法律事務所、大企業を経て、2017年7月にメルカリへ入社し、メルペイの設立や決済サービスの立ち上げをはじめ新規事業のリーガルサポートに携わってきた末永麻衣氏。2021年1月からはメルカリの子会社であるソウゾウで法務業務全般を担当しています。今回は、メルカリ入社以降、常に新規事業に関わり続けてきた理由と、その苦労や楽しさについて聞きました。
〈聞き手=山下 俊〉
メルペイ立ち上げ初期には開発チームとのコミュニケーションに苦労
末永さんは、メルカリの子会社であるメルペイの立ち上げにも関わられています。参画当時、ペイメント事業立ち上げはどのような状況でしたか?
メルペイの設立当初は、金融事業に携わったことのあるメンバーが社内にとても少なかったにもかかわらず、ゼロから金融サービスをつくるという状況でした。
そのため、社内では、金融事業が厳しい規制のある世界であるという認識が当初必ずしも強くなかったように思います。
そういった中で、末永さんはどのような役割を担われたのでしょうか?
私は法務担当者として、これからメルペイ社が金融機関としてサービス運営するにあたって考慮すべき法律の要件を1つひとつ洗い出し、現場の人たちに理解してもらった上で、サービスやオペレーションなどに漏れのないように実装してもらう必要がありました。
法律をわかりやすく咀嚼して、サービス開発に反映できるように伝えるということですね。ここでは、どのような苦労がありましたか?
転職して間もない時期だったことや、メルカリに入るまでは開発チームと一緒に働いた経験がなかったことから、「説明はしたものの、実際の仕様に落とし込む段階で漏れていた」という状況が発生し、手戻りが発生するなど、最初は混乱もありました。
今思えば、自分からもっと先回りして「ここは法的にも複雑なところだから、先回りして社内用の説明資料を作っておく」「仕様に反映されているかどうか自分から確認しにいく、または漏れなく法務チェックがされる仕組みを作る」などの取り組みをすべきでした。
銀行勤務時代とは事業部門や開発チームとの関わり方が違いますよね。
前述の通り、銀行では開発部門の方とサービスやオペレーションの設計について直接話すこと自体が少なかったですし、ある意味、法務部は社内の法律事務所的な存在だったんですよね。法律相談が持ち込まれ、それに答える専門アドバイザーのような立ち位置です。
一方、スタートアップの法務では、相談を待っているだけでは足りず、自分も当事者として「一緒に創っていく人」にならなければなりません。また、スタートアップでは必ずしも社内の体制が整備されていないため、「きっと大丈夫だろう」と思わずに自分から動いていく必要があります。そこが大きく違います。
普段法務で使っている言葉も、開発の人たちには伝わらないですよね。
そうですね。逆も然りで、自分も開発の知識がないので、すぐにできると思って「(法的要件を充足するために)このときにアプリ内でこういうボタンをこんな感じで表示してください」と気軽にお願いすると、「それ、めちゃくちゃ工数かかりますけど…」との返答がきてしまったり(笑)。
ただ、こうしたトライアンドエラーを繰り返していくうちに、徐々に事業部側と法務との認識のギャップが起こりやすい点や、歩み寄るべきポイントなどがわかってくるようになりました。
フリマの売上金を資金移動させたり、支払手段の原資に当てたりするというサービスは、当時とても新しいものでした。金融庁との折衝は難しいところもあったのではないでしょうか?
たしかに難しいこともありましたが、キャッシュレス事業がものすごく盛り上がって注目されている時期でもあったので、金融庁の担当官も一緒になって考えていただきました。経営層と金融庁へ通って、自分たちのやりたいことが実現できるように担当官に直接プレゼンしたりするのはかなりエキサイティングでしたね。
新規事業はヒリヒリ感もあるけど、それもまた楽しい
メルペイの立ち上げ後は、メルカリでどのようなキャリアを歩まれてきましたか?
