反社会的勢力(以下、「反社」)とのつながりは、企業に致命的な損失を与えるリスクとなります。前編では、本質的な反社チェックを行うことの重要性について議論しました。では、具体的にどのような体制で反社チェックを進めていけばよいのでしょうか。後編では、反社チェックのベストプラクティスについて、RISK EYES(リスクアイズ)を運営するソーシャルワイヤー株式会社 代表取締役社長 庄子素史氏、クリッピング事業部 営業部副部長 宮澤裕子氏にお話を聞きました。
〈聞き手=山下 俊〉
反社チェックは「ピラミッド型」体制で行うのがベスト
ここからは反社チェックのベストプラクティスを伺っていきたいです。
反社チェックは一般的に社内の誰が担うべき業務なのでしょうか?
会社の業態に応じて、チェックの範囲の広狭と効率のバランスの観点から異なってくると思います。
例えば不動産デベロッパーであれば、反社チェックの対象が多様かつ複雑で、一営業担当者が担当できるレベルではないため、法務をはじめ専門性を持った人の手が必要です。
確かに実際にも、専門部隊がいらっしゃる印象がありますね!
その一方で、比較的小口の顧客と複数回取引を重ねているような企業では、1つ1つの案件を法務や経営企画がすべてチェックしていては非効率ですし、機会損失を生んでしまう可能性すらあります。
この場合、受注をして契約を交わすまでのフローのなかで営業担当者が反社チェックを行うというルールを設けるのが効率的だと思います。採用なら人事、M&Aなら法務や経営企画、仕入れで高額なものを購入している場合は購買や総務……といった形で、業態・業容にあった形を考えていく必要があります。
特にスタートアップの場合、営業担当者が反社チェックを担当しているケースが多いですね。ただ、形骸化しないようにするためにも、営業とは別に反社チェックの担当部署を設けるのが理想です。
確かに営業担当者は、なんとかして早く取引を開始したいですからね。
ちなみに貴社では、どのような体制を敷かれているのでしょうか?
当社では、管理部門が営業担当者から依頼を受けて反社チェックを担当しています。
10〜15件に1件くらいは現場での判断に悩むものがあるので、上長に判断を仰ぎ、それでも難しい場合は社としての判断を仰ぐといった具体で判断しています。このように「ピラミッド型」のチェック体制を整えていただくことがベストプラクティスだと考えています。
「微妙なライン」では専門家の意見が必要な場合も
ここまでお話頂いた内容は、基本的に社内で完結するイメージですが、反社チェックにおいて、専門家による判断が必要になるタイミングはありますか?
まず、相手が反社である可能性があれば、絶対に取引してはいけません。発覚したタイミングが取引前であればお断りすることができます。
しかし、すでにお取引している相手だった場合は、会社はあくまでも解除事由(暴排条項の該当事由)を立証して解除しなければならないため、反社の情報を持っている警察へ相談してください。
反社の可能性がわかれば、頼る先があるということですね。
ちなみに、相手が反社ではないけれども判断に迷うときはどうしたらいいでしょうか。
例えば、調べていたら気になる情報が出てきてしまい、本当にこの会社と取引してよいのか、社員として採用してよいのか、迷ってしまうことがあるかもしれません。
ただ、前編でお話しした通りで、ここは会社としてリスクをどこまで許容するかという問題になるので、基本的には弁護士などの外部専門家に相談しても、彼らも判断に困ると思います。
判断権者は、あくまで自分たちということですね。
はい。ただ、過去に逮捕された経歴があるとわかっても、その後実際に有罪になったのかなど、最終的な結果が不明なケースも結構あるので、その場合は会社としての判断が難しいかもしれないですね。
それでもどうしても採用したい、取引したいということであれば、弁護士に意見書を書いてもらうという方法もあります。
こうした「微妙なライン」での取引を決めたときには、その後のリスクを回避するため、一般的な暴力団排除条項だけでなく、柔軟な解除権の確保や契約の自動更新を適用しないなど、取引の内容や条件についても詳細に検討したほうがよいでしょう。
そうしたテクニカルなサポートは、弁護士に相談したほうがよいと思います。
何かあったときのために「説明可能な状態」にしておく
「微妙なライン」というのは具体的にどのようなケースが考えられますか?
