「想いの乗ったお金の流れを増やす」ことをミッションに掲げ、国内大手クラウドファンディングサービスや寄付・補助金のマッチング事業を手掛けるREADYFOR株式会社で、CLOとして活躍する草原敦夫氏。READYFOR参画前は「個人事業主としての弁護士」に憧れを抱き、大手法律事務所で鍛錬を重ねてきました。個の強みを追求する仕事から、スタートアップという組織の成長にコミットする立場へ転身したきっかけは何だったのでしょうか。今回は、草原氏のキャリア観の変化に迫ります。
〈聞き手=山下 俊〉
「個人事業主としての弁護士」に魅力を感じ、大手事務所へ
本日は宜しくお願いします!
早速ですが、弁護士という仕事に興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?
高校生のころから、何か資格があると安心できそうだな、「弁護士っていいな」という漠然とした憧れがあり、法学部へ進むことにしました。とはいえ、弁護士の仕事についてそれほど具体的なイメージもなく、『HERO』のキムタクをみて「やっぱり検事かな」と揺れるぐらいには漠然としたものではありました。
弁護士になると決意されたのはいつでしたか?
ロースクール在学中に森・濱田松本法律事務所のインターンに参加したときでした。法曹三者といって、司法試験に行くと弁護士か裁判官か検察官に進むものだという頭があったので、インターンで担当して頂いたシニアの弁護士に「裁判官や検事の道は考えなかったのか」と質問したところ、「まあ、八百屋になることはあっても、裁判官や検事は考えなかったな」と言われたのです。
八百屋ですか(笑)
はい(笑)。その回答を聞いて「ああ、弁護士は個人事業主であって、実力をつけてお客様から信頼してもらえれば、見返りがある仕事なんだ」と思ったんです。そういう仕事っていいなと思って、「個人事業主としての弁護士」になって、実力をつけていきたいと思うに至りました。
大手事務所ではクライアントのために最善を尽くす先輩弁護士のプロとしての美学に薫陶を受けた
ロースクール修了後は、そんなご縁のある森・濱田松本法律事務所に入所されました。
森・濱田松本法律事務所は、雑に言えば「強い個が集まったら最強」みたいなDNAをもった事務所です。仕事に対してストイックなプロフェッショナル達が揃っていて、面倒見のよい人も多く、「個人事業主として腕を磨きたい」、「クライアントから信頼されるようになり、多くの顧問先を持ちたい」と考えていた私にとっては非常に恵まれた環境でした。
先輩方の背中を見ながら成長する部分も大きいですよね!
今の若手弁護士はリモートでの業務も多いと思いますが、当時はリアルワークが基本ですので、ハードワークもあいまって、多くの時間を事務所で過ごしました。たくさん飲みにも連れて行っていただきました。そうした中で、仕事のおもしろさ、大変さ、徹底した仕事ぶりや生き様、クライアントとの向き合い方などを教わりました。偉大な先輩方の薫陶を受けられる恵まれた環境だったと思います。
実際に大手法律事務所で働いてみて、入所以前に想像していた仕事とのギャップはありましたか?
基本的にはなかったですね。若手を前に出すカルチャーとは聞いていましたが、想像以上に若手の機会が大きいなとは思いました。大手事務所では弁護士ごとの専門特化が進んでいるので、いろいろな専門領域があるものだなというのも感じました。
なるほど!
草原さんはどのような領域に注力されていたのでしょうか?
割と雑多な方だったと思いますが、コーポレート・ガバナンス、会社法、紛争対応、M&A等の案件が多かったです。ただ、将来的には顧問先を獲得していきたいという気持ちがあったので、自ら手を挙げてパートナー弁護士の顧問先の窓口となり、様々な領域の相談に乗るジェネラル・コーポレート(以下「ジェネコ」)の案件も積極的に担当していました。クライアントと近い距離で幅広い案件に取り組めて、やりがいのある仕事でした。
スタートアップ法務との出会いも先輩の仕事から
草原さんが特に影響を受けた先輩弁護士はどのような方でしたか?
偶然同じ部屋になった弁護士です。
スタートアップのクライアントを多く抱えた方で、そのご縁で私もスタートアップの案件に多く携わるようになりました。
具体的にどのような案件が多かったのでしょうか?
契約関連の相談だけでなく、新規事業の適法性の検討、業務提携・M&A、資金調達や株式異動などの資本政策周りのサポート、株主間紛争対応まで、様々です。
スタートアップの案件を担当してみていかがでしたか?
