【書き起こし】OneNDA 参画企業と考える契約の未来

2021年3月24日OneNDA 参画企業のネスレ日本株式会社法務部長/弁護士の美馬耕平様(以下「美馬様」)、ウォンテッドリー株式会社法務担当/弁護士の植田貴之様(以下「植田様」)とOneNDA の参画を決めた背景や契約の未来についてディスカッションするウェビナーを開催しました。

2021年3月時点での自分たちの議論を記録として残し、将来、「この当時からこのような未来を構想していたんだ」という振り返りができるよう、ここで書き起こしを残しておこうと思います。

(書き起こしにあたり、内容を一部補完・改変しています。)

目次

◆OneNDA とは

「OneNDA」は、NDAの統一規格化を目指すコンソーシアム型のNDA締結プラットフォームです。
「OneNDA」に参画した企業同士の取引であれば、取引ごとに個別のNDAを締結することなく、「OneNDA」内のルールに基づいて企業活動を進めることができます。これにより、従来個別に締結されていたNDAに関する業務の効率化を図り、迅速に取引することができます。

◆ウェビナーディスカッションの内容

なぜ参画を決めたのか

Hubble酒井

2020年8月のリリース後、すぐに参画を決めていただきましたが、どうしてでしょうか?

ネスレ美馬様

前提として、新しいものが好きということはあります。
もとから従来の慣習にもやもやがありました。NDAは何とかなるはずの領域だと考えていましたが、プロジェクトを見た瞬間に、「これだっ!」と感じました。
特に、以下の二つの観点で魅力を感じました。

ネスレ美馬様

①作業時間を削減
慣習的なものだったり、伝統的内容がほとんどであったり、業界問わず割と普遍的で、要は「秘密を守れ」というところができるなら問題なくまとめることができると思っています。そして、NDAの数が多い企業であれば、削減できる手間は減るであろうし、かつ参画企業が増えれば増えるほど手間はかなり減っていくと考えます。

ネスレ美馬様

⓶締結漏れを防止
実はこちらの方が重要かもしれません。事業部門がNDAを締結しないまま秘密情報を渡してしまうことがあります。そうなると法務は重要な情報がダダ漏れなことに気付くこともできない状況に陥ってしまいます。少ない人数の法務が全て見回りをするわけにもいきません。それが参画企業が増えれば解決されていきます。万が一、NDAの締結なく情報を提供してしまったが、上記のようなことが起こってもOneNDAがあるから大丈夫だということになると考えています。

Hubble酒井

ありがとうございます。
少なくともOneNDA の初期の段階では、これまで締結されてきたNDAがOneNDA に完全にリプレイスされるということよりも、NDAが締結されていない段階での情報開示/受領について、最低限の取り決めがなされている状況を作れるという意味合いが大きいと考えられますね。

Hubble酒井

ちなみに、ネスレ様(のような大企業)であれば、自社のひな型で進んで行くことが多い(ので自社の工数があまりかからない)のではないでしょうか?

ネスレ美馬様

弊社側からひな形を提供できる場面は、半分程度しかなく、事業部門が相手方からひな形をもらってくることも多いので、レビューは必要になることが多い。

Hubble酒井

なるほど。ありがとうございます。
ウォンテッドリー植田さんも、参画の理由など、お聞かせいただけますか?

ウォンテッドリー植田様

当然の大前提として、個人的に新しい取り組みが好きであることがあります。更に加えて、効率的に少人数で組織を作っていきたいので、規格が統一されると自分自身だけでなく決裁に関与するメンバーの工数削減にも繋がるのが大きいです。

ウォンテッドリー植田様

また、SaaSというビジネスモデル的に、開発受託などの類型と比べると自ら秘密情報を開示する場面はそこまで多くないので、OneNDAに参画することでリスクが高まることもありません。

NDA締結漏れの保険になるという発想は当初はありませんでしたが、確かにその通りで、参画企業が増えるほど保険代わりになるだろうと思います。

Hubble酒井

取引を開始するときに、打ち合わせの中で情報を開示して、NDAをバックデートして結ぶということもできるとは思います。しかし、そもそもお互いが秘密保持のについて合意した状態で情報を共有する方が、自然なあり方な気がして、OneNDAにはそういった意義も強いのかもしれません。

業務効率化に関する議論

Hubble酒井

レビューの手間を効率化することにフォーカスすれば、手段としてAIレビューを導入することも考えられるのではないか?
(特にNDAはAIレビューの精度も上がっていくことも想定できるため)

ネスレ美馬様

AIレビューはいくつも試して使っているものがあります。
法務部門のことだけを考えればAIレビューにより手間は削減でき、特に多少難しいものには役立つ印象があります。
もっとも、NDAに限っては契約そのものが慣習的で、さらに重要な修正点も少ないので、レビューそこまで時間がかかっている印象はありません。

