電気通信業、人材サービス業、Webサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業とさまざまな企業で長年法務・知財を担当してきた橋詰卓司氏。現在は、このキャリアを活かし、弁護士ドットコムにて、クラウド型電子署名サービス「クラウドサイン」、規約・同意管理サービス「termhub(タームハブ)」のマーケティング&リーガルデザインを担当しています。ブログやTwitterではビジネスパーソンに役立つ情報発信にも取り組んでおり、そこからは、ガジェット好きな一面も伺えます。今回は、ガジェットへのこだわりについて聞いてみたところ、橋詰氏のユニークかつ一貫したキャリア観が明らかになってきました。
〈聞き手=山下 俊〉
「文房具」は快適に楽しく仕事をするためにある
本日は、宜しくお願い致します!
いきなりですが橋詰さんのTwitterをフォローしていると、最新のガジェット情報を追うことができますよね。
最近ほとんどガジェットのことしか投稿してないですからね(笑)。法務はやはり机に座っている時間が長い仕事なので、「文房具」にこだわることは、快適に楽しく仕事をするという意味で大事じゃないかという考えが根底にあります。生産性を上げたいというよりは、机に座っていて楽しければそれでいいんですよね。
noteで紹介されていた橋詰さんのデスクは、男のロマンが詰まっているようで見ていてニヤニヤしてしまいます。
イーロン・マスク氏は「オフィスで働け」と主張していましたが、これだけ設備を整えると、どう考えても自宅のほうが生産性は高いです。会社が同じ環境を整えてくれるのであればオフィスでも別にいいんですけど、たぶん無理ですよね。全社員に用意するわけにもいかないし、かといって、誰かにだけ買ってあげるのも公平じゃない。自分の責任のもと、自分で文房具を揃えていったらこうなりました。
ガジェットへの強いこだわり。原体験は『7つの習慣』
「文房具が大事」という考えに至ったきっかけがあれば教えていただきたいです。
最初に入社した会社で人事を担当していたころ、会社の経費でベストセラー書籍、スティーブン・R・コヴィー著『7つの習慣』(キングベアー出版、1996年)をベースにした研修に参加しました。そのときに研修教材として配られた「フランクリン手帳」を使い始めたのが原体験かもしれないですね。
毎日手帳になんでも記録する習慣を持ち、自分は何が重要で何を優先したいか、記録を振り返ることで発見・再認識する作業をするのですが、結果的にキャリアに対する考え方がかなり変わりました。その後も15年くらいフランクリン手帳を使い続けました。迷ったときに過去の記録を見ると、「あのときはこんなことに悩んでいたんだ」と、参考になるんですよね。
自分も社会人キャリアのスタート時に、1日1日振り返れという教えを頂いたことがありましたが、続きませんでした…。15年はすごいですね。今も紙の手帳なのでしょうか?
いえ、ご推察の通り、紙だとやはり検索性が非常に悪いです。一時期フランクリン手帳がデジタル化されたこともあるのですが、あまり使い勝手がよくなく…。そうこうしているうちに登場したのがiPhoneやiPadでした。特に、振り返りをするのには12.9インチのiPadが最適です。手帳としてはiPad miniのほうが使いやすいですが、フランクリン手帳は、手帳というよりもノートなので、12.9インチという大きなサイズが適しているんですよね。
この習慣が続いていること自体が、本当に素晴らしいと思います!
ちなみにお話に出た12.9インチのiPadを含め、橋詰さんはApple製品にこだわられている印象があるのですが、そこには、どんな理由があるのでしょう?
定番ユニフォーム的な意味合いが強いですね。
私は最近仕事用の服はイッセイミヤケのものしか買わないのですが、その発想と似ているかもしれないです。定番だから買うときに迷わないし、店舗が多いから調達しやすいし、修理しやすいし、供給が安定しているし。サステナビリティがあるんですよね。他のメーカーのガジェットだと、何年かすると発売されなくなることがあります。そこで困りたくないっていうのが大きな理由です。
ちなみに弊社代表の早川は、橋詰さんにAirPods Maxをオススメされたので購入しました。
みんなが買ってくれれば定番ユニフォーム性が高まるじゃないですか、売れなかったら今後出なくなっちゃうので。
Apple信者って言われるのですが、どちらかというと、多くの人が買って定番化すれば、自分が助かるという考え方で押し付けていますね(笑)。
「やりがいサステナビリティ」を確保するためにも給与の最大化は重要
橋詰さんはガジェットの話題も含め、法務はもちろん、さまざまな領域のトレンドを押さえられている印象ですが、どのようにしてアンテナを張られているのでしょうか?
