企業規模や業務範囲の拡大などにより、一人法務から二人目のメンバーを迎え入れるフェーズに移行したとき、どのような流れで採用を進めていけばよいでしょうか。これまで一人法務として幅広い業務に携わったのち、二人目、三人目の法務担当者を採用し、法務組織の構築に取り組むGMOフィナンシャルゲート株式会社の法務部長である西澤朋晃氏の経験から、二人目採用の「イロハ」に迫ります。
〈聞き手=山下 俊〉
取引先から学び、広い業務範囲に対応した一人法務時代
本日は宜しくお願いします!
まずは西澤さんがご入社された一人法務時代について教えてください。ご入社時点ではどのような状況でしたか?
会社全体としては30名規模、管理部自体には5名程度しかいない状態で、私が入社する2017年まで法務は0人。
通常のスタートアップの例に違わず、そもそも法務に契約書チェックを依頼するという習慣があまりない状態からスタートしました。
当時、西澤さんの業務範囲はどれくらい広かったのでしょうか?
契約業務をはじめとするビジネス法務に加え、商事法務、その他当時担当がいなかった分野まで任せていただきました。
実際には、取締役会や株主総会の運営・議事録作成から、証券代行との連携を含めた株式実務のほか、上場準備に向けた社内規程の整備、内部監査、個人情報管理(Pマーク審査対応)、与信・反社・債権管理など、幅広い業務を担当していました。営業に同行しての契約交渉や、いわゆるクロージングを行うこともありましたね。
すごく業務範囲が広そうですが、大変だったことや苦労されたことはありますか?
もともと大企業で専門性に特化するような業務を担当していましたが、更に法務として倍速で成長したいと考えて業務範囲を広げようと転職してきましたので、実際に業務の幅を大きく広げることができてすべてが新鮮でした。
ルールがまったくない状態から、自分で考えたり、第三者に聞いたりして環境を整備していくことがすごく楽しかったので、没頭している当時はそこまで苦労を感じませんでしたね。今思えば、日々増えていく業務を一人でやりきることや、詳しくない業界のビジネスと契約面を融合させて整備すること、一人でミスなく完遂するプレッシャーとか、大変だったなとは思いますが、できる仕事範囲が増えていく楽しさの方が圧倒的に勝っていました。
経験や知識のないことをやろうとしたときに、「自分が取り組んでいることの正しさ」を担保することは難しいように思います。そのあたりはどうされていましたか? たとえば、弁護士の先生にご相談されていたりとか。
もちろん、外部専門家にも相談はしていましたが、当時はビジネスの実態を契約書に落とし込む方が重要で、営業の先輩に教わることの方が多かったです。
IPOが喫緊の業務としてあったこともあり、経験のなかった商事法務に関しては、証券代行会社に相談することが多かったですね。上場を目指しているとなると、例えば「議事録に記載すべき内容って、これでいいのですか?」といった気軽な質問から本当に遠慮せずに沢山コミュニケーションをとっていました。
プロに聞くのが一番ですね!
大手法律事務所が相手方のサポートをしていたりすれば、その方々が作成したフォーマットを参考にしたりできますね。専門書から学び取る以外に、プロジェクトの進め方や管理の仕方は、大手コンサル企業の知見から学んだりもしました。「お知恵をお借りしたいです」と前置きして、「それいつもやっていることなんですか?」といった前提部分や根本的なところから業界標準まで、とにかく自分の頭で納得して理解できるまで質問をするようにしていましたね。
自分の「コピー」を求めるのではなく、育成する方針へ
一人法務の期間はどれくらいだったのでしょうか?
債権管理業務をサポートしてくれるメンバーが入ったのは2019年なので、1年ちょっとの間一人法務でした。ただ、債権管理は法務業務とは性質が異なるため、実質的にはその後も、契約業務や商事法務はまだ一人法務で担っている状態でした。
では、法務知識が必要な業務を他のメンバーに渡すタイミングはそれよりもう少し先だったんですか?
はい。その後もずっと採用活動は続けていましたが、応募がなかったり、うまくいかなかったりで、結局4年間は実質的に一人法務状態でしたね。
かなり苦戦されたんですね…。
私と同じレベルで同じ業務範囲をカバーできる自分の「コピー」に近い存在を求めていたことがその原因だと思っています。当時は経済産業省の「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」が公表されたばかりのタイミングでしたが、法務は業務範囲を広げるよりも、専門性を高めることが良しとされている雰囲気がまだ強かったため、なかなかマッチしなかったんですよね。
そこからどのようにして二人目の採用につなげられたのでしょうか?
自分で育てるしかないと、育成方向に舵を切ることにしました。その判断ができるまでに4年かかったということです。
未経験者の採用に目を向けられたということですね!
育成にシフトしたことによって、求める人材像にフィットする方々の数は増えましたか?
