊

特に一人法務の方は、長年法務のキャリアを歩んできたというよりは、いつの間にか法務の担当になっていたという人も多いのではないでしょうか。あまり口には出せないけれど、正直不安でいっぱいだと思います。
そういうときに、AI契約書レビューサービスが一般的な視点からクオリティの下限を示してくれることで、安心感が生まれます。ダブルチェック的にAI契約書レビューサービスを使うことで、「致命的な抜け漏れがあるんじゃないか」という不安感の解消には役に立ちますよね。

山下 俊

今のお話では「不安感」がAI契約書レビューの1つのキーワードだと感じています。
GVA assistでは雛形が提供されていますが、そこを重視しているユーザーも多いように思います。法律事務所の弁護士が監修した雛形を使えるというところに、不安感を払拭されている面もあるのかなと。

山本 俊

サービスの観点からすると、AI契約書レビュー機能だけでは、課題解決力はまだ発展途上ですよね。なので、ユーザーには、雛形ももちろんですが、差分比較や条文検索など付随的な機能の集合体として受け入れられているのかなという印象を持っています!

(後編に続きます)


★今回のLegal Ops Star★

山本 俊

GVA法律事務所 代表弁護士
GVA TECH 株式会社 代表取締役

鳥飼総合法律事務所を経て、 スタートアップ向けの法律事務所として2012年にGVA法律事務所を設立。現在は50名を超える法律事務所に成長させる一方で、 2017年1月に GVA TECH 株式会社を創業。AI契約レビューサービスであるGVA assistをはじめとするリーガルテックサービス 「GVA」シリーズの提供を通して、 企業理念である 「法務格差を解消する」 の実現を目指す。

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