序文
本稿について
本稿は、2021年1月21日に行われた社内向け勉強会にて、 Hubbleをご導入いただいている太陽誘電株式会社法務部長(当時)の佐々木氏に、法務業務の効率化についてご講演いただいた内容を紹介するものです。
佐々木氏からコメント
先日、弊社が利用しているリーガルテックベンダーの皆さんと勉強会を行う機会があり、そこでお話しした内容をまとめていただきました。
私自身が法務部長として、法務部門のオペレーションを管理する際の問題意識と重要なポイントについて、簡潔にまとめられています。リーガルオペレーション改革のヒントになれば幸いです。
法務業務の効率化の前提となる、重要な2つの視点
ビジネススピードと品質のバランス
佐々木氏は、ビジネススピードと品質のバランスを保つため、今後リーガルテックの導入が重要になってくると説明します。
昨今、事業スピードがすごく早くなってきています。他方で、案件が簡単になっているかというと、そうはなっておらず、むしろその難易度は上がっています。そのため、スピードと品質のバランスをどうやって取っていくかが課題となっています。
事業スピードの高速化に対応するためには、ルーティンワークを効率化させなければなりません。他方、品質を維持するためには、結局のところ人によるところが大きく、ハイスペック人材をいかに採用するかが重要となります。
事業スピードが高速化しているものの、一定レベルの品質を維持しなければならないという難しい環境の中で、ルーティンワークの効率化を図るためにはテクノロジーの導入が不可欠で、リーガルテックの導入が非常に注目を集めています。
法務業務を可視化して効率化すべきターゲットを設定
効率化を図るうえでターゲットとすべきものについて、佐々木氏は次のように説明します。
業務を効率化するうえでのターゲットは、やはり普段何気なくコストをかけているものです。どこにコストをかけているかと考えた時に真っ先に思い浮かぶのは、やはり法務のオペレーションの中のルーティンワーク(日常業務)でしょう。
特に、ターゲットとしてプライオリティをつけるべきことを2つ挙げるとすれば、量が多い業務と定型的な業務の2つで、まさに契約審査業務がこれに該当します。
では、契約審査業務を効率化するためには、業務の内容を見える化して分析する必要がありますが、どのように見える化していけばいいのでしょうか。この点、佐々木氏は、契約審査業務の見える化に必要不可欠なツールとして、契約書管理システムを挙げます。
まず最初に導入すべきシステムは、契約書管理システムです。理由としては、このシステムが導入されていないと、業務フローのコントロールが全くできません。また、このシステムが導入されることで、業務の見える化に不可欠なデータを取得することができます。法務担当者がどれくらいの案件を処理しているか、納期がどうなっているかといったことは、システムを導入しないと把握することができないのです。
法務業務の効率化実例
案件の受付を集中化
現状、案件の受付を仕組み化するというところにまで頭が回っていないという企業も多いかと思います。しかし、佐々木氏は、効率化の観点から、その改善の必要性を説きます。
契約書審査には、分散型オペレーションと集中型オペレーションの2種類があります。分散型オペレーションとは、依頼者が好きな法務担当者を自由に選べるというものです。他方、集中型オペ―レーションとは、依頼者と法務担当者との間に管理担当者が介在するというものです。
この2つのオペレーションを比較した場合、圧倒的に効率が上がるのは後者です。しかし、実際に話を聞いてみると、意外なことに、非効率的な分散型オペレーションを採用している大企業が多いことに気づきます。
その要因としては、日々の案件処理に追われ、オペレーション改善にまで手が回らないことが考えられるでしょう。弊社では、効率的な集中型オペレーションを採用し、契約審査の依頼から回答、捺印後の原本管理までの一連のフローを契約書管理システムによって管理しています。
依頼案件の定量的な分析による、ボトルネックの特定と改善
契約書管理システムを導入すると、契約書に関するパフォーマンスデータが取れるようになります。この点、佐々木氏は、業務の効率化にあたっては、契約マーケティングが欠かせないと説明します。
どういう契約が、どのくらい、どの部門から依頼されているのかというのは、実はあまり重要視されてきませんでした。しかし、こういった視点も、業務の効率化においては重要であり、ここをモニタリングしていないのは問題であると考えています。そこで、弊社では、契約マーケティングとして契約審査の依頼動向をモニタリングし、これを数値化してデータを分析しています。