メルペイを立ち上げてしばらくした後、一度メルカリに戻ってメルカリ法務チームのマネージャーをしていました。2021年1月に、メルカリの子会社としてECプラットフォーム「メルカリShops」を運営する株式会社ソウゾウを設立することになったため、そのタイミングでソウゾウに異動し、現在は法務業務全般を担当しています。
やはり自分は新しいサービスを立ち上げることに楽しさを感じるタイプのようで、お声がけいただいたときには純粋にやりたいなと思いましたね。
メルカリは成長企業で、多くの新規事業が生まれ続けています。新規事業に関わる楽しさはどこにありますか?
自分で判断してやらせてもらえる機会が多く、それがそのままサービスとして世に出されるという点が一番大きいですね。法律事務所や伝統的な企業の場合、若いうちからそういう経験を積むことは難しいかもしれませんが、メルカリではかなり裁量をもって働くことができています。その分責任やヒリヒリ感もありますが、それもまた楽しいです。
そんな新規事業をリリースしたときの気持ちはひとしおなのではないでしょうか?
新規事業のリリースは毎回嬉しいですが、特にメルペイのリリースパーティーのときには涙ぐんでいたことを覚えています。メルペイを使って初めてお店で決済できたときには「本当にできるんだ」と感動しましたし、リアルな手応えを感じましたね。
一緒に壁打ちできるようなカジュアルな弁護士が増えると面白い
最後に、末永さんが考える「弁護士のあるべき像」を教えてください!
ちょっとしたビジネスのアイデアを相談したいと思っても、今だと弁護士に相談することはまだまだ敷居が高いと思うので、もっと様々な人がアクセスがしやすい存在になるといいな、と思っています。まだ事業構想が固まっていないタイミングでも面白がって壁打ちから一緒にできるような、カジュアルな弁護士が増えると面白いかな、と。
「カジュアルな弁護士」、面白いですね!
弁護士を目指す人自体が減っていますが、私も含め多様な働き方をする弁護士が増えることで、「弁護士は自由な仕事だし、面白い」と感じ、弁護士を目指してくれる人が出てくると良いですよね。
弁護士に限らず、自分に適した環境や仕事を見つけることができれば、その人のポテンシャルが発揮できるようになるんだろうなと感じました。
逆に、これまでの弁護士や法務のイメージに縛られて、自分に向いていないのにその環境にこだわってしまうと辛そうです。
業界によって、働き方も関わる方の雰囲気も全く違います。また、前職の経験が思いもよらず別の仕事で生きることもあります。あまり自分を型にはめずに試行錯誤してみて、自分に合ったところを見つけ出せるといいのではないかと思います。
ちなみに、末永さんご自身もこの先のキャリアとして「カジュアルな弁護士」を目指されるのでしょうか?
相談しやすい弁護士という意味ではそうですね。加えて、最近は経営にも携わりたいと考えていたところ、ご縁があって昨年から株式会社あしたのチームの社外取締役に就任しています。ソウゾウでも、直近ではESG推進のための担当役員やD&Iタスクフォースのリードを務めるなど、法務以外の業務も経験させていただきました。
弁護士として法務観点での意見を述べるのは当然のことですが、これにとどまらず、経営全般に関してより広い視点や多様性を意識したアドバイスをすることで事業を後押ししていける存在になりたいと思っています。
ありがとうございました!
末永 麻衣(すえなが まい)
株式会社ソウゾウ 法務担当
弁護士(第二東京弁護士会)。国内大手法律事務所で企業法務の経験を積んだ後、国内銀行法務部を経て、2017年7月からメルカリに参画。メルカリグループで新規事業の立ち上げを数多く経験し、メルペイの立ち上げにも関わる。2021年1月からソウゾウに異動し、現在ソウゾウのリーガル全般を担当する傍ら、シティライツ法律事務所にも所属し、スタートアップ企業などのリーガルサポートを手がける。2022年3月から株式会社あしたのチームの社外取締役。
(本記事の掲載内容は、取材を実施した2022年12月時点のものです。)