以前公開した、契約業務フローに関するアンケート結果を公表した記事は、それまであまり明らかではなかった一般的な法務の実態を示すものの1つとして、好評を博しました。
一方で、「もっと詳しく実情を知りたい」というお声を同時にいただきました。
そこで本稿では、株式会社Hubbleが8月末~9月に改めて行った、法務の実態に関する詳細なアンケートの結果を、一定の分析と共に一部公開します!
アンケートの概要
- 実施期間:2021年8月30日~9月10日
- 調査手法:インターネット
- 調査内容:法務の実態に関するアンケート
- 対象:法務担当者
- 有効回答者数:122人
職種
まず、アンケートにご回答いただいた法務担当者が所属する企業属性については、以下の通りとなっております。
今回のアンケートでは、メーカーや通信・IT系サービス企業からの回答を多くいただきました。
それでは、具体的な法務の実態に関するアンケート結果の分析に入ります。
従業員規模と法務人数の割合
まず、従業員規模と法務の人数の割合についてみてみると、アンケートにご回答いただいた企業群では、1人法務の割合は、100人以下の企業でも半分以下となっております。
3人以下の法務まで広げますと、その割合は、従業員規模が300人までの場合は過半数を超え、301人以上だと半数を下回るという結果になっております。
チャットツールについて
次に、社内でのチャットツールの使用についてのアンケート結果です。
社内でのチャットツールの使用については、全体的にはTeamsが広く利用されています。
在宅ワークの普及からか、従業員規模が3000人以上の大企業においても、何らかのチャットツール(特にTeams)を用いている割合が高くなっています。
一方で、Slackの利用も300人以下の企業であれば導入割合が高く、通信事業に限っていえば、Slackを用いている企業は多数派にあたります。
契約書業務について
契約書審査受付方法
全体的には、チャットツールを導入しているか否かに関わらず、メールでの受付が圧倒的多数派でした。チャットツール導入企業に絞っても、6割の企業で、7割以上がメールでの契約書審査を受付けているとのことでした。
300人以下の企業においては、チャットツールでSlackを用いているかTeamsを用いているかで、顕著な差がありました。以下は、SlackかTeamsのうちどちらかを利用している企業について結果を抜粋したものです。
Teamsを用いずSlackを用いてる企業においては、チャットツール(Slackなど)で契約書審査を受け付ける企業が多い一方、Teamsを用いている企業においては、逆にメールでの受付が多いという結果になりました。
レビュー日数の目標設定について
次に、契約書レビュー日数の目標設定についてみてみると、1人兼業法務か否かで、大きな差がありました。
一人兼業法務の場合には、そもそも目標設定をしていない企業が40%にのぼり、1〜3営業日以内の目標設定をしている企業は20%にとどまります。一方、一人専業法務や、法務担当メンバーが複数人いる企業では、4割以上の企業が1〜3営業日以内の目標設定をしています。
交渉過程で社内でやり取りする契約書の書式について
交渉過程における契約書のやり取りは、やはりWord形式でなされる場合が業種・規模を問わず圧倒的多数でした。
一方で、社内でGoogle Docsを交渉段階で用いている企業は、122社のうちわずか1社しかありませんでした。
なお、アンケート対象企業全体では、いまだ約3分の1の企業が、(締結前の)交渉過程で紙媒体の契約書を介在させている現状にあります。
法務担当者の業務量
月間の契約書審査件数を、法務担当者数ごとにみてみると、1人兼業法務の場合は審査件数が月に10件以下である場合が多く、1人専業や2~3人の法務担当者がいる企業では、月に11~30件の契約書審査を行う企業が多いようです。
また、1人法務の場合には、自社ひな形を用いる契約書の割合が5割以上である企業数が5割を超えていますが、複数人の法務担当者がいる企業では、4割前後となっており、相手方のフォーマットをレビューする量が増えるという意味で法務の業務量が多くなる傾向にあると言えます。
比較的簡易な契約書の初回レビュー日数と 、AIレビューツールの導入の有無
まず、AIレビューツールを導入している企業数は、122社中21社で、今回の母集団では約17%の企業が導入していました。
AIレビューツールの導入の有無と、相手方ドラフトの比較的簡易な契約書の初回レビュー日数の関係は、以下のようになっております。
「比較的簡易な契約書」の「初回レビュー日数」という観点では、AIレビューツールの導入の有無によっては、そこまで大きな差は見られませんでした。簡易な契約書ではそもそも敢えてAIレビューツールを使っていなかったり、まだまだ使いこなせていないという背景もあるのかもしれません。
また、少し母数は少なくなりますが、自社ひな形を用いない契約書審査件数が、1人当たり月10件以上になると、AIレビューツールを導入している企業が多くなるという傾向も伺いえます。
電子契約締結の割合
最後に、電子契約サービスによる、電子署名での契約締結の割合を示します。
全般的には、電子署名サービスによる契約締結の割合が1割以下の企業が約3分の2を占めており、締結数自体はまだまだ発展途上にあると言えそうです。
一方、通信・ITサービス業においては、電子署名の締結割合が4割以上という企業が半数を占めており、電子契約サービスが一定程度普及しているといえそうです。
終わりに
本稿執筆の基になったアンケート結果は、他社企業と比較して自社の現状を分析する際には、非常に有益なものです。
一方で、定量化して示した数字が全てではあるとは限りませんし、アンケート結果におけるマジョリティと足並みを揃えることが、自社にとって望ましい状態であるとも言えません。
本稿が、自社の法務組織体制や業務量などについて、見直し・整理や分析の一助となれば幸いです。