「新しい価値の概念を追求し、誠実に世の中に価値を提供する」という企業理念を掲げるSHIFT株式会社。法務部門でもこの理念をもとに、独自のポリシーを決めているといいます。企業理念に沿った組織として、法務はどのようにして経営へコミットしていくべきでしょうか。法務グループ長の照山浩由氏に、経営陣とのコミュニケーションの取り方について伺いました。
〈聞き手=山下 俊〉
SHIFT社員の行動指針をもとに法務独自のポリシーを策定
前回、法務業務の定量化に関してお話を伺いましたが、メンバーが数値をごまかして報告してしまうようなことはないのでしょうか?
SHIFTの企業理念と行動指針である「クレド」をもとに、「正直に仕事を行って良いアウトプットが出ればきちんと評価します」というメッセージを会社として発信しているので、メンバーを信頼していますし、あまりそうしたことは想定していません。
さらに、法務グループではこのクレドをもとに独自の評価基準となるポリシーを策定しています。
- ふてくされない、素直に受け入れる
- できないとは言わない、できると言った後にどうやるかを考える
- 我々はビジネスの世界におけるアスリートである、脳で汗をかけ
- 楽しいと思えることを提案し、自ら仕事を創りだす
- つらいときこそ、笑顔
- 業務は愛想よく受けて、迅速に対応し、カッコよく言い切って、泥臭くやり切ること。(業務遂行力)
- 最前線に立つ勇気と最後尾に立つ覚悟をもつこと。圧倒的当事者意識。(マインド)
- 業務を整理しマニュアル化することで、組織の生産効率を高める仕組みをつくること。(業務知見の資産化力・仕組化力)
- その仕組みを盲信せず、他の仕組みとの連携が円滑に進むよう、その仕組みを改善すること。(改善力・全体最適化力)
- 仕組みと改善により獲得した余剰時間で、新たな課題を発掘し、仕事を創出すること。(課題発見力・仕事創出力)
- 自分の業務を数字で把握・表現することに努め、常にその影響力を意識すること。(数字表現力・影響力)
- 法律だけに限定せず、幅広い知識を貪欲に習得することで、指数関数的に成長すること。(知識力・成長力)
悩める法務マネージャーの方にとっては、すごく参考になるものだと感じました。どのようなプロセスで決めていったのですか?
法務の評価基準をきちんと明示してほしいという要望をメンバーから受けて、私が決めました。メンバーには、困ったときや悩んだときにはこのポリシーを参照するよう指導しています。ポリシーから外れていなければ、例えミスを犯してしまったとしてもきちんと評価するという方針にしています。
照山式、経営者とのコミュニケーション術
SHIFTの経営層の方々と約束していることはありますか?
それをお話しするためには、「そもそも法務って何のためにあるんですか?」ということを考える必要があると思います。特にスタートアップにおいては、会社が事業を遂行していくために必要なリーガルのリスクを、少なくとも会社が回っていくレベルでヘッジしていくことが求められます。
スタートアップにもいくつかのフェーズがありますが、当該フェーズに必要なリーガルリスクを洗い出して言語化し、法務側から経営陣へ解決策を提案していく——経営陣や私の上長にあたる役員は、こうした役割を法務に求めています。法務が担う具体的な業務範囲やリソース配分については、彼らの理想にたどり着くために何が必要なのかという視点からディスカッションして決めていきました。
経営陣の方々と照山さんがどういうコミュニケーションを取っているのかは気になっていました。
基本的には、まず先に自分の考えを提示して、経営陣の意見を伺いますね。そのうえで、「ここは同じ意見」「ここは違う」とすり合わせていく。こちらの意見に納得してもらえない場合は、それによるリスクやダメージについてしっかりと言葉で表現して説明する。そのうえで提案を飲んでもらえないのであれば、それは一つの経営判断だと思うんですよね。
いずれにしても、きちんと明文化してわかりやすい状況にしたうえで、一つ一つルール設定をしていくことが必要だと考えています。
そうしたルール設定については、経営陣が目指す方向性に対してどうフィットさせていくかという視点も一つの重要なポイントになってくるように思います。
そうですね。経営陣と一緒にゲームを作っていく感覚に近いと思います。ゲームのルールが決まれば、「シュートを3本決めたので、3点分の評価をしてください」と要求できるじゃないですか。経営陣は法務というゲームをそもそも知らないこともありますが、それは悪いことではない。私たち法務が伝えていかなければなりません。
そして、お互いに話し合って合意していくことで、ゲームのルールと基準ができていく。ゲームのゴールや勝敗、つまり法務に求められる役割や価値は、そこをクリアしていくことで初めて決まるものです。前編でお話しした、法務はコストではなく投資なのだという方向に持っていけるのかなと。
他方で法務の「ガーディアン」(「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会 報告書」ご参照)としての機能については投資効果を表現しづらいように思いますが、いかがですか?
不可避的な訴訟やトラブルはどうしても発生してしまうものです。そして、トラブルが解決されない期間が長ければ長いほど、会社にとってはダメージが大きいです。そこをどれだけ迅速に解決できたかということを根拠を持って説明すればよいと思います。
たとえば、「通常であれば1年間掛かるような案件を2カ月で処理できました」ということであれば、本来必要だった人的リソースや費用を掛けずに済むわけですから。そうした損失を避けたという形で会社へ貢献していると考えてプラスで評価しましょうよ、というロジックです。
法務こそ、予測可能性が高く定量化しやすい業務
法務業務って実は、決して不確実性の高くない、予測可能性の高い仕事なのではと感じています。
仰るとおりです。お客さんが限定されているぶん、わかりやすいと思います。どの部門の業務でも、自分たちのお客さんの対象となる層を設定するところから始めますよね。法務の場合、お客さんは社内にいるわけじゃないですか。さらに、トラブルの発生の仕方もある程度わかっている。あとは、そこに対してビジネスとしてどのレベルでサービスを提供するかという発想になってくると思います。
業務量も売上や人の数に比例して増大していくので、比較的予測を立てやすいのではないでしょうか。
法務って実は定量化が進んでなかった業種・業界ではあるけれども、実は定量化しやすいのかもしれません。過度な定量化って私はあまりよくないと思っているのですが、逆に定量化していないと業務が “見えない化” して評価がブレてしまうのかな、と。
お客さんが決まっていて、発生する契約件数やそれに関する法務相談はある程度予測できるので、それにあわせてリソースの確保をしておくこともやりやすいですよね。
そうですよね。だからこそ、照山さんのお話を聞いていて、スタートアップ法務に定量化はマストなのではと思いはじめました。むしろなんでこれまでしてこなかったんだっけ? と(笑)。
よかったです(笑)。