「法務領域のスキルや知識を活かして給与を最大化するにはどうしたらいいか」という内容の記事を書いたことがあるのですが、その問いの答えは「業界を選ぶ」だったんです。営業利益率が高い業界に移れば、従業員に配分できる原資が豊富なので単純に給与は上がりやすいんですよね。
となると、やはり営業利益率が高い業界といえば…
やはり今のところはIT、特にソフトウェアの領域は強いです。
法律で定められていないことも多いため議論も活発ですし、営業利益率の高さが仇となり、それを縛るための法律を作ろうとする圧力も働いています。いわば「法律作りたがり領域」ですね。
私自身はたまたま、こうした業界で、自分は法務としてやっていけるのだろうかとモヤモヤと考えているうちに、自然と最新のニュースに目が行くようになったという形です。
ここまでのお話で、橋詰さんのキャリア観に給与を上げたいという考え方があることがわかりました!その一方で、心理的リターン、つまり仕事に対するやりがいについてはいかがですか?
もちろんやりがいも求めているのですが、自分の場合、100%のうち70%は給与が高くなりうる営業利益率の高いビジネスかどうかということを重視しています。それさえあれば、「やりがい搾取」にあわなくてすむんですよ。仕事をやればやるほど給与に跳ね返ってくるからこそ、ハードな仕事にも耐えられますし、やりがいって、見返りがあってこそサステナブルになるんですよね。「やりがいサステナビリティ」が大切です。
「やりがいサステナビリティ」、パワーワードですね(笑)。
でも、法務の人からは給与を上げようという話がほとんど出てこないように思います。
給与を上げるための交渉や発信、要望はもっとみんなでしませんか。もちろん要望すると、「お前はそれだけ働いているのか」と聞かれますが、そのときに「やっています」と胸を張って言える状態にするにはどうすべきか考えることで、仕事に創意工夫が生まれていきます。
橋詰さんが、業務の領域を法務以外にも広げられてきたのもそういう理由からなのでしょうか?
そうですね。自分は法務として育ち、法務ぐらいしか芸がないので軸はそこに置かざるを得ないのですが、法務の枠からはみ出てた仕事をやっているのは、純粋に法務の仕事をしていただけでは給与が上がらないから。これに尽きます。
とはいえ、仕事の幅を広げるにあたって、異なる職種へ転職する際、当初から高い報酬を期待するのは難しいように思います。例えば現職の弁護士ドットコム社へ転職された際には、どのような仕事をしたいと考えられていましたか。
大前提として、とにかく押印という仕事を廃絶したいという気持ちが強かったです。入社直後に「サインのリ・デザイン」というメディアを立ち上げたのも、「押印という慣習をデザインし直したい」思いがあったためです。
マーケティング担当としては未経験での中途採用で現職に入社したので、仰るとおり給与面は苦戦しましたが、クラウドサインが計画どおりに成長するのであれば、企業全体としての利益率は高くなるはずで、それに関与した人として認められることにより利益の配分は受けられるだろうと考えました。そこは賭けですね。
(後編へ続きます!)
橋詰 卓司
弁護士ドットコムクラウドサイン事業部「サインのリ・デザイン」編集長。電気通信業、人材サービス業、Webサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業など上場・非上場問わず大小様々な企業で法務を担当。主要な著書に『アプリ法務ハンドブック』(レクシスネクシス・ジャパン、2015年)や『良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方』(技術評論社、2019年)などがある。弁護士ドットコム社、リクルート社とで共同開発する法務の規約管理を支援するSaaSプロダクト「termhub」の立ち上げにも参画。