応援購入サービス「Makuake」を運営する株式会社マクアケの企業法務チームは、現在4名体制で運営されています。特徴的なのは、「休暇も安心な組織運用」を進めている点。どのような考えのもとで、具体的にどういう仕組みをつくっているのか、同社 コーポレート本部 企業法務部長 千葉大吾氏に聞きました。
〈聞き手=山下 俊〉
仕事と家庭でナレッジは循環する
「休暇も安心な組織運用」は、千葉さんのなかのどのような思いから出てきたものなのでしょうか?
私はもともとチーム内での1on1で「人生のうちで働いている時間は長いので、仕事がつまらないと人生損することになる。仕事を楽しむためにはどうしたらよいか」という話をしてきました。一方で、プライベートな感情の起伏は、仕事にも影響を及ぼします。そのため、仕事とプライベートのバランスを取るべきだという考えを持つようになったことが、「休暇も安心な組織運用」の根底にあります。
プライベートが仕事にも影響すると考えるに至ったきっかけは何だったのですか?
仕事をどう楽しむべきかという目線でプライベートのことも1on1でチームメンバーと話すなかで、話してみないとわからないことが多いと実感するようになりました。だとすると、家庭でも十分に話せていないのではと感じ、3年ほど前から妻と月に1回2人で「2人飲み」という名の家庭内1on1をやるようになったんです。その時間はテレビ等は禁止で2人の会話しかしない時間としました。
初めて聞きました!
家庭内1on1ではどのような話をするのですか?
「本をこれくらい読もう」とか「運動をこれくらいして健康でいよう」といった形で年に1回目標を立てて、1on1ではその進捗を聞いたり振り返りをしたりします。そこで、お互いの仕事の忙しさなどもわかり、理解が進むんですよね。
確かにプライベートで学んだことが、仕事にも活かせることって確かにありますし、その間での好循環は、自分にとってプラスになりますよね!
こうした実感のもと、プライベートを疎かにするのはナンセンスだという思いをより強くするようになったんです。「仕事だけ楽しくあれ」というメッセージは、その人の人生を幸せにしていない。あくまで人生を幸せにするための手段が仕事であり、プライベートなんだと。であれば、休んでも安心な環境を提供することが、組織としては重要です。
実践には、会社のカルチャーや周囲の理解が重要
「休暇も安心」ということは、誰かが休んでも大丈夫なように業務をスムーズに引き継げるような状態をつくっているということですよね。
はい。究極的には、引き継ぎ時間すらなくてよいと思っています。タスクがどれだけ残っているのかがわかっていれば十分で、勤務している側がそれをどう処理していくか考えて動けることが理想です。
その意味で「休暇も安心な組織運用」を実現するために大事なことは何ですか?
これは、上司の理解ですね。この施策は、当社の法務が独自に打ち出しているものですが、そもそも、会社全体として「有給休暇を積極的に利用してください」というスタンスなので、理解が得られやすいカルチャーがあったのは大きかったです。
事業部門への影響もあると思うのですが、そこはどう考えられていますか?
もちろん法務の都合でビジネスを止めるわけにはいかないというのは大前提です。普段、私たちはルーティーンの業務に加えて、前編でお話しした施策のような+αの仕事をしているわけなので、人手が少ない時にはルーティーン業務に集中することでなるべく影響が出ないようにしています。
タスク管理はAsana。データによる定量化も視野に
こういった組織運用のために、具体的にどのようなツールを利用されていますか?
事業部からの依頼はSlackのワークフローで受け付け、チーム内のタスク管理はプロジェクト管理ツールのAsanaで行っています。休暇をとった時のバックアップができるように、タスクは主担当に加えて2番目の担当者を設定しています。
具体的にSlackとAsanaは、どういった使われ方をしていますか?
AsanaはZapierと組み合わせることで、Slack上でブックマークをつけると自動でAsana上でタスクが生成されている状態になります。これにより、容易にタスクの抜け漏れを減らすことができる点がAsanaの大きなメリットでした。
タスクが網羅的に管理できているからこそ、容易に引き継ぎが可能な状況を作り出せているのですね!ここから一歩進んで今後やっていきたいことはありますか?