条件も大幅に緩和したので、応募数自体は増えました。当初は他社や法律事務所での経験などを必須にしていましたが、他社経験がない場合でもロースクールを卒業していればOKとするなど試行錯誤したところ、ロー卒のパートナーを採用できました。また、新規エージェントと直接話をする機会を積極的に設けていき、その次の月には、運よく法律事務所で経験を積んできた弁護士と出会うことができ、インハウスロイヤーとして採用することができました。
採用では、候補者の抱く未来像を聞く
現状はどのような採用フローになっていますか?
現在は、一番最初にカジュアル面談も対応できるように設定しています。選考に進むかどうか決めていない人たちも含め、広く転職希望者に対して、当社や法務部の話についてもはやプレゼンしています。
育成を前提とする場合、その後の採用選考では何を重視されているのでしょうか?
自分の頭で考えているかどうかです。
面接では、人事担当から転職の理由など最低限必要な情報はお聞きしていますが、私からは型に決まった質問はそんなにしません。基本的には雑談ベースで始まります。
その場の会話の雰囲気を見ていくということですね!
これまで経験してきたこと、これからやりたいことといった仕事の話から、趣味の話まで、「なぜ」を掘り下げて、会話のキャッチボールをしていきます。話題が切り替わっても反応できるかどうか、問いに対してピンポイントで回答できるか、そこに合理性や納得感があるか、経験値をもとに考えて答えられているかといった点を見ていきます。私が大切にしている「結論ファースト」で会話できるかどうかも重要です。
二人目採用という観点で、「これはうまくいったな」と思うことはありますか?
候補者が何を求めて当社にこようとしているのかきちんと聞くことに尽きると思います。
面接は、一方的に企業が人材を選ぶ場ではなく、お互いにとっての面接の場なんです。雑談の雰囲気のなかで、お互いの意向や思考などがマッチしているかどうかを確認するよう意識したことで、本人の個性や思考が見えるようになり、うまくいくようになりましたね。
候補者にもしっかり選んでもらえるようにすることが重要ということですね!
はい、そのため、こちら側の情報開示も十分に行う必要があります。私がどのような人材を求め、どのように仕事をして成長して欲しいと思っているかが伝わりきらないと、結果として、ミスマッチが起きてしまいます。仮にその状態で入社してしまうと、無理してがんばったり、よく見せようとしたりするなかで、本人の不安や不満が溜まってしまうため、お互いのためになりません。
ミスマッチが起きないようにするために、企業は候補者にどのようなポイントを聞けばよいでしょうか?
自分の目指す未来像の本音を聞くことだと思います。特に、どういう仕事をしてキャリア形成していきたいか、5年後どうなっていたいのかは聞いたりします。それが、当社で用意できる環境なのかどうかをすり合わせていきます。
放っておいても成長して、という法務教育の時代は終わった
他に採用基準として重視されている点はありますか?
これが全てではないですが、仮に入社後こちらの期待しているレベルに達していなかったとしても、一緒に働きたいと思えるかどうか、自分の子どものように愛情をもって育てようと思えるかどうか、といった感覚的なイメージはあります。
なるほど!これは大事な要素かもしれません。
これは、私の上長からアドバイスいただいたことです。できないことがあると悪いところが目につくようになってしまうこともあるが、子どもに対してそんな風に思うことはないはずだ、と。
自分の子どもだったら、できるようになるためのフォローの仕組みを整えるなど、愛情を持って接することができる。当時はちょうど私に子どもが生まれた時期でもあり、この言葉がとても心に響きました。
西澤さんご自身の成長に対する意識が変わったタイミングだったんですね!
それまでは、むしろ、放っておいても成長する法務が正しいとどこかで考えていました。特に私たちは、誰かの仕事ぶりを見て勝手に学ぶ世代でしたが、今はそうではなさそうです。
そういった背景から、一年前から定期的な1on1を行って本人たちと向き合う時間を作り、フォローできる体制に取り組んでいます。双方の期待値の調整やフィードバックをする趣旨もあります。
ありがとうございました。
後半では組織体制の話についてより深掘りしていければと思います。
西澤 朋晃(にしざわ ともあき)
GMOフィナンシャルゲート株式会社
コーポレートサポート本部 法務部 部長
大学・法科大学院卒業後、約3年間の休憩を経て東証プライムの大手小売業にて法務キャリアをスタート。2018年から現職で一人法務として法務組織を立ち上げ。IPO実務・内部監査・個人情報保護等法務関連業務を一通り経験し、現在は契約法務、商事法務全般、コンプライアンス関連、稟議事務局等決裁制度の仕組み側まで幅広く担う。企業法務とは「法務という専門性を駆使するビジネスマンである」と定義し、攻守コンプリートを企み躍進中。
(本記事の掲載内容は、取材を実施した2023年10月時点のものです。)