複数社での法務部長を歴任した佐々木氏が考える、法務組織マネジメントの真髄 - NISSHA 佐々木毅尚氏<前編> –

佐々木毅尚氏

NISSHA株式会社 法務部長 佐々木毅尚氏は、10名のチームから100名を超える規模まで、さまざまな法務組織のマネジメントを法務部長として複数社で経験してきました。同氏が考える法務部長の役割とマネジメントの核心とは。今回は、企業における法務機能の在り方とCORE8の「マネジメント」についてお話いただきました。

〈聞き手=山下 俊〉

目次

法務部長に求められるのは「バランス感覚」

山下 俊

本日は宜しくお願いします!
佐々木さんのように法務部長として各社を渡り歩かれてきた方は本当に一握りだと思います。佐々木さんからご覧になって、各社の経営陣が法務部長に求める役割に共通点はありましたか?

佐々木 毅尚

前提として、企業規模が異なれば法務の人数が変わりますし、海外への事業展開の有無により法務業務の内容も変わります。確かに、ガーディアン機能とパートナー機能の2つは、どの会社に行っても同じですが、それも会社によってガーディアン機能が強い会社とパートナー機能が強い会社に分かれるなど、法務部長に求められる役割も各社各様という印象です。

法務部長 佐々木毅尚氏
山下 俊

その「各社各様さ」には、どういったものがありますか?

佐々木 毅尚

もちろん会社の事業の状態が最も大きな影響を与えるのですが、他にも各企業のレポーティングラインの違いが法務部長に期待されている役割に影響を与えます。例えば社長に直接レポートする会社もあれば、法務担当役員にレポートする会社、管理部門担当役員にレポートする会社もあります。レポートティングラインにより、期待されている役割の範囲は当然異なりますよね。

山下 俊

確かにレポートライン一つとっても一様ではないですよね。そういった各社での差を掴むこと、つまり新しい企業に参画される際、前職との違いを佐々木さんはどのように把握されているのですか?

佐々木 毅尚

まず、経営陣の考えていることをしっかりと把握することですね。それに加えて、法務の視点からその会社に何が足りないのかを考えます。

山下 俊

是非、具体的に教えてください!

佐々木 毅尚

たとえば、社長が先頭に立ってどんどん事業を伸ばす会社だとすると、パートナーとしての法務機能が強く求められます。一方で、伸ばすばかりで内部管理体制を整備していないと、抱えているリスクが大きすぎますよね。なので、攻めるにしても守りが疎かにならないように、ガーディアンとしての法務機能も同時に必要となります。こういったように、どの企業においても、攻めと守りのバランスをとるのが法務の役割と言えます。

山下 俊

こういった状況下では、法務部長としてどのように優先順位を付けて組織課題に着手されるのでしょうか?

佐々木 毅尚

法務としては「ちゃんとやる」ことが理想なのですが、この「ちゃんと」を定義するのが難しいんですよね。そういった中で法務として大事なのは、社内外の両方の視点から「ここまでやっておけばよい」という線を引くことだと考えています。

山下 俊

法務部長には、そういった線引きの適切さが求められるのですね。

佐々木 毅尚

社内規程を100個作っても守られていなければ意味がありません。一方でうまく回っているけれど、外から見たら何もルールがないという状態もよくありません。会社にとってコアとなるものを厳選し、ちょうどよいレベルで整えていくという考え方になります。形式と実質のガバナンスをうまくバランスさせるために法務部長というポジションがあるのではないでしょうか。

山下 俊

法務部長に求められるのはバランス感覚だということがよくわかりました。ちなみに今伺った法務部長としての役割を果たすために、新しく就任された後、最初に社内でどのようなコミュニケーションをされるのですか?

佐々木 毅尚

私は法務部長として「やりたいこと」が決まっているので、部長として着任後すぐに「私はこういう考えで、こういうマネジメントでやりますけど、いいですか?」と部門内や経営層に対して提言します。

山下 俊

ご自身のスタンスと相反するやり方が浸透している場合はどうされているのですか?

佐々木 毅尚

自分のやりたいことと会社の向いている方向がマッチしているかどうかは、転職前に吟味しています。グローバルなビジネスを行っていない企業であれば、私は適任者ではないでしょうし、私はスペシャリスト志向なので、ジェネラリストだけ集めて法務をやりたいという会社も、私には合わないと思います。自分がやりたいことと企業の方向性がマッチするかどうかは、多様な企業で法務部長として組織マネジメントをした経験から判断しています。

レポーティングラインのない法務組織は動かない

山下 俊

佐々木さんは日本版リーガルオペレーションズ研究会に参画され、「CORE8」の策定に関わられています。先ほど出てきたレポーティングラインは、CORE8の「マネジメント」に含まれますが、どのような議論がなされていたのでしょうか?