ネスレ美馬様

ただ、上記より問題なのは、稟議に時間がかかったり、法務部門と事業部門、事業部門と相手方とのやりとりでどんどん時間が重なることです。
これはAIレビューを使ったところで効率化に限界があるため、コンソーシアムが広がった方が法務部門以外も含めた全体的な効率化になるのではないかと考えます。

Hubble酒井

法務の手間のみならず、契約業務に携わる人全体を考えた場合の全体最適はどのようなものか、という視点は非常に重要ですね。

ウォンテッドリー植田様

AIレビューサービスは、できるだけ自社に有利な結果をサジェストするので、お互いがサジェストどおりに使うとむしろ合意が難しくなるのではないか。

Hubble酒井

確かに、取引開始にあたってNDAを慣習的に締結しようというときに、理論的に存在するリスクをすべて修正して、双方がそれを持ち寄るという方法は、取引を迅速に始めたい場合には向きません。AIレビューは当事者的な立場でレビューするので、より裁判官的な公平な視点が求められるということでしょうか。

Hubble酒井

NDAが増えると、どの取引先とどのような内容で合意したか、実際は把握できないのではないということはないでしょうか?そしてその場合には、契約が取引内容の合意であるという本来的な意義が形骸化してしまっているということにもつながってくると思っています。

ウォンテッドリー植田様

確かに個別の全ての条件を可視化するのが難しいし、記録して追跡し続けるのもとても難しい。

ネスレ美馬様

そもそも、慣習的に締結されていたNDAに関しては、取引ごとに契約内容を可視化することに大きな意義がありません。
NDAの対象となる取引だとしても、秘密保持の対象範囲が細かくて、事業部門が考えるのはどんどん面倒になるし、法務としても重要性が下がっていく。
これだけ覚えておけばいいとなれば、事業部門も把握しやすく、むしろ契約を一つひとつやらない方が契約にフォーカスするようになるという(逆説的な)状況になるのではないか。

社内での具体的な参画意思決定のプロセス

Hubble酒井

規模の大きい組織になるほど、個人の意向だけでは参画できないと思われますが、そのあたりはいかがでしょうか?

ウォンテッドリー植田様

当然、統一ポリシーはよく確認をしました。
情報の受領者となる場合、開示側となる場合それぞれのリスクを評価しました。
弊社だと受領側となることが多いです。統一ポリシーの内容によっては、普段使っているひな型と比べて情報受領のハードルが上がる可能性があるが、今回の統一ポリシーであれば、大きな問題にはならないという判断をしました。

一方で情報を開示する立場になる場合、先方の情報管理のベースラインが下がる可能性があるため、そこも確認しました。
それらを踏まえて大きな問題がなさそうだということで社内の意思決定をもらいました。

ネスレ美馬様

比較的新しいことについては寛容な社風であるので、会社としてもリスクが完全に解明されていなくても価値があるならばやればいいという風潮にはありました。

リスクがあるか、どういうリスクがあるか、どのような問題があるかとどんな効果があるかを純粋に天秤にかけました。

上場企業だと「リスクがある可能性」だけで厳しくなってくるかもしれませんね。

統一ポリシーの中身をチェックして、自社のものとあまりに乖離していなければ大丈夫だという判断をしました。本社が大阪にあるが裁判管轄が東京地裁であるため、そこだけ引っ掛かったが、まぁいいかということになりました。

コンソーシアムに参画するデメリットは、中身が縛られることを除けば、ない。何らかの事情で必要が生じれば別段NDAを巻けばいい。大きなデメリットがないことを経営陣に伝えて、実現しました。

経営陣に伝えた最初の印象は?

Hubble酒井

経営陣に「OneNDA」参画について話した際にはどのような印象でしたでしょうか?

ウォンテッドリー植田様

ネガティブな反応は全くなかったです。コーポレートチームのトップに説明をしたところ、彼の負担が将来的に軽減されることもあり、考えている方向は一緒でした。

ネスレ美馬様

役員会でプレゼンするまでは必要はなかったですし、先ほど話した社風もあり、法務担当が持ってくる時点でOKならば、大きな問題がない限りGOになりやすかったです。

OneNDAの社内での運用ルールについて

Hubble酒井

参画企業かどうかを確認するプロセスが入るというフローの変化は気になりませんでしたか?

