「リーガルは強みのひとつ」法務・CLOという立場を超えて活躍するために必要なマインドとは- READYFOR株式会社 草原敦夫氏<後編>

「スタートアップの中に入ってみなければわからないことがある」——現在、「想いの乗ったお金の流れを増やす」ことをミッションに掲げ、国内大手クラウドファンディングサービスや寄付・補助金のマッチング事業を手掛けるREADYFOR株式会社のCLOを務める草原敦夫氏はこのような直感を信じ、大手法律事務所を経てスタートアップ法務としてのキャリアを歩み始めました。草原氏が考えるスタートアップ法務の役割とは、そして、実際にスタートアップの中でしか得られない経験とは何だったのか、今回は、法務・CLOとしての立場を超えて活躍する草原氏のマインドセットが明らかになります。

〈聞き手=山下 俊〉

目次

最初のミッションは「リスクマネジメント」

山下 俊

READYFORに転職されてからの具体的な仕事内容について教えてください!

草原 敦夫

入社した当初は、クラウドファンディングの安心・安全が最大の関心事でした。クラウドファンディングで支援金を集めたにもかかわらず、プロジェクトが実行されないという事態が起これば、支援者の想いが裏切られ、サービスへの信頼が失われます。公開前の審査を通じてプロジェクトの実現可能性を精査することは安心・安全の要となります。

CLO 草原敦夫 氏
草原 敦夫

私の入社前からREADYFORは審査には力を入れていましたが、審査基準の整備や体系化・言語化は入社後の重要な仕事でした。あわせて、様々な事情でプロジェクトやリターン提供の遅延が発生する可能性はゼロではありません。万一の事象が生じた場合の対応方針等も整理しました。クラウドファンディングは新しいしくみですので、返金のルールや支援のキャンセルなどのサービスのルールを詰めて利用規約やガイドラインに落とし込んでいくことにも取り組みました。

山下 俊

事業の展開と表裏一体の業務といえそうですね。

草原 敦夫

そうですね。「安心・安全」やサービスのルール設計が重要な事業なので、おのずと事業に深く関わることになった面はあります。ただ、法務も、事業運営に必要なさまざまな機能のひとつですので、事業にアラインさせることは絶対に必要です。

草原 敦夫

さらにいえば、スタートアップは常に人手不足で、積極的にタマを拾う人が重宝されます。新規事業であれば、それこそスモールチームでリーンに立ち上げることになるので、ビジネスモデルの整理に積極的に染み出して行ったり、顧客ヒアリングや商談を巻き取ったり、プロジェクトチームの一員として、プロジェクトを前に進めるために何が必要かという発想が求められるのかなと思います。

山下 俊

今のお話を伺っていると、「どこからどこまでが法務」という線引きがないように感じます。

草原 敦夫

そうですね。もちろん、役割を拡大した結果、規約類や契約書等の必要なドキュメントの整備だったり、リスクを洗い出して対策を考えるといった法務としての基本的な役割をおろそかにしては元も子もないとは思います。ただ、法務のミッションにリスクマネジメントがあるとすれば、どこまでリスクテイクするかを考えて、その意思決定を支援することも法務の役割となります。あえて染み出すといわなくても、法務の役割はもともと広いといえるのではないでしょうか。

スタートアップの中に入ってみたからこそ分かったこと、身についた力

山下 俊

入社前に考えていた業務内容とギャップはありませんでしたか?

草原 敦夫

会社法、知財、労働法、契約、個人情報保護法、危機管理、紛争対応等、幅広い領域が関係することは予想していましたが、法律事務所時代にもスタートアップの仕事はやっていましたし、その経験が活きたかなと思います。新規性の高いサービスでは、法令上の明確なルールがない中でリスクマネジメントやコンプライアンスを意識した対応が求められるということも肌感はありましたので、ギャップとして感じることはなかったかなと思います。

山下 俊

法律事務所でのご経験が活きたんですね!

草原 敦夫

そうですね。ありがたいことだと思います。ただ、事務所時代には真の意味で肌感を持てていなかったと感じたのは、実務上の契約書の位置づけです。事業側からすると、工数を減らしたいし、事業に遅れを生じさせたくないし、相手方との関係もあるしとさまざまな理由で、できれば契約交渉はしたくないと考えるもので、そのような事業側の感覚は想像以上でした。

山下 俊

そのほかに、法律事務所からスタートアップへ転職して新たに身につけなければならなかったことはありましたか?

草原 敦夫

法律事務所の業務は基本的に依頼ベースで動き出すものなので、そもそも何をしたいんだっけという目的レベルのところでは基本的に受け身になります。一方、「中の人」になると、そもそも会社のどこにリスクがあるのかを特定したり、リスクをどのように解消し、最終的にどのような状態を実現すべきか考えるといった動きが求められます。目的から考える力やあるべき状態を考える力はスタートアップに移籍してからの方が身に付いたかなと思います。

山下 俊

いわゆる「問題発見能力」ですよね!