佐々木 毅尚

レポーティングラインの標準化をCOREの1つに入れようという方向性は、他のメンバーとも意見が一致していました。組織マネジメントを経験したことのある人であれば、法務部門を機能させるために一番大事なのはレポーティングラインだということが肌感覚でわかっているためでしょう。レポーティングラインのない組織は動かないですからね。

山下 俊

レポーティングラインに関して、海外と比べて日本企業ならではの特徴はありますか?

佐々木 毅尚

欧米では、法務ならジェネラル・カウンセル(GC)、人事ならCHROと、管理系の業務にも必ずそれぞれトップを置いて、その人がグローバル全体の機能を統括しています。一方、日本企業の中では、このようなスタイルで統括している会社は少ないでしょう。

山下 俊

確かに管理系の業務においてそこまでできている企業というのは非常にわずかという印象があります。その理由として考えられるところはありますか?

佐々木 毅尚

一つ考えられるのは、日本企業は基本的に会社単位でマネジメントされているので、その会社の社長がレイヤーとしては一番上になります。このため、子会社の管理部門は、本社ではなくその会社の社長にレポートすることになり、結果として、グローバル本社の管理部門がそのコントロールに苦労します。

レポートライン例:国内外の各地域に法務機能があるグループ企業が複数あり、これをグローバルの責任者が地域ごとに統括する場合
山下 俊

レポーティングライン上、誰が「上」なのかが組織の動きを決めるのですね!

佐々木 毅尚

一方で、欧米では、ジェネラル・カウンセルが各国の法務責任者の評価や予算の決定権を持っているので、統率しやすいんです。そこがない日本企業の法務組織は、総じてマネジメントの難易度が高いといえます。

レポーティングラインでは「ノーサプライズ」が原則

山下 俊

こうした日本企業にとっては、どのようなレポーティングラインが理想となるのでしょうか?

佐々木 毅尚

会社によっては一階層でなく複数階層になっている場合もあると思いますが、いかにメンバーがマネージャーにタイムリーにレポートしていくか、それを聞いたマネージャーの判断でさらに上位レイヤーへ迅速にレポートできるかが重要です。

山下 俊

レポーティングラインの整理を重視される背景は、ネガティブニュースをいち早く得るためということになるでしょうか?

佐々木 毅尚

基本的にはそうですね。レポートにおいては、「ノーサプライズの原則」があります。法務スタッフによる案件処理の過程で、マネージャーが聞いて驚く可能性のある異常があれば、それを迅速に検知して報告する必要がありますよね。ノーサプライズにするためには、必要なレポートがタイムリーに送られてくることが非常に重要です。

山下 俊

ルールを決めてもレポートが上がってこなかったり、コミュニケーションがうまくいかなかったりすることも特にグローバル企業だと多いように思うのですが、そうした課題に対処する秘訣はありますか。

佐々木 毅尚

レポーティングライン参加者間の人間関係をしっかりと構築することが大切です。一定金額以上の訴訟・契約であれば、必ず報告するというルールを作ったこともありますが、あまりうまくいかないんですよね。

山下 俊

一方的に設定した仕組みだけではうまくいかないこともあるということですね!

佐々木 毅尚

はい、なので、私は定期的に海外拠点に実際に赴くようにしています。現地の人と話をして、「こういうことがあったらちゃんとレポートしてね」と伝える。こうやってお互いに信頼できる関係性を構築していくことが第一です。もちろんこれは、同じチームのメンバーとの関係性も同様です。

山下 俊

ありがとうございました。後編では具体的なマネジメントの在り方について、各テーマごとにお伺いしていきます。


★今回のLegal Ops Star★

佐々木 毅尚(ささき たけひさ)

NISSHA株式会社 法務部長

1991年明治安田生命入社。YKK、太陽誘電、SGホールディングス等を経て、現職。法務やコンプライアンスに関連する業務を幅広く経験し、リーガルテックの活用をはじめとした法務部門のオペレーション改革に積極的に取り組む。著作『リーガルオペレーション革命』(商事法務 2021)、『eディスカバリー物語』(共著 商事法務 2022)等。

(本記事の掲載内容は、取材を実施した2024年5月時点のものです。)

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