例えば、取引したいと考えている会社の社長が過去に窃盗のような軽犯罪を起こしているとわかったとき、それでも取引したいと思いますか?ということですね。
この場合、「窃盗を行うということは、法令遵守の意識が低く、契約不履行になる可能性もあるため取引したくない」という考え方もありますし、「何年も前のことだし、人は更生するので問題ない」という意見もあると思います。ここはまさに、会社としての判断ですよね。
もっとも、IPOを考えているのであれば、相手方が「グレー」な場合に対する判断基準や対応プロセスをガイドラインやマニュアルとしてきちんと設けておくことが特に重要です。
仮にリスクが顕在化してしまった際にも、判断基準や対応のプロセスをきちんと説明できれば、ある程度寛容な目で見てもらえるという側面もあると思います。
実際の案件に対しての判断プロセスは、やはり記録として管理しておいた方が良いということになるのでしょうか?
おっしゃる通り、管理の方法も重要です。
ただ「反社チェックをやりました」というだけでなく、担当者や日付を記録し、グレーな場合にはどういう判断を誰が行ったのか、どのような条件をつけたのかといった詳細な履歴まで残しておけば、ステークホルダーに対する説明もしやすくなります。
定期的なスクリーニング、リスクマネジメント体制の整備も重要
定期的な反社チェックが必要な場合、どのくらいの頻度で行えばよいものでしょうか?
当社の場合、上場準備の段階から年に1回、定期的な反社チェックを行っています。
契約が1年ごとに更新されるのであれば、そのタイミングで実施していくのがわかりやすいですよね。特に反社は、ある程度事業がうまくいって拡大した後に入り込んでくる傾向があります。
こうした点から、やはり定期的にスクリーニングすることは重要だと思います。
なるほど!
各企業では日々取引先が増えていくので、定期的にやるとしてもチェック件数も雪だるま式に増加していきます。だからこそ、いかに反社チェックを効率化するかという視点が重要になるんですね。
その通りで、毎回すべて一からチェックし直すのは大変です。
こうした背景からRISK EYESでは、差分にフォーカスしてチェックできるようにしています。該当期間中に変化があった部分だけを検索できる仕組みになっているので、効率的に進めていくことが可能です。
最後に反社チェックの限界について伺います!
情報がオープンになっていれば良いのですが、うまく隠れられてしまうと中々突き止められないということがあると思いますが、その対策はあるのでしょうか?
そうですね、すべてをあぶり出すことは困難です。
探偵を雇って24時間365日身辺調査を行えば見破れるかもしれませんが、コストや時間を考えると現実的ではないですよね。ですので、やはり第一歩としては、公知情報からスクリーニングして、発見できたものを排除していくという作業になります。
そして、取引開始後リスクが顕在化してしまったときにきちんと対応できるようなリスクマネジメント体制を整えておくことも重要になります。これをやっていたのとやっていなかったのとでは、ステークホルダーからの印象はまったく違います。
潜むリスクに警戒をしながら、事前・事後のそれぞれで、できることをきちんとやっていくということに尽きるのですね。
はい、実際に「印象」で会社に人は来なくなるし、金融機関・取引先は手を引くし、株価も下がります。
結果的に倒産など大きな損失にもつながります。会社の印象をしっかり守るという意味でも、「自分たちは反社チェックをしっかりと実施していました」と、然るべきタイミングで然るべき人たちに説明できるよう準備しておくことが大切だと考えています。
非常に勉強になりました!ありがとうございました!
庄子 素史 (しょうじ もとふみ)
ソーシャルワイヤー株式会社 代表取締役社長
青山学院大学卒業後、株式会社オリエンタルランドにて約8年間、テーマパーク・リゾートのPR・マーケティングを担当。2006年にソーシャルワイヤー株式会社を共同創業。海外事業の立ち上げや2015年のマザーズ上場の経験を経るなど、様々なプロダクトの責任者を務め、現在は同社代表取締役社長として「全ての魅力にスポットライトがあたる社会へ」をコーポレートビジョンに掲げながら、全社指揮を務める。
宮澤 裕子(みやざわ ゆうこ)
ソーシャルワイヤー株式会社 クリッピング事業部 営業部 副部長
2016年にソーシャルワイヤー株式会社に入社。同社の屋台骨であるプレスリリース配信サービス『@Press』のサービス企画を経た後、反社チェックサービス『RISK EYES』の立案から携わる。 2017年10月サービス提供開始以降、責任者として毎期150%以上の成長を達成。
現在は、姉妹サービス『@クリッピング』とともに、『RISK EYES』のマーケティング施策の企画立案およびサービス開発を担当。
(本記事の掲載内容は、取材を実施した2022年10月時点のものです。)