草原 敦夫

そうですね。また、仕組み化や効率化の視点も、事務所の時以上に求められるようになったと感じます。事業や組織規模が大きくなるにつれて法務業務も増えるので、限られたリソースで対応するためには、今取り組んでいる仕事をなるべく減らすという発想も必要です。そういう発想で法律相談フォームの整備や法務FAQや契約・法律文書のひな形の整備等に取り組みましたが、法務組織が拡大した際のナレッジの承継の観点からも有意義でした。

コーポレート・ガバナンスに取り組む中で自身の立ち位置を深く理解

山下 俊

2019年のシリーズAラウンドの調達のリリースとともにCLO就任が発表されました。CLOとして経営にはどのように関わっているのでしょうか?

草原 敦夫

経営チームの一員として、中期経営計画や予算策定、事業の業績管理、組織方針、組織体制の検討、資金調達等に関わっています。自身が経営に上程するアジェンダとしては、もともとは重大インシデントへの対応やリスクマネジメント関連が多かったですが、最近はコーポレート・ガバナンスに関する事項が増えています

山下 俊

具体的にはどのようなことをされているのですか?

草原 敦夫

例えば、経営アジェンダを整理して、取締役会のアジェンダや経営執行体制やボードメンバーのスキルマトリクスに引き直したり、経営メンバーの指名・評価のしくみを整備したり、執行役員体制や経営に関する会議体のあり方を検討したり、権限移譲の設計をしたりといったことに取り組んでいます。

山下 俊

いち法務としての立場から経営陣としての立場への移行したことに伴い、経験のない領域の業務が多そうですが、スムーズに対応できましたか?

草原 敦夫

全くです。やったことないチャレンジでしたので、日々勉強ですし、力不足も感じます。ただ、自分なりに一生懸命考えて、一生懸命意見することが大事なのかなとは思っていて、心理的安全性の高いチームに助けられながら、のびのびやらせてもらっているのは恵まれていると思います。

草原 敦夫

また、コーポレート・ガバナンスの検討を通じて、経営チームの役割とは何か、経営メンバーに求められるものとは何かといったことを検討して、言語化に努めたことで、多少なりとも自覚を強めたり、意識を高めることができたかなとは感じていて、その点は役得かなと感じます。

CLOという肩書でも「リーガルだけ見ていればいい」ということではない

山下 俊

ここまでのお話しを伺う限り、草原さんはCLOという立場を超えた動きをされている印象があります。

草原 敦夫

CxOは肩書にすぎず、その人の専門性を対外的に示すものではあるけど、それ以上でもそれ以下でもないというのは経営チームの中での共通認識です。経営チームもひとつのチームなので、それぞれがつよみを発揮して、補完し合うことが重要だと思います。

山下 俊

法務という枠にとらわれずに経営陣との信頼関係を構築し、より経営の核心に迫る仕事を手がけていらっしゃるんですね!

草原 敦夫

そのように立派なものではありませんが、財務、技術、マーケティング、法務といった専門性でなくとも、人にはそれぞれいろいろな強みがあると思います。例えば、ネットワークがあるとか、文章がうまいとか、細かいところに気づけるとか、コミュニケーションがうまいとか、構造化が得意とか、本質を見抜くのが得意とか、突破力があるとか。

草原 敦夫

私でいえば、50点ぐらいのアウトプットをクイックに作って経営の議論のたたき台にするとか、文章を書くのは苦ではないとか、お酒の場で楽しく飲むとか、大した強みでもありませんが、強みを活かしてチームに貢献することが重要だと思います。なので、法務といった専門性の切り口にこだわりすぎず、自分の役割を限定しすぎずに、刻一刻と変わる経営状況の中で、その時々で求められる役割を果たすことが大事なのかなと思います。

山下 俊

法的スキルは、あくまで経営メンバーとしての強みのひとつということですね!

草原 敦夫

そうですね。経営チームは、経営目標を達成して、その先にあるビジョンミッションを実現するためのチームですので、それぞれの強みを理解して、適材適所で役割分担し、しっかりと成果につなげていくのが大事だと思います。言うは易く行うは難しですが。

法務人材としての強みを活かして価値貢献するという発想が大切

山下 俊

最後に、草原さんが思うこれからの法務人材のあり方についてお聞かせください

草原 敦夫

法務人材は、法務の仕事を通じ、趣旨から考える力、正確なアウトプットをつくる力、ドキュメントを書く能力、段取り力、そしてそれらの統合力が養われていると思います。また、リスクという切り口で様々な事業・組織の領域に関われるという特長もあるはずです。こうした強みを活かしてどのような形で事業や組織に価値貢献できるかを、法務の枠組みにとらわれすぎることなく考えることができれば、より幅広い活躍が期待できるのではないでしょうか。

山下 俊

貴重なお話ありがとうございました!


★今回のLegal Ops Star★

草原 敦夫(くさはら あつお)

READYFOR株式会社 CLO

東京大学法学部・東京大学法科大学院卒。司法試験合格後、司法修習を経て2013年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2014年より森・濱田松本法律事務所でコーポレート・ガバナンス、ベンチャーファイナンス、会社訴訟・非訟、M&Aその他企業法務一般に従事。2018年READYFOR株式会社に参画。法務・コンプライアンス、新規事業の企画・検討等を担当。

(本記事の掲載内容は、取材を実施した2023年1月時点のものです。)

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