大企業の場合、基本的には法務部門の方からご相談を受けるのに対して、スタートアップの場合、経営層から直接相談してもらえることが多いんですよね。同じ世代の起業家達がビジョンを掲げてチャレンジをしている姿に大変刺激を受けました。スタートアップで活躍している方の多くがエネルギッシュで、一緒に仕事をしていて純粋に楽しかったです。
スタートアップ組織内で力をつけていきたいと思うように
事務所で働いている際に、葛藤を感じることはありませんでしたか?
スタートアップ案件がおもしろくて、自分の軸にしていきたいと思うようになりました。ただ、パートナーとなった後の収益の柱については悩みがあったのと、スタートアップ案件についても、事務所の内外に偉大な先達はいますので、どう自分の独自色を出していくのかは悩ましいなと感じていました。
そこから、次のキャリアをお考えになるようになったと?
そうですね。専門性や経験では偉大な先輩たちと張り合うのは大変でも、起業家やスタートアップ経営層により近いところで伴走できれば、また違った価値を出せるかなと思いました。そうなると、大手事務所の中よりも、外に出た方が小回りが利きやすいかなというのは考えました。
そこで決意したのが、スタートアップ企業への転職だったわけですね?
いえ、実は当時は、会社の中に入るイメージはもってなくて、個人事業主の形は維持しつつ、半常駐の形でクライアントにより近いところで弁護士として業務を行うことを想定していました。
企業のミッションに共感し、CEOと面会したその日に入社を即決
そうなんですね!
ではREADYFOR株式会社に参画された経緯は、また別の理由があったのですね!
法律事務所の同期とREADYFORのCEOの米良が幼なじみで、ちょうど法務を探しているとの話を聞いてオフィスに行ったんです。その同期も一緒に来てくれたこともあって話が盛り上がり、そのまま飲みに行きました。それで、深夜1時か2時くらいまで飲んで、結局その日のうちに入社を決めてしまいました。もともとは、先ほどのお話の通り、週2-3日程度の半常駐みたいな形を考えていたんですけどね(笑)
すごいスピード感ですね…!
何が決め手になったのでしょうか?
お酒の場ではあったので少し記憶が曖昧ですが、話していてすごく盛り上がったのは覚えています。当時から、READYFORはクラウドファンディングサービスの中でもソーシャルグッドの領域に強みがありました。自分の身近なところでも、「この人センスいいな」という人がソーシャル領域で団体を立ち上げたりしていて、ソーシャルの領域に人やお金が移動していく流れがあるのかなという感覚はありました。
実際、国や自治体の財政が厳しくなれば、民間が社会貢献領域に染み出していく必要性はますます高まります。READYFORが取り組んでいる社会課題解決のための「想いの乗ったお金の流れ」を作っていくチャレンジは、意義もあるし、事業としてのポテンシャルもあると感じたのだと思います。
企業のミッションに共感されたんですね!
そうですね。それと、経営層が法務へのリスペクトを持っていたのも大きかったです。お金を扱うから「安心・安全」が重要だし、法規制の整理も重要で、強い法務が必要だと思っていると初めて会った日に言われました。自分自身も、新規事業を実現する法的ロジックを考えたり、規制の必要性を回避するような安心・安全な仕組みを構築したり、大義を掲げて既存のルールを変えるロビイング活動をする、いわゆる戦略法務に関心を持っていたので、経営層が法務への理解があったことは純粋にうれしかったですし、経営層と意気投合するきっかけにもなったと思います。
ちなみに、報酬などの面で悩まれませんでしたか…?
正直なところ、「まあなんとかなるだろ」って感じで、具体的な金額も聞かずに飛び込んでしまいました。事務所の同期は留学に行って貯金をゼロにするので、自分自身はスタートアップに留学するんだぐらいの気持ちでした。いろいろと違うので、我ながら全然論理的ではないなと思いますが、若気の至りということかもしれません。ただ、「スタートアップの中に入ることでしか見えないものがあるはず」という感覚は正しかったとは思います。得難い経験はさせてもらっていると思います。
素晴らしいですね!
READYFORでのご経験については後半で詳しくお聞かせください!
インタビュー後編の記事はこちらから!
草原 敦夫(くさはら あつお)
READYFOR株式会社 CLO
東京大学法学部・東京大学法科大学院卒。司法試験合格後、司法修習を経て2013年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2014年より森・濱田松本法律事務所でコーポレート・ガバナンス、ベンチャーファイナンス、会社訴訟・非訟、M&Aその他企業法務一般に従事。2018年READYFOR株式会社に参画。法務・コンプライアンス、新規事業の企画・検討等を担当。
(本記事の掲載内容は、取材を実施した2023年1月時点のものです。)