Asanaに記録されている情報を元に、案件数や処理時間などの数値データを取得できるようにしていきたいですね。このデータを使って、法務の仕事を定量化し説明できるようにすることで、法務のプレゼンス向上につなげていければと考えています。前編でお話ししたリーガルオペレーションズの取り組みともリンクしますし。
法務主導でシャッフルランチを開催して事業部門に顔を売る
ちなみに法務側が案件の途中で休暇をとった場合、そのタイミングだけは法務の他のメンバーが案件の対応に当たるのだと思いますが、これは事業部門側も当たり前に慣れているということなんですよね?
はい、こういった対応メンバーのスイッチングは事業部門側でも今は当たり前のことになっていると思います。
こういった点も事業部門が法務を信頼してこそ成り立つ設計だと思います。事業部門など非法務部門とのコミュニケーションで意識されていることはありますか。
相手方の立場になったときに、その先のお客さまに自分の回答をそのまま伝えられるかどうかを1つの基準として考えています。仮に事業部門の案にストップをかけるときには「リスクがあるからできません」と面と向かって顧客に伝えられるかどうか。ここが一番気にしているポイントです。
シンプルでわかりやすいですね!
あとは、法務だけの領域で考えるのではなく、全社最適を意識するようにしています。案件を進めるためには何をすべきなのか、法務の領域外のことまで含めて助言することもその1つの例です。法務は比較的会社のルールに精通しているので、全社的な視点を持ってアドバイスしやすい立場にあります。人数が少ない組織だからこそできることなのかもしれませんが、変にセグメンテーションしすぎないよう気をつけています。
そのためにやっている工夫などはありますか?
ベタですが、事業部門に顔を売るようにしています。たとえば、新しく入社された方々に対し、経理と法務メンバーとのウェルカムシャッフルランチを法務主導で開催しています。当該シャッフルランチには、営業も開発も部門関係なくお誘いしています。顔を売るためのよい機会になるので、ここ3年ほど続けてきていますね。
法務主導でというのはユニークな取り組みでおもしろいですね!
求められるのは、自分以外の力を法務という軸で活用できる人材
日本版リーガルオペレーションズ「CORE8」などを活用してある程度業務が効率化されたとき、法務人材はどんなことに取り組むべきだとお考えですか?
これは私の主観ですが、自分以外の力・技術を法務という軸で活用できる人材が伸びていくと考えています。AI技術が発展するなかでは、テクノロジーも含め、誰の力を借りればいいのか、その知見と術を持っていることが重要です。ある程度法律に関する深い話が必要であれば、積極的に外部弁護士を活用するというのも1つの方法だと思います。
インテグレーションできる能力が求められるようになっていくわけですね!
それと同時に、経営者が何を求めているかを掴むことも大切です。経営者からすると、法律の深い知識まで欲しいかといえばそういうわけでもありません。経営者は、実際に他社ではそのルールのなかでどうやっているのか、他社ビジネスの生きている事例を知りたいと思っていることが多いです。弁護士同士の横のつながりなどを活かして自分の力ではないものにも頼りつつ、生きた法律の使い方を提案していける人材が、今後は重要視されていくと思っています。実は今私が最も考えをめぐらせているのは、このテーマだったりします。
最後に、千葉さんとしての今後の展望をお聞かせください!
法務は何のためにあるのか考えると、会社が成長していくための1つの手段にしかすぎません。法務のための法務になってしまいがちですが、全社最適で考えると、業務領域にとらわれず責任感を持ってやれる部署がやるべきだと私は考えています。
実際に今、企業法務チームでは、リスクマネジメントや保険など、業務領域を広げているところです。
これにより法務のプレゼンスを高め、ビジネスや会社の成長につなげていければと思っています。
千葉 大吾 (ちば だいご)
株式会社マクアケ コーポレート本部 企業法務部長
静岡大学人文学部法学科卒。2006年より人材・教育・介護等の事業展開をする会社(現スタンダード市場)に入社。契約法務、臨床法務、知財対応に加え、M&A、グローバル案件(東南アジア、フランス等)に関する法務業務を遂行。2017年12月より株式会社マクアケに入社し、法務の立ち上げを実施。2019年のIPO、2021年ABBによる資金調達対応。その他、各種投資、新規ビジネス対応、知財対応、株主総会、取締役会等法務業務全般の業務に従事。
(本記事の掲載内容は、取材を実施した2024年1月時点のものです。)