リーガルテックの盛り上がりは、法務のプレゼンスを向上するチャンス -GVA TECH株式会社 山本俊氏-<後編>

業務が効率化されたことで浮いた時間をクリエイティブな仕事に回せるようになることが、AI導入のメリットの1つであると言われています。では、AI契約書レビューシステムを使って契約業務にかかる時間が大幅に短縮されたとき、法務担当者や弁護士はどのような業務に注力していくべきなのでしょうか。今回は、AI契約審査クラウド「GVA assist」を提供するGVA TECH株式会社の代表取締役 山本俊氏にお話を伺いました。

〈聞き手=山下 俊〉

目次

余剰時間を使って自分の価値を高めていく

山下 俊

著書『人工知能とこれからの仕事 ~法律業務AI開発記』(カナリアコミュニケーションズ、2022年)では、弁護士や法務の方は契約書チェックに明け暮れるよりも、「面白い仕事」をやったほうがよいというお話をされていました。

山本 俊

経営や事業に付加価値が出るような業務にエネルギーを割くべきという話をよくしていますが、たとえば、時間に追われ、契約書の文字面だけ見て経験からやや抽象的に判断していることでも、背景まで含めてより詳細にヒアリングできれば、事業をより良くするアイデアはもっと出るはずなんですよ。

GVA TECH 株式会社 代表取締役 山本俊氏
山下 俊

ビジネス側の事情をよく知っていこう!ということですね。

山本 俊

ただ、それを全員が全員できるとは限りません。それ相応のビジネスの知識は必要だと思います。なので、AI導入によって浮いた時間で勉強をする必要があるでしょうし、私が在籍しているGVA法律事務所では定期的に勉強会を行うようにしています。

山下 俊

素晴らしいですね!
その勉強会ではどんなテーマが取り上げられるのですか?

山本 俊

今は、有価証券報告書などを読み、その企業のKPIやビジネスモデルなどを読み解いていくということをしています。過去には、財務諸表を読んだり、ビジネスモデルを図示したり、ビジネス書を読んで議論したりなど、さまざまな取り組みをしてきました。

山下 俊

ただ、そもそも余剰時間ができたところで勉強しようと思わない方々もいるように思います。

山本 俊

そうだと思います。そもそも「面白い仕事」の定義が難しいですよね。
自分は「クリエイティブな仕事=面白い仕事」と思っているのですが、みんながみんなそういうわけでもない。定型的な業務のほうが安心感を感じられるので好きだという人もいますよね。ただ、ビジネスマンとしてやっていくのであれば、経営から見てどれだけ自分の価値を高められるかについては、ある程度こだわるべきだと思うんです。

実は法務は経営から現場まであらゆるところに溶け込んでいる

山下 俊

一方で、付加価値を出そうとしてもなかなか難しいという人も多いですよね。それは単純に時間がないからなのでしょうか?

山本 俊

はい、忙殺されているのが原因だと思います。
ただ、鶏が先か卵が先かの問題で、具体的な付加価値とは何かがイメージできていなければ、時間を捻出しようとも思えないわけです。
法務の本質的な業務については、抽象論としてずっと議論されてきていますが、具体論としてはあまりなく、イメージしづらいというのも原因の1つにあると考えています。

山下 俊

「法務の本質的な業務」について、なぜ具体論が出てこないのでしょうか?

山本 俊

会社によって違いすぎるからだと思います。
たとえば、新興IT企業では、たくさんの新規事業を手掛けています。そうした企業の法務は、新規事業に関連して経営企画的な立場から事業部と一緒になって仕事を進めていくことができます。自動運転やヘルステック、Web3などの領域で会社として新しいことをやろうとなったとき、法律に詳しい人がチームにいたほうが良いというのは、誰もがイメージしやすいですよね。

山下 俊

新規事業に最初から法務が関わるべきという話は、法務業界でよく言われていることですね。

山本 俊

一方で、新規事業の創出よりも現状を維持していくことのほうが重要な会社の場合、経営陣から求められるのは、コンプライアンスや子会社管理、情報整理などです。
経営陣が進めていきたい会社の方向によって、法務が出せる付加価値はまったく異なります