ネスレ美馬様

もちろんフローも議論しました。
どうせやるなら会社全体に効果的な取り組みにしたいということで、事業部に確認してもらうのか、法務でやるのかを議論しました。
結論としては、とりあえずは社内に周知した上で、相手方が参画企業かどうかは法務部が確認することにしました。

ウォンテッドリー植田様

弊社ではそこまでフローが固まっているわけではありませんが、いずれにしても締結までのどこかの段階で相手方が参画企業かどうかを確認する必要があります。

現段階ではまだ参画企業が多くないため、事業部にリストを確認してもらうのは非現実的で、法務がやることになります。
リストを見るのが手間といえば手間なので、それを見なくてもわかる仕組みが社内やプロジェクト側で作られればよりスムーズになりますね。

ここが面倒なせいで、実は両方参画企業でOneNDAが適用されているのに、それに気づかないこともありえそうです。

Hubble酒井

今後、ホームページで協賛企業を公開したり、OneNDA参画のマークを作ったりして、どこがOneNDA参画企業なのかが認識しやすい環境を作っていきたいと思います。

今後の契約のあり方はどうなっていくのか

Hubble酒井

今後、「契約」はどのようなかたちになっていくとお考えでしょうか?

ウォンテッドリー植田様

ビジネスの現場でどんどん契約書が規約に置き換わる流れが起きていて、それは今後も進むと考えます。

利用規約の場合は、利用者がなるべくそのまま受け入れられるようなフェアなものを作ることが重要になってくるが、NDAもそういう視点で、お互いにとってフェアな内容にすることが大事なのではないかと思います。利用規約でできているのだから、NDAでもできるはずです。ポリシーをよりフェアな形にブラッシュアップすることが求められるでしょう。

また、法律実務で使われる表現には独特で難解な言い回しがいろいろあるため、同じ条件を念頭においているのに、双方が違う表現をしてしまい、それによって形式的な修正が入るといったことも発生します。可能な限り、表現したいアイデアをシンプルな表現・文言にすることを突き詰めなければなりません。

究極的には、契約条件は文言ではなく、CC(クリエイティブ・コモンズ)のようにマークで表現してもいいでしょうし、インコタームズのようにシンプルな形で類型化するのもありえるでしょうね。

Hubble酒井

どちらもOneNDAの思想と親和性がありますね。
表現って非合理的なところがあり、双方がわかりやすい表現で規定されるべきで、そういう表現でかかれる統一規格があれば便利だと思います。

ネスレ美馬様

契約書は変化させるのが難しい分野だと思います。
契約書は証拠としての役割が重要なので、裁判所がついてきてくれることが必要です。
全員が変われば裁判所も変わらざるをえないので、より多くの人が賛同していくことが必要で、OneNDAはその大きな一歩となりえるでしょう。

もっとも、遠くない未来に契約「書」という形式はなくなり、交渉過程がテクノロジー(ウェアラブル)で残るだけで合意した内容がわかり、裁判の証拠となる未来もありえるのではないでしょうか。

契約書の重要な別の機能として、取引のルールを定めるという行為規範としての意義がありますが、そのあたりも契約書ではないテクノロジカルな解決策があると思います。

Hubble酒井

双方の合意内容を契約書に落としたときに、実情との乖離があったり、表現がおかしかったりして行為規範性が薄れている実情がありますOneNDAはその課題を解決しうるものです。
OneNDA Clubの例のように、テクノロジーが発達して契約書という形で合意を残すという形がなくなっていくという流れがあり、契約の中身が標準化される未来は訪れるのではと期待を込めて思っています。

◆編集後記

今回のディスカッション、そして視聴者様からの反応を通じて、あらためてOneNDA の可能性を感じています。

OneNDAについて、多くの前向きな意見をいただける背景は、日本における契約の特性にあると考えています。我々が普段行っている契約の締結行為は、同一言語同一民族間の、文化背景が似た者同士の合意となることが多くあります。
この場合の契約は、既に共通の認識をもった者同士が、その共通認識を確認することや、共通認識を補助・補完する意味合いが強いといえます。
実際、今回のディスカッション内でも言われたとおり、日常的に取り交わされる契約書には取引実態の詳細を定めていないケース(詳細を定める必要が低い)も多く存在し、特に(一部のものを除く)NDAのように「慣習的意義の強い契約書」についてはこの点が顕著です。

このような特性を考えると、日本における契約は、より一層、個別の契約書締結という方法によらずに、双方の共通認識を確認しておく形でのルールの定め方によって取引を開始していくことは可能であると考えています。

OneNDA紹介セミナーの書き起こしはこちら

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著者

株式会社Hubble 取締役CLO
弁護士(67期/第二東京弁護士会所属)。2013年慶應義塾⼤学法務研究科(既習コース)卒業後、同年司法試験合格。東京丸の内法律事務所でM&A、コーポレート、スタートアップ支援・紛争解決等に従事。18年6⽉より、Hubble取締役CLO(最高法務責任者)に就任。