一般的に、契約業務の効率化にあたっては、雛型を作成することが多いと思います。その際『どの契約について雛型を作成するべきか。』ということを考えるときに、先ほど説明した契約マーケティングのデータは非常に有益です。また、数が多くてリスクの低い契約については、そもそも本当に法務が審査すべき案件か否かを検討しなければなりません。実際、弊社では、ある契約類型について事業部で簡易判定ができるようなチェックシートを作成することで一部を審査対象から外し、契約業務の効率化を図りました。この作業にも契約マーケティングのデータが活用されています。
法務担当者のパフォーマンス管理(応用編)
契約書に関するデータは、これまでブラックボックス化されていた法務の課題を詳らかにします。たとえば、佐々木氏は、契約書管理システムを駆使すれば、法務担当者のパフォーマンス管理もできると述べます。
弊社では、案件の難易度を3ランクに分けて分類しています。具体的な分類は、①言語、②ドラフトのパターン、③ボリューム、④関係部門との連携、⑤リーガルリサーチ、⑥その他の加点要素といった項目から行っています。
このランク分けと契約書管理システムを応用することにより、それぞれの法務担当者がどのランクの案件をどれくらい担当しているのか一目でチェックすることができるようになりました。また、このデータを分析すると、すべての案件のうち、約80パーセントが一番難易度の低いランクのものであるということが分かりました。そのため、契約書審査をする上で重要なことは、量の多い難易度の低い案件をいかにして迅速に処理するかということになります。
先ほどの話にも繋がりますが、これからの法務には、リーガルテックを使って、一定の品質を保ちながら効率的に案件を処理することが求められるでしょう。効率的という言葉がキーワードになります。
また、パフォーマンスを数値化することで、公平に人事評価を行うことにも繋がります。法務担当者が努力した成果を数値化し、定量的な指標を用いて評価することで、スタッフにとって納得感のある人事評価を行うことができるようになりました。
佐々木氏への質問と、回答
定型的な案件を数多く処理できる人材と、難しい案件を確実に処理してくれる人材のどちらをより評価すべきでしょうか?
これからの時代に求められる人材は、生産性が高い人材ではないかと考えています。究極的な話にはなりますが、難しい案件は外部委託してしまうことも可能です。そのため、難易度の高い案件だけを処理するために、優秀な人材を確保する必要があるかと言われると、私は懐疑的です。
結局のところ、法務においては、組織としてルーティンワークを一定の品質で効率的に処理することが求められるため、きちんと業務基盤を整える必要があると考えています。
今後リーガルテックが発達していく中で、ルーティンワークをする人材はこれから減っていくのでしょうか?それとも、働く領域が広がっていくのでしょうか?
これからの法務は、①パートナー機能(クリエーション機能とナビゲーション機能)と②ガーディアン機能という2つの機能が求められています。
そのうち、①パートナー機能というのは、コンサルティングスキルが高いレベルで求められ、工数もすごくかかります。そのため、これからの法務は、より①パートナー機能の拡充にコストをかけていかなければならないと考えています。法務担当者と事業担当者が事業のスキームを一緒に作っていくという方向性にこれからは進んでいくのではないでしょうか。裏を返せば、そこにコストを割くために、リーガルテックを導入して、②ガーディアン機能のコストを下げていく必要があると考えます。
編集後記
佐々木氏のご講演は、「リーガルテック」というものになぜ向き合う必要があるのかを、改めて考えさせられるものではないかと思っております。
リーガルテックの導入をご検討されている企業様にとっては、「なぜリーガルテックを導入するのか」「リーガルテックを活用して、どのような問題を解決したいのか」という目的意識を持つことが大事なのではないかと思います。
リーガルテックを導入することそれ自体が目的となってしまっては、あまり意味のない、形だけのリーガルオペレーション改革となってしまいかねません。
そうではなく、既存の業務フローのどこに問題があるのか、その問題はリーガルテックの導入により解決できるものか、を丁寧に検討していくことで、真に意味のあるリーガルオペレーション改革になるのではないかと思います。
実のあるリーガルオペレーション改革に資する情報を今後も提供していくことに、尽力してまいりたいと思います。
【PR】佐々木氏が考える、これからの法務のあり方とは?