山下 俊

確かに、世の中の会社は、新規事業がいくつも生まれてくるような環境にあるところばかりではないですよね。新規ビジネスに積極的ではない会社の法務がどうしたらよいかというノウハウは、あまり共有されていないような気がしています。

山本 俊

昔、タイの製造業者の工場を見学した際、生産ラインを回っていくと検品の過程で法律上の要件のチェックが組み込まれていることに気づきました。製造業では、現場のあらゆるフローのなかに法務が組み込まれているんですよね。
製造業のように法務を現場のフローに組み込もうとすると、他の産業ではまだまだやるべきことが多いように思っています。IT業界なんかは、まさにその代表例でしょう。IT業界で法律問題が多いのは、成熟していない産業だからなのかなと。

山下 俊

IT業界の場合、仕組みがまだしっかりと確立されているわけではないので、経営陣も不安に思うことが多いと思います。そういうときに、法律の専門知識をもとに守備範囲を広げていければかなり活躍できそうですし、経営陣も嬉しいですよね。情報セキュリティの領域まで手を広げたり、個人情報保護のオペレーションを構築したり。

山本 俊

そうですね。全体最適の視点を持つ法務人材が、情報システム部門と連携してフローを組み上げることができたら、法務の給料はめちゃくちゃ上がると思うんですよ。
法務は理論上、経営から現場の契約書まで、会社のさまざまなところに溶け込んでいるので、やろうと思えば自分の力でチャンスを掴める仕事だと思っています。法務だけが単体で存在することはありえない。法務人材にやる気があって、情報をきちんと取っていけば、経営や現場に入り込んでいけるはずです。

法務のプレゼンス向上は、今がチャンス!

山下 俊

法務が付加価値を出し続けるため、具体的にどのようなアクションを取っていけばよいのでしょうか。先回りして問題解決や提案をすることなのか、経営や現場の期待値を超える仕事をすることなのか?

山本 俊

法務知識をアップデートしていくことは前提として、その両方だと思います。他の部署の人が何を目的に、どういう風に仕事をしているかといった情報は、かなり集める必要があります。ただ、良い見解やアドバイスを提供するなど、会社に対して付加価値を出していると、情報は自然に集まってくるようにもなります。

山下 俊

企業内の組織についてはどうでしょう?

山本 俊

法務人材をもっと増やして、社長室など経営に近い部署にローテーションで配属させるような仕組みができれば、全体最適の視点を持つ法務部員が量産されるのではないかとも考えています。そういうルーティンを回すだけで、法務部門全体が強くなっていくのではないでしょうか。

山下 俊

組織図上も経営にどんどん法務が近づいていくイメージですね!

山本 俊

たとえば、人事部門も、管理部門と位置づけるか、経営の一部と見なすかで、考えられる付加価値がまったく異なりますよね。昔は人事といえば目立たない部署でしたが、人事系のテックツールが発展したことで、余剰時間が生まれ、付加価値を生み出せるようになり、職種としてのポジションは一気に上がりました。CHROという職種が注目されるようになったのも、同じタイミングだったと思います。

山本 俊

現在、リーガルテックツールが盛り上がっている法務の領域は、まさにその転換点にいます。CLOがCFOと並ぶポジションを獲得できるか。法務のプレゼンスを向上させるチャンスが今、やってきています

山下 俊

まさに法務の方々は、今が勝負どころですね!
ありがとうございました!


★今回のLegal Ops Star★

山本 俊

GVA法律事務所 代表弁護士
GVA TECH 株式会社 代表取締役

鳥飼総合法律事務所を経て、 スタートアップ向けの法律事務所として2012年にGVA法律事務所を設立。現在は50名を超える法律事務所に成長させる一方で、 2017年1月に GVA TECH 株式会社を創業。AI契約レビューサービスであるGVA assistをはじめとするリーガルテックサービス 「GVA」シリーズの提供を通して、 企業理念である 「法務格差を解消する」 の実現